小春奈日和

赤ちゃんは、人間は、どのように言葉を獲得するの?
わが家の3女春奈と言葉の成長日記です。

613 物部氏と出雲 その1

2017年10月22日 01時23分04秒 | 大国主の誕生
大国主の誕生613 ―物部氏と出雲 その1―
 
 
仁徳天皇の恋話の相手である女性たちの中には、桑田の玖賀媛(くがひめ)や吉備の海部直
(あまべのあたい)の娘、黒比売などは宮中に仕える女性で、采女(うねめ)であった可能性が
あります。
 
 すでにお話ししたように、雄略天皇の天語(あまかたり)と『万葉集』巻16-3807に、付加されて
いる逸話は共通性が見られます。
 それは、ともに雄略天皇や葛城王が、もてなしに粗相があったことで気分を害したところを女性が
歌を歌ったことで許した、という話であることなのですが、もうひとつ共通しているのは、雄略天皇の
場合は女性が三重の采女であり、葛城王の場合は昔采女であった女性という部分で、ともに采女
であることです。
 
 今さらながらではありますが、采女とは何か、ということを説明しますと、天皇や皇后に近侍する
女性のことで、地方豪族が娘を采女として天皇に差し出していました。その背景には天皇に対する
服属の意を表す意味も含まれていたと考えられています。
 その采女を管轄していたとされるのが、「うねめ」の名を持つ婇氏(うねめ氏)です。
 『古事記』には、婇氏は、邇芸速日命の子、宇摩志麻遅命の子孫と記されており、物部氏、穂積氏と
同族なのです。
 『日本書紀』の「雄略紀」には多くの采女が登場しますが、そこに物部氏が絡む伝承も存在する
のです。
 
 たとえば、雄略元年の記事ですが、雄略天皇は童女君(おみなぎみ)という采女を妃のひとりに
迎えますが、初夜で懐妊し女の子を産んだので、「きっと、先に他の男と関係を持って宿した子だろう」と
疑ってわが子と認めなかったので、物部目大連(もののべのめのおおむらじ)が天皇を諭して認知
させたという伝承です。
 
 それから、雄略十三年の記事に、サホビコ王の玄孫、歯田根命が采女の山野辺小嶋子を奸した、と
いう話を聞いた天皇が、物部目大連に歯田根命を尋問させた、とあります。
 
 以上の2つの伝承は物部目大連にまつわるものですが、この他にも物部が登場する伝承が2つあり
ます。こちらに登場する物部は、氏族としての物部氏ではなく、部民としての物部と思われます。この
物部は、軍事に従事する他、現在の警察のような職務にたずさわる人々のことで、氏族の物部氏は
この物部を統括する役職を担っていたと考えられています。
 
 それで、その伝承ですが、ひとつは雄略十二年の記事で、闘鶏御田なる木工が伊勢の采女を奸したと
勘違いした雄略天皇が、御田を処刑せよ、と物部に身柄を預けたところ、それを見た秦酒公が、
 
 (神風の)伊勢の野の栄えた木の枝を、五百年を経るまで懸けて、其の枝がなくなってしまうまで(末長く)、
大君に堅固にお仕え申し上げようと、(そのために)自分の命も長くあってほしい、と言った(忠実な)大工よ。
(処刑されるなんて)ほんとに惜しい大工よ
 
と、歌ってとりなしたので御田は赦された、というもの。
 
 もうひとつは、翌雄略十三年の記事で、韋那部真根という木工が石を台にして斧で木を切っても刃を
損なうことがなかったので、雄略天皇が、
 「石に当ててしまうことはないのか?」
と、尋ねると、
 「当ててしまうことはございません」
と、答えます。
 そこで、天皇が、采女を呼び、服を脱がせてふんどし1つの姿で真根の近くで相撲をとらせたところ、
思わず誤って刃を損ねてしまったのです。
 天皇は、
 「吾が見ていても緊張で失敗することもなかったのに、女の裸を見たら気を取られて失敗しおった。
けしからん男だ」
と、物部に身柄を預けて処刑しようとしますが、他の職人たちが、
 
 もったいない猪名部の大工が張った墨縄。その大工がいなくなったら、誰が張るだろうか、もったいない
墨縄だ
 
と、歌ったので天皇は真根を赦した、というものです。
 
 こちらの2つの説話は歌を歌うことで天皇の赦しを得る、という点で共通していますが、同時にこれは
天語にも共通するものです。
 さらには、天語に登場する采女は伊勢国三重の采女ですが、雄略十二年の記事に登場する采女は
伊勢の采女です。
 それに、物部目大連が登場する伝承には山野辺小嶋子なる采女の名が登場しますが、山野辺と
いう名から、この采女を伊勢国山辺(現在の鈴鹿市山辺町)出身とする説もあります。
 そもそも物部目大連は伊勢の朝日郎を討った人物であり、そのことだけを見れば、物部氏が伊勢国
出身の采女とつながりがあったことの理由と考えられなくもないのですが、しかし、なぜ采女なのか。
 このつながりについて、少し見ていく必要があると思います。

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