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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第10回 盗品に関する罪 2016年12月01日)

2016-11-28 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 個人的法益に対する罪――財産に対する罪
 第10週 盗品に関する罪

(1)盗品等に関する罪
 盗品等に関する罪(盗品関与罪)は、「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」を無償で譲り受けたり(盗品無償譲受)、それを保管する(盗品保管)などの行為です。

 刑法は、他人の財物を領得する行為を直接行なう場合だけでなく、それを間接的に行なった場合をも処罰しています。

(2)盗品関与罪
 刑法256条 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、3年以下の懲役に処する(1項)。盗品を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処する(2項)。

1行為主体
 本罪は、「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得した物」を有償で譲り受けるなどの行為です。本罪の行為主体は、財産に対する罪(これを「本犯」といいます)を行なった行為者以外の者となります。窃盗犯が、自分で盗んできた盗品を保管しても、それは盗品保管罪にはあたりません。ただし、窃盗罪の共同正犯A・BのうちA1人が行なった場合は、他の共同正犯者Bが盗んだ「盗品」を保管したといえる限り、盗品保管罪にあたると解されています。

 他人(B)に窃盗を教唆した者(A)が、Bから盗品を有償で譲り受けた場合、「窃盗罪の教唆」とは別に、「盗品有償譲受罪」が成立し、両罪は「併合罪」の関係立つと解されています(最判昭24・10・1刑集3・10・1629)。有償で譲り受けた者が、その後、盗品を保管しても、その保管行為については、あらためて盗品保管罪として処罰されません。その行為は、盗品有償譲受罪とともに処罰されるだけです。そのような行為のことを、「共罰的事後行為」または「不可罰的事後行為」といいます。

2行為客体
 本罪の行為客体は、「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」です。「物」であることから、財産上不法の利益は除外されます。盗品関与罪は、、財物罪の被害物について成立するだけです。

 不動産については、不動産侵奪罪の規定との関係から、窃盗罪と強盗罪の行為客体から除外されますが、詐欺罪・恐喝罪・横領罪の行為客体に含まれると解されているので、その限りで、詐欺罪などで得られた不動産もまた、本罪の行為客体に含まれます。

 なお、「盗品……領得された物」については、領得されていれば、本罪の客体になりえるので、財物罪の成立要件の全てが満たされていることを要しません。財物を窃取した者が14歳未満の場合、本犯の窃盗罪は刑事未成年ゆえに不処罰ですが(刑41条)、その行為は窃盗罪の構成要件に該当する違法な行為です。したがって、その少年から盗品を無償で譲受した行為には、盗品無償譲受罪が成立します(大判明44・12・18刑録17・2208)。本犯の行為に、財物罪の構成要件性と違法性が備わっていれば、その被害物は、盗品罪の行為客体になります。そのように考えると、盗品関与罪は、本犯(正犯)の事後的な共犯として理解することができます(総論:制限従属形式)。

 なお、故意を(財産犯の)構成要件要素として位置づけると、過失による窃盗は、窃盗罪の構成要件該当性が否定されるので、被害物は本罪の行為客体から除外されます。しかし、盗品関与財の行為客体は、「窃取された物」でなくても、「領得された物」である以上、過失窃盗の被害物もまた、本罪の行為客体に入ると言えるでしょう。また、過失による窃盗の被害物が「遺失物」であり、それを他人に無償・有償で譲り渡すならば、それは故意に自己の所有物のように処分しているので「横領」にあたります。それは、遺失物横領罪の構成要件に該当する違法な行為によって領得された物といえます。

3実行行為
ⅰ無償譲受
 「無償の譲り受け」とは、窃盗の行為者などから、被害物を無償で取得することです(大判大6・4・27刑録23・451)。贈与、無利息の消費貸借なども「無償の譲り受け」にあたります(福岡高判昭26・8・25高刑集4・8・995)。一時的に使用するために借りただけだと、「無償の譲り受け」にはあたりません(福岡高判昭23・9・8高刑集6・9・1256)

ⅱ運搬
 「運搬」とは、盗品などの被害物の所在場所を別の場所に移転することです(東京高判昭32・8・31高刑裁特4・18・463)。有償・無償を問いません。被害者が盗品を追求する権利(追求権については後述)の実現が困難になる程度の移動を伴うことを要します(最判昭33・10・24刑集12・14・3368)。

 盗品を被害者の自宅に運搬した行為について、それが被害者のためではなく、窃盗犯人のためであった場合には、盗品運搬罪が成立すると判断される場合があります(最決昭27・7・10刑集6・7・876)。しかし、「運搬」が処罰されるのは、被害者による追求が困難になるからであり、自宅に運搬された場合には、追求が容易になっているので、運搬罪が成立するというのは疑問です。「誰のために行われたのか」という主観的な動機によって左右されるならば、「運搬」の概念が主観化してしまいます。

