刑法Ⅱ(各論) 個人的法益に対する罪――財産犯
第09週 盗品関与罪・毀棄罪・隠匿罪
(1)盗品等に関する罪
1盗品関与罪の規定
盗品等に関与する罪とは、
窃盗罪などによって奪われた財物を
被害者が奪い返すのを妨げる行為です。
窃盗罪などの財産犯の被害者には、盗まれた財物を追求し、
それを奪い返す権利があります。
これを、追求権と言います。
盗品等に関与する罪は、
窃盗罪などを行い財物を奪った本犯(ほんぱん)の行為に対して、
その後に関与し、被害者の追求権を侵害するという犯罪です。
しかも、
本犯を事後的に助けるという従犯的(じゅうはんてき)性質と、
本犯を事前に助長し、促進する性質があります。
事後従犯性と事前助長性については後に説明します。
2盗品関与罪の罪質
盗品等に関する犯罪を処罰することによって、
保護される法益は、先ほども言いましたように、
被害者の追求権です。
窃盗罪などの被害者には、自分の財物を奪い返す権利があります。
この権利は、窃盗などの本犯行為者によって侵害されていますが、
盗品関与罪の行為者は、本犯に事後的に関与することによって、
窃盗の被害者の追求権を侵害するということができます。
ただし、追求権だけが保護法益であると捉えると、
説明できない問題が出てきます。
例えば、盗品等無償譲受(むしょうじょうじゅ)と盗品等有償譲受(ゆうしょうじょうじゅ)
この2つの行為を比べてみましょう。
この2つの行為は、窃盗罪などの本犯の後に、被害者の追求権を侵害する点では同じです。
法益侵害性が同じということは、その違法性の重さは同じはずです。
しかも、その行為を行う意思があった点についても同じなので、
その責任の重さも同じはずです。
しかし、無償譲受と有償譲受の法定刑を見ると、違いがあり、格差があります。
あとで条文を見ますが、無償譲受の法定刑は、3年以下の懲役です。
有償譲受の法定刑は、10年以下の懲役 および 50万円以下の罰金です。
2つの罪の法定刑に差があるということは、
有償譲受の違法性と責任の方が、無償譲受の違法性と責任よりも重いからです。
追求権が盗品関与罪の保護法益だと理解していると、
この点について説明することができなくなります。
重傷譲受には、追求権とは別の保護法益があると考えざるをえません。
しかも、有償譲受の法定刑は、窃盗、詐欺、恐喝などの本犯の法定刑と比べて重く、
10年以下の懲役刑と50万円以下の罰金刑科される点にも着目しなければなりません。
これを併科刑主義(へいかけいしゅぎ)と言いますが、
有償譲受罪は、本犯よりも重い犯罪だということを意味します。
つまり、有償譲受の違法性と責任は、
窃盗罪などの本犯の違法性と責任よりも重いということです。
このように重傷譲受は、無償譲受はもとより、窃盗罪などの本犯よりも、
法益侵害性が高く、その違法性と責任が重いので、その法定刑も重くされています。
なぜ、有償譲受は、無償譲受よりも、また窃盗罪などの本犯よりも重いのでしょうか。
思うに、有償譲受罪には、
窃盗罪などの本犯の被害者の追求権を侵害するという側面だけでなく、
本犯に対する事後的な従犯的性格と、
本犯に対する事前の助長・促進する性質(本犯助長性)があるからです。
盗品を有償で買った人は、それによって窃盗罪などの本犯の証拠物を買ったことになり、
窃盗罪の本犯行為者からすれば、罪跡を隠してくれるので、
事後従犯的な性質があるといえます。
そして、さらに本犯行為者からすれば、
盗品を有償で買い取ってくれる人がいるということは、
窃盗を行おうという気持ちにさせるということを意味します。
このように理解するならば、
有償譲受は、本犯の被害者の追求権を侵害するという点においては、
無償譲受と同じですが、
本犯に対する事前的助長性と事後的従犯性があるので、
無償授受よりも重いといえます。
しかも、それが本犯行為よりも重いとと堪えられているので、
窃盗罪などの本犯よりも刑が重く、
懲役刑と罰金刑の併科刑主義が採用されているのだと思います。
(2)盗品関与罪
では、盗品関与罪の成立要件について検討します。
まずは、条文を見ましょう。
第256条 第1項です。
盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を
無償で譲り受けた者は、3年以下の懲役に処する。
次に第2項です。
前項に規定する物を運搬し、
保管し、
若しくは有償で譲り受け、
又はその有償の処分のあっせんをした者は、
10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処する。
盗品関与罪の条文は、以上のとおりです。
1行為主体
まず、盗品関与罪の行為主体の特徴について見ておきます。
盗品関与罪の行為は、後に検討しますが、
盗品を譲り受けるなどの行為です。
盗品を譲り受ける人がいるということは、
盗品を譲り渡す人がいるということです。
その2人は同じ人ではありません。それは別の人です。
つまり、盗品関与罪の行為主体は
財産犯に該当する行為を行った本犯行為者とは別の人です。
自ら窃盗を行い、その盗品を運搬したり保管しても、
そのように窃盗罪の後に行われた行為(事後行為)は、
窃盗罪の量刑事情として考慮されることはあっても、
窃盗罪とは別に盗品運搬罪や盗品保管罪が成立しません。
それは、窃盗罪の不可罰的事後行為ないし共罰的事後行為です。
では、次のような場合を考えてみましょう。
窃盗罪の本犯行為者Xが、Yに対して一緒に盗品を運んで欲しいと依頼し、
YはXと共同して盗品を運搬しました。
このような場合、Xは盗品運搬罪の行為主体にはなりえませんが、
Yは盗品運搬罪の行為主体なので、Yには盗品運搬罪が成立します。
XがA宅に侵入し強盗すること計画していたところ、
YがXにA宅の図面など示し、侵入経路や逃走方法などを教えました。
Xはそれに基づいてA宅への住居侵入と強盗既遂罪を実行しました。
