Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(15)択一

2021-07-17 | 日記
Nо.061 不作為による幇助
 学生A、BおよびCは、次の【事例】について後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から④までの( )内から適切な語句を選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。なお、事例アにおいては、甲と丙との間には共謀はなく、事例イにおいては、甲と乙との間に共謀はないものとする。


【事例】
ア 刑事未成年者である乙が、丙により殺害されようとしているにもかかわらず、乙の母であり、乙を監護する甲が、殺害を阻止しなかった。
イ 刑事未成年者である乙が、丙を殺害しようとしているにもかかわらず、乙の母であり、乙を監護する甲が、


 不作為による幇助が問題になる事案では、それが不作為による幇助になるのか、それとも不作為による正犯になるのかが学説では争いがあります。
 正犯が、殺人罪や傷害致死罪のような作為犯の場合、被害者を保護しなかったとか(法益保護義務違反の不作為)、正犯の行為を阻止しなかった不作為(犯罪阻止義務違反の不作為)は、正犯にはなりえず、それは幇助にとどまると解する説が有力ですが、作為義務の内容に応じて、不作為による正犯と不作為による幇助に別れると解するものがあります。法益保護義務に違反した不作為は不作為による正犯(同時正犯)にあたり、犯罪阻止義務に違反した不作為には不作為による幇助にあたると解します。
 さらには、いずれの義務違反であれ、不作為に正犯(同時正犯)を認める見解もあります。


【会話】
学生A 私は、作為義務の内容によって正犯と共犯とを区別し、正犯者の犯罪による被害法益を保護すべき義務(法益保護義務)があるにもかかわらず、この義務に違反した場合には、不作為の同時正犯が成立するのに対し、正犯者による犯罪を阻止する義務(犯罪阻止義務)があるにもかかわらず、この義務に違反した場合には不作為のほう助犯が成立すると考える。甲の行為につき、①(a事例アでは不作為の同時正犯、事例イでは不作為のほう助犯、b事例アでは不作為の幇助犯、事例イでは不作為の同時正犯)が成立すると考える。
→アの事例では、甲は乙の生命を守るべき立場にいます。つまり、乙の法益を保護すべき義務を負っているので、甲には法益保護義務があるといえます。学生Aは、甲が法益保護義務に反した場合、不作為の同時正犯が成立すると考えているので、アの事例では不作為の同時正犯が成立します。
①には(a)が入ります。


学生B しかし、義務の内容の違いによって、両者を区別する合理的根拠はない以上、A君の見解は妥当ではないよ。②(c共謀を共犯処罰の必須要件と考える、d共謀を共犯処罰の必須要件と考える必要はない)から、不作為による犯行への関与は、同時正犯と考え、両事例につき、甲に不作為正犯が成立すると考える。
→学生Bは、不作為者の義務を法益保護義務と犯罪阻止義務に分ける考えを拒否していることは明らかです。その上で、B君の発言を見てみますと、共犯処罰の要件として共謀が必要か否かが論じられています。毛法60条は実行共同正犯を定めた規定ですが、学説や判例では共謀共同正犯も認められています。そうすると、共謀がなかった場合には、共謀共同正犯は成立しないことになります。かりに、丙や乙が行った殺人罪につき、甲に共謀がないにもかかわらず、共同正犯の成立が認められるとすると、共同正犯には共謀も必要ないことになっていまいますが、B君はこの点についてどう考えているのでしょうか。B君は、共謀のなかった甲には同時正犯が成立するといいます。この同時正犯というのは「同時単独正犯」のことです。丙が乙を殺害したので、丙は殺人罪の単独正犯であり、甲はそれと同時に殺人罪の単独正犯を行っていたということです。そうすると、B君は共謀がない場合には共同正犯は成立しないと考えていることになります。
②には(c)が入ります。


