小春奈日和

赤ちゃんは、人間は、どのように言葉を獲得するの?
わが家の3女春奈と言葉の成長日記です。

592 大国主に秘められた製鉄の性格 その13

2017年05月23日 01時28分09秒 | 大国主の誕生
大国主の誕生592 ―大国主に秘められた製鉄の性格 その13―
 
 
 そして、三谷栄一は、倭氏は大神神社の祭祀氏族である三輪氏のもとで倭大国魂神の
祭祀を、一面では大己貴命荒魂神の祭祀に従事していたと説きます。
 その祭祀も、はじめ狭井神社で行われていたものが、いつの頃か現在の大和神社に
遷座したのだ、とします。
 その背景には、本来は狭義の大和(奈良県)の国魂、地霊であったものが、いつしか
広義の大和(日本)の国魂、地主神となったもの、と思われ、さらには、朝廷の占有の
権威と守護のため、各地に地霊として勧請していったのだと思われるのです。
 それが、吉野の大名持神社や丹生川上神社であり、淡路の大和大国魂神社だという
わけです。
 
 では、倭大国魂神がローカルな国魂、地霊から大神化していったのは具体的にいつ頃
なのでしょうか。
 三谷栄一は、狭井神社から大和神社への遷座を「いつの頃か」としていますが、その
一方で、この神の変化を、天武・持統朝の頃ではないかと考えています。
 
 奈良・平安時代において丹生川上神社には、祈雨神として奉幣使が派遣されていましたが、
こういった祭事は天武・持統朝には盛んに行われていたようなので、三谷栄一の考察には
傾聴の価値があるように思えます。
 
 『日本書紀』天武天皇四年(657年)の記事には、
 
 「小紫美濃王、小錦下佐伯連広足を遣わして、風神を竜田の立野に祠(まつ)らしむ」
 
とあり、『日本書紀』持統天皇五年(691年)の記事には、
 
 「使者を遣わして竜田風神、信濃の須波(諏訪)、水内等の神を祭らしむ」
 
とあることはすでに紹介したとおりです。
 この時代、現在では出雲系の神とされている神々の祭祀などが行われているので、こ
の頃に倭大国魂神が大国主と結びついた可能性は捨てきれません。
 それに、吉野の地は大海人皇子、すなわち後の天武天皇と讃良皇后、すなわち後の
持統天皇が隠遁していたところであり、壬申の乱もここから始まったという、天武・持統
両天皇にとっては特別な地でもあるのです。
 
 ところで、その壬申の乱では、「出雲臣と青の人々」のところで採り上げたように、製鉄に
関係すると思われる氏族たちが大海人皇子の側につきました。
 その点においては倭氏も製鉄と関係があるように思えるのです。
 実際、吉野郡には鉱山が多く存在しており、丹生川上神社や大名持神社が倭氏の祭祀
する神社であるとするなら、このことがここに創られた理由のひとつだと考えられます。
 
 倭氏の始祖、シイネツヒコがオトウカシとともに天の香久山の土を採取する伝承ですが、
天の香久山も製鉄と関係するのです。
 天の香久山と言えば、大和三山として知られる天の香久山を思い浮かべる人が多いかと
思いますが、天の岩屋戸伝承にも天の香久山が登場します。こちらは天上に存在する山の
ようですが、日本書紀では「天香山」と書かれ、古事記では「天金山」と書かれています。
 
 「香」は、日本語の音読みだと「コウ」で、鉱山の「鉱」もまた「コウ」です。『万葉集』の
巻1-13の、天智天皇作の歌では、香久山を「高山」と表記していますが、「高」も「コウ」です。
 だから、天金山の「金」は「鉄」であり、「鉱」でもあると考えられるわけです。『日本書紀』の
一書にも「天香山の金を採りて、以て日矛を作らしむ」とあり、天の香久山は鉱山を象徴する
ものであったと考えられるのです。
 
 しかし、「コウ」がなぜ「カグ」になるのか、と言うと、朝鮮語なのです。
 朝鮮半島の言葉では鉱山を「カグサン」といい、「香」という字も「カグ」といいます。
 朝鮮語で鉱山をさす「クヮグ・サン」の「グ」は、鼻音で、英語の「ing」の発音に近いといい
ます。「鉱(クヮグ)」の「グ」につく母音がAなら「カガ」、Uなら「カグ」、Оなら「カゴ」になり、
「鉱」も「香」も同音なのです。(大和岩雄『神社と古代王権祭祀』より参照)
 
 さて、天の岩屋戸伝承の他で天の香久山から思い出されるのは、『先代旧辞本紀』に
登場する天香語山命です。
 この神を祀る神社はいくつかありますが、それらでは、天香山命とされていることが多い
のです。
 天香語山命は、天火明命(『先代旧辞本紀』では天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊)の
御子神ですが、『古事記』や『日本書紀』に登場する高倉下(タカクラジ)のこととされています。
 高倉下は、熊野にて神武天皇に霊剣の布都御魂を献上し、そこから神武天皇は大和に
入るのです。
 その後、吉野でイヒカたちと出会い、続いて宇陀でエウカシを殺しオトウカシが服属するのです。
 
 その香語山命と倭氏について、『海部氏勘注系図』には興味深いことが書かれているのです。

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