その後、YはXが強取した盗品が欲しくなり、それを有償で買い受けました。
Yには住居侵入罪と強盗既遂罪の幇助犯が成立することは明らかですが、
盗品有償譲受罪が成立するでしょうか。
判例では、盗品有償譲受罪の成立が認められています。
Yが盗品を有償で譲受することは、事後従犯的な性質がありますが、
それは事前の幇助犯とは異なるものだと解するならば、
判例の立場も一応納得できるものでしょう。
2客体
盗品関与罪の行為客体は
盗品
その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物
です。
このことから、財産上の利益は客体から除外されます。
不動産については、物という文言の解釈によりますが、
窃盗罪や強盗罪の被害物である財物からは除外されますが、
財物詐欺罪、財物恐喝罪、横領罪の行為客体の財物や物には
不動産も含まれると解釈されているので、
不動産も盗品関与罪の客体に含まれると解釈することもできます。
3行為
盗品関与罪の行為は以下の通りです。
まずは、盗品の無償の譲り受けです。
盗品を無償で譲り受け、それを取得すること、占有することです(贈与)
無利息による消費貸借のように譲り受けに至らなくても、
無償の譲り受けにあたると解されています。
譲り受けというのは、必ずしも所有権を取得するような意味ではなく、
占有の移転と取得という意味において理解されています。
次の盗品の運搬です。
これは、盗品の所在を移転させることを意味します。有償・無償を問いません。
本犯の行為者から運搬の依頼があったことを要します。
運搬によって被害者の追求権が侵害される限り、
被害者の家に盗品を運搬した場合であっても、運搬罪が成立する余地はあります。
盗品を船などに積んだが、その船に同乗しなくても、運搬罪にあたります。
保管についてが、
盗品の保管とは、委託を受けて盗品を管理することです。これも有償・無償を問いません。
保管するという約束するだけでは、追求権の侵害に至っていないので、
保管罪は成立しません。
したがって、盗品の占有が保管者に移転し、実際に保管することが必要です。
有償の譲り受けについてですが、
盗品の交付を有償で受けることです。
一般的には譲り受ける人が金銭を支払って、買う取る場合が多いですが、
債権者が債務者から、債務の弁済として盗品を譲り受ける場合も
有償の譲り受けにあたります。
譲り受ける約束だけでは、追求権の侵害には至っていないので、
有償の譲り受けにはあたりません。
盗品の占有が本犯行為者から移転することが必要です。
最後に有償処分のあっせんについてです。
本犯行為者から依頼を受けて、
盗品の売買、質入れ、有償による交換など有償の処分を仲介することです。
仲介したことへ謝礼が払われること(有償)は要件ではありません。
あっせんの意味ですが、
「盗品を買い受けするよう働きかけること」と理解すれば、
相手方が買い受けの意思を表示していなくても、
被害者の追求権が危険にさらされているので、
有償処分のあっせんにあたると解されます。
では、被害者に対して、盗品を有償で買い戻すよう働きかけた行為は
どうでしょうか。それによって追求権の侵害は認められるでしょうか。
財産犯の被害者には、盗品を無償で取り戻す権利があります。
それが追求権です。
被害者が自分の物を有償で買い戻すというのは、
追求権の正常な行使を困難にしているので、
被害者に盗品を買い戻すように働き掛けた行為は、
盗品の有償処分のあっせんにあたります。
4故意
盗品関与は、いずれも故意犯です。
上記の盗品関与の行為を行う時点において、
その財物が盗品であることの認識が必要です。
ただし、財物には「盗品」であることの表示はありませんので、
盗品関与罪の場合、「もしかしたら盗品かもしれない」という
未必の故意が問題になることが多いです。
では、次のような場合を考えてみます。
YはXから物の保管を依頼され、Yはそれを保管しました。
Yはそれが盗品であることを知りません。
この保管行為は、客観的に盗品保管罪の構成要件該当の違法行為ですが、
盗品である認識がないので、故意は成立しません。
しかし、その後、保管中に盗品であることを知り、
Xが取りに来るまで保管を続けました。
このような場合、判例によれば、
盗品であることを認識した時点から盗品保管罪の故意が認められ、
盗品保管罪が成立すると解されています。
盗品保管罪は行為は、継続犯としての性質を持っています。
保管行為を開始してから、その保管行為を終えるまでのあいだ、
保管行為が継続的に実行されるということです。
継続犯の典型には監禁罪があります。
監禁行為によって被害者の移動の自由を侵害し、
被害者を解放するまでのあいだ、
監禁行為が継続しています。
盗品の保管行為も同じように理解するならば、
保管行為が継続している途中で、
盗品であることことを認識した時点から
盗品保管罪が成立します。
(3)親族間の盗品関与罪の特例
盗品保管罪が親族のあいだで行われた場合、その刑が免除されます。
257条は、親族等の間の犯罪に関する特例を定めています。
第257条の第1項
配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で
前条(つまり盗品関与)の罪を犯した者は、その刑を免除する。
第2項は
前項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
1判例の趣旨
すでに解説しましたが、
財産犯が親族の間で行われた場合、刑を免除したり、
親告罪として扱ったりする規定があります。
刑法244条は、窃盗罪や不動産侵奪罪に関して
親族間の犯罪に関する特例を定めています。
刑法255条は、横領罪、業務上横領罪、遺失物横領罪に対して
244条の規定を準用することを定めています。
盗品関与罪にも親族間の特例が設けられています。
