☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<人物>
ジョミー キースの警護をしていたが今は教育ステーションに在学中 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズ 人類が作ったブルージョミーのクローン(タイプブルー)
シド ミュウの優秀なパイロット シャングリラのキャプテン。今はジョミーの専属。
『君がいる幸せ』 Artemisia編 一章「夢の在り処」 十一話「ミュウと人とソルジャー・シン」
「落とさない?」
「力を?」
そんな事どうしたら、僕達に何が出来る。
僕達は人なんだ。
と生徒達は口々にざわめき始めた。
その様子を少しだけじっと眺めてからジョミーは静かに話し出した。
「僕はミュウだ。それもとても特殊なミュウなんだ。僕はさっき爆風をここにいるミュウの彼らと防いだように、皆の力を集める事が出来る。そして、それは、ミュウの力だけじゃない」
「ミュウの力だけじゃない?」
「除去した爆弾を集めてCブロックに仕掛け、その威力で上に上げる、惰性で軌道に戻す。だけど、それだけじゃ…ここがもたないかもしれない…。救援が来るまで僕らは僕らだけでここを守るんだ。ミュウの皆がさっきしたのは祈る事、願う事だけだ。彼らはバリアやシールドなんて使った事は無い普通の人だ。それを引き出し、強固なシールドへと変換したのは僕だ。それをここにいる全員で行えば、ここは守り抜ける」
ざわざわと生徒がざわめく。
この間にも不気味な振動は続いている。
ジョミーには、支えきれなくなった海賊の船が離脱する知らせが入っている。
生徒達を不安に陥れないように、ぎりぎりまで強攻策は取りたくないと思ってはいるが、時間は限られてきていた。
それでも、ジョミーは説得を続けた。
「出来る。必ず。全員の力を集めれば、ステーションは守り抜ける」
「僕は君たちと同じなんだ。惑星アルテメシアは僕の故郷でもある。ここには、僕の両親と、愛する人がいる。そう、君たちと同じだ。ここには…。君達にも子供の頃の記憶があるのだろう。良い事も悪い事もあっただろう、嫌な事があったとしても、全てが悪い事ばかりじゃなかったはずだ。そんな子供時代を過ごした場所は永遠なんだ。もう戻らないし、戻れない。本当に大切な思い出なんだ。そこを壊していいのか?君たちはここで死んでいいのか?まだまだ君達にはやりたい事があって、大きな未来があるのだろう。それを諦めるな。逃げるな。立ち向かうんだ」
そう、僕はこの星でブルーに会った。
「僕はそんな思い出の星を守りたい。ううん。皆で守ろう。信じて欲しい」
やがて重力バランスが崩れ始める。
振動と共に軋む音がする。
「時間がもう無い…」
天井を見ていたジョミーがつぶやく。
そして、ジョミーはミュウ達の前に歩み出た。
ジョミーと同じように不安感が押し寄せていたミュウ達は、やっとジョミーが自分達の所へ来た事で、その不安が消えてゆくのを感じていた。
きっと、出来る。
そう信じれる。
ジョミーとなら何も怖くない。
「僕達でやろう。もう一度頼む。力を貸してくれるね」
「やります」
「守り抜きましょう」
ミュウ達がそういいながら各自祈り始める。
ミュウ達のサイオンが静かに溢れ始めた。
その前にジョミーがいる。
彼はまだ何もしていない。
ジョミーは振り返り、そして、静かに。
そして、少し冷めた目で人々を見つめた。
それは、自分達の命がかかっているのに何もしようとしない人たちへの諦めが感じられた。
生徒達は、それに対して「人だから」と言う者もいたが、それにはジョミーが無言で「だから?何だと言うの?」と言われている気がしていた。
「出来もしない事をお願いしたりしないよ」
「君たちにも出来るんだ」
そんな言葉が聞こえる気がした。
「ジョミー。俺達は信じる。どうしたらいいんだ?」
と言ったのは、キリアンとマックス。そして、あの上級生だった。
「助かりたいと。落とさない。と祈り願えばいい。それが力になるんだ」
