監禁中の暴行により被害者が死亡した場合の監禁致死罪の成否
【事実の概要】
被告人AとBは、次男Cが保存用の食べ物や他の子どものお菓子を勝手に食べ、また食用油や小麦粉を部屋にまき散らすなどの行動を繰り返したことから、平成24年12月下旬頃から平成25年3月3日頃までの間、A・B方の居室内において、断続的にCをラビットゲージ(縦40㎝、横57㎝、高さ46㎝、内側高さ42~43㎝)内に入れ、出入口をふさぐなどして、脱出不可能にした(監禁行為)。さらに、3月3日午前2時頃、Cがゲージ内で繰り返し大声を上げたことから、これを制止するために、AがCにタオルをくわえさせ、その両端を後頭部付近で結び(結束行為)、前同様にゲージ内に入れた。翌朝、Cはゲージ内で死亡しているのを発見された。
裁判所は、医師の証言からCの死因は遷延性窒息であり、監禁行為と結束行為とがあいまって死亡結果が生じたとして因果関係を認め、またA・Bによる監禁行為は、Cが食べ物をまき散らすなど繰り返したため、家族の生活が妨げられるのを制御するために行ったのであり、またAによる結束行為は、就寝後にCが繰り返し大声を上げたため、家族が起こされて生活が妨げられるのを防ぐためあり、2つの行為の目的は同様のものであったとして、次のように判断して、A・Bに監禁致死罪の成立を認めた。
[東京地判平成28・3・11判タ1437号246頁(有罪・確定)]
【争点】
監禁中の暴行により被害者が死亡した場合の監禁致死罪の成否。
【裁判所の判断】
これらの行動の目的及び態様に照らせば、AがCにタオルをくわえさせて両端を後頭部で結んだことは、被告人両名及びその家族にとって生活上の障害となるCの行動を制限するという監禁の目的を達成するために、その延長上でこれに随伴して行われたものであり、被告人両名が共謀した監禁行為の一環としてこれに含まれると評価され、別個の行為とはいえない。そこで、……A及びBの両名について監禁致死罪が成立する。
【解説】
監禁致死傷罪とは、故意に監禁行為(基本犯)を行い、そこから死傷(加重結果)が発生した場合に成立する結果的加重犯である(刑221条)。判例は、監禁行為と死傷との間に因果関係があれば成立を認めるが、学説は責任主義の徹底を図るため、加重結果につき予見可能性を求める。
死傷が、監禁行為から生じた場合、監禁致死傷罪が成立するのは明らかである。これに対して、監禁中の被害者に暴行を加えて死傷させた場合、その暴行が監禁とは別個の行為であるなら、監禁罪とは別に傷害罪または傷害致死罪が成立する。ただし、暴行が監禁とは別の行為であるか否かの判断は容易ではない。自動車内に被害者を監禁し、暴行を加えて傷害を負わせた行為につき、暴行は被害者の態度に憤激してなされたもので、監禁の目的やその継続とは無関係であるとして、監禁罪と傷害罪の併合罪を認めた事案(最判昭42・12・21判時506号59頁)もあるが、被害者に麻酔薬を投与して監禁し、その妹の所在を聞き出すために更に麻酔薬を投与して死亡させた行為につき、更なる麻酔薬の投与も監禁の継続と無関係とはいえず、一連の麻酔薬の投与は監禁の継続の手段として行われたとして、監禁致死罪の成立を認めた事案(東京高判平16・5・28判タ1170号303頁)もある。監禁の被害者に対する暴行が監禁の継続行為であるか否かについて、実務ではその暴行の態様と目的に基づいて判断されている。
本件においては、A・Bが共謀してCをゲージに閉じ込めた監禁行為は、Cが食用油や小麦粉を部屋にまき散らすなどして、A・Bとその家族の生活上の障害となったため、その行動を制御する目的で行われたものであり、AがCにタオルをくわえさせた結束行為は、Cが就寝後に声を上げたため、家族が起こされるのを防ぐ目的で行われたものであった。監禁行為と結束行為は、それぞれ行為態様は異なるが、家族の生活上の妨げを防ぐという同様の目的があったことを理由に、結束行為は監禁の目的を達成するために、それに随伴して延長上に行われたものであったと認定されている。
しかし、監禁行為は移動の制限のために行われ、結束行為は発声の制限のために行われたものであって、その態様の外形も、侵害された法益の内容も異なる。「家族の生活の妨げを防ぐ」という目的の一般的な共通性を根拠にして、Aの結束行為がA・Bが共謀した監禁の目的を達成するために行われたと言えるかは疑問である。たとえそうであったとしても、結束行為が「被告人両名が共謀した監禁行為の一環」としてそれに含まれると言えるかも疑問である。Cの死亡は監禁行為からではなく、それと結束行為とがあいまって発生したのであるから、結束行為はAの側からは監禁行為の一環であったと言うことができても、監禁行為にしか共謀していなかったBには、それは当てはまらない。Aが監禁の目的を達成するために結束行為に出ることをBが予見していなければ、結束行為は「被告人両名が共謀した監禁行為の一環」であったとは言えないように思われる。