学生A でも、B君のように考えると、③(e共謀がなければ幇助犯であるべきはずであるのに、共謀があるために正犯に格上げされてよいのか、f作為者の自律的決定が介在して結果が実現されていない以上、不作為者は因果経過を支配していたとはいえず、単独正犯は成立しえないのではないか)という問題があるね。C君は、甲の行為についてどう考えるのか。
→学生Aは、Bの見解を批判しています。Bの見解は、作為義務の内容が違っていても、その義務に違反した不作為者には不作為による正犯(同時正犯・単独正犯)が成立すると考えています。この見解のどこに問題があるのでしょうか。甲が、乙殺害について丙と共謀し、また丙殺害について乙と共謀していれば、甲には殺人罪の共謀共同正犯が成立しますが、共謀がなければ、Bの見解によると、不作為による正犯(同時正犯・単独正犯)になります。そうすると、(e共謀がなければ、幇助犯であるべきはずである)という表現は、Bの見解を批判したことにはなりません。甲に共謀がなければ、不作為による正犯になるはずですが、乙や丙の生命を直接侵害したのは丙・乙です。彼らの行為が生命侵害に対して直接的な因果性と支配性を有しています。その行為の背後にいて、不作為の態度をとった甲に、生命侵害の因果経過を支配したといえるのでしょうか。Bの見解は、この点が問題になります。
③に入るのは(f)です。


学生C 私は、不作為による関与は、作為義務違反の不作為により、作為正犯を介して結果発生と間接的な因果関係をもつにとどまるから、両事例についき、甲に不作為の④(g同時正犯、h幇助犯)が成立すると考える。
→学生Cは、不作為は、作為正犯を介して結果発生と間接的な因果関係を持つと考えています。そうすると、Bのように、不作為を同時正犯ということにはなりません。
④には(h)が入ります。