しかし、それは盗品関与罪に刑法244条の規定を準用するのではなく、
刑法257条という規定を設けて、それを適用します。
法律効果も刑の免除だけで、親告罪化はありません。
2親族関係の範囲
親族関係は、誰と誰の間にあることが必要あのでしょうか。
配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間
と規定されていますが、
盗品関与罪の行為者と窃盗罪などの本犯の行為者との間の親族関係であるだけでなく
窃盗罪などの被害者との間にも親族関係があることが必要です。
このように盗品関与者、本犯行為者、被害者の3者間における親族関係によって
政策的に刑が免除されると解されます。
なぜ、そのような政策をとるのかというと、
法は家庭に入らずという考えに基づいて、
盗品関与者に親族関係という一身的な属性があることを理由に
盗品関与者に対する刑罰を阻却するのがよいと考えられるからです。
盗品関与罪それ自体は成立していますが、刑罰だけ阻却するということです。
(4)盗品関与罪の特殊問題
盗品関与罪の行為客体は、
盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物
と定められています。
この「財産に対する罪に当たる行為」とは、どのような意味でしょうか。
財産犯のうち財物罪(既遂)によって領得された物なので、
利益強盗罪などによって得られた「利益」は含まれません。
では、財産に対する罪ではない犯罪行為によって得られた物は
どうなるのでしょうか>
収賄罪、賭博罪、密漁違反罪などによって得られた物などを
保管するなどした場合、それは盗品保管罪などにあたるのでしょうか。
収賄罪などは財産に対する罪ではないので、
それによって得られた金銭などをを保管などしても、
盗品保管罪などにはあたりません。
次に、刑事未成年者からの盗品の有償譲り受けについて考えてみます。
「財産に対する罪に当たる行為」とは、
財産犯のうちでも、財物罪にあたる行為であることは明らかですが、
窃盗罪などの財産犯の成立要件の全てを満たしていることが必要でしょうか。
例えば、14才未満の刑事未成年者XがAから物を窃取した場合、
Xの行為は、窃盗罪の構成要件に該当する違法な行為ですが、
刑事未成年ゆえに責任能力がなく、無罪になります。
この物を成人Yが買い取った場合、盗品有償譲受罪が成立するでしょうか。
「財産に対する罪に当たる行為」の要件として、
窃盗罪などの財産犯の成立要件の全てを満たしていることが必要だと解するならば、
Yには盗品有償譲受罪は成立しなくなります。
しかし、YはXから買い受けることによって、被害者Aの追求権を侵害しています。
したがって、刑事未成年者が窃取した財物であっても、
その行為が窃盗罪の構成要件に該当する違法な行為であり、
有責性が認められなくても、
それを有償で買い受けた場合には盗品有償譲受罪が成立すると解すべきです。
さらに、第3者による善意・無過失による盗品の取得についてです。
第3者が、盗品とは知らずに(善意・無過失)、平穏・公然と盗品を取得しました。
民法192条には「即時取得の制度」があります。
それによると、第3者は盗品の所有権を取得し、被害者は所有権を失います。
被害者が所有権を失うということは、追求権を失うことをも意味します。
盗品関与罪の行為客体は、財産犯の被害者の追求権が及んでいる物に限られるので、
第3者が取得した物は、盗品関与罪の行為客体から除外されることになります。
最後に、盗品の同一性と代替性について検討します。
XがA宅に侵入し、Aの金の延べ棒を盗み、
それを金の仏像に作りかえて、
事情を知るYに廃却したとします。
この金の仏像は、金の延べ棒とは形状が異なります。
形状が異なることを理由に、
金の仏像には盗品である金の延べ棒との同一性がなくなるなら、
金の仏像は、盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物
ではないといえます。
また、XがA宅に侵入し、Aの商品券やビール券などを盗み、
それをチケットショップで現金に換えて、
事情を知るYに渡して、債務を弁済したとします。
この現金は、商品権やビール券とは形状が異なりますが、
有価証券としての性質は共通しています。
有価証券に代替できる性質がある以上、
現金には盗品である商品権とビール券との同一性があるので、
現金は、盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物
であるといえます。
XがAの家から婦人用自転車を盗み、そのサドルとタイヤを外し、
男子用自転車に取り付け、
それを事情を知るYに売ったとします。
Yが購入した男子用自転車は、Aの婦人用自転車とは異なります。
ただし、Aの自転車のサドルとタイヤが取り付けられています。
このYの男子用自転車には、Aの婦人用自転車との同一性があるでしょうか。
同一性があるなら、Yには盗品有償譲受罪が成立します。
同一性がないなら、Yには盗品有償譲受罪は成立しません。
男子用自転車に取り付けられたサドルとタイヤを取り外すのは、
工具を用いれば、多少の時間をかけて行えますので、
困難なことではありません。
そうであるなら、Yの男子用自転車に
Aの婦人用自転車のサドルとタイヤが取り付けられていても、
それを用意に取り外せる以上、
そのサドルとタイヤの盗品としての同一性は失われていません。
Yには盗品有償譲受罪が成立します。
(1)毀棄罪および隠匿罪
毀棄罪と隠匿罪には、財産に対する罪としての性質があります。
窃盗罪などのような、財物を自己のものにする領得罪とは異なりますが、
財産そのものを破棄したり、
財物の効用を毀損することによって、
権利者が、それを経済的用法に従って使用・処分することができなくなるので、
財産犯としての性質を有しています。
1毀棄および隠匿の罪
まずは毀棄罪についてです。