キリアン達が祈りだす、それにつられるように他の生徒達も祈り始めた。
やがて、生徒や教授陣、全員が祈っていた。
「そう。それでいい。その祈り…僕が後を引き継ぐから」
そう言うと、ジョミーは優しく微笑み、青く光り始めた。
その光りは大きくなりセンター全体を包み込んでいった。
青い光がステーション全体まで拡がると、少しずつサイオンが変化してゆく。
青からオレンジへ。そして、眩い陽の光りへと。
時間になりCブロックの爆破が起きる。
ジョミーは集めた光を維持しながら、爆破の威力を使いステーションを引き上げ始める。
上へ ゆっくりと軌道へ
そして、人の強さと優しさの源へ
この光は僕だけのものじゃない…。
人と人とが思いあう優しさ。
誰かを守りたいと思う力。
僕もこの光の一つなんだ。
ミュウも人も…同じなんだ。
ああ、暖かいな。
僕はここへ。
これを感じ為に還って来たんだ。
「シャングリラ。ワープアウト!」
「戦艦ゼウス。ワープアウト!」
「続いて、演習艦アルビオン。ワープアウト!」
この他にも何隻もの船が救助に現れた。
シャングリラから通信が入る。
トォニィとミュウの仲間達がステーションに取り付いた。
次々にアンカーが打ち込まれてゆく、ゼウスから小型艇が飛び立ちステーションに機材を運び込み少しずつ安定した軌道に戻っていった。
センターの真ん中で、背中合わせで座り込んでいるジョミーとキリアンとマックス。
生徒達ももうくたくたで皆座り込んでいた。
「人はどうだった?」
「人の力?」
「どうだ?」
「ここまで引き出せると思っていなかった。人って、スゴイよ」
「そうだろ?お前も俺達、人を助けたいと思っただけじゃなく信じてくれたんだな?」
キリアンが言った。
「僕もそれ感じたよ」
マックスが言う。
「ああ、信じ合わないとこんな事は成功しないさ」
ジョミーがそう答えて、立ち上がり大きく背伸びをした。
その背後が、騒がしくなった。
生徒達の間に緊張が走っていった。
誰が入って来たのか、僕には見なくてもわかった。
振り返らず、ゆっくりと手を下ろした。
小型機で乗り込んで来たのはミュウの長、ソルジャー・トォニィと、人類の最高位、キース・アニアンだった。
この二人が連れ立って歩く図は国際会議でも滅多に見れなかった。
不仲とかお互いが干渉しないとの不協和音が知られていたが、同じ歩調で歩いてくる二人にはそんな感じは一切しなかった。
「ジョミー」
声をかけてきたのは、僕から一定の距離で止まった二人では無かった。
僕は声の方に向き直った。
「エディ…」
彼はキース達が入って来たのと別方向から来たので、この状況に慌ててしまっていた。
「エディ」
駆け寄ったのはキリアンとマックスだった。
彼らが再会を喜び合うのを横に見て、キースに敬礼し、トォニィに挨拶をしたセルジュが僕に声をかけてきた。
「ミア・マクレーンも無事です」
「ありがとう」
僕は改めて、向きを変えてキース達を正面に捉えた。
トォニィは僕を少し呆れた風に見てこう言った。
「ジョミーの行く所にはいつも問題ありだね」
と笑った。
「それじゃあ、僕はまだ皆が宇宙(そと)にいるから、支援しないと燃料切れしちゃう」
そう言って、トォニィはセンターを後にした。
生徒や教授達は続々と大型艦のシャングリラへと移送されていた。
エディもキリアン達と一緒に手を振って出て行った。
エディにはまだ軍の兵士が付いていた。
その護衛にヴィーが居るのに気付き、僕と彼は小さく挨拶をした。
シャングリラは、ここの人を全て乗せるとアタラクシアへ降りる事になっていた。
僕とキースは管制室へと向かった。
様々なデータを出して僕はこの状況を説明した。
キースはセルジュから報告は受けていたので、クラヴィス将軍の更迭を決めていた。
「ブルーも無事に助け出したようだ」
僕がキースの顔を見上げると
「トォニィがそう伝えて欲しいと言ってきた」
「そうか…良かった」
「ここは?」
「さっき報告を受けたが、廃棄する程では無いようだ。ブロックごとの修理で済むだろう」
「そう。なら他に行かずに休みで済みそうだね…」
