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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(06)応用編(故意論①)

2020-06-09 | 日記
 第06回 責任論(1) 故意(①)
 練習問題06、05
 判例百選番号40、41、42、43、15

(1)責任論
1責任主義
 罪刑法定主義 法律なければ犯罪なし、刑罰もなし
 行為主義   侵害なければ犯罪なし、刑罰もなし
 責任主義   責任なければ犯罪なし、刑罰もなし

 他人や社会に迷惑な行為であっても、
 それを犯罪として処罰する法律がなければ、
 処罰することはできない(罪刑法定主義)

 また、犯罪にあたるように見える行為であっても、
 有害性や実害性がなければ、
 刑法を用いて処罰すべきではない(行為主義)

 さらに、他人や社会に有害で侵害性の高い行為であっても、
 行為者に責任がなければ、
 処罰することはできない(責任主義)


2個人責任と行為責任
・誰が責任を負うのか?
 犯罪の構成要件に該当する違法な行為を行った行為者
 責任を負うのは常に行為者個人であって、
 それ以外の人は、責任を負う必要はない
 →連帯責任(ある人の責任に他の人が連帯して責任を負う)
  団体責任(団体の構成員の1人の責任が団体全体に及ぶ)
  連座(1人の責任に他の人にも派生する)
  ただし、
 公職選挙法には連座制の例外規定がある
 選挙団体の資金管理責任者による投票人買収
 責任者に禁錮刑以上の刑が確定すると、当選者の議員資格を剥奪

・何に対して責任を負うのか?
 構成要件該当の違法行為を行ったことに対する責任

 構成要件該当の違法行為を故意に行ったことに対する責任(故意責任)

 構成要件該当の違法行為を過失によって行ったことに対する責任(過失責任)

 故意・過失は
 行為を行った際の行為者の心理状態であり、
 その行為の構成要件該当性と違法性が確定した後に、
 故意または過失が問題にされる
 故意が認定されれば、故意責任の推定を受ける
 過失が認定されれば、過失責任の推定を受ける
 →故意・過失は責任類型であるという考え
  構成要件該当性と違法性の判断を行為者の主観的事情を抜きに判断
  結果無価値論から主張される

 これに対して、
 故意犯の構成要件該当の違法行為を行ったことに対する責任

 過失意犯の構成要件該当の違法行為を行ったことに対する責任

 故意・過失は
 行為を行った際の行為者の心理状態であり、
 その行為の構成要件該当性と違法性を判断するためには、
 故意または過失が問題にされる
 故意が認定されれば、故意犯の構成要件該当性が判断される
 過失が認定されれば、過失犯の構成要件該当性が判断される
 →故意・過失は構成要件要素型であるという考え
  構成要件該当性と違法性の判断を行為者の主観的事情を踏まえ判断
  行為無価値論から主張される


3責任阻却事由
 構成要件該当の違法行為を行ったが、
 行為者の心理状態が
 責任阻却事由
 責任減少事由
 に該当

 責任阻却事由
 心神喪失(刑39①)
 刑事未成年(刑41)

 責任減軽事由
 心神耗弱(刑39②)

 または、
 誤想防衛
 誤想過剰防衛(過剰性の認識のない場合)

 誤想避難
 誤想過剰避難(過剰性の認識のない場合))

 超法規的責任阻却事由
 適法行為を選択することが期待できなかった場合
 →緊急避難における法益同価値の類型(カルネアディスの板の事例)
  二元説 違法であるが、期待可能性の不存在を理由に責任阻却


(2)故意論
1刑法38条1項
 罪を犯す意思がない行為は罰しない。
 ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

 罪を犯す意思=故意
 罪を犯す意思のない行為であるが、
 例外的に処罰される=過失犯


2罪を犯す意思=故意
 故意=犯罪事実の認識・予見
 自己の行動が犯罪にあたることの認識、
 または犯罪結果が発生することの予見

・故意の種類(犯罪事実の認識・予見の内容と程度)
 確定的故意
 犯罪結果を確実に発生させようという故意

  概括的な故意
  犯罪事実の発生を確定的に認識しているが、
  その対象は「大勢いる人々のうちの誰か」と大まか

  択一的な故意
  犯罪事実の発生を確定的に認識しているが、
  その対象がAまたはBと択一的

 不確定的故意
  未必の故意
  犯罪結果を確実に派生させようとは考えていないが、
  発生しうる(可能性possibility)を超えて、
  その蓋然性を認識している(蓋然性説probability)
  あるいは
  結果発生を認容(認め、受け容れている)している(認容説)
  行為を思いとどまれるだけの事実を認識し、それを抑えている(動機説)

