仏教語大辞典(中村元・著)
無畏とは、
①確信。恐れをもたぬこと。真理について正しく知り、確信して語って、なんの不安・疑惑も存しないこと。
②恐怖しないこと。おそれのないこと。安穏で怖畏の全くない状態。勇気。おそれずやろうという強い心。
と、あります。
無畏施とは、
三施の一つ。無畏を人に施すこと。
人の厄難を救うこと。おそれなき状態を与えること。
一切衆生に恐怖の念をなからしめること。
獅子・虎狼・恐賊・水火などから人を救っておそれること、なからしめること。
と、あります。
3000年前のインド。
ブッダが仏教を説いた時代の様子を想像しますと、
日が暮れると深い闇につつまれて、とおくオオカミの遠吠えが聞こえると、人々は恐怖した。
などという情景が思い浮かびます。
火災や水害も、なすすべもなく逃げ惑うといった様子を想像してしまうものです。
水害では高台に逃げたり、猛獣のいそうな場所には近づかないようにしたり、
病気になったら看病し、夜のとばりにつつまれるのが不安で、みんなで集まって身を守ったり、
食事や水も、生きるのに必要なものがすぐソバにあればいいのですが、そういう不安も大いにあったハズです。
無畏施は、人々の不安を取り除くという、とてもありがたいほどこしです。
安心をあたえる。災厄から救って、勇気がわくようにしてあげられる。
こんな、ありがたいことはありません。
現代風に言うとどうでしょうか。
受験や就職などの節目を、よりよい方向へいけるようにアドバイスや手助けをする。
老いや病気の不安を、生活の不安を取り除いてあげられる様々な手助け。
こんなことが挙げられるでしょう。
地元の同級生ですごい奴がいます。
同窓生の親が亡くなったらウチに相談にきてくれたり、
結婚してない女子がいたら、月に一回とかの間隔で様子伺いの電話を入れたり、
誰かが商売を始めたら、ここで店をやってるから行ってやれと教えてまわったり、
なんだか坊さんにむいてるぞと思わせるような言動をする友だちです。
B'zのうた「愛しい人よgood night」は、
「悪い予感はどうか捨てて、愛しい人よ、good night」という歌詞で静かに終わります。
身近な、そして大事な人の、不安を取りのぞいてあげていますよね。
また、モーニング娘。の歌には、「大好きな人が正直でした。」という歌詞がありました。
深い歌詞だと思いました。曲をつくった「つんく♂」は、詩人ですね。
彼女に勇気を与えることは友だちでもできますが、彼女の不安を取りのぞくことは、彼氏にしかできません。
その人にしかできないことがある。
自分にできること、いや、自分がすべきことをしっかり分かっていて、そして、勇ましく進みたいものです。
正直でなくてはならない。
欲があったり、ウソつきでは、できない。
無畏施は、人がもつ「欲のこころ」など、
「マイナスの因縁をつくってしまう性格・本能」を滅していかなければ、
ほどこすことは、できないもの、なんですね。
仏教では、そういう、「罪障(ざいしょう)」と呼ばれるものを、「罪障をつくってしまう心を消していくこと」を、学ぶことができる。
人は欲を消すことはできないけど、「無畏施をほどこすことのできる人でありたい」と、願いたいものです。