どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

真夏の怪談 その4 『四街道の竹藪』

2024-06-08 00:17:00 | 短編小説

海野太吉は千葉県内をよくドライブした。

勝浦や御宿が好きで、家族を乗せて行楽に引き回した。

自宅が都内にあったので、あるとき茂原から四街道を経由して家に帰ることにした。

自動車の道路ナビなどない時代に地図を頼りに近道を探して強行突破してきた。

すると四街道に近づいたと思われる頃いきなり目の前に竹襖が現れた。

「えーっ、なんじゃこれ?」

家族も身を乗り出して怖がった。

「おとうさん、引き返しましょう」

「いや、竹藪が道までせり出しただけだ、道がないわけじゃない」

農道なのか畑の中の私道なのかわからないがギリギリ通り抜けられそうだ。

太吉は運転席のミラーを引っ込め、竹の幹にこすりそうになりながらなんとか通過した。

「いやー、水木しげるの妖怪が出たかと思った・・」

「お父さん無謀だから、いつもヒヤヒヤするわよ。いつか青梅の方でコンクリートの支柱に阻まれて引き返したことがあったでしょう。もう、こんなことやめて!」

「怖いの嫌い、お父さんやめて」娘にダメ押しされた。

「しかし、なんとか近道できたじゃないか。そうだ、最初に現れたコンビニでソフトクリームを買ってあげる。それで許してくれ」

娘はウーンとうなりながら妥協した。

千葉の七不思議のひとつに道路標識がある。

右へ曲がっても左へ曲がってもまっすぐ行っても成田空港が出てくる。

でたらめかといううとそうではなく、だだっ広い平野だからどこかで曲がって幹線につながるのだ。

 

当時、茂原市の一角に千葉のビバリーヒルズと呼称する高級住宅街区があった。

そこに隣接する畑地が宅地として売りに出ていたので何回か見に行った。

四街道の竹襖にはそのたびに出合った。

懲りないのである。

「今度はどうなっているか近道してみよう」

何とか通れることを覚えたものだから、家族もあきらめたようだ。

竹林の持ち主が竹の根を断ち切ったのか道路への進出は抑えられていた。

竹襖に見えるのはほんの一部で、裏へ通り抜けてみるとさほど大きな竹林ではない。

季節によっては日の暮れが早くなると妖怪が現れそうで、太吉にとっては忘れられない四街道の竹襖であった。

 

   〈おわり〉

 

 

 

 

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 当世あきれ節 2  | トップ | ポエム381 『カラスをペット... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (yamasa)
2024-06-08 20:18:05
こんばんは。
走っていて目の前に竹襖が現れたら驚きますね。
引き返すかと思うより、通って見るほうが自分も多いと思います。
通れそうもない時は、ガッカリしますが。。。(笑)
ナビは凄いです。
日本中どこでも案内してくれますね。
返信する
障害物 (tadaox)
2024-06-09 01:54:36
(yamasa)さん、こんばんは。
台風の後など道路に木の枝が落ちていたりするけど避けながら先へ進むタイプですね。
ナビは便利ですね。
今は道路地図とか分県地図とか見る人少ないでしょうね。
返信する
迷子 (ウォーク更家)
2024-06-13 12:14:27
私も、車を買ってすぐの若い頃、嬉しくて、家族を乗せて千葉県内をよくドライブしました。

自動車のナビなどない時代でしたので、分厚い道路マップの本を片手に、地図だけを頼りに、広い千葉県の内陸部を走り回りました。

表示のない分岐点がやたらと多く、道路標識と道路マップがうまくマッチせずに、何度も迷子になりました・・・

”ここは何処?、私は誰? (-_-;)
返信する
Unknown (tadaox)
2024-06-13 17:53:36
(ウォーク更家)様、こんばんは。
そうですか、同じように千葉県内をうろついていたんですね。
確かに分岐点などで標識がなくて迷うことがありました。
どっちかへ曲がってから見知った地名が出てくるまで走り、そこから修正して目的地まで。
無駄な走りも楽しかったんでしょうね。
ガソリンも安かったし。
いい思い出です。
ありがとうございました。
返信する

コメントを投稿

短編小説」カテゴリの最新記事