ジョミーは離れてゆくシャングリラを眺めながら言った。
それを横でじっと見つめた後、キースが聞いた。
「この事態をどう収拾しようと思っていた?」
「エディは逃がしたけど、避難が間に合わなくて、最初はやつらはここと一緒にエディやクリスティナを殺す気だとわかって…」
「それで?」
「それでも、ブルーを行かせた。それが、あの子達を守る最善な方法だと思ったから…」
「お前はまだ爆弾があると思っていたのだろう?」
「ああ、僕だけじゃない。管理室や教授もそう思って必死に探した」
「…予知は戻ったのか?」
「どうだろう?友人のキリアンとマックスが危ない目に遭うのはわからなかったな」
「戻りたいか?」
「こんな事が起きると力があった方が良いと思うけど…。でも、戻るのとは違う。僕はもっと違う何かが欲しい」
「そうか…」
キースがゼウスへ戻る時間が近づいていた。
二人は管制室を出た。
「身体は大丈夫か?」
「何とかね」
「……」
キースは何も言わずに乱暴にジョミーの右腕を掴み上へ引き上げた。
半分吊り上げられたような形になるジョミー。
「…痛っ…何を…」
そのまま、キースはジョミーの頭を抱え込み、両腕で抱きしめた。
ジョミーの顔にキースの髪がかかる。
「俺が…俺が、どれだけ心配したと思っているんだ…」
キースのその言葉も肩も震えていた。
「……」
「お前のインカムにはシグナルがついていたんだ…」
「…ロスト…」
それは僕が死んだとキースに知らせる信号だ。
「俺は何度お前を失えばいいんだ?」
「キース…ごめん」
「……」
「キース」
「俺は…」
キースは言いかけた言葉を飲み込んだ。
「止めないでいいよ。僕を責めていい…」
「責めても同じだ…」
「ごめん。もう少し…まだ僕は…まだ君と進めない…」
キースが僕を抱く腕に力を込める。
「俺もそれは理解しているつもりだ…」
「僕らは依存しちゃいけないんだ…お互いが立っていないと、成り立たない」
「ああ」
「まだ僕はそれを、その方法が見つけられない」
「ジョミー。それでも俺は…」
キースが僕の頭を掴んだままキスをしてきた。
想いが流れ込むような優しいものだった。
「俺との事は見えなくても、お前はもう何かを見つけているんじゃないか?」
「そうだね。僕は人とミュウの未来には希望があると信じているよ」
離れてゆくゼウスを眺めてから、僕はアルビオンへ急いだ。
Artemisia編 一章十二話 「過去 そして 次の時代へ」
演習艦アルビオン
「シド。…セルジュは?」
「セルジュは、戦艦エンディミオンで東の星域へ行っています。ゼウスもそこへ?」
「将軍は見つかったのか?」
「はい」
「そうか、これで収まると良いけど…」
「ブルーがかなり派手にやったみたいで、あ、いえ、死傷者は少ないです…そうとう脅かしたみたいで…これで大人しくなるといいですね」
「そうか…僕はこのままアルテメシアに降りて生徒と合流するけど、ミアはどうするの?」
「一度、ペセトラに戻らないと…」
「シドは?」
「僕もベルーガを取って、戻ってきます」
「了解」
「ところで、クリスティナとは連絡取れる?」
「東の星域の戦闘が治まってきてるので、多分」
「会えないかな?」
「それは、少し難しいかと…通信なら」
「わかった」
アルビオンはアルテメシアに降りた。
僕はすぐにダールトンの通信網を使ってミディアンを探した。
クリスティナとミディアンには面識があった。
ミディアンとクラヴィス将軍との出会いが、ミディアンの兄グライムを軍を抜けさせ海賊へ向かわせたとクリスティナは誤解していたが、それはすぐに解けた。
ミディアンとクラヴィス将軍は戦争中の混乱の中での別れだった。
将軍が個人的な恨みで動いていたのでは無いのかもしれないが、それが全く無いとも言えなかった。
僕は彼女達に謝罪する事しか出来なかった。
戦争を起こした事、グライムを殺した事が、避けて通れなかった道だとしても、僕に何一つ過ちが無いとは言えないのだ。
人は過ち進みゆくものなのかもしれない。
それでも、全ての人を信じて僕らは進むしかなかった。
終
「夢の在り処」二章へ つづく
