Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

自由民主党京都府連の公職選挙法「事前買収罪」について

2022-05-27 | 旅行
 ****様
 いつもお世話になり、ありがとうございます。
 この度は突然のご連絡をご容赦下さい。
 私は***新聞社報道部記者で政治・行政を担当している****と申します。
 現在、弊社では、自民党京都府連が国政選挙前に、候補者の政治団体から寄付を受け、選挙区内の府議、京都市議の政治団体に1人当たり50万円を交付していた問題について鋭意、取材を進めているところでございます。
 この問題を巡っては、京都府連の元事務局長が作成した内部文書でこの手法を「マネーロンダリング」とし、公選法の買収に当たる可能性が識者からも指摘されております(府連は「党勢拡大のための資金だ」との主張です)。
 取材班では現在、元国会議員や府議、京都市議らへの取材を進めており、近くこの問題を分かりやすく解説する記事を書こうと思っております。その記事の中で、広島で起きた河井夫妻による巨額買収事件との違いについても触れたいと思っております。
 そこで、****さんには公選法に詳しいお立場から、この問題をどう見ていらっしゃるかお考えを拝聴したいと思い、ご連絡いたしました。なお、****さんには、2016年の京都市長選で、門川大作市長の選挙母体が、自民党の国会議員秘書5人に「労務の対価」の名目で現金を支出していたこと件を報じる際、別の記者がお話を聞かせていただいたと存じます。私も当時の取材班の一員でした。
 もしお話を聞かせていただけるのであれば、具体的には、
・本件が公選法違反に該当する可能性があるかどうか
・交付金や寄付金といった名目での政治団体間の資金移動が公選法に問われたケースは過去にあるか
・河井夫妻事件との共通点、違い
 などについておうかがいできたらと存じます。
 取材の方法については、電話、オンライン、対面、私はいずれでも大丈夫ですので、****さんのご都合のよい方法をおっしゃってください。先ほど申し上げた「まとめ記事」は今週中に記事化を予定しており、もしテーマ的に合致しているのであれば、その中で先生のお話もご紹介させていただけばと考えております(日程的に都合がつかなければまた別の機会に、と考えています)。
 大変お忙しい中、お読みいただき、ありがとうございました。
お受けいただけるかどうかも含めて、ご返答いただければ幸甚です。
 何卒宜しくお願いいたします。




 返信 
 ****新聞社御中
 ****様

 ご連絡ありがとうございます。
 以下において、私の所見を述べます。
(1)文藝春秋3月号の報道内容
 自民党元衆議院議員の安藤裕さんは、自身のインターネット動画配信で次のことを明らかにしたと報道されています。
・2012年の総選挙において京都6区から立候補するために、自民党京都府連(西田昌治会長・参議院議員)に250万円を寄付した。
 衆議院京都6区には自民党府議が5人いたため、府連は250万円を1人あた50万円ずつ分配した。
・2014年の選挙では、府議が6人いたので、300万円を府連に寄付した(同じく1人あたり50万円が分配された)。
・安藤さんは、寄付は合法であたっとしながら、「府連に振り込むという形で寄付をして、その後府連から地方議員の方に渡る。そういう金の流れがあったのは事実です」と述べた。しかし、現在では振り返って、「買収と思われる懸念は確かにあった」が、「合法だという説明を受けたし、先輩議員たちもずっとやってきている。それで言われるとおりにした」と述べている。
・2017年6月に府連を懲戒解雇された元事務局長の職員が「解雇無効」を訴えた裁判で、この元事務局長が後任の事務局長のために「引継書」を作成していたことが明らかになった。その「引継書」では、選挙区内の府議らに「活動費」を配る方法について「議員1人につき50万円です。候補者が京都府連に寄付し、それを原資として府連が各議員に交付する」と説明されていた。しかも、「候補者がダイレクトに議員に交付すれば、公職選挙法上は買収ということになりますので、京都府連から交付することとし、いわばマネーロンダリングする」と記されていた。
・文藝春秋3月号は、府連の内部文書には、この分配を「マネーロンダリング(資金洗浄)」と記述し、選挙運動者や投票人の買収に使われた疑いがあると報道している。

