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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(09)判例資料(074~079)

2020-12-02 | 日記
074有償処分のあっせん罪の成否(最決平成14・7・1刑集56巻6号265頁)

【事実の概要】
 A株式会社は、平成12年11月15日深夜から翌日にかけて、約束手形181通を盗まれた。被告人らは、この盗難があった同年12月上旬頃までの間に、氏名不詳の者から、この約束手形の一部をA会社の関係者に売却することを依頼された。被告人らは、その約束手形が盗品であることを知りながら、A会社の関係者に売ることことを考え、A株式会社の関係者と買取の条件などについて交渉し、Aの関連会社であるBの応接室において、約束手形131通をA関係者に交付し、8220万円を受領した(それを氏名不詳の者に引き渡した)。

 第1審は、被告人らに盗品等の有償処分のあっせん罪の成立を認めた。何故ならば、
(1)盗品等関与罪の条文は、盗品等の有償処分のあっせん行為を処罰することを規定しているが、あっせんの相手方について被害者を除外するなどの限定を加えているわけではない(あっせんの相手方から被害者は除外されない)。
(2)被告人らは、A関係者に対して、買い戻さないと、回収が困難になるのではと、ほのめかして、盗難被害者に盗品を売りつけたのであるから、その行為は盗品等の有償処分のあっせん行為に該当している。
(3)被告人らの行為は、被害者による盗品の取り返しに貢献していると見ることもできるが、被害者らには盗品を無償で取り返す権利(正当な返還請求権または追求権)があり、被告人らの行為は、被害者の正当な権利の行使を妨げていることは明らかである(追求権侵害)。
(4)被害者らは、有償による盗品の買い戻しに任意に応じているので、盗品等有償処分のあっせんによる被害につき同意しているということもできるが、それによって盗品の有償処分のあっせんの違法性が阻却されたり、減少することはない(同意による違法性阻却の効果の否定。
(5)また、被告人のように窃盗犯と被害者の間を仲介して、被害者に有償で盗品の買い戻しをあっせんする人物がいることは、窃盗などの犯罪を誘発・助長することにもなる(窃盗罪などの本犯助長性)。
 以上の理由から、原審は、被告人に盗品等の有償処分のあっせん罪の成立を認めた。


【争点】
 盗品関与罪(刑法256条)は、盗品等の無償譲受(1項)、盗品等の運搬、保管、有償譲受、有償処分のあっせん(2項)を処罰する規定である。窃盗や強盗などの財産犯にあたる罪によって領得された物(財物に限定され、財産上の利益は含まれない)であることを知りながら、その窃盗犯・強盗犯(本犯)から無償で譲り受け(1項)、その依頼を受けて運搬・保管し、有償で譲り受け(買い取り)、また依頼を受けて有償処分のあっせん(買い取る人を探し、値段交渉などをする)をする行為である。

 財物の占有は本犯の行為者によって侵害されているので、それによって窃盗罪などは成立する。その窃盗行為者が盗品を自分で運搬・保管・有償処分などしても、それは不可罰的事後行為である。しかし、それを窃盗犯以外の第三者が行った場合には、盗品関与罪にあたる。


【裁判所の判断】
 盗品等の有償処分のあっせんをする行為は、窃盗等の被害者を処分の相手方とする場合であっても、被害者による盗品等の正常な回復を困難にするばかりでなく、窃盗等の犯罪を助長し誘発するおそれのある行為であるから、刑法256条2項にいう盗品等の「有償の処分のあっせん」はに当たると解するのが相当である。


【解説】
 それは、被害者が盗品を取り戻す正当な権利の行使を困難にしているからである(追求権侵害:とくに無償譲受→懲役しか科されない理由)。また、窃盗などの本犯の行為者から盗品を受け取り、運搬・保管、有償譲受、有償処分のあっせんなどをする人がいると、窃盗などを行っても、捕まりにくいとか、もうかるなどと思わせ、本犯を誘発・助長するおそれがあるからである(本犯助長的性格:盗品運搬・保管、有償譲受、有償処分のあっせんは、追求権侵害と本犯助長的性格の両方を併せ持つ→懲役と罰金が併科される理由)。