毀棄罪には、
公用文書・私用文書の毀棄罪
建造物・器物の損壊罪
の2種類があります。
他人の文書・建造物・器物などの
財物の効用を害し、その利用を妨げる行為です。
他人の財物を領得する行為とは異なり、
その効用を侵害する点に特徴があります。
他人の物を物理的に損壊することによって、
その物の効用を害し、利用を妨げるのが典型ですが、
ただし、物の性質によっては、
物理的に損壊しなくても、効用を侵害できるものもあります。
食器などにたんやつばをはいたり、放尿した場合、
食器は物理的な損壊を受けていませんが、
心理的に食器として利用することは困難になります。
次に隠匿罪ですが、
物を隠すと、それを利用することができなくなります。
隠匿もまた、効用を侵害する行為であり、
毀棄の一形態であると理解することができます。
通説と判例の立場がそうです。
ただし、隠匿罪は、信書を隠匿した場合に成立するだけです。
行為客体が限定されています。
2公用文書毀棄罪
まずは刑法258条の公用文書毀棄罪についてです。
公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、
3月以上7年以下の懲役に処する。
と定めています。
行為客体は、
公務所の用に供する文書・電磁的記録です。
公務員が作成した公文書はもちろん、
公務所の用に供されている文書であれば、
私人が作成した私文書もまた公用文書に含まれます。
完成された公用文書はもちろん、未完成な公用文書であっても、
文書としての意味内容を備えていれば足ります。
行為は
毀棄、破棄、汚損、貼付の印紙の剥離など
公用文書としての効用を害する行為です。
3私用文書毀棄罪
次に259条の私用文書毀棄罪です。
権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、
5年以下の懲役に処する。
行為客体は
公務所の用に供していない文書です。
それが公文書であっても、公務所の用に供されていなければ、
私用文書にあたります。
権利・義務の存否、得喪、変更、消滅などを証明するための文書が
私文書です。
4建造物損壊罪・同致死傷罪
さらに、刑法260条の建造物損壊罪・同致死傷罪です。
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。
よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
行為客体は、
家屋その他の建造物です。
建造物とは、土地に定着し、壁・柱・屋根を有し、
人の出入り可能な構造物です。
行為者・被害者の間に建造物の所有権をめぐる争いがある場合
建造物が「他人の建造物」であるか否かは
最終的には民事裁判で決着がつけられねばなりません。
その決着前に損壊した場合、民事裁判において、
その建造物に対する他人の所有権が否定される可能性がない限り、
その建造物は他人の建造物であるので、本罪が成立することは明らかです。
ただし、「他人の所有権が否定される可能性がない」ことは、
他人の建造物の要件ではありません。
他人の建造物である外観があれば、
それは他人の建造物として扱われます。
本罪の行為は、損壊です。
建造物としての効用を侵害する行為は損壊にあたりますが、
建造物を物理的に損壊して使用できなくする場合はもちろん、
心理的に使用するのをためらわせる場合も損壊にあたります。
建造物の壁や窓ガラスに2千枚のビラを貼付した行為
建造物の壁に落書きして、その「美観」を損ねた行為などが
損壊にあたると判断されています。
5器物損壊罪
261条は器物損壊罪です。
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、
3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
262条は、自己の物の特例です。
自己の物であっても、差押えを受け、物権を負担し、又は賃貸したものを
損壊し、又は傷害したときは、前3条の例による。
前3条の例とは、私用文書毀棄罪、建造物損壊罪、器物損壊罪のことです。
したがって行為客体は、
私用文書、建造物、器物です。
行為は、損壊であり、物の効用を害する行為です。
傷害とは、動物を殺傷するなどの行為です。
6境界線損壊罪
262条の2は境界線損壊罪です。
境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、
土地の境界を認識することができないようにした者は、
5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
昭和35年に不動産侵奪罪と併せて追加された規定です。
土地の境界線を損壊するなどして、
その境界を認識できなくする行為が処罰されます。
たとえば、柱、杭、柵などの工作物を移動したり、
立木などの自然物の移動するような行為です。
7信書隠匿罪
最後に、263条の信書隠匿罪です。
他人の信書を隠匿した者は、
6月以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
行為客体は、他人の信書です。
特定の他人に宛てられた文書であり、
封緘(ふうかん)されていることは要件ではありません。
信書開封罪の場合は、行為客体の封緘されていることが要件です。
行為は、隠匿です。
信書の発見を妨げる行為がそれにあたります。
信書を破るなどして破棄すれば、
それは信書の損壊になるので、器物損壊罪にあたります。
8親告罪
264条は、親告罪の規定です。
第259条、第261条及び前条の罪は、
告訴がなければ公訴を提起することができない。
つまり、259条の私文書毀棄罪、261条の器物損壊罪、263条の信書隠匿罪は、
被害者の告訴がなければ、公訴提起ができない、刑事裁判にかけれないということです。