(2)問題点
 いくつか検討すべき問題があると思います。分かりやすい点から検討します。
1)河井夫妻の事案との共通点と違い
 2019年参議院選挙では、克行さんと杏里さんが杏里さんの当選を目的として、地元の政治家に金銭を配布した。この現金の原資は現在のところ明らかになっていません。ポケットマネーの可能性もありますが、選挙資金として自民党本部から配分された選挙費用の可能性もあります。後者であれば、政党助成金、すなわち税金が使われています。これらのお金は、自民党広島県連の収支報告書には記載されていないと思います。受け取った県議や市議もまた自身の収支報告書には記載していないでしょう。したがって、これは買収にあたります。公選法の事前買収罪(渡した克行・杏里さんは事前供与罪、受け取った市議などは事前受供与罪です)。
 これに対して、安藤さんの場合、候補者として府連に寄付をしています。これは政治資金規正法上の寄付であり、府連としては収入として収支報告書に記載していれば、法律上は問題ありません。また、府連が府議(自民党議員)に対して、自民党の日常的な党活動、党勢拡大の費用として配っているならば、問題はありません。何に使ったのか使途を明らかにし、支出報告書に記載すれば、問題はありません。領収書などがあれば、その真偽も検証できます。
2)府議が総選挙前に党活動の費用として50万円受け取っていますが、これが何に使われたのかは、報道でははっきりしません。例えば、自民党の政策学習会を開いたときの会場費として使った。講師に報告してもらって、謝礼や交通費を支払った。または、目前の総選挙で候補者の当選を勝ち取るために、会場を使用した、その費用として使った。講師に情勢報告をしてもらい、謝礼を払った。弁士を招いて、安藤さんの支持を訴えてもらうい、その方の交通費として支払った。そのように使われているなら、府連の政治資金管理団体の収支報告書に記載されているでしょう。府議が自身の資金管理団体を持っている場合、自民党府連から寄付を受けたこと、それを何に使ったのかも収支報告書に記載されているでしょう。
 もしも、記載がなければ、記載すべき義務に違反しています。しかりと記載してくれていると思いますが、記載されていなければ、修正しなければなりません。そうすれば、府連のお金が、誰から誰に渡され、何に使われたのかが明らかになります。資金の流れを透明化することで、国民がその党や候補者を監視することができます。
3)自民党に限らず、国政政党は、党中央本部、地方本部、支部があり、その資金を管理する団体や組織があります。政党の収入の基本は、党費、寄付が基本であり、議員がいる場合には、政党助成金、政務活動費などが党組織や会派に支給される財政もあります。それら収入がいくらあったのか、詳細に収支報告書の収入欄に記載する義務があります。そして、例えば、事務所の維持・管理、職員の給与・活動費、日常的な党活動の費用を支出したなら、それを収支報告書の支出欄に記載する義務があります。資金が中央本部から地方本部、支部に配分されていれば、それぞれのところで資金管理を徹底することが義務づけられます。
 党を分党し、合併した場合でも、組織の関係をはっきししたうえで、その資金を分割し、合算するなどし、財政関係を明確にする義務があります。立憲民主党と国民民主党の一部が合流して、(新)立憲民主党になりましたが、例えば泉ケンタさんの場合、彼の支部や資金管理団体は元々は国民民主党の泉支部の団体でした。新たに立憲民主・泉支部を作ったので、この場合の財政関係は、国民民主の泉支部が立憲民主の泉支部に寄付をして、その後は国民民主の泉支部を解散するという手順を踏んだのではないかと思います。寄付という名目で、ある政治団体の資金を他の政治団体に寄付することは認められています。政治資金収支報告書に正確に記載されていれば、政治団体間の資金の移動は法的に問題ありません。小沢一郎さんや小池百合子さんなどは、様々な政治団体・政党を渡り歩いてこられましたが、あの方々が公選法や政治資金規正法に問われていません。お金の管理が行き届いていたからでしょう。
4)では、安藤さんの事案について、公選法に違反する可能性があるかどうかですが、今のところ「ある」とはいえないでしょう。安藤さんの250万円や300万円は自民党京都府連に寄付として渡されています(府連の政治資金管理団体の収支報告書の収入の項目に記載されているでしょう)。府連は府議に政党活動の費用として渡しています(収支報告書の支出の項目に記載されているでしょう)。収支報告書に記載されていれば、問題はありません。
 政党の党活動は、日常的に行われますが、選挙前には激しさを増します。日常的な党活動と選挙活動は、一応は区別して行われますが、同時に一体的・立体的に推進されます。党の政策を広く訴え、党勢を拡大することによって、選挙戦を勝ち抜くことができます。また、選挙戦を勝ち抜くためには、党の政策を普及し、党勢を拡大する必要があります。党活動は選挙活動であり、それは候補者の当落に直結します。まさに、選挙の直前における党活動と選挙活動は一体的です。
 もちろん、お金の使い方は別です。党の事務所の費用と選挙事務所の費用は、基本的に別に管理しなければならないでしょう。形式が違っても、実質的に同じだと考えて、お金の使い方もどんぶり勘定で計算すると、それは政治資金と選挙費用が区別できなくなるので、問題です。資金の流れを透明化するために、2つに分ける必要があります。「マネーロンダリング」という言葉が使われているようですが、これは党活動の費用と選挙活動の費用が一本化するのを避けるための言葉として茶化した表現が用いられているだけなのではないかと思われます。

