古木の桜
最新の宇宙工学に挑む航空宇宙センター
その外側を取り囲む桜の古木が数十本
ああ 今年も咲いたねえ
ひたすら天を目ざすのはイプシロンと一緒じゃないか
きみは大きな可能性を秘めている
黒々とした幹には長年の知恵が蓄えられ
斬新なJAXAの研究成果と同様に
花開く日を待っていたんだね
きみが佇つ植え込みの傍をクルマが走り抜ける
何をそんなに急いでいるのか
歩行者がやっとすれ違える歩道の上で
満開の花びらがほのほのとつぶやいた
桜の木の下には死体が埋まっている、と
刺激的な比喩を披露した作家がいたが
きみの幹には確かに謎めいた暗号が刻まれている
謎解きを試みてすでに何年過ぎたことだろう
ある日古木の幹にビニール紐が巻かれていた
ぼくの知る限りそれはきみが衰え始めたという診断で
謎が解ける前に道行く人に倒れかかるなと
樹木医が出した配達証明なのだ
だが桜よ それは悲しむことではないだろう
世代交代は生きとし生ける物の宿命だ
ぼくだってきみと同じほど生きてきて
静かにその時を迎えようとしているのだから
ぼくはこの通りをJAXA通りと呼ぶ
太宰治が眠る寺と水木しげるワールドをつなぐ道に
ちょっぴり英知と希望の輝きを添えたいからだ
ビッグバンで撒かれた生命のタネを見つけ出す通り
さくら さくら やよいの空は
見わたす限り果てしない花曇りだね
あわあわと生まれ あわあわと消える季節
いざや いざや 見に行かん
a href="http://novel.blogmura.com/novel_short/"
<短編小説ブログ・ランキング用バナー＞が復活しました。
アクセス
トータル
ランキング
そうでしたか、JAXA通りは、三鷹の太宰治と深大寺の水木しげるに繋がる道でしたか。
そう、戦後に植えられた桜の世代交代が、我々の世代交代に重なって身につまされます。
長野県は教育、群馬県は道路に力を注いでいるという噂、成程、面白いです。
まずは前回の教育県ＶＳ道路県の噂は、ぼくも面白い話だと思いました。
さて、ぼくが勝手にJAXA通りと呼ぶ道は、正式には三鷹通りなのですが、たまたま太宰治や水木しげるゆかりの場所をつないでいます。
またソメイヨシノの寿命は８０年～１００年と言われ、更家さんのおっしゃるとおり戦後植えられた桜は同時期に生まれた我々の世代交代と重なるんですね。
感慨ひとしおです。
平均寿命まで生きてちょうど桜と一緒、この符合も惹かれる理由の一つかもしれません。