第09週 盗品関与罪・毀棄罪・隠匿罪
(1)盗品等に関する罪
1盗品関与罪の規定
盗品等に関与する罪とは、
窃盗罪などによって奪われた財物を
被害者が奪い返すのを妨げる行為です。
窃盗罪などの財産犯の被害者には、盗まれた財物を追求し、
それを奪い返す権利があります。
これを、追求権と言います。
盗品等に関与する罪は、
窃盗罪などを行い財物を奪った本犯(ほんぱん)の行為に対して、
その後に関与し、被害者の追求権を侵害するという犯罪です。
しかも、
本犯を事後的に助けるという従犯的(じゅうはんてき)性質と、
本犯を事前に助長し、促進する性質があります。
事後従犯性と事前助長性については後に説明します。
2盗品関与罪の罪質
盗品等に関する犯罪を処罰することによって、
保護される法益は、先ほども言いましたように、
被害者の追求権です。
窃盗罪などの被害者には、自分の財物を奪い返す権利があります。
この権利は、窃盗などの本犯行為者によって侵害されていますが、
盗品関与罪の行為者は、本犯に事後的に関与することによって、
窃盗の被害者の追求権を侵害するということができます。
ただし、追求権だけが保護法益であると捉えると、
説明できない問題が出てきます。
例えば、盗品等無償譲受(むしょうじょうじゅ)と盗品等有償譲受(ゆうしょうじょうじゅ)
この2つの行為を比べてみましょう。
この2つの行為は、窃盗罪などの本犯の後に、被害者の追求権を侵害する点では同じです。
法益侵害性が同じということは、その違法性の重さは同じはずです。
しかも、その行為を行う意思があった点についても同じなので、
その責任の重さも同じはずです。
しかし、無償譲受と有償譲受の法定刑を見ると、違いがあり、格差があります。
あとで条文を見ますが、無償譲受の法定刑は、3年以下の懲役です。
有償譲受の法定刑は、10年以下の懲役 および 50万円以下の罰金です。
2つの罪の法定刑に差があるということは、
有償譲受の違法性と責任の方が、無償譲受の違法性と責任よりも重いからです。
追求権が盗品関与罪の保護法益だと理解していると、
この点について説明することができなくなります。
重傷譲受には、追求権とは別の保護法益があると考えざるをえません。
しかも、有償譲受の法定刑は、窃盗、詐欺、恐喝などの本犯の法定刑と比べて重く、
10年以下の懲役刑と50万円以下の罰金刑科される点にも着目しなければなりません。
これを併科刑主義(へいかけいしゅぎ)と言いますが、
有償譲受罪は、本犯よりも重い犯罪だということを意味します。
つまり、有償譲受の違法性と責任は、
窃盗罪などの本犯の違法性と責任よりも重いということです。
このように重傷譲受は、無償譲受はもとより、窃盗罪などの本犯よりも、
法益侵害性が高く、その違法性と責任が重いので、その法定刑も重くされています。
なぜ、有償譲受は、無償譲受よりも、また窃盗罪などの本犯よりも重いのでしょうか。
思うに、有償譲受罪には、
窃盗罪などの本犯の被害者の追求権を侵害するという側面だけでなく、
本犯に対する事後的な従犯的性格と、
本犯に対する事前の助長・促進する性質(本犯助長性)があるからです。
盗品を有償で買った人は、それによって窃盗罪などの本犯の証拠物を買ったことになり、
窃盗罪の本犯行為者からすれば、罪跡を隠してくれるので、
事後従犯的な性質があるといえます。
そして、さらに本犯行為者からすれば、
盗品を有償で買い取ってくれる人がいるということは、
窃盗を行おうという気持ちにさせるということを意味します。
このように理解するならば、
有償譲受は、本犯の被害者の追求権を侵害するという点においては、
無償譲受と同じですが、
本犯に対する事前的助長性と事後的従犯性があるので、
無償授受よりも重いといえます。
しかも、それが本犯行為よりも重いとと堪えられているので、
窃盗罪などの本犯よりも刑が重く、
懲役刑と罰金刑の併科刑主義が採用されているのだと思います。
(2)盗品関与罪
では、盗品関与罪の成立要件について検討します。
まずは、条文を見ましょう。
第256条 第1項です。
盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を
無償で譲り受けた者は、3年以下の懲役に処する。
次に第2項です。
前項に規定する物を運搬し、
保管し、
若しくは有償で譲り受け、
又はその有償の処分のあっせんをした者は、
10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処する。
盗品関与罪の条文は、以上のとおりです。
1行為主体
まず、盗品関与罪の行為主体の特徴について見ておきます。
盗品関与罪の行為は、後に検討しますが、
盗品を譲り受けるなどの行為です。
盗品を譲り受ける人がいるということは、
盗品を譲り渡す人がいるということです。
その2人は同じ人ではありません。それは別の人です。
つまり、盗品関与罪の行為主体は
財産犯に該当する行為を行った本犯行為者とは別の人です。
自ら窃盗を行い、その盗品を運搬したり保管しても、
そのように窃盗罪の後に行われた行為(事後行為)は、
窃盗罪の量刑事情として考慮されることはあっても、
窃盗罪とは別に盗品運搬罪や盗品保管罪が成立しません。
それは、窃盗罪の不可罰的事後行為ないし共罰的事後行為です。
では、次のような場合を考えてみましょう。
窃盗罪の本犯行為者Xが、Yに対して一緒に盗品を運んで欲しいと依頼し、
YはXと共同して盗品を運搬しました。
このような場合、Xは盗品運搬罪の行為主体にはなりえませんが、
Yは盗品運搬罪の行為主体なので、Yには盗品運搬罪が成立します。
XがA宅に侵入し強盗すること計画していたところ、
YがXにA宅の図面など示し、侵入経路や逃走方法などを教えました。
Xはそれに基づいてA宅への住居侵入と強盗既遂罪を実行しました。