ⅲ保管
 「保管」とは、本犯行為者から委託を受けて、盗品を管理する行為です(最判昭34・7・3刑集13・7・1099)。保管することを約束しただけでは足りず、盗品が保管者の支配下に移転され、追求権が困難にされていなければなりません(京都地判昭45・3・12刑月2・3・258)。有償・無償を問いません(大判大3・3・23刑録20・326)。

 「預かってほしい」と委託を受けて、保管したが、それが盗品であることを知らなかった場合、客観的には盗品保管罪の構成要件に該当する行為が行なわれていますが、盗品であることの認識がないの、それを保管しているという故意がないので、盗品保管罪は成立しません。ただし、盗品であることを知らずに保管を開始した後、それを知ったにもかかわらず、そのままにした(保管を継続した)場合、知った時点から盗品保管罪が成立します(最決昭50・6・12刑集29・6・365)。盗品保管罪は「継続犯」です。保管を始めれば、それによって犯罪は成立し、保管が終わるまで犯罪は終了しません。盗品であることを知らずに保管を始め、その継続中に知った場合には、それを知った時点から保管罪が成立します。盗品であることを知った後、あらためて「保管」の行為は必要ではありません。これが判例の立場です。

 盗品保管罪が「継続犯」であれば、その説明も成り立ちますが、「状態犯」であると解するならば、盗品保管罪の成立には、あらためて「保管」の行為が必要です。「状態犯」は、保管が開始された時点で犯罪として成立・終了します。盗品であることを知らずに保管し、その途中で盗品であることを知った場合、あらためて「保管」が行われなければ、盗品保管罪は成立しません。ただし、盗品であることを知らずに保管し、途中で盗品であることを知った場合(新たな保管行為は行なわれていない)、警察に届け出るなどする必要があり、そのまま保管し続け、届出義務に反した不作為が盗品保管罪にあたると論ずる余地もあります(総論・不真正不作為犯論)。

ⅳ有償譲受
 「有償の譲り受け」とは、盗品を有償で受け取り、その使用・処分権を取得することです(大判大2・12・19刑19・1472)。単なる約束では足りず、盗品の占有が移転することが必要です(大判大12・1・25刑集2・19)。

ⅴ有償処分のあっせん
「有償処分のあっせん」とは、盗品の有償処分の仲介です。仲介役を有償で引き受けることは要件ではありません(最判昭25・8・9刑集4・8・1556)。

 この「あっせん」とはいかなる意味でしょうか。窃盗犯XがAから物を盗み、Yに盗品の「買手を探してほしい」と頼み、YがZに「買わないか」と申し入れたが、Zがそれを了承しなかった場合、「あっせん」が成立するでしょうか。判例は、相手方との間に、盗品の有償処分の約束が成立していなくても、「あっせん」した事実がある以上、本罪が成立すると解しています(最判昭23・11・9刑集2・12・1504)。しかし、「あっせん」が行われても、それによって被害者の追求権が困難になったとはいえないので、その事実だけで本罪の成立を認めるのは妥当ではないでしょう。あっせん後、有償処分の約束が成立し、譲り受ける側にそれが引き渡されなければ、被害者の追求権の侵害は認められないと思われます。

 Yが被害者Aを相手にあっせんした場合、本罪は成立するでしょうか。判例は、被害者には盗品を無償で返還請求する権利(追求権)があるので、有償で買い取るようあっせんすることは、「盗品の正常な回復」を困難にし、追求権を侵害しているので、本罪が成立します(最決平14・7・1刑集56・6・265)。

4故意
 盗品関与罪の故意の成立には、「盗品その他財産罪によって領得された物」であること、そして所定の行為を行っていることの認識が必要です。それは未必的なもので足ります(最判昭23・3・16刑集2・3・227)。行為を行う時点において、盗品であることの認識が必要です。盗品保管罪についても、「保管」にあたる行為を行う時点において、盗品であることの認識が必要です。それを知らずに保管を始め、途中で盗品であることに気づいた場合、それ以降に盗品保管罪の成否が問題になります。

(3)盗品関与罪をめぐる問題
1盗品等に関する罪の処罰根拠
 盗品を譲り受けたり、保管するなどした行為が処罰されるのはなぜでしょうか。窃盗犯が盗品を自分の家で保管しても、窃盗罪とは別に「盗品保管罪」は成立しません。第三者が盗品であることを知りながら、それを保管した場合に「盗品保管罪」が成立するのはなぜでしょうか。それによって、どのような法益が侵害されるのでしょうか。

