雨あがりのペイブメント

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読書案内「珈琲が呼ぶ」 

2018-12-12 08:28:29 | 読書案内

読書案内「珈琲が呼ぶ」片岡義男著
         光文社2018.3刊 第3刷

 珈琲にまつわる書き下ろしエッセイだ。
1月初版発行で3月には第3版が発刊されているのだから、人気があるのだろう。
350ページにぎっしり詰まった書き下ろしエッセイが、45篇。
エッセイは余暇の時間にゆったり読んで、読後に残る清涼感を味わう。
要は気楽に読んで楽しむ肩の凝らない読み物と思っているのだが、
著者のエッセイは珈琲に対する思い込みが並々でなく、
珈琲にまつわる蘊蓄(うんちく)をはじめとして、
思い出や映画や小説や実生活に登場する珈琲の思い入れをたっぷり読ませてくれる。

 
  「なぜヒトは喫茶店で“コーヒーでいいや”と言うのでしょう。
  僕はいつも思うのです。
  “で”というのは何なんだ、本当に飲みたいものを飲めばいいじゃないか、と。
  “コーヒー”を“おまえ”に変えたら気分悪いですよ。
  “おまえでいい”はないでしょう。“おまえがいい”と言ってほしいです」
                            著者と編集者との喫茶店での会話

  この会話は、「コーヒーでいいや」という人がいる というエッセイになって登場する。
喫茶店に入って友人は、つまらなそうな表情の、そして熱意のない口調で
「コーヒーでいいよ」と答える。言葉の裏には気持ちというものが張り付いている。
「コーヒーでいいよ」と言うときに、その人の気持ちは、どのようなものなのか。
ここから著者のこだわりが延々と続く。
つぎの「で」と「が」の違いをお判りでしょう。

「コーヒーでいい」
「コーヒーがいい」

「が」の方がそれを選んで特定したという意味が強い。
だから、場面によっては「コーヒーでもいい」
「こーひーでも飲もう」では絶対にいけないのだ。
ここでは、「で」は主役にはなれない。
「旨いコーヒーがいい」。コーヒーが飲みたいときは絶対に「が」なのだ。
前者は消極的で、後者は積極的である。 
と言うようなこだわりが続いて、
この【「コーヒーでいいや」という人がいる】のエッセイは、9ページにわたって書かれている。
おおよそ400字 詰め原稿用紙18枚ぐらいになる。

ついでにもう一篇「それからカステラもわすれるな」を紹介します。
10人も入ればいっぱいになってしまうイタリー料理店に4人の気心の知れた仲間たちが集まった。
楽しい夕食が終り、4人がそれぞれに注文したコーヒーは、4人とも同じコーヒーだった。

(ここがポイントだ。4人が4人とも同じコーヒーを頼む。コーヒーが好きで、好みまで同じであることをさりげなく読者に教えてくれる。馴染の店で食後のコーヒーを飲み、これからが本番である。おそらく4人とも映画が好きなのだろう)

話題になった映画のタイトルをあげてみましょう。
「カサブランカ」「オクラホマ・キッド」「シェーン」「ワイルドバンチ」「ゴットファーザー」「スターウォーズ」まだまだありますが、切りがありません。

二杯目のコーヒーが届き、誰もがすぐに手を出し、熱い珈琲に唇を付けた。

話しは延々と続く。内容はいたってシンプル。
例えば……こんな風に……
「『カサブランカ』が、白い町の女、という日本語題名だったら、どうなったことか。『シェーン』が、西部の流れ者、だったなら。『ワイルドバンチ』が野党の群れ。『ゴッドファーザー』は、黒い絆。『スター・ウォーズ』は、大宇宙戦記。こうなるよりは、片仮名書きの方が、はるかにましだよ」等々。

このエッセイのタイトル「それからカステラもわすれるな」ってどんな意味なんだ。
ネットで調べてみた。どうやら映画談義には忘れてはならない映画のタイトルらしい。
文中には取って付けたように『それからカステラも忘れるな』とこれだけしか出てこないが、日本語題は、「ムッシュ・カステラの恋」というフランス映画(1999年制作)のことらしい。
 
 4人の男たちがコーヒーを飲みながら語る映画談義。
13ページにわたるこのエッセイは、400字原稿用紙で約25枚だ。

内容を紹介していったら、切りがない。
炬燵に入ってコーヒーを飲みながら、このエッセイ集を読むのも楽しく、
心のリフレッシュになるかもしれないお勧め品だ。
(2018.12.11記)      (読書案内№134)

 

 

 

 

 
 
 

 

 

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