(1)①a②c③e④h (2)①a②d③e④g (3)①a②c③f④h
(4)①b②c③f④h (5)①b②d③e④h
→正解は(3)①a②c③f④h


Nо.062 片面的幇助
 「甲は、乙の賭博場開帳図利の意図を知りながら、乙のために、丙、丁を賭博場に誘引して賭博をさせ、乙の犯行を助けた。その際、乙は甲の行為を認識していなかった。」との事例において、甲の罪責に関し、【見解】、【結論】およびその【根拠】の組合せとして正しいものは、後記1から5までのうちどれか。
→刑法186条2項には、賭博場を開帳(かいちょう)し、博徒(ばくと)を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処すると定めています。賭博の場所を提供し、賭博を行う2当事者(サイコロを振る人と丁半にかける人)を引き合わせ、利益を得る行為が厳しく処罰されます。
 賭博場を開帳しても、客が来なければ、開帳者は儲からないので、客を集めるよう工夫しますが、甲は、乙のために、丙・丁を勧誘して賭博場に連れて行ったので、乙の賭博場開帳罪の幇助にあたります。ただし、乙は甲がそのような関与をしていることを知りませんでした。これは、片面的幇助の問題です。
【見解】
 正犯との意思の連絡なく、幇助の意思を持つものが、一方的に正犯に加功する片面的幇助の成否について
Ⅰ片面的幇助を認めない見解
→共同正犯であれ、幇助犯であれ、正犯との意思の連絡があることが成立要件であると解する見解です。幇助の意思を持つものが、一方的に正犯に加功する場合、片面的幇助犯も成立しません。XがAの家に侵入する前に、Yが内緒で鍵を開け、そのためXがAの家に侵入しやすくなった場合でも、Yには幇助は成立しません。
Ⅱ片面的幇助を認める見解
→これに対して片面的幇助を認める見解があります。
Ⅲ有形的幇助の場合には片面的幇助を認めるが、精神的幇助の場合には片面的幇助を認めない見解
→幇助にも2種類ありえます。1つは、YがAの家の鍵を開けておく「有形的幇助・物理的幇助」と、YがXの犯行が成就するよう激励する「精神的幇助・心理的幇助」です。刑法62条は、正犯を幇助した者は従犯とすると規定していますが、この幇助とは正犯の実行を促進・容易にすることです。鍵を開けることによって住居侵入罪は容易になりました。YがXを激励したので、Xはその決意を新たにし、住居侵入罪を決行しました。いずれも幇助です。YがXと意思連絡をとらずに、A宅の鍵を開けた場合、それによって住居侵入罪の実行が容易になっている以上、片面的幇助は成立するといえます。しかし、YがXと意思連絡をとらずに、Xの犯行を激励することはできません。せいぜい心の中で祈願できるだけです。そのような行為によって住居侵入罪の実行は容易になるでしょうか。ならないでしょう。したがって、片目面的幇助は、有形的・物理的幇助の場合に成立し、精神的・心理的幇助の場合には成立しません。
【結論】
a賭博場開帳図利罪の幇助犯が成立する。
→片面的幇助犯の成立を認めるのはⅡであり、物理的幇助について片面的幇助の成立を認めるのはⅢです。
Ⅱa
Ⅲa
b不可罰である。
→片面的幇助の成立を認めないのはⅠです。
Ⅰb
【根拠】
ア幇助犯の本質は正犯の犯行を容易にする点にあるところ、だれの行為かわからない形態で正犯の犯意を強化し、または正犯の犯行を容易にすることも不可能ではない。
→片面的幇助には心理的幇助も、物理的幇助もありうるという見解です。
Ⅱア
イ共犯とは各共犯者間に形成された共同意思主体の活動である。
→共同意思主体というのは、共同正犯であれ、共犯であれ、相互に意思連絡をとりながら、犯罪の実現に向けて一丸となって取り組む超個人的・集合的な主体のことです。このような考えからすれば、片面的幇助などは認められません。
Ⅰイ
ウ刑法第60条が犯罪の「共同」実行を要求しているのと異なり、刑法第62条1項は従犯の側からの「幇助」を規定しているにすぎない。
→刑法60条の共同正犯の規定には「共同」という文言があります。共同正犯とは、犯罪の実行共同正犯であり、「共同」というのは相互に意思連絡がある共同実行の意思のことであって、一方の側からの共同実行の意思のような片面的共同正犯は認められません。これに対して、刑法62条の幇助犯の規定には、従犯の側からの「幇助」という要件しか規定されていません。正犯の側に幇助されている認識が必要か否かは不明です。そうすると、幇助の場合には片面的幇助はありえます。
Ⅱウ
Ⅲウ
エ精神的幇助の場合は、正犯が幇助行為の存在を認識していなければ犯行が容易になったとはいえない。
→幇助を有形的・物理的幇助と精神的・心理的幇助に分けて、物理的幇助については片面的幇助を認め、心理的幇助についてはそれを否定する見解です。
Ⅲエ
オ共同正犯の場合には、各自が相互に利用・補充し合って実現した結果について共同責任を負うことになるが、幇助犯の場合には、正犯の刑を減軽してその処罰がなされ、幇助行為自体について責任を問われる。
→物理的幇助であれ、心理的幇助であれ、片面幇助犯が成立するのは、幇助行為それ自体につき責任が問われるからです。これに対して、物理的幇助に限って片面的幇助の成立を認めるのは、幇助は正犯に従属して成立すると解されるからです。しかし、そうであるならば、幇助犯には正犯の刑が科されるはずです。しかし、刑法62条では、幇助犯には正犯の刑が減軽されたものが科されます。これはつまり幇助には幇助の責任があるということ、幇助犯の責任は幇助行為自体に根拠があるということを意味します。
Ⅱオ
(1)Ⅰbウ (2)Ⅱaアオ (3)Ⅱaイウ (4)Ⅲaア (5)Ⅲbエ
→(2)
Nо.063 予備の共犯
 「甲は、乙から、丙殺害に使用するために毒物入手を依頼され、青酸ソーダを入手して乙に手渡した。しかし、乙は殺人計画を放棄した」という事例における甲の【罪責】について、学生AからDまでは、後記ⅠからⅣまでのいずれかの異なる結論をとり、次のとおり発言している。学生と甲の罪責の組合せとして正しいものは、後記1から5までのうちどれか。なお、みずから殺人罪を犯す目的をもつことは、刑法65条にいう「身分」にはあたらないものとする。
→みずから殺人罪を犯す目的で、その予備を行った者には、殺人予備罪(刑201)が成立します。甲は、丙を殺害するために、乙に毒物を入手するよう依頼し、乙はそれを入手し、甲に渡した。これによって甲は丙を殺害する準備をしました。甲の行為は殺人予備罪にあたります。乙はその準備を手助けしましたが、乙には丙を殺す目的はないので、乙の行為は殺人予備罪にはあたりません。
 殺人罪を犯す目的(刑201)は、殺人予備罪を構成する身分ではないという前提に立つと、乙は甲が殺人罪を犯す目的を持っていることを知りながら、殺人予備罪に加功しましたが、それには刑法65条1項を適用することはできません。殺人予備罪の共同正犯もその幇助犯も成立しません。
 ただし、乙は甲が殺人罪を犯す目的を持っていることを知りながら、それに協力しました。これに刑法62条を適用して、殺人予備罪の幇助犯の成立を認めることができるでしょうか。刑法62条は「正犯を幇助した」場合に成立しますが、殺人予備罪は「正犯」といえるのでしょうか。正犯とは、「犯罪の実行」(刑60、61)であり、「犯罪の実行の着手」(刑43)の「犯罪の実行」であるならば、犯罪の実行の着手以前の予備は、「正犯」ではないので、それへの幇助犯は成立しなくなります。