 盗品関与罪の保護法益について、「違法状態維持説」と「追求権説」との対立があります。

ⅰ違法状態維持説
 「違法状態維持説」は、犯罪によって得られた物(贓物・ゾウブツ)を第三者が保管などすることによって、本犯の行為者が作り出した「違法な財産状態」が維持・継続されるところに本罪(贓物罪)の本質があると解しいていました。「贓物」の保管などによって、適法な財産状態や財産秩序の回復という法益が侵害されると認識されています。

 「贓物」は、刑法の条文を現代用語に改める改正(1995年)まで用いられてきた言葉です(「贓物ヲ収受シタル者ハ……」〔1項〕)。それは、「不正な手段・方法で手に入れられた物」を意味し、「財産犯によって領得された物」に限られてはいませんでした。従って、財産犯のみならず、密漁、収賄、賭博などの犯罪によって領得された物もまた、「贓物罪」の行為客体に含まれると解されていました。収賄によって得られた金品の場合、贈賄者は(不法な原因に基づいて給付したので)その返還を請求できません。したがって、違法状態維持説からは、「贓物罪」の保護法益は、適法な財産状態や財産秩序の回復であり、返還請求権・追求権は含まれないと解されていました。

 「贓物」の国語的・文理的な解釈としては、違法状態維持説の主張も可能だと思います。しかし、本罪が個人的法益に対する罪の章に規定されていることに鑑みれば、個人法益に還元できない「財産秩序」が法益であるとは考えられません。また、財産犯の章に定められていることに着目するならば、「贓物」は「府政な手段・方法で手に入れられた物」ではなく、その目的論的な解釈として「財産犯によって領得された物」に限すべきでしょう。判例は、刑法が現代用語に改正される前から、「墳墓を発掘して領得された死体の一部」を買い取っても(大判大4・6・24刑録21・886)、また「魚漁法違反の行為によって得られた海草」を買い取っても(大判大11・11・3刑集1・622)、「贓物」の有償譲受にはあたらないと判断し、「贓物」を財産犯によって領得された物に限定してきました。

ⅱ追求権説
 判例の理解に基づくならば、本罪の本質は、財産犯によって直接的に侵害された法益(本権ないし占有)の回復を妨げすることにあると解されます(大判大11・7・12刑集1・393)。従って、盗品関与罪の法益は、財物の返還を要求する被害者の権利=追求権であると解されます。

 しかしながら、本犯行為者が盗品を保管などを行ない、その追求権を侵害しても、盗品保管罪にはあたらないにもかかわらず、第三者が保管し、追求権を侵害した行為が盗品保管罪として処罰されるのは何故でしょうか。財産犯の保護法益(本権ないし占有)は、窃盗罪などの本犯によって直接的に侵害され、それによって終了します(状態犯)。窃盗行為者による保管は問題にされないにもかかわらず、第三者が保管した場合には、その追求権侵害が盗品保管罪として処罰されるのはなぜでしょうか。

ⅲ近年の傾向
 盗品無償譲受罪(1項)は、盗品を無償で譲り受ける行為であり、盗品有償譲受罪(2項)それを有償で譲り受ける行為です。無償・有償の違いはありますが、被害者の追求権が侵害されている点においては同じです。それにもかかわらず、前者の法定刑は3年以下の懲役(1項)であり、後者の法定刑は「10年以下の懲役及び50万円以下の罰金」(2項)であり、有償譲受の方が重くなっています。しかも、「及び」という文言から分かるように、懲役刑と罰金刑は併科され(必要的併科刑)、例えば本犯である窃盗罪の法定刑「(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)よりも重くなっています。本罪の保護法益は追求権であると述べているだけでは、盗品の無償譲受と有償譲受の法定刑の違いを理論的に説明することはできません。

 なぜ盗品有償譲受は無償譲受よりも重く処罰されるのでしょうか。また、窃盗などの本犯より重く処罰されるのでしょうか。窃盗の犯行を考えている人にとって、盗品を「無償」で受け取る人がいることは、犯行を積極的に決意するきっかけにはなりません。せいぜい「犯行が発覚しないよう手助けしてくれる(=追求権の侵害)」(事後従犯的性格)になるだけです。しかし、「有償」で買ってくれる人がいるということは、「犯行が発覚しにくくなる」(事後従犯的性格)だけでなく、「もうかる」ので、犯行を決意するきっかけになる可能性があります(本犯助長的性格)。このように盗品有償譲受罪には、無償譲受罪に比べて、本犯(窃盗)を助長・促進する性格があり、この違いが法定刑の影響していると考えられます。つまり、盗品有償譲受罪など(2項)の罪は、本犯の事後従犯的性格だけでなく、その助長的性格があるため、その法定刑も本犯よりも重い「10年以下の懲役及び50万円以下の罰金」とされ、無償譲受罪は、事後従犯的性格しかないため、本犯よりも軽い「3年以下の懲役」とされているのです。