<人物>
ジョミー キースの警護をしていたが今は教育ステーションに在学中 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズ 人類が作ったブルージョミーのクローン(タイプブルー)
シド ミュウの優秀なパイロット シャングリラのキャプテン。今はジョミーの専属。
『君がいる幸せ』 Artemisia編 一章「夢の在り処」 十一話「ミュウと人とソルジャー・シン」
「落とさない?」
「力を?」
そんな事どうしたら、僕達に何が出来る。
僕達は人なんだ。
と生徒達は口々にざわめき始めた。
その様子を少しだけじっと眺めてからジョミーは静かに話し出した。
「僕はミュウだ。それもとても特殊なミュウなんだ。僕はさっき爆風をここにいるミュウの彼らと防いだように、皆の力を集める事が出来る。そして、それは、ミュウの力だけじゃない」
「ミュウの力だけじゃない?」
「除去した爆弾を集めてCブロックに仕掛け、その威力で上に上げる、惰性で軌道に戻す。だけど、それだけじゃ…ここがもたないかもしれない…。救援が来るまで僕らは僕らだけでここを守るんだ。ミュウの皆がさっきしたのは祈る事、願う事だけだ。彼らはバリアやシールドなんて使った事は無い普通の人だ。それを引き出し、強固なシールドへと変換したのは僕だ。それをここにいる全員で行えば、ここは守り抜ける」
ざわざわと生徒がざわめく。
この間にも不気味な振動は続いている。
ジョミーには、支えきれなくなった海賊の船が離脱する知らせが入っている。
生徒達を不安に陥れないように、ぎりぎりまで強攻策は取りたくないと思ってはいるが、時間は限られてきていた。
それでも、ジョミーは説得を続けた。
「出来る。必ず。全員の力を集めれば、ステーションは守り抜ける」
「僕は君たちと同じなんだ。惑星アルテメシアは僕の故郷でもある。ここには、僕の両親と、愛する人がいる。そう、君たちと同じだ。ここには…。君達にも子供の頃の記憶があるのだろう。良い事も悪い事もあっただろう、嫌な事があったとしても、全てが悪い事ばかりじゃなかったはずだ。そんな子供時代を過ごした場所は永遠なんだ。もう戻らないし、戻れない。本当に大切な思い出なんだ。そこを壊していいのか?君たちはここで死んでいいのか?まだまだ君達にはやりたい事があって、大きな未来があるのだろう。それを諦めるな。逃げるな。立ち向かうんだ」
そう、僕はこの星でブルーに会った。
「僕はそんな思い出の星を守りたい。ううん。皆で守ろう。信じて欲しい」
やがて重力バランスが崩れ始める。
振動と共に軋む音がする。
「時間がもう無い…」
天井を見ていたジョミーがつぶやく。
そして、ジョミーはミュウ達の前に歩み出た。
ジョミーと同じように不安感が押し寄せていたミュウ達は、やっとジョミーが自分達の所へ来た事で、その不安が消えてゆくのを感じていた。
きっと、出来る。
そう信じれる。
ジョミーとなら何も怖くない。
「僕達でやろう。もう一度頼む。力を貸してくれるね」
「やります」
「守り抜きましょう」
ミュウ達がそういいながら各自祈り始める。
ミュウ達のサイオンが静かに溢れ始めた。
その前にジョミーがいる。
彼はまだ何もしていない。
ジョミーは振り返り、そして、静かに。
そして、少し冷めた目で人々を見つめた。
それは、自分達の命がかかっているのに何もしようとしない人たちへの諦めが感じられた。
生徒達は、それに対して「人だから」と言う者もいたが、それにはジョミーが無言で「だから?何だと言うの?」と言われている気がしていた。
「出来もしない事をお願いしたりしないよ」
「君たちにも出来るんだ」
そんな言葉が聞こえる気がした。
「ジョミー。俺達は信じる。どうしたらいいんだ?」
と言ったのは、キリアンとマックス。そして、あの上級生だった。
「助かりたいと。落とさない。と祈り願えばいい。それが力になるんだ」
キリアン達が祈りだす、それにつられるように他の生徒達も祈り始めた。
やがて、生徒や教授陣、全員が祈っていた。