学生A 共同正犯とは、実行行為を共同することをいうとする点では皆同じだが、予備は実行の着手前の準備行為であるから、予備行為を基本的構成要件を実現する行為としての実行行為と考えることはできない。また、刑法第62条1項にいう「正犯」も、言葉の意味からすると、この実行行為をしたものをいうと考えるよ。
→犯罪を実行した者が正犯です。この犯罪の実行とは、刑法43条の未遂犯処罰規定の「犯罪の実行」と同じです。つまり、犯罪の実行とは既遂犯類型です。予備罪は、犯罪の実行以前の段階の行為なので、予備罪には犯罪の実行は観念しえません。予備罪の行為を実行行為と表現することはできません。正犯を犯罪を実行することと捉えると、幇助はこの正犯の幇助なので、犯罪の実行以前の予備罪を幇助することもありえません。
 学生Aは、予備罪の共同正犯も、予備罪の教唆犯も、予備罪の幇助犯も認めない見解に立っています。成立しうるのは、予備罪の単独正犯だけです。
AⅡ


学生B でも、予備行為も基本的構成要件の修正形式であるので、予備罪にも構成要件があり、その実行行為を観念することができるのではないか。
→学生Aは、犯罪の構成要件とは既遂犯の構成要件であって、その修正形式として未遂犯の構成要件を観念しうるだけだと解しています。殺人罪の基本構成要件は、殺人既遂罪の構成要件であり、殺人未遂罪の構成要件はその修正構成要件です。では殺人予備罪はどうでしょうか。殺人予備罪もまた基本構成要件の修正(修正の修正)と解することはできないでしょうか。学生Bは、そのように解しています。そうすると、殺人予備罪には構成要件の実行行為を観念しうるので、殺人予備罪の実行共同正犯やその教唆犯・幇助犯を観念することができます。
 そして、Cの発言にもあるように、Bは予備罪には自己予備だけでなく、他人予備も含まれていると解しています。乙だけでなく、甲にも予備罪を行うことはできるということです。そうすると、甲が乙のために行った殺人予備は共同正犯ということになります。
BⅠ


学生C たしかに、B君の言うとおり、予備行為に実行行為性は認められるが、予備行為は原則として自己の犯罪のためのものであり、通貨偽造準備罪のように他人のための準備行為も含まれるのは例外だと思うよ。
→殺人予備罪というのは、殺人罪を犯す目的でその予備を行うことですが、殺人罪を犯す目的を持っている乙が予備をした場合に成立します(自己予備)。甲は、乙が殺人罪を犯す目的を持っていることを知りながら、そのために予備をしましたが、それは殺人予備罪にはあたりません。学生Cは、このように解しています。しなしながら、甲は乙の殺人予備罪を手助けしたので、甲には殺人予備罪の幇助犯が成立します。
CⅢ


学生D 他人予備が予備罪にあたるかについては、B君ではなくC君に賛成する。
→学生Dは、他人予備は予備罪にはあたらないというCの見解に賛成しています。


学生A 共犯従属性説を前提としている点でも、実行行為のとらえ方についても、D君とは共通するが、他人予備が殺人予備罪の構成要件にあたるかについては、異なる立場を採るから、違う結論になるのだね。
→Aは、共犯従属性説を前提にしています。共犯は正犯の実行に従属して成立するという見解です。そして、実行行為について、Aは、基本構成要件を基準に実行行為を観念しているので、実行の着手以前の予備罪には構成要件や実行行為は観念できないと解しています。それはDと共通すると言っています。そうすると、甲が乙の殺人予備罪に関与しても、殺人予備罪の共同正犯も、幇助犯も成立しません。
 Dは、予備罪は自己予備であって、他人予備は含まれないというCの見解を支持しています。Aは、この見解について異なる立場をとっています。Aは、予備罪には他人予備も含まれるという趣旨だと思われます。だから、Aは甲には殺人予備罪の単独正犯が成立すると認定しているのです。これに対して、Dは予備罪は自己予備だけなので、Dには殺人予備罪の単独正犯は成立しません。
DⅣ