その後、YはXが強取した盗品が欲しくなり、それを有償で買い受けました。
Yには住居侵入罪と強盗既遂罪の幇助犯が成立することは明らかですが、
盗品有償譲受罪が成立するでしょうか。
判例では、盗品有償譲受罪の成立が認められています。
Yが盗品を有償で譲受することは、事後従犯的な性質がありますが、
それは事前の幇助犯とは異なるものだと解するならば、
判例の立場も一応納得できるものでしょう。
2客体
盗品関与罪の行為客体は
盗品
その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物
です。
このことから、財産上の利益は客体から除外されます。
不動産については、物という文言の解釈によりますが、
窃盗罪や強盗罪の被害物である財物からは除外されますが、
財物詐欺罪、財物恐喝罪、横領罪の行為客体の財物や物には
不動産も含まれると解釈されているので、
不動産も盗品関与罪の客体に含まれると解釈することもできます。
3行為
盗品関与罪の行為は以下の通りです。
まずは、盗品の無償の譲り受けです。
盗品を無償で譲り受け、それを取得すること、占有することです(贈与)
無利息による消費貸借のように譲り受けに至らなくても、
無償の譲り受けにあたると解されています。
譲り受けというのは、必ずしも所有権を取得するような意味ではなく、
占有の移転と取得という意味において理解されています。
次の盗品の運搬です。
これは、盗品の所在を移転させることを意味します。有償・無償を問いません。
本犯の行為者から運搬の依頼があったことを要します。
運搬によって被害者の追求権が侵害される限り、
被害者の家に盗品を運搬した場合であっても、運搬罪が成立する余地はあります。
盗品を船などに積んだが、その船に同乗しなくても、運搬罪にあたります。
保管についてが、
盗品の保管とは、委託を受けて盗品を管理することです。これも有償・無償を問いません。
保管するという約束するだけでは、追求権の侵害に至っていないので、
保管罪は成立しません。
したがって、盗品の占有が保管者に移転し、実際に保管することが必要です。
有償の譲り受けについてですが、
盗品の交付を有償で受けることです。
一般的には譲り受ける人が金銭を支払って、買う取る場合が多いですが、
債権者が債務者から、債務の弁済として盗品を譲り受ける場合も
有償の譲り受けにあたります。
譲り受ける約束だけでは、追求権の侵害には至っていないので、
有償の譲り受けにはあたりません。
盗品の占有が本犯行為者から移転することが必要です。
最後に有償処分のあっせんについてです。
本犯行為者から依頼を受けて、
盗品の売買、質入れ、有償による交換など有償の処分を仲介することです。
仲介したことへ謝礼が払われること(有償)は要件ではありません。
あっせんの意味ですが、
「盗品を買い受けするよう働きかけること」と理解すれば、
相手方が買い受けの意思を表示していなくても、
被害者の追求権が危険にさらされているので、
有償処分のあっせんにあたると解されます。
では、被害者に対して、盗品を有償で買い戻すよう働きかけた行為は
どうでしょうか。それによって追求権の侵害は認められるでしょうか。
財産犯の被害者には、盗品を無償で取り戻す権利があります。
それが追求権です。
被害者が自分の物を有償で買い戻すというのは、
追求権の正常な行使を困難にしているので、
被害者に盗品を買い戻すように働き掛けた行為は、
盗品の有償処分のあっせんにあたります。
4故意
盗品関与は、いずれも故意犯です。
上記の盗品関与の行為を行う時点において、
その財物が盗品であることの認識が必要です。
ただし、財物には「盗品」であることの表示はありませんので、
盗品関与罪の場合、「もしかしたら盗品かもしれない」という
未必の故意が問題になることが多いです。
では、次のような場合を考えてみます。
YはXから物の保管を依頼され、Yはそれを保管しました。
Yはそれが盗品であることを知りません。
この保管行為は、客観的に盗品保管罪の構成要件該当の違法行為ですが、
盗品である認識がないので、故意は成立しません。
しかし、その後、保管中に盗品であることを知り、
Xが取りに来るまで保管を続けました。
このような場合、判例によれば、
盗品であることを認識した時点から盗品保管罪の故意が認められ、
盗品保管罪が成立すると解されています。
盗品保管罪は行為は、継続犯としての性質を持っています。
保管行為を開始してから、その保管行為を終えるまでのあいだ、
保管行為が継続的に実行されるということです。
継続犯の典型には監禁罪があります。
監禁行為によって被害者の移動の自由を侵害し、
被害者を解放するまでのあいだ、
監禁行為が継続しています。
盗品の保管行為も同じように理解するならば、
保管行為が継続している途中で、
盗品であることことを認識した時点から
盗品保管罪が成立します。
(3)親族間の盗品関与罪の特例
盗品保管罪が親族のあいだで行われた場合、その刑が免除されます。
257条は、親族等の間の犯罪に関する特例を定めています。
第257条の第1項
配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で
前条(つまり盗品関与)の罪を犯した者は、その刑を免除する。
第2項は
前項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
1判例の趣旨
すでに解説しましたが、
財産犯が親族の間で行われた場合、刑を免除したり、
親告罪として扱ったりする規定があります。
刑法244条は、窃盗罪や不動産侵奪罪に関して
親族間の犯罪に関する特例を定めています。
刑法255条は、横領罪、業務上横領罪、遺失物横領罪に対して
244条の規定を準用することを定めています。
盗品関与罪にも親族間の特例が設けられています。
しかし、それは盗品関与罪に刑法244条の規定を準用するのではなく、