 どのような場合に故意の成否が分かれるか?
 薬物事犯など
 Xは、外国の空港で恩人Yから、
 「日本にいるAに渡して欲しい」と小荷物を預かった。
 中身を尋ねると、「大した物ではない。健康食品だ」と言われた。
 Xは、教えてくれてもいいでしょうと、迫ったが、
 関係が悪化するのを恐れ、それ以上聞かなかった。
 しかし、気になったので、飛行機に乗る前に、箱を開けた。
 紅茶の缶が入っていた。中身は分からなかった。
 怪しいと思ったが、Yとの約束なので、日本に持ち込んだ。
 Xは、日本の空港で手荷物検査を受けた際、
 乾燥大麻の所持で逮捕された。
 Xに乾燥大麻の所持の故意はあったのか?
 故意があったとすれば、
 どのように理論的に説明できるだろうか?

 小荷物の中に「乾燥大麻」が入っているという確定的な認識はなかった。
 しかし、小荷物の中に何が入っているか気になっていた。
 少なくとも、違法な薬物など禁止されている物かもしれないという認識。
 禁止薬物であるかもしれないという認識(可能性の認識)を超えて、
 おそらくそうであろうという認識がある(蓋然性の認識)。
 しかも、
 それを運ぶのを止めようという動機を形成しうる認識でもある。


(3)事実の錯誤
 行為者が
 主観的に実行しようとした犯罪と
 客観的に実行した犯罪とが
 食い違っていること

 実行した犯罪を「故意」に行ったと非難しうるか?

1錯誤の類型
・事実の錯誤
  具体的事実の錯誤(刑38①に関連)
  抽象的事実の錯誤(刑38②に関連)

・違法性の錯誤(法律の錯誤・禁止の錯誤)
  自分がどのような行為を行っているかは認識
  しかし、それを禁止する法律の存在を知らなかった
  そのため、法律違反という認識はなかった
  しかし、社会倫理に反するという認識はあった
  例:マスクを高額な値段を付けて転売する行為

2事実の錯誤
 行為者は認識・予見した犯罪事実を実現したが、
 客体や因果関係などの食い違いが生じた場合

・具体的事実の錯誤
 そこに居る人がAだと認識して殺害したが、
 その人は実はBであった(客体の錯誤)

 そこに居るAを殺害しようとしたが、
 隣にいたBを殺害した(方法の錯誤)

 Aを溺死させようと橋の上から突き落としたら、
 橋桁に頭を打ち付けて打撲死した(因果関係の錯誤)

 具体的事実の錯誤については、
 行為者は犯罪の実行を決意して、
 その犯罪を実行しているので、
 その限りでは錯誤はないが、
 客体の錯誤、方法の錯誤、因果関係の錯誤が
 生じている。
 この錯誤は、実行した犯罪の故意を否定するか?

 行為者が認識・予見したのとは別の客体に犯罪結果が発生しているので、
 それには故意は成立しない。
 故意の成否は、
 行為者が認識した具体的な事実を基準にして決せられる。
 →具体的符合説

 これに対して、
 行為者が認識・予見したのとは別の客体に犯罪結果が発生しているが、
 主観的に実現しようとした犯罪と客観的に実現した犯罪とは
 同じ構成要件の犯罪である。
 故意の成否は、
 行為者が実現しようとした構成要件を基準にして決せられる。
 →法定的符合説(構成要件的符合説)


・抽象的事実の錯誤
 そこにあるマネキン人形を消却処分したつもりが、それは生きた人間であった
 主観的には器物損壊罪
 客観的には殺人罪

 覚せい剤だと認識しながら所持したら、それは麻薬であった
 麻薬だと認識しながら所持したら、それは覚せい剤であった
 主観的には覚せい剤所持罪(または麻薬所持罪)
 客観的には麻薬所持罪(または覚せい剤所持罪)

 死んでいると思って海岸に遺棄したら、その人はまだ生きていた
 主観的には死体遺棄罪
 客観的には単純遺棄罪

 主観的に実現しようとした犯罪と客観的に実現した犯罪とは
 異なる構成要件の犯罪である。
 重い罪にあたる行為を行ったのに、
 重い罪にあたることを知らなかった場合、
 重い罪で処断することはできない(刑38②)
 では、軽い罪として処断できるのか?

