君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」四話 (過去編)

2011-09-27 01:50:52 | 『君がいる幸せ』(本編)三章「星の祈り」
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
木星軌道上の衛星都市メティスのビルレスト 二人が住む建物
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)
惑星メサイア ミュウが向かった新しい移住惑星
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市

   『君がいる幸せ』 三章「星の祈り」

  四話(Chiron)惑星キロン過去編 ※この章は流血も腐もあります。ご注意を!

 青い光に包まれて漂うフレッチア
 レーダーには母船シャングリラの位置が小さく点滅していた。
 近くには人が住むような星はなかった。
「ここで、いいか…」
 操縦席で膝を抱えているジョミーが顔を上げずに呟いた。。
「ドール…。僕は君を殺さなくちゃならない」
 しばらくしてから小さな声が返ってくる。
「別に殺さなくても、もうすぐ寿命がくるからそのままにしておいても…僕は死ぬよ」
「そうか…知っていたのか…」
 僕は彼の前でもそういう話をした事があるのだから、それは当然だった。
 そう、冷たいようだが、僕は彼を「人」としてみていなかった。
 ドールとその呼び名のまま、自分の人形だと思っていた。
「寿命か…。でも、そうはしない。僕がこの手で君を作った。だから、僕は僕の責任で君を殺さないといけないんだ。何体も作って壊して。命を弄んだ罰を、僕の身勝手を…僕は自覚しないといけない…」
 ジョミーは顔を上げて暗い宇宙を見た。
 その瞳の先に何が見えているのかはドールにはわからなかった。けれど今、彼を苦しませているのが自分なのはわかった。
「もうそれ以上苦しまないで」
「…僕は力を願った。せめてもう一人と。でも、それは僕の独りよがり。僕の軽率な行動は守ろうとした仲間達の命を危険に晒していたかもしれない。僕なんかが命を作り出したのが、いけなかったんだ…そんなつもりじゃ…なかったのに」
「……」
「だけど、僕はどうすればいいのだろう。どうすれば良かったのだろう。見えないんだ…。ねぇ…教えてよ。君という命を作った罪はどこへいくんだ?沢山の人の命を奪った罪はどうなる?僕は君を…どうすればいいのだろう…わからないんだ」
 ジョミーの頬にひとすじの涙が流れた。
「ジョミー」
 ドールがジョミーの手に触れる。
「タイプイエローか…そうか…シロエと同じだね。僕はまた救えないのか…」
 そう言ってドールに向き直った。
「僕にわかるのは、ただ一つだけ。人を殺せる力は、それを持つ者にその事を自覚させないといけない。どんな命だろうと命の重さを知らないといけない。だから僕は君を殺す。そして僕は二度と愛もなく命を作らない!」
 僕はそう叫ぶとドールに馬乗りになって首を絞めた。
 だが、どうしても手が震える。
 こうして彼の首に手をあてて、そして、力を入れるだけなのに、どうしても出来なかった。
「あんなにも人を殺した僕が、心臓を一突きとか、首をはねるとか、あれだけ酷い事が出来た僕なのに。たったこれだけが出来ないなんて、おかしいよね。僕は本当に沢山殺したのに…君、一人を殺せないなんて…」
 僕の下に居る自分そっくりな顔に向かって言った。

 …ジョミー。
(それは君が、たったこれだけと思っていないから、命の一つ一つを重い軽いと数で数えるような事が出来ないから…)
 聞き覚えのある静かで優しい声がした。
(多くを救う為には犠牲が出てもいいと、天秤にかける事が出来ないから…)
(その子は生まれ、生きている)
(ジョミー。愛はある…。君がその子を殺す事は責任を取るのではなくて、それから逃げているのではないのか?)
「そうです。ブルー。僕は逃げている。僕はこの子をただの人形と思えない、僕と同じだといつの間にかそう見ていた。だから、収容所で力を発現させてでも生きていてくれて嬉しかった。だけど…。僕は…そんな甘い事を言ってちゃいけない気がするんです」
(ジョミー…)
 ブルーの声はドールにも聞こえていた。
「ブルー」
 その声にすがってしまいたい。
 この現状から逃れられるのならば、小さな子供のように…。
 ブルーの後ろに隠れてしまいたかった。
 でもそれは出来ない。
「でも、ブルー。僕はミュウの皆を守る為には、人と戦っていかないといけない。これくらいの事、出来ないといけないんだ」
(無理して戦おうとしなくていいんだ。どうしても、力を揮わなければならない日は必ず来る)
(ジョミー、君は人でありミュウなんだ。どちらも君には同族だ。僕なんかよりずっと悩み、苦しむだろう。だけど逃げないでいてほしい)
(君がどちらも大切に思うのは間違いじゃない)
「ジョミー…」
 ドールが優しく微笑んでいた。
 そして予定よりも早くその時がやってきた。
「…僕を人と思ってくれてありがとう…」」
「ドール。ダメだ、僕が君を殺さないとでないと僕は人間と戦えない」
「戦うって殺す事でしょ?僕を殺したら…そうしたら…人を憎めるようになるの?」
「!」
「あぁ…それは…多分…それでも僕は憎めない…。ブルーや長老のような深い悲しみや強い憎しみは僕には持てそうにない」
「じゃあ、ジョミー。救う為に戦って…ミュウと人を救うと信じて戦って。そしてテラへ。地球へ行って…みんなを救って…」

 それがドールの最後の言葉だった。
「ダメだ。逝かないで…」
 僕は泣きながら彼を抱きしめた。
 優しい微笑みのまま彼は逝った。
 一個の小さな細胞から人となり、笑ってくれるようになって、ポッドから出て話せるようになって、食事もおいしいと食べてた。
 収容所では本当に楽しそうにしていたっけ…。
 彼が殺されそうになり力に目覚めた。それがわかった時は嬉しかった。
 でも、別れがくるのもわかってた。
 僕はこのまま二人でどこかへ逃げてしまおうかと思っていた。。
 救いたかった。。救えない事もわかっていた…。
 それでも…。
 そして僕は、この手で人を殺してしまった事を彼の所為にして、彼の死で、自分でやってしまった事実を、それで片を付けようとした。
 僕は卑怯だ。
「ドール、いや、ジョミー。誓うよ。僕はミュウとして生きる。そして例え何があっても希望は捨てない」
  僕の青いサイオンが彼を包む。
 僕は、そこから一番近い恒星を探した。僕の赤いマントに包まれたドールが燃えさかる星に落ちていく。
「テラへ…か」
「君の願いのように、戦いの先に、ミュウと人類の両方を救う道があるのだと…。僕もそれを信じよう」
 フレッチァが静かに動き出し星にまぎれた。



  続く




最新の画像もっと見る

コメントを投稿