『傍聞き』 長岡弘樹

2012年06月22日 22時27分41秒 | 読書
トイレ行きたい。



「患者の搬送を避ける救急隊員の事情が胸に迫る「迷走」。娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心揺さぶられる「傍聞き」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。まったく予想のつかない展開と、人間ドラマが見事に融合した4編。表題作で08年日本推理作家協会賞短編部門受賞。 」(BOOKデータベースより)


ただ純粋に、いい話だなって思った。
一つ一つは短編だからすぐ読めてしまうんだけど、だからこそすんなり理解できて。
ただ、俺としては長編が好きだったりするわけで。そこを考慮しての評価となりますが。


一話目は「迷走」
人間関係がちょっと複雑なんだけどこんな感じ。
主人公で消防隊員の蓮川潤也は隊長の娘と結婚することになったが、その娘は事故により車いす生活を余儀なくされる。
事故を起こした者は不起訴となったのだが、その時の検事をした葛井が何者かに刺され、蓮川たちに救急搬送されることになった。
しかし、どの病院も受け入れ不可となり、最後の望みとして蓮川たちが電話をかけた相手は、事故を起こした張本人で医師でもある増原であったのだが・・・。

これ以上書くともう結論なっちゃう。w
でもこれもいい話。

二話目は「傍聞き」
主人公の羽角啓子は強硬犯捜査係の女刑事。
小学生の娘を一人で育てながら、仕事をこなす主任。
ある日裏手にある羽角フサノの家が居空き(空き巣は留守宅に入るが、居空きは老人たちがいるのに盗みに入る)の被害にあう。
他方、啓子は通り魔事件を捜査しているのだが、以前啓子が逮捕した犯人が出所し、世に出ていることが判明。
かつ、先に起こった居空きの目撃証言によると、居空きの犯人は啓子が逮捕し、出所した受刑者に似ていることが分かった。
また、娘の菜月は啓子に対する不満を直接言わず、筆談したり、手紙に書いて送ったりするのだが、字がわかりにくく、うらのフサノの家に配達されることもままあった。
啓子は復讐の恐怖におびえながらも捜査を進めていくのだが・・・。

最初はどうなんかなーと思ったけど、最後はなるほどねって。
なかなかのやり手だなって思ったのはこの辺から。


三話目は「899」
これも主人公は消防署員。好きなのかな?わかりませんが。
諸上将吾はとなりに住む新村初美に惚れていた。
将吾は偶然を装って朝あったり、初美の働いている蕎麦屋に閉店間際に食べに行ったりしている。
初美は離婚したのか死別したのかわからないが、乳児をもつ独身女性である。
ある日、初美の隣の家で火災が発生し、初美の家に煙が立ち込めるようになったのだが、そこには初美の娘が一人寝ていた。
将吾は初美の娘を救助に向かうのだが、娘がいるはずのベビーベッドにはなぜかおらず、刻一刻と煙が立ち込めてくるのであった・・・。

考えさせられる作品。
一人で子育てをすることの苦しみとか、ストレス発散ができないとこうなるのかと。
それに対し、主人公たちがとった行動が何とも言えない。
いちばんお勧めかも?いや、どれもお勧めだけど。

最後は「迷い箱」
主人公の設楽結子は刑務所を出所したものの更生保護施設の施設長。
さまざまな問題を抱える元受刑者たちをささえつつ、社会への復帰を目指している。
自転車事故を起こし、女児を死なせた碓井は名前以外の漢字もかけないような定年間近の男だが、女児の命日である日にこの施設を出所した。
女児の母親からの手紙により、364日世のために働き、女児が死んだ日になったら同じ苦しみをして死んでくださいと言われていたことから、結子は碓井が自殺するのではないかと不安なのであるが、無事命日は自殺することなく過ごすことができたのだが・・・。

命と罪についてこれも考えさせられる。
難しい話題なんだけど、作者は過不足なく訴えかけてくる。


基本的に短編は嫌いなんだけど、久しぶりにいい作品に出合ったという感じ。
いや、ずっと前から気になってはいたんだけど、短編だからというだけで避けていたんだけどね。
読んでよかったです!


★★★★☆

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