 窃盗の被害者が盗品を取り戻すためには、警察などに被害届を出して、窃盗犯を逮捕し、裁判にかけて、盗品の没収→被害者への返還という手続きを通じて取り戻すという方法を行使するのが基本である。なぜそれが「基本」であるかというと、刑法や刑事裁判制度が整備された法治国家においては、犯罪の被害者が実力行使することは禁止されている、そのような実力は法的手続を経て、国家機関が行使することになっているからである。そのようにしなければ、被害者と窃盗犯との間に私闘が起こり、問題がより複雑になり、解決困難になるおそれがある。しかも、その人が「窃盗犯」であること、その物が「盗品」であることの確証がないまま、「取り戻す」と、その行為が場合によっては窃盗などの犯罪にあたってしまう。

 このような法治国家の手続に基づいてこそ、被害者は盗品の取り返しが可能になる。また、被害者が盗品を取り返すためには、このような法治国家の手続に基づかなければならない。たとえ、被害者が有償での買戻しに任意に応じて、買い戻しても、それは認められない(とはいえ、その行為は犯罪ではない)。しかし、有償での買取をあっせんした者は、盗品の有償処分のあっせん罪にあたる。その犯罪の実質は、被害者の正当な返還請求権(追求権)の行使を困難にしていること、そのような仲介行為が本犯の実行を誘発・助長していることにある。



075盗品保管罪における知情の時期(最決昭和50・6・12刑集29巻6号365頁)

【事実の概要】
 被告人は、(1)昭和48年2月22日、知人Aから「靴」の保管の委託を受け、自室内で保管していた。2月26日になって、それはAが窃取してきたものであることを知った。しかし、そのまま自室内で保管し続けた。また、2月26日以降、Aが窃取してきたものであることを知りながら、(2)「カメラ、テープレコーダー、着物などを買い受け」、(3)「ネックレスなどの贈与を受け」、(4)「背広を保管する」などした。

 第1審は、(1)について盗品保管罪、(2)について盗品有償譲受け罪、(3)について盗品無償譲受け罪、(4)盗品保管罪の成立を認めた。

 これに対して被告人は、(1)について、盗品保管罪は、盗品であることを知りながら保管する行為について成立するのであって、盗品であることを知らずに保管を始め、その後盗品であることを知っただけでは、盗品保管罪にはあたらないにもかかわらず、盗品保管罪の成立を認めたのは不当であると主張して控訴した。

 原審は、盗品であることを知った後、盗品の保管場所を変えるなどの積極的な行為を行った場合だけでなく、そのような行為を行わずに、その保管状態を続けた場合であっても、盗品保管罪が成立すると判示して、被告人の控訴を棄却した。盗品関与罪の本質は、被害者の追求権の行使を困難にし、窃盗などの本犯を助長することろにある。被害者は盗品の返還を求めることができ、Aのみならず、被告人もそれを拒否することはできない。被告人が盗品であることを知った後、その保管状態を継続したことによって、被害者の追求権の行使は困難にされ、それは盗品であることを知りながら、それを保管する行為を行ったことと同じであり、区別する理由はない。これに対して被告人が上告した。


【争点】
 被告人は、2月22日、Aから依頼を受けて、靴の保管を始めた。そして、2月26日に、その靴が盗品であることを知るった。そして、それを保管し続けた。
 被告人は、2月26日以降、Aが窃取した物であることを知りながら「カメラ、テープレコーダー、着物などを買い受け」、「ネックレスなどの贈与を受け」、「背広を保管する」などした。
 被告人が26日以降に行った行為は、その物が盗品であることを知りながら、カメラなどを買い受け、ネックレスの贈与を受け、背広を保管したので、盗品の有償譲受罪、無償譲受罪、保管罪にあたることは明らかである。
 問題は、2月22日から靴を保管した行為である。被告人は、そえが盗品であることを知らずに保管したのであるから、それは故意に盗品保管を行った行為であるとはいえない。しかし、26日にはそれが盗品であることを知ったのであるから、それ以降は盗品保管罪にあたるのではないか。
 しかし、被告人は、26日に靴が盗品であることを知って盗品の保管を行ったのではなく、それまで続けてきた保管状態を続けたのである。それは盗品保管罪にあたるのか。