【罪責】
Ⅰ殺人予備罪の共同正犯 Ⅱ殺人予備罪の単独正犯 Ⅲ殺人予備罪の幇助犯 Ⅳ不可罰
(1)AⅢ-BⅠ (2)BⅡ-CⅢ (3)CⅠ-DⅣ (4)AⅡ-DⅣ (5)BⅠ-DⅡ
→正解(4)
Nо.064 共犯(1)
 共犯に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。


(1)甲が、乙に、Aからで住居侵入窃盗を教唆したところ、乙が間違えてB方に侵入し、窃盗をした場合、甲には、A方への住居侵入と窃盗の故意があるにすぎないため、甲に住居侵入窃盗罪の教唆犯は成立しない。
→この問題は、具体的事実の錯誤における方法の錯誤の問題を教唆犯に応用した問題です。
 具体的事実の錯誤には、行為者が例えば殺人罪を行おうとして、それを実行したのですが、そこにいる人がAだと思い殺害したところ、実はその人はBであったという「客体の錯誤」、そこにいつAを殺害しようとしたが、謝って隣にいたBを殺害した「方法の錯誤、Aを窒息死させようとしたところ、溺死させた「因果関係の錯誤」があります。いずれも、法定的符合説(構成要件的符合説)に立って、主観的に認識した殺人罪と客観的に行った殺人罪との間で構成要件の重なりがあるので、殺人罪の成立を認めることができます。
 これを教唆犯に応用すると、甲が乙を教唆して、A宅への侵入と窃盗を教唆したところ、YがB方へ侵入し、窃盗をしたという「方法の錯誤」の問題として検討することになります。主観的に認識したA方への住居侵入と窃盗の教唆と、客観的に行ったB宅への住居侵入と窃盗では、住居侵入と窃盗という構成要件の重なり合いが認められるので、甲にはB宅への住居侵入罪と窃盗罪の教唆の成立が認められます。
→誤り


(2)犯人が他人を教唆して、自己の刑事被告事件に関する証拠を偽造させたときには、刑法第104条の証拠偽造罪が成立する余地はない。
→刑事事件の証拠の隠滅や偽造は、証拠隠滅罪・証拠偽造罪として処罰されますが、行為客体の刑事事件の証拠は、他人の刑事事件の証拠に限られます。つまり、自己の刑事事件の証拠を隠滅・偽造しても、証拠隠滅罪の構成要件にが該当しません(被疑者に対して、証拠を保全するなどの適法な行為を行うよう期待することは不可能なので、自己の刑事事件の証拠の隠滅は処罰の対象から除外されています。また、被疑者には自己を防御する権利があるので、証拠の隠滅もその防御権の行使の一環として正当化されるので、自己の刑事事件の証拠の隠滅は処罰の対象から除外されています)。
 では、被疑者・Xが他人・Yを教唆して、自己の刑事被告事件に関する証拠を偽造させたとき、Yは証拠偽造罪の世犯ですが、Xはその教唆犯になるのでしょうか。被疑者には自己を防御する権利があるので、証拠の隠滅もその防御権の行使の一環として正当化されます。しかし、防御権を行使するために、他人・Yを巻き込むというのは防御権の濫用であると言われています。そのため、判例では、甲には証拠偽造罪の教唆犯が成立すると解されています。
→誤り


(3)(改正前の)強姦罪はその行為主体が男性に限られるから、女性には、男性と共謀してその犯罪行為に加功しても、強姦罪の共同正犯が成立する余地はない。
→旧規定の強姦罪は、実行行為が姦淫(男性の性器を女性の性器内に挿入する行為)と規定されていたため、その行為主体は男性に限定されていました。それは、刑法65条1項の強姦罪を構成する身分でした。これに身分のない女性が加功した場合、女性には65条1項を適用して、強姦罪の共同正犯が成立する余地があります。
→誤り


(4)12歳の少年を実行犯とした強盗事件において、首謀者には強盗の共謀共同正犯が成立する余地がある。
→12歳の少年は、刑事未成年者です。強盗罪の構成要件に該当する行為を故意に行っても、刑事未成年ゆえに刑事責任が認められず、無罪となります(刑41)。このような少年を実行犯として強盗を行わせた首謀者には、どのような罪が成立するのでしょうか。首謀者が、少年の自由な意思を完全に抑圧し、意のままに従う「道具」のように利用下という場合には、首謀者には強盗罪の間接正犯が成立します。しかし、首謀者が、少年を道具のように利用せず、少年もまた自らすすんで強盗に参加したような場合、少年は刑事未成年であっても、是非弁識の能力があり、いわゆる間接正犯の道具のように利用されていないので、首謀者に強盗罪の間接正犯の成立は認められません。では、強盗の教唆かというと、この強盗は首謀者自身の犯罪として行われているので、教唆にはあたりません。したがって、強盗の犯行計画などの過程を踏まえると、首謀者は強盗を共謀し、少年にそれを実行させたとして、強盗罪の共謀共同正犯が成立するといえます。
→正しい