「そう。それでいい。その祈り…僕が後を引き継ぐから」
そう言うと、ジョミーは優しく微笑み、青く光り始めた。
その光りは大きくなりセンター全体を包み込んでいった。
青い光がステーション全体まで拡がると、少しずつサイオンが変化してゆく。
青からオレンジへ。そして、眩い陽の光りへと。
時間になりCブロックの爆破が起きる。
ジョミーは集めた光を維持しながら、爆破の威力を使いステーションを引き上げ始める。
上へ ゆっくりと軌道へ
そして、人の強さと優しさの源へ
この光は僕だけのものじゃない…。
人と人とが思いあう優しさ。
誰かを守りたいと思う力。
僕もこの光の一つなんだ。
ミュウも人も…同じなんだ。
ああ、暖かいな。
僕はここへ。
これを感じ為に還って来たんだ。
「シャングリラ。ワープアウト!」
「戦艦ゼウス。ワープアウト!」
「続いて、演習艦アルビオン。ワープアウト!」
この他にも何隻もの船が救助に現れた。
シャングリラから通信が入る。
トォニィとミュウの仲間達がステーションに取り付いた。
次々にアンカーが打ち込まれてゆく、ゼウスから小型艇が飛び立ちステーションに機材を運び込み少しずつ安定した軌道に戻っていった。
センターの真ん中で、背中合わせで座り込んでいるジョミーとキリアンとマックス。
生徒達ももうくたくたで皆座り込んでいた。
「人はどうだった?」
「人の力?」
「どうだ?」
「ここまで引き出せると思っていなかった。人って、スゴイよ」
「そうだろ?お前も俺達、人を助けたいと思っただけじゃなく信じてくれたんだな?」
キリアンが言った。
「僕もそれ感じたよ」
マックスが言う。
「ああ、信じ合わないとこんな事は成功しないさ」
ジョミーがそう答えて、立ち上がり大きく背伸びをした。
その背後が、騒がしくなった。
生徒達の間に緊張が走っていった。
誰が入って来たのか、僕には見なくてもわかった。
振り返らず、ゆっくりと手を下ろした。
小型機で乗り込んで来たのはミュウの長、ソルジャー・トォニィと、人類の最高位、キース・アニアンだった。
この二人が連れ立って歩く図は国際会議でも滅多に見れなかった。
不仲とかお互いが干渉しないとの不協和音が知られていたが、同じ歩調で歩いてくる二人にはそんな感じは一切しなかった。
「ジョミー」
声をかけてきたのは、僕から一定の距離で止まった二人では無かった。
僕は声の方に向き直った。
「エディ…」
彼はキース達が入って来たのと別方向から来たので、この状況に慌ててしまっていた。
「エディ」
駆け寄ったのはキリアンとマックスだった。
彼らが再会を喜び合うのを横に見て、キースに敬礼し、トォニィに挨拶をしたセルジュが僕に声をかけてきた。
「ミア・マクレーンも無事です」
「ありがとう」
僕は改めて、向きを変えてキース達を正面に捉えた。
トォニィは僕を少し呆れた風に見てこう言った。
「ジョミーの行く所にはいつも問題ありだね」
と笑った。
「それじゃあ、僕はまだ皆が宇宙(そと)にいるから、支援しないと燃料切れしちゃう」
そう言って、トォニィはセンターを後にした。
生徒や教授達は続々と大型艦のシャングリラへと移送されていた。
エディもキリアン達と一緒に手を振って出て行った。
エディにはまだ軍の兵士が付いていた。
その護衛にヴィーが居るのに気付き、僕と彼は小さく挨拶をした。
シャングリラは、ここの人を全て乗せるとアタラクシアへ降りる事になっていた。
僕とキースは管制室へと向かった。
様々なデータを出して僕はこの状況を説明した。
キースはセルジュから報告は受けていたので、クラヴィス将軍の更迭を決めていた。
「ブルーも無事に助け出したようだ」
僕がキースの顔を見上げると
「トォニィがそう伝えて欲しいと言ってきた」
「そうか…良かった」
「ここは?」
「さっき報告を受けたが、廃棄する程では無いようだ。ブロックごとの修理で済むだろう」
「そう。なら他に行かずに休みで済みそうだね…」
ジョミーは離れてゆくシャングリラを眺めながら言った。
それを横でじっと見つめた後、キースが聞いた。
「この事態をどう収拾しようと思っていた?」