刑法257条という規定を設けて、それを適用します。
法律効果も刑の免除だけで、親告罪化はありません。
2親族関係の範囲
親族関係は、誰と誰の間にあることが必要あのでしょうか。
配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間
と規定されていますが、
盗品関与罪の行為者と窃盗罪などの本犯の行為者との間の親族関係であるだけでなく
窃盗罪などの被害者との間にも親族関係があることが必要です。
このように盗品関与者、本犯行為者、被害者の3者間における親族関係によって
政策的に刑が免除されると解されます。
なぜ、そのような政策をとるのかというと、
法は家庭に入らずという考えに基づいて、
盗品関与者に親族関係という一身的な属性があることを理由に
盗品関与者に対する刑罰を阻却するのがよいと考えられるからです。
盗品関与罪それ自体は成立していますが、刑罰だけ阻却するということです。
(4)盗品関与罪の特殊問題
盗品関与罪の行為客体は、
盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物
と定められています。
この「財産に対する罪に当たる行為」とは、どのような意味でしょうか。
財産犯のうち財物罪(既遂)によって領得された物なので、
利益強盗罪などによって得られた「利益」は含まれません。
では、財産に対する罪ではない犯罪行為によって得られた物は
どうなるのでしょうか>
収賄罪、賭博罪、密漁違反罪などによって得られた物などを
保管するなどした場合、それは盗品保管罪などにあたるのでしょうか。
収賄罪などは財産に対する罪ではないので、
それによって得られた金銭などをを保管などしても、
盗品保管罪などにはあたりません。
次に、刑事未成年者からの盗品の有償譲り受けについて考えてみます。
「財産に対する罪に当たる行為」とは、
財産犯のうちでも、財物罪にあたる行為であることは明らかですが、
窃盗罪などの財産犯の成立要件の全てを満たしていることが必要でしょうか。
例えば、14才未満の刑事未成年者XがAから物を窃取した場合、
Xの行為は、窃盗罪の構成要件に該当する違法な行為ですが、
刑事未成年ゆえに責任能力がなく、無罪になります。
この物を成人Yが買い取った場合、盗品有償譲受罪が成立するでしょうか。
「財産に対する罪に当たる行為」の要件として、
窃盗罪などの財産犯の成立要件の全てを満たしていることが必要だと解するならば、
Yには盗品有償譲受罪は成立しなくなります。
しかし、YはXから買い受けることによって、被害者Aの追求権を侵害しています。
したがって、刑事未成年者が窃取した財物であっても、
その行為が窃盗罪の構成要件に該当する違法な行為であり、
有責性が認められなくても、
それを有償で買い受けた場合には盗品有償譲受罪が成立すると解すべきです。
さらに、第3者による善意・無過失による盗品の取得についてです。
第3者が、盗品とは知らずに(善意・無過失)、平穏・公然と盗品を取得しました。
民法192条には「即時取得の制度」があります。
それによると、第3者は盗品の所有権を取得し、被害者は所有権を失います。
被害者が所有権を失うということは、追求権を失うことをも意味します。
盗品関与罪の行為客体は、財産犯の被害者の追求権が及んでいる物に限られるので、
第3者が取得した物は、盗品関与罪の行為客体から除外されることになります。
最後に、盗品の同一性と代替性について検討します。
XがA宅に侵入し、Aの金の延べ棒を盗み、
それを金の仏像に作りかえて、
事情を知るYに廃却したとします。
この金の仏像は、金の延べ棒とは形状が異なります。
形状が異なることを理由に、
金の仏像には盗品である金の延べ棒との同一性がなくなるなら、
金の仏像は、盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物
ではないといえます。
また、XがA宅に侵入し、Aの商品券やビール券などを盗み、
それをチケットショップで現金に換えて、
事情を知るYに渡して、債務を弁済したとします。
この現金は、商品権やビール券とは形状が異なりますが、
有価証券としての性質は共通しています。
有価証券に代替できる性質がある以上、
現金には盗品である商品権とビール券との同一性があるので、
現金は、盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物
であるといえます。
XがAの家から婦人用自転車を盗み、そのサドルとタイヤを外し、
男子用自転車に取り付け、
それを事情を知るYに売ったとします。
Yが購入した男子用自転車は、Aの婦人用自転車とは異なります。
ただし、Aの自転車のサドルとタイヤが取り付けられています。
このYの男子用自転車には、Aの婦人用自転車との同一性があるでしょうか。
同一性があるなら、Yには盗品有償譲受罪が成立します。
同一性がないなら、Yには盗品有償譲受罪は成立しません。
男子用自転車に取り付けられたサドルとタイヤを取り外すのは、
工具を用いれば、多少の時間をかけて行えますので、
困難なことではありません。
そうであるなら、Yの男子用自転車に
Aの婦人用自転車のサドルとタイヤが取り付けられていても、
それを用意に取り外せる以上、
そのサドルとタイヤの盗品としての同一性は失われていません。
Yには盗品有償譲受罪が成立します。
(1)毀棄罪および隠匿罪
毀棄罪と隠匿罪には、財産に対する罪としての性質があります。
窃盗罪などのような、財物を自己のものにする領得罪とは異なりますが、
財産そのものを破棄したり、
財物の効用を毀損することによって、
権利者が、それを経済的用法に従って使用・処分することができなくなるので、
財産犯としての性質を有しています。
1毀棄および隠匿の罪
まずは毀棄罪についてです。
毀棄罪には、