 1項と2項の法定刑の比較からも明らかなように、盗品関与罪の性格は、追求権の侵害(事後従犯的性格)と本犯助長的性格という二つの側面から捉えることができます。判例(最判昭26・1・30刑集5・1・117)も、最近の学説も、それを認めています。ただし、この二つの側面をどのようにう捉えるかについては論者によって異なります。追求権侵害が基礎にあり、それに本犯助長的性格が加えられると考えられますが、本犯助長的性格をメインの側面として捉え、追求権の侵害をサブ的側面と捉える立場からは、追求権の有無にかかわらず、本罪の成立が認められます(不法原因給付との関係で後述)。

2行為客体は追求権が及ぶ物に限られるか
 本罪の保護法益は追求権です。窃盗などの被害者が、盗品の返還を請求する権利ということもできます。

 では、不法原因に基づいて給付した物は、本罪の行為客体に含まれるでしょうか。Aが「覚せい剤を買ってきてやる」と欺いて、Bから金銭を交付させた場合、Bが交付した金銭は、不法原因給付物なので、返還請求できません。しかし、Aには詐欺罪は成立します。Aがその金銭の保管をCに託した場合、Cは盗品保管罪が成立するでしょうか。本罪の性格において、追求権侵害ではなく、本犯助長的性格を重視するならば、追求権侵害の側面は相対的に軽視され、本罪の成立を認めることもできます(「新しい違法状態維持説」)。

 横領罪のところで説明したように、妾関係を維持するために不動産を交付した場合、返還請求権が否定され、その反射的効果として相手方に所有権が移転すると判断されています(最大判昭45・10・21民集24・11・1560)。不動産を受け取った人がそれを登記しても、横領にはあたらないならば、その人から第三者が不動産を購入しても、横領物の有償譲受にはあたりません。民事判例との整合性を重視するならば、本罪が成立するためには、追求権の侵害が基本的に必要であり、それに本犯助長的性格が加えられて、刑が加重されると考えるべきでしょう。

3共犯による盗品の譲受
 窃盗を教唆した者が、盗品を有償で譲り受けた行為について、判例は「窃盗罪の教唆」とは別に、「盗品有償譲受罪」の成立を認め、その二つを「併合罪」としています(最判昭24・10・1刑集3・10・1629)。共犯者は、「教唆」によって、正犯の窃盗(本犯)を助長しているので、窃盗罪の教唆が成立することに問題はありませんが、有償で譲り受けたことが盗品有償譲受罪にあたるとなると、「窃盗罪の教唆」とは別に、本犯を助長する効果があったということになります。しかし、そのような説明には疑問が残ります。窃盗の教唆は、いわば盗品の有償譲受の前段階の行為として行なわれているといえるので、それらは包括して盗品有償譲受罪の1罪が成立するだけであると考えるべきように思います。

4継続犯か状態犯か
 窃盗などの本犯は、財物の所有権ないし占有を直接的に侵害する犯罪です。それに対して、盗品関与罪はそれを間接的に侵害する(追求権を侵害する)犯罪です。窃盗などの本犯と盗品関与罪には、保護法益の点において共通性があります。保護法益の性質ゆえに、本犯が「状態犯」であると解されるならば、盗品関与罪も保護法益が同じであるがゆえに「状態犯」であると捉えられます。たとえ、盗品保管罪の行為が、継続して行なわれる性格を持っていようとも、追求権という法益の観点から見るならば、それは継続犯と解する理由にはなりません。追求権は、所有権や占有と同様に、侵害された後は終了します。

 このように考えると、盗品保管罪も「状態犯」であると解することもできそうです。そうであるならば、盗品であることを知らずにそれを保管し始め、後に盗品であることを知った場合、そこから保管場所を変えるなどの行為が行なわれなければ、盗品保管罪は成立しないと思われます。

5行為客体の同一性と代替可能性
 AがXから現金を盗んで(窃盗罪)、それを商品券に換え、Bが委託を受けてその商品券を保管した場合、Bに「盗品保管罪」が成立するでしょうか。窃盗罪の被害者Xには、盗品である現金を追求する権利がありますが、盗品との同一性が認められる物にも及びます。では、この商品券と盗まれた現金との間に同一性はあるでしょうか。あるならば、商品券の保管は盗品の保管にあたります。