「エディは逃がしたけど、避難が間に合わなくて、最初はやつらはここと一緒にエディやクリスティナを殺す気だとわかって…」
「それで?」
「それでも、ブルーを行かせた。それが、あの子達を守る最善な方法だと思ったから…」
「お前はまだ爆弾があると思っていたのだろう?」
「ああ、僕だけじゃない。管理室や教授もそう思って必死に探した」
「…予知は戻ったのか?」
「どうだろう?友人のキリアンとマックスが危ない目に遭うのはわからなかったな」
「戻りたいか?」
「こんな事が起きると力があった方が良いと思うけど…。でも、戻るのとは違う。僕はもっと違う何かが欲しい」
「そうか…」
キースがゼウスへ戻る時間が近づいていた。
二人は管制室を出た。
「身体は大丈夫か?」
「何とかね」
「……」
キースは何も言わずに乱暴にジョミーの右腕を掴み上へ引き上げた。
半分吊り上げられたような形になるジョミー。
「…痛っ…何を…」
そのまま、キースはジョミーの頭を抱え込み、両腕で抱きしめた。
ジョミーの顔にキースの髪がかかる。
「俺が…俺が、どれだけ心配したと思っているんだ…」
キースのその言葉も肩も震えていた。
「……」
「お前のインカムにはシグナルがついていたんだ…」
「…ロスト…」
それは僕が死んだとキースに知らせる信号だ。
「俺は何度お前を失えばいいんだ?」
「キース…ごめん」
「……」
「キース」
「俺は…」
キースは言いかけた言葉を飲み込んだ。
「止めないでいいよ。僕を責めていい…」
「責めても同じだ…」
「ごめん。もう少し…まだ僕は…まだ君と進めない…」
キースが僕を抱く腕に力を込める。
「俺もそれは理解しているつもりだ…」
「僕らは依存しちゃいけないんだ…お互いが立っていないと、成り立たない」
「ああ」
「まだ僕はそれを、その方法が見つけられない」
「ジョミー。それでも俺は…」
キースが僕の頭を掴んだままキスをしてきた。
想いが流れ込むような優しいものだった。
「俺との事は見えなくても、お前はもう何かを見つけているんじゃないか?」
「そうだね。僕は人とミュウの未来には希望があると信じているよ」
離れてゆくゼウスを眺めてから、僕はアルビオンへ急いだ。
Artemisia編 一章十二話 「過去 そして 次の時代へ」
演習艦アルビオン
「シド。…セルジュは?」
「セルジュは、戦艦エンディミオンで東の星域へ行っています。ゼウスもそこへ?」
「将軍は見つかったのか?」
「はい」
「そうか、これで収まると良いけど…」
「ブルーがかなり派手にやったみたいで、あ、いえ、死傷者は少ないです…そうとう脅かしたみたいで…これで大人しくなるといいですね」
「そうか…僕はこのままアルテメシアに降りて生徒と合流するけど、ミアはどうするの?」
「一度、ペセトラに戻らないと…」
「シドは?」
「僕もベルーガを取って、戻ってきます」
「了解」
「ところで、クリスティナとは連絡取れる?」
「東の星域の戦闘が治まってきてるので、多分」
「会えないかな?」
「それは、少し難しいかと…通信なら」
「わかった」
アルビオンはアルテメシアに降りた。
僕はすぐにダールトンの通信網を使ってミディアンを探した。
クリスティナとミディアンには面識があった。
ミディアンとクラヴィス将軍との出会いが、ミディアンの兄グライムを軍を抜けさせ海賊へ向かわせたとクリスティナは誤解していたが、それはすぐに解けた。
ミディアンとクラヴィス将軍は戦争中の混乱の中での別れだった。
将軍が個人的な恨みで動いていたのでは無いのかもしれないが、それが全く無いとも言えなかった。
僕は彼女達に謝罪する事しか出来なかった。
戦争を起こした事、グライムを殺した事が、避けて通れなかった道だとしても、僕に何一つ過ちが無いとは言えないのだ。
人は過ち進みゆくものなのかもしれない。
それでも、全ての人を信じて僕らは進むしかなかった。
終
「夢の在り処」二章へ つづく
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