公用文書・私用文書の毀棄罪
建造物・器物の損壊罪
の2種類があります。
他人の文書・建造物・器物などの
財物の効用を害し、その利用を妨げる行為です。
他人の財物を領得する行為とは異なり、
その効用を侵害する点に特徴があります。
他人の物を物理的に損壊することによって、
その物の効用を害し、利用を妨げるのが典型ですが、
ただし、物の性質によっては、
物理的に損壊しなくても、効用を侵害できるものもあります。
食器などにたんやつばをはいたり、放尿した場合、
食器は物理的な損壊を受けていませんが、
心理的に食器として利用することは困難になります。
次に隠匿罪ですが、
物を隠すと、それを利用することができなくなります。
隠匿もまた、効用を侵害する行為であり、
毀棄の一形態であると理解することができます。
通説と判例の立場がそうです。
ただし、隠匿罪は、信書を隠匿した場合に成立するだけです。
行為客体が限定されています。
2公用文書毀棄罪
まずは刑法258条の公用文書毀棄罪についてです。
公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、
3月以上7年以下の懲役に処する。
と定めています。
行為客体は、
公務所の用に供する文書・電磁的記録です。
公務員が作成した公文書はもちろん、
公務所の用に供されている文書であれば、
私人が作成した私文書もまた公用文書に含まれます。
完成された公用文書はもちろん、未完成な公用文書であっても、
文書としての意味内容を備えていれば足ります。
行為は
毀棄、破棄、汚損、貼付の印紙の剥離など
公用文書としての効用を害する行為です。
3私用文書毀棄罪
次に259条の私用文書毀棄罪です。
権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、
5年以下の懲役に処する。
行為客体は
公務所の用に供していない文書です。
それが公文書であっても、公務所の用に供されていなければ、
私用文書にあたります。
権利・義務の存否、得喪、変更、消滅などを証明するための文書が
私文書です。
4建造物損壊罪・同致死傷罪
さらに、刑法260条の建造物損壊罪・同致死傷罪です。
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。
よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
行為客体は、
家屋その他の建造物です。
建造物とは、土地に定着し、壁・柱・屋根を有し、
人の出入り可能な構造物です。
行為者・被害者の間に建造物の所有権をめぐる争いがある場合
建造物が「他人の建造物」であるか否かは
最終的には民事裁判で決着がつけられねばなりません。
その決着前に損壊した場合、民事裁判において、
その建造物に対する他人の所有権が否定される可能性がない限り、
その建造物は他人の建造物であるので、本罪が成立することは明らかです。
ただし、「他人の所有権が否定される可能性がない」ことは、
他人の建造物の要件ではありません。
他人の建造物である外観があれば、
それは他人の建造物として扱われます。
本罪の行為は、損壊です。
建造物としての効用を侵害する行為は損壊にあたりますが、
建造物を物理的に損壊して使用できなくする場合はもちろん、
心理的に使用するのをためらわせる場合も損壊にあたります。
建造物の壁や窓ガラスに2千枚のビラを貼付した行為
建造物の壁に落書きして、その「美観」を損ねた行為などが
損壊にあたると判断されています。
5器物損壊罪
261条は器物損壊罪です。
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、
3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
262条は、自己の物の特例です。
自己の物であっても、差押えを受け、物権を負担し、又は賃貸したものを
損壊し、又は傷害したときは、前3条の例による。
前3条の例とは、私用文書毀棄罪、建造物損壊罪、器物損壊罪のことです。
したがって行為客体は、
私用文書、建造物、器物です。
行為は、損壊であり、物の効用を害する行為です。
傷害とは、動物を殺傷するなどの行為です。
6境界線損壊罪
262条の2は境界線損壊罪です。
境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、
土地の境界を認識することができないようにした者は、
5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
昭和35年に不動産侵奪罪と併せて追加された規定です。
土地の境界線を損壊するなどして、
その境界を認識できなくする行為が処罰されます。
たとえば、柱、杭、柵などの工作物を移動したり、
立木などの自然物の移動するような行為です。
7信書隠匿罪
最後に、263条の信書隠匿罪です。
他人の信書を隠匿した者は、
6月以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
行為客体は、他人の信書です。
特定の他人に宛てられた文書であり、
封緘(ふうかん)されていることは要件ではありません。
信書開封罪の場合は、行為客体の封緘されていることが要件です。
行為は、隠匿です。
信書の発見を妨げる行為がそれにあたります。
信書を破るなどして破棄すれば、
それは信書の損壊になるので、器物損壊罪にあたります。
8親告罪
264条は、親告罪の規定です。
第259条、第261条及び前条の罪は、
告訴がなければ公訴を提起することができない。
つまり、259条の私文書毀棄罪、261条の器物損壊罪、263条の信書隠匿罪は、
被害者の告訴がなければ、公訴提起ができない、刑事裁判にかけれないということです。