ホテルからの眺め (つれづれ日記№61)
一日中降った雨は、夕方には止み、今朝は日差しがまぶしい。
ホテルのレストラン。
8階から眺める景色。
雨を含んだ地面の水蒸気が、
気温の上昇に伴い地表から立ち上り、
ビルの裾野を朝靄(もや)が取り囲んでいる。
逆光の中をシルエットとなって通勤電車が走る。
朝六時半だというのに、
車内灯に照らされた乗客たちは混んでいて、
浮かび上がる車内の様子は、
少しばかり息苦しく感じられる。
ベットタウンの朝は、
通勤電車とともに明けていき、
目の前の有料道路を走る車の数も、
時間の経過とともに増えていく。
路地の住宅街を走り、
何度も角を曲がり、
高架線を走る道路へと合流していく車が見える。
ホテルの駐車場の桜が、
昨日の雨で落下のスピードを早めたのか、
駐車場に止めた車のフロントガラスに張り付いている。
レストランの中がざわついてきた。
中国の団体客が入って来たのだ。
話し声が大きい。
アジア系の人の声は大きい。
レストランの端の小さなテーブルで朝食を摂っている私は、
そろそろ引き上げ時かなと思いながら、
コップの中のミルクを一気に喉の奥に流し込む。
部屋に戻った。
チェックアウトまではまだ時間が十分にある。
カーテンを開ければ、
朝の光が一斉に飛び込んでくる。
朝靄は消え、
ビルの谷間に取り残されたように生きている樹々が見え、
桜の花が住宅街を彩っている。
歩く人の姿がせわしない。
「私はこの街では生きられないな」。
緑があって、
耕す土があって、
肌を撫でる心地よい風が吹いている環境がいい。
電車から吐き出される大勢の人をかき分けるようにして、
目的地に急がなければならない忙(せわ)しなさは、
それだけで疲れてしまう。
電車が警笛を鳴らして、走っていく。
入院中の妻の面会時間の来たことを腕時計で確認し、
私はルームキーをもって、
部屋のドアに向かった。
ここから、病院までは車で10分ぐらいの距離だ。
(2016.4.8記)