(5)暴力団の組長を警護するために、警護のものが不法にけん銃を所持していた場合、組長自身がけん銃を携帯しているように指示したときでなければ、組長にけん銃の所持について、警護の者との間に共謀共同正犯が成立することはない。
→これは、いわゆるスワット事件の事案です。最高裁は、組長にけん銃の不法所持の共謀共同正犯の成立を認めました。ぞれまでは、共謀共同正犯の成立要件については、いわゆる練馬事件の判例が定式化していました。暴行罪などの犯罪について、複数の人が事前に共謀の明示的で、しかも客観的な謀議行為が必要であるとされていました。事前共謀、明示的な共謀、客観的な謀議行為の要件が共謀共同正犯の成立する範囲を限定する重要な役割をはたしていました。
 しかし、スワット事件では、組長は警護にあたるスワットに対して、けん銃を所持しておくことを、事前に共謀したわけではありませんし、明示的にそれを指示したわけではありません。客観的な謀議行為が行われたわけではありません。しかし、暴力団組織の特徴として、上下関係、支配従属関係、指揮命令系統があり、組長が事前に、明示的に、客観的な行為によってけん銃の所持を共謀を行う必要はありません。このような特殊的な事情に鑑みると、練馬事件のような厳格な要件を当てはめなくても、共謀の事実を認定することができると考えることもできます。事前の共謀ではなく現場での共謀、明示的な共謀ではなく黙示的な共謀、客観的な謀議行為ではなく主観的な意思連絡で足りると判断されています。
→誤り