【事実の概要】
被告人AとBは、次男Cが保存用の食べ物や他の子どものお菓子を勝手に食べ、また食用油や小麦粉を部屋にまき散らすなどの行動を繰り返したことから、平成24年12月下旬頃から平成25年3月3日頃までの間、A・B方の居室内において、断続的にCをラビットゲージ(縦40㎝、横57㎝、高さ46㎝、内側高さ42~43㎝)内に入れ、出入口をふさぐなどして、脱出不可能にした(監禁行為)。さらに、3月3日午前2時頃、Cがゲージ内で繰り返し大声を上げたことから、これを制止するために、AがCにタオルをくわえさせ、その両端を後頭部付近で結び(結束行為)、前同様にゲージ内に入れた。翌朝、Cはゲージ内で死亡しているのを発見された。
裁判所は、医師の証言からCの死因は遷延性窒息であり、監禁行為と結束行為とがあいまって死亡結果が生じたとして因果関係を認め、またA・Bによる監禁行為は、Cが食べ物をまき散らすなど繰り返したため、家族の生活が妨げられるのを制御するために行ったのであり、またAによる結束行為は、就寝後にCが繰り返し大声を上げたため、家族が起こされて生活が妨げられるのを防ぐためあり、2つの行為の目的は同様のものであったとして、次のように判断して、A・Bに監禁致死罪の成立を認めた。
[東京地判平成28・3・11判タ1437号246頁(有罪・確定)]
【争点】
監禁中の暴行により被害者が死亡した場合の監禁致死罪の成否。
【裁判所の判断】
これらの行動の目的及び態様に照らせば、AがCにタオルをくわえさせて両端を後頭部で結んだことは、被告人両名及びその家族にとって生活上の障害となるCの行動を制限するという監禁の目的を達成するために、その延長上でこれに随伴して行われたものであり、被告人両名が共謀した監禁行為の一環としてこれに含まれると評価され、別個の行為とはいえない。そこで、……A及びBの両名について監禁致死罪が成立する。
【解説】
監禁致死傷罪とは、故意に監禁行為(基本犯)を行い、そこから死傷(加重結果)が発生した場合に成立する結果的加重犯である(刑221条)。判例は、監禁行為と死傷との間に因果関係があれば成立を認めるが、学説は責任主義の徹底を図るため、加重結果につき予見可能性を求める。
死傷が、監禁行為から生じた場合、監禁致死傷罪が成立するのは明らかである。これに対して、監禁中の被害者に暴行を加えて死傷させた場合、その暴行が監禁とは別個の行為であるなら、監禁罪とは別に傷害罪または傷害致死罪が成立する。ただし、暴行が監禁とは別の行為であるか否かの判断は容易ではない。自動車内に被害者を監禁し、暴行を加えて傷害を負わせた行為につき、暴行は被害者の態度に憤激してなされたもので、監禁の目的やその継続とは無関係であるとして、監禁罪と傷害罪の併合罪を認めた事案(最判昭42・12・21判時506号59頁)もあるが、被害者に麻酔薬を投与して監禁し、その妹の所在を聞き出すために更に麻酔薬を投与して死亡させた行為につき、更なる麻酔薬の投与も監禁の継続と無関係とはいえず、一連の麻酔薬の投与は監禁の継続の手段として行われたとして、監禁致死罪の成立を認めた事案(東京高判平16・5・28判タ1170号303頁)もある。監禁の被害者に対する暴行が監禁の継続行為であるか否かについて、実務ではその暴行の態様と目的に基づいて判断されている。
本件においては、A・Bが共謀してCをゲージに閉じ込めた監禁行為は、Cが食用油や小麦粉を部屋にまき散らすなどして、A・Bとその家族の生活上の障害となったため、その行動を制御する目的で行われたものであり、AがCにタオルをくわえさせた結束行為は、Cが就寝後に声を上げたため、家族が起こされるのを防ぐ目的で行われたものであった。監禁行為と結束行為は、それぞれ行為態様は異なるが、家族の生活上の妨げを防ぐという同様の目的があったことを理由に、結束行為は監禁の目的を達成するために、それに随伴して延長上に行われたものであったと認定されている。
しかし、監禁行為は移動の制限のために行われ、結束行為は発声の制限のために行われたものであって、その態様の外形も、侵害された法益の内容も異なる。「家族の生活の妨げを防ぐ」という目的の一般的な共通性を根拠にして、Aの結束行為がA・Bが共謀した監禁の目的を達成するために行われたと言えるかは疑問である。たとえそうであったとしても、結束行為が「被告人両名が共謀した監禁行為の一環」としてそれに含まれると言えるかも疑問である。Cの死亡は監禁行為からではなく、それと結束行為とがあいまって発生したのであるから、結束行為はAの側からは監禁行為の一環であったと言うことができても、監禁行為にしか共謀していなかったBには、それは当てはまらない。Aが監禁の目的を達成するために結束行為に出ることをBが予見していなければ、結束行為は「被告人両名が共謀した監禁行為の一環」であったとは言えないように思われる。