(3)私の所見
 文藝春秋の報道だけでを見ていると、安藤さんの事案は公職選挙法の事前買収罪にはあたるとは思えません。安藤さんが行った行為がどこの政党でも行われているかどうか知りませんが、事前買収罪の要件を満たしているとは思えません。。
 政党助成金を受け取っているか否かにかかわらず、政治には資金が必要です。選挙にも同じく資金が必要です。政治家を志し、立候補するのなら、まずは自腹を切って、中央本部や府連に寄付をするのは自然な行為です。そして、本部や府連がそれを党活動や選挙活動として支出する財政方針を立てる。府連の事務局長は、その方針に基づいて、資金を管理する。もしも安藤さんが、府連の資金管理団体にも、また府議の資金管理団体にも知らせずに、府議にダイレクトにお金を渡していたならば、それは「買収罪」にあらる可能性があります。誰も見ていないところで行われています。しかも収支報告書には記載されていません。安藤さんは、そのお金で票を買ったと言われても仕方ないでしょう。しかし、府連への寄付であれば、収支報告書の収入の欄に記載されます。それが府議に渡っていれば、それは支出の欄に記載されます。使途も明記されます。政治資金規正法は、政治資金や選挙費用の支出と流れを透明化し、政党の活動を財政面から見極められるようにしていますが、収入と支出の構造が明らかにされているならば、問題はないように思います。
 安藤さんの寄付が府連を通じて府議に渡った場合と、安藤さんがダイレクトに府議に渡した場合とでは、お金の流れだけを見ればあまり変わりません。ダイレクトに渡せば「買収資金」であるが、府連を介せば、それだけで浄化され「政治資金」になるので、府連の元事務局長は「マネーロンダリング」という言葉を使ったのだと思います。しかし、安藤さんと府議の間に府連が介在し、府連に収支報告義務が課されている点が決定的に異なります。府連の収支報告が明瞭に行われているかどうか。ここが肝心です。それが行われていれば、国民は自民党京都府連の活動を財政面から監視し、評価することができるからです。
 現在の政治資金法制・選挙法制は、このようなシステムになっています。このシステムを(善し悪しはあると思いますが)前提とする限り、安藤さんの案件は、公職選挙法の事前買収罪の要件を満たしているとは言えないように思います。
(2022年02月28日)