Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

執行猶予される刑の一部の期間の判断方法について

2017-04-23 | 旅行
執行猶予される刑の一部の期間の判断方法について

 【事実の概要】
 被告人は、覚せい剤の自己使用及び所持により、平成27年3月に懲役2年6月、4年間執行猶予に処せられ、その1年後の平成28年の某日、覚せい剤の自己使用(第1の罪:10年以下の懲役)及び単純所持(第2の罪:10年以下の懲役)に該当する行為を行ったとして、現行犯逮捕された。
 裁判所は、被告人の2件の行為が覚せい剤取締法に違反すると認定し、それらの行為が刑法45条前段の併合罪であることから、同法47条本文(有期の懲役・禁錮の加重)、同法10条(刑の軽重)により犯情の重い第2の罪の刑に法定の加重をした範囲内で被告人を懲役2年に処し、同法21条を適用して未決勾留日数中10日をその刑に算入した。そして、犯罪の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められることから、同法27条の2第1項を適用して、その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予し、さらに同法27条の3第1項を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付した。さらに、覚せい剤取締法41条の8第1項本文により、千葉地方検察庁で保管中の第2の罪に係る被告人所有の覚せい剤を没収した。
 被告人は、本判決を不服として控訴した。
[千葉地判平成28・6・2判タ1431号237頁(有罪・控訴)]

 【争点】
 執行猶予される刑の一部の期間の判断方法。

 【裁判所の判断】
 裁判所は、本件の事案につき懲役2年の実刑に処した上で、その一部である6月の執行を2年間猶予する理由を次のように述べた。「前記執行猶予が取り消される見込みであることもふまえ、懲役2年の実刑に処すこととするが、現行犯逮捕時の客観的状況も併せ考えれば、その覚せい剤に対する依存性は高いと評価せざるを得ず、また、自分の意思で覚せい剤をやめられる旨述べていることからするとその認知のゆがみも大きく、そのような被告人の再犯を防ぐためには、断薬の上で行う施設内処遇の効果を、薬物の誘惑の多い社会内においても維持すべく、薬物再乱用防止プログラムを備えた保護観察所の下で薬物離脱のための適切な指導を受けさせる期間を十分に設けることが有用であり、被告人の更生意欲や更生環境に照らせばそれが相当と認められる。よって、その刑の一部の執行を猶予することと」する。

 【解説】
 刑の一部執行猶予制度は、刑法等の一部を改正する法律および薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成25年6月)により、平成28年6月1日から施行されたものである。本件は、その施行の翌日に薬物事犯に適用された最初の事案であり、注目に値する。
刑の一部執行猶予制度は、実刑が相当と判断された事案につき、その刑の一部の執行を猶予することにより、施設内処遇と社会内処遇を有機的に連携して実施し、犯罪者の再犯防止と改善矯正を促進することを目的としている。これまで満期釈放された者には、何ら社会内処遇は実施されず、また仮釈放された者に保護観察が付されることはあっても、宣告刑の相当期間(8割程度)が経過しなければ仮釈放が認められないこともあり、保護観察の実効性を確保するための十分な時間を確保できないとの批判があった。このような問題を改善するために、特別予防の観点から新たに創設された処遇方法が、刑の一部執行猶予制度である。
 刑の一部執行猶予の要件は、「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」(刑27条の2第1項)と定められている。一般に被告人に再犯のおそれがあること(必要性)、一定の期間を確保して行なう有用な処遇方法があり、仮釈放では十分な期間を確保できない状況があり、かつ被告人自身の更生意欲があること(相当性)、特に薬物事犯については、社会内処遇プログラムが用意され、施設内処遇の効果がそれとの連携によらなければ持続が困難であることが必要である。
このような制度の趣旨を生かすためには、執行猶予される刑の期間の判断方法が問題になるが、それについて条文は明確に定めていない。この制度では猶予刑の期間を長くすることは想定されていないとか、その一般的な期間については宣告刑の2割程度が標準であるという議論もあるが、そのような想定や標準は条文から明らかではなく、また制度の趣旨に合致しているともいえない。施設内処遇の期間が長くなれば、その効果の社会内処遇による持続も困難になる。事案に応じた柔軟な判断によって、期間を決めるのが望ましい。
 本判決では、執行が猶予されたのは懲役2年の実刑のうち懲役6月であったが、その理由は明示されていない。執行猶予が取り消された刑と合算すると4年の懲役となり、その間の施設内処遇の効果を薬物の誘惑の多い社会において持続するのに6月で妥当であるかは明らかではない。仮釈放の併用を検討すべきである。