 故意の成否は、
 行為者が実現しようとした構成要件を基準にして決せられるので、
 構成要件の重なる部分(軽い罪)の故意が成立する。
 →法定的符合説(構成要件的符合説)
  その判断方法は、保護法益と行為態様の共通性の有無


(4)判例で問題になった事案
【40】故意の内容(最二決平成2・2・9判時1341号157頁、判タ722号234頁)
 覚せい剤輸入罪の成立には、行為者がその薬物が覚せい剤であることを知りながら、日本国内にそれを持ち込んだ事実が必要である。
 被告人には、それが覚せい剤であるという明確な認識はなかったが、少なくとも日本に持ち込むことが禁止されている違法な薬物であると認識していた。このような場合、覚せい剤の輸入の故意は認められるか。


【41】未必の故意(最三判昭和23・3・16刑集2巻3号227頁)
 刑法には、他人の財物を盗む行為(窃盗罪)だけでなく、その盗品を無償・有償で買い受ける行為(盗品無償・有償譲受罪)をも処罰する規定がある。
 盗品の譲受罪が成立するためには、譲受する物が盗品であるだけでなく、それを認識していることが必要である。値札が付いたままであれば、「盗品かな?」と疑うこともできるが、それがバザーや露店などで売られているなら、リサイクル品のようにも見える。このような場合、行為者にどのような認識があれば、盗品譲受の故意があったといえるのか。


【42】法定的符合説(1)――故意の個数(最三判昭和53・7・28刑集32巻5強1068頁)
 行為者がAという人を殺そうとして、Aに重傷を負わせた。この場合、殺人未遂罪が成立する。それと同時に無関係なBにも傷を負わせた。Bに対して殺人未遂罪が成立するか。それとも、不注意からBに傷を負わせたとして、過失致傷罪が成立するだけか。
 主観 Aを殺す→殺人罪の構成要件該当の事実の認識
 客観 Aに傷を負わせた→殺人未遂罪の構成要件該当の事実の実現
    この二つの構成要件は「殺人未遂罪において重なり合っているので、
    その部分につき故意が成立する。
 客観 Bに傷を負わせた
    一故意犯説 1個の故意で行えるのは1個の故意の行為だけである Bには過失致傷罪
    数故意犯説 1個の故意で数個の故意の行為を行なえる Bには殺人未遂罪


【43】法定的符合説(2)――符合の限界(最一昭和61・6・9刑集40巻4号269頁)
 Xは覚せい剤を所持したとして、覚せい剤取締法の覚せい剤所持罪で逮捕され、起訴された。公判において、Xは所持していたのは麻薬(コカイン)であると認識していたので、覚せい剤の所持の故意はなかったと主張した。
 主観 麻薬を所持する→麻薬所持罪の構成要件該当の事実の認識
 客観 覚せい剤の所持した→覚せい剤所持罪の構成要件該当の事実の実現
    この二つの構成要件は、一定の範囲において重なり合っているか?
    重なり合っている部分があれば、それにつき故意が成立する。


【15】因果関係の錯誤(大審院第ニ刑事部判決大正12・4・30刑集2巻378頁)
 XはAを殺害するために、ひもで首を絞め、身体が動かなくなったところ、死亡したものと誤信して(第1行為)、その後、行為が発覚するのを防ぐため、Aの身体を海岸まで運び放置した(第2行為)。Aは死亡したが、その死因は海岸の砂を吸引による窒息死であった。
 (第1行為=故意行為→時間的・場所的に近接した関係において→第2行為=過失行為)

 行為者の第1行為と被害者の死亡との間に行為者自身の第2行為が介在した事例
 第1行為の構成要件該当性の問題として、
 第1行為と被害者死亡との因果関係の有無
  因果関係 有とすると → 殺人既遂罪の構成要件該当性
  第1行為と第2行為の関係は、時間的・場所的に見て、一連・一体の1個の行為
  因果関係 無とすると → 第1行為は殺人未遂罪の構成要件該当性
  死亡と因果関係があるのは第2行為 それは殺人既遂罪の構成要件該当行為
  しかし、それは死体遺棄の故意で行われた。→異なる構成要件にまたがる錯誤
  構成要件の重なり合いは無し→過失致死罪と死体損壊罪の未遂(無罪)
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