Nо.065 共犯(2)
 次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し、正しいものを2個選びなさい。
(1)甲と乙は、A宅に侵入し金品を強取する計画を立て、乙がナイフでAを脅している間に、甲が別室で金銭を奪った。この時、乙はAの態度に憤慨し、Aを刺殺した。甲にはAの死につき故意も過失もなかった。判例によれば、甲には強盗致死罪の共同正犯は成立しない。
→強盗致死罪・強盗致死傷罪は、結果的加重犯の一例です。結果的加重犯とは、基本犯である強盗罪を故意に行い、そこから被害者の死傷結果を発生させた場合に成立します。基本犯である強盗罪と死傷との間に因果関係が認められれば、強盗致死罪・強盗致傷罪が成立します。
 死傷結果につき、予見可能性があるものに限って強盗致死傷罪の成立を認めるべきだとする学説の主張もあるが、判例は致傷結果につき予見可能性は不要であるといいます。なお、致死傷の結果は、強盗罪の手段行為である暴行から発生したものに限るとする立場もあるが(手段説)、強盗の機会において、またその継続中に行われた暴行(それは財物の強取の手段として行われた行為ではない)から生じた場合でも(機会説)、強盗致死傷罪の成立は認められます。
 甲と乙がA方への侵入と強盗を共謀し、A方への侵入後、乙がナイフでおどし、甲が別室で金銭を強取した時点において強盗罪は既遂に達しています。乙がAを刺殺したのは、Aの態度に憤慨したからであって、強盗罪とは無関係であるともいえますが、それは強盗の機会に行われているので、甲に故意も過失もなくても、強盗につき共同実行の意思がある以上、強盗致傷罪が成立します。
→誤り。甲には強盗致死罪の共同正犯が成立します。
(2)A罪と必要的共犯の関係にある行為について、その行為を処罰する規定がない場合、これをA罪の教唆犯または幇助犯として処罰することは原則として認められない。
→必要的共犯というのは、犯罪の成立上、相手方の犯罪行為が成立の前提条件であるものをいいます。例えば、贈賄罪と収賄罪、公選法上の事前利益供与罪と受供与罪がそれです。また刑法上の重婚罪もまた必要的共犯です。既婚者が重ねて婚姻するためには、相手方(既婚・未婚を問わない)の婚姻の行為が必要です。これらは、いずれの側も同じように処罰されます。
 これに対して、必要的共犯であっても、相手方の行為が処罰されないものがあります。A罪と必要的共犯の関係にある行為で、処罰する規定がない行為というのは、例えばXが友人Yに殺人を嘱託し、その嘱託を受けたYがXを殺そうとしたが、殺すに至らなかった場合、Yは嘱託殺人未遂罪の正犯ですが、殺人未遂の嘱託を処罰する規定はありません。また、わいせつ文書頒布罪はわいせつ文書を特定の人に渡したことで成立しますが、それを受け取る行為を処罰する規定はありません。XがYにわいせつ文書を頒布するよう教唆して、頒布させ、受け取った場合、Yはわいせつ文書頒布罪の正犯が成立しますが、Xのわいせつ文書受け取りを処罰する規定はありません。このような場合、Xを嘱託殺人未遂の教唆として処罰できるでしょうか。また、Xをわいせつ文書頒布罪の教唆として処罰できるでしょうか。
 形式論理的には教唆の規定を適用して、処罰することもできそうですが、法律がそのような行為を処罰する規定を設けなかった実質的な根拠を踏まえて考えなければなりません。Xは嘱託殺人未遂の直接の被害者です。また、わいせつ文書頒布罪によって侵害される社会法益(健全な性的道義観念)の側にいる人です。それもまた被害の側にいます。被害の側にいる人を、加害の教唆犯として、加害の側に追いやることは、刑法の趣旨に反すると思います。刑法がそのような行為を処罰する規定を設けなかったこのような根拠を踏まえて考えるならば、原則的に教唆犯や幇助犯の成立を認めるべきではありません。
→正しい。
(3)甲は、乙ほか3名と共謀のうえ、乙らがA宅から金品を窃取するに際して、A宅まで案内したうえで、玄関前で見張りをした。甲が見張りをしている間に乙らはA宅から金品を窃取した。この場合、甲に窃盗罪の共同正犯は成立しえず、窃盗罪の幇助犯が成立しうるにとどまる。
→窃盗の現場で玄関において見張りをする行為は、窃盗罪の構成要件、すなわち財物の窃取には直接該当しない行為です。したがって、見張りをした者には窃盗罪の共同正犯は成立しないと言えそうです。しかし、実際の窃盗罪というのは複雑であり、実行犯を現場まで運ぶ係、玄関で見張りをする係、実際に財物を窃取する係など様々な分担行為によって行われることがあります。財物の窃取以外の行為であっても、それは窃盗罪の構成要件に近接した行為であり、財物の窃取を行うために非常に重要な役割を担っている行為です。このような行為を行った者にも、窃盗罪の共同正犯が成立します。
→誤り。
(4)賭け麻雀の常習者である甲は、常習者でない乙に対して、賭け麻雀をするよう唆して、これによってその気になった乙が賭け麻雀を行った。この場合、甲には単純賭博罪の教唆が成立する。
→常習賭博罪における常習性は、単純賭博罪の刑を加重する加重的身分です。賭博の常習者・甲が非常習者・乙をそそのかして賭博を行わせた場合、乙には単純賭博罪の正犯が成立します。甲には、刑法65条2項が適用され、常習賭博罪の教唆が成立するというのが判例の立場です。ただし、65条2項は、身分のない者には「通常の刑を科す」と定めているだけで、身分のある者には「加重・減軽された刑を科す」とは定めてないので、この点の解釈適用の問題があります。
→誤り。
(5)刑法第65条の「身分」とは、男女の性別、内外国人の別、親族の関係、公務員たる資格のような関係のみならず、すべて一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位または状態をいうから、麻薬輸入罪における「営利の目的」もまた身分にあたる。
→X、Y、Zの3人が麻薬輸入罪を共同して実行しました。Xには営利目的がありましたが、Y・Zには営利目的はありませんでした。ただし、Y・ZはXが営利目的を持っていることを知っていました。「営利目的」とは、不当に利益を得る目的ですが、それは自分が得るだけでなく、他人に得させる場合も含まれます。Y・Zには、Xが営利目的を持っていることを知っていましたが、Xに不当に利益を得させようという認識はありませんでした。そのような場合、Y・Zには営利目的は認められません。Xには営利目的麻薬輸入罪が成立し、Y・Zには刑法65条2項が適用されて、単純麻薬輸入罪が成立します。3人の行為は共同正犯にあたります。
→正しい。