 判例において、盗品との統一性が認められた事案には、次のものがあります
 ①横領によって領得した紙幣を両替して得た金銭(大判大2・3・25刑録19・374)
 ②詐欺によって領得した小切手を換金して得た金銭(大判大11・2・28刑集1・82)
 ③窃盗によって領得した金の茶釜を溶解して作った金塊(大判大4・6・2刑録21・721)
 ④窃盗で領得した鉛の管を溶解し、それで作られた物(大判大5・11・6刑録22・1664)

 これらの場合、横領罪、詐欺罪、窃盗罪の被害者は、いずれも両替された金銭、換金された金銭、作られた金塊・物に対して追求権を有しています。それは何故でしょうか。①については、被害者には、盗まれた紙幣や貨幣そのものを追求する権利ではなく、同一額の金銭債権を追求する権利があるからです。例えば、横領された「1枚の1万円」が「10枚の千円札」に両替されても、金銭債権の追求権が認められている以上、両者の同一性を肯定できます。②についても同様です(ただし、小切手を詐取した後に、それを銀行で換金する行為が詐欺にあたると解されるなら、銀行から詐取した金銭が「盗品」なので、小切手と換金された金銭の同一性を問題にする必要はありません)

 ③と④については、若干の説明が必要です。民法246条は、「他人の動産に工作を加へた場合、その加工物の所有権は材料の所有者に属する。ただし、工作によって生じた価格が著しく材料の価格に超えるときは、加工者がその物の所有権取得する」と定めています。窃盗犯が盗品を加工し、その形状を変えても、窃盗の被害者に加工品の所有権があり、加工品に対する追求権が認められます。つまり、盗品と加工品には同一性があるということです。ただし、加工によって加工品の価格が盗品よりも著しく高くなった場合には、加工者(窃盗犯)が加工品の所有権を取得するので、加工品と盗品との同一性はなくなります。③と④の事案において、加工品と盗品の同一性が認められたのは、加工品の価格に大きな変化がなかったからでしょう。もし加工品の価格が著しく高くなったならば、加工品の所有権は窃盗犯にあり、窃盗の被害者は加工品に対して追求権を持たないことになります。

 例えば、判例には次のような事例があります。被告人が、「婦人用自転車」を盗み、それから「車輪二個」と「サドル」を取り外して、それを「男子用自転車」の車体に取りつけ、その男子用自転車の有償処分のあっせんをした事案です。判例では、盗品である「婦人用自転車」と加工された「男子用自転車」の同一性を肯定し、男子用自転車の有償処分のあっせんが盗品有償処分のあっせん罪にあたると判断しました(最判昭24・10・20刑集3・10・1660)。最高裁が「婦人用自転車」と「男子用自転車」の同一性を認めたのはなぜでしょうか。加工された男子用自転車の価格が盗品である婦人用自転車のそれを著しく超えなかったからなのでしょうか。最高裁は、婦人用自転車から「車輪二個」と「サドル」を取り外して、それを男子用自転車に取り付けても、、それは原形のまま容易に分離することができるので、「工作を加えた」とはいえないからです。そもそも加工にあたらないので、価格の上昇を論ずるまでもありません。

(4)親族間の盗品関与の特例
 刑法257条 配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪を犯した者は、その刑を免除する(1項)。前項の規定は、親族でない共犯については、適用しない(2項)。

1特例の趣旨
 親族間で盗品関与罪が行われた場合、刑が免除されます。この規定は、窃盗罪などの親族間の特例(244条)とは別のものです。なぜ244条の規定を盗品関与罪に準用せず、別の規定を設けたのでしょうか。その理由は、「法は家庭に入らない」(一身的刑罰阻却事由)とか、違法性の減少(財産共同体を理由とした違法性減少事由)や責任の減少(非難可能性の減少による責任減少事由)というよりは、むしろ犯人蔵匿(105条)に類すること(適法行為の期待可能性の減少による責任減少)が理由でしょう。

2親族の範囲
 親族関係は、本犯の行為者と盗品関与者の間にあることを要します(最判昭38・11・8刑集7・11・2357)。学説には、本犯の被害者と盗品関与者との間の親族関係と捉えるものがありますが、それは、盗品関与者が親族の盗品を保管などしても、追求権を困難にしたとはいえず、それゆえ刑が免除されると考えるからです。しかし、もしそうであれば、刑法244条を準用することで足りたはずです。刑法が257条の特別の規定を設けた趣旨は、それとは異なると解されます。