【裁判所の判断】
 賍物(ぞうぶつ)であることを知らずに物品の保管を開始した後、賍物であることを知るに至ったのに、なおも本犯のためにその管理を継続するときは、賍物の寄蔵(保管)にあたるものというべきであり、原判決に法令違反はない。


【解説】
 盗品を保管すると、盗品保管罪に該当する。行為者が「窃盗犯」などから「保管の依頼」を受けて、「盗品」を「受け取り」、それを「保管」する行為が行われれば、それは盗品保管罪の構成要件に該当する。そして、行為者が依頼者が「窃盗犯」であること、その物が「盗品」であることを認識していれば、その故意が認められる。この認識が保管する前にあった場合には、盗品保管罪の故意が成立することに問題はない。

 問題は、窃盗犯であるとか、盗品であることを知らずに保管し始め、途中で盗品であることを知った場合である。盗品保管罪が「盗品であることを知りながら保管を始める行為」であるなら、途中で盗品であることを知り、その後、新たな保管行為が行われていれば、盗品保管罪は成立するが、何もせずに、保管状態を継続しただけでは、その不作為に盗品保管罪を認めることはできない(盗品保管罪=状態犯という前提)。

 これに対して、盗品であることを知らずに保管し始めても、客観的には盗品保管罪の実行行為が行われ、しかもその実行行為は保管状態が解消されるまで継続するので、その実行の途中で、盗品であることを知った時点から、盗品保管罪の実行行為を故意に継続していることになるので、盗品保管罪が成立すると解することもできる。最高裁は、盗品保管罪を「継続犯」であるとの前提から、上記の判断を示したと思われる。

 ただし、盗品保管罪を状態犯であると解して、盗品保管の継続は不作為であるとしても、その不作為が保管に該当すると論ずることも可能である。保管は作為の形式で定められているが、それを不作為によって行うこともできるという「不真正不作為犯論」を活用すれば、可能である。その場合、行為者は盗品であることを知った段階で、警察に通報するなどの一定の作為に出る義務があったにもかかわらず、その義務を履行しなかった不作為が「保管」にあたると論証しなければならない。




076盗品の同一性(最判昭和24・10・20刑集3巻10号1660頁)

【事実の概要】
 被告人は、昭和23年10月6日頃、Aが窃取した婦人用自転車から車輪2本とサドル(車輪など)を取り外して、Aが持参した男子用自転車に取り付け、その男子用自転車をBに対して4千円で売却するあっせんをした。

 被告人は、Aが窃取してきた婦人用自転車を、そのままBに有償処分するあっせんをしたのではなく(それが盗品有償処分あっせん罪にあたることは明らか)、盗品である婦人用自転車の車輪などをAの所有物である男子用自転車に取り付けて「本件自転車」を作り上げ、その「本件自転車」をBに有償処分するあっせんをした。この「本件自転車」が盗品であるならば、被告人には盗品有償処分のあっせん罪が成立する。第1審は、被告人に盗品の有償処分のあっせん罪の成立を認めた。これに対して、被告人が控訴した。

 被告人は、次のように主張した。「本件自転車」は、「盗品である婦人用自転車」の車輪などを「A所有の男子用自転車」に取り付けて、作り上げたものである。「婦人用自転車」と「本件自転車」との間に「盗品としての同一性」があれば、被告人に盗品有償処分のあっせん罪が成立するが、はたしてその同一性があるか。

 民法246条2項によれば、他人の動産に加工を加えた者がある場合において、加工者(A)が材料の一部(A所有の男子用自転車)を提供して、他人の動産(盗品である婦人用自転車の車輪など)に加功を加えた場合、その材料(A所有の男子用自転車)の価格に工作によって生じた価値(本件自転車の価値=4千円)を加えたものが、他人の材料(婦人用自転車の車輪など)の価値を超えている場合には、加工者(A)がその加工物(本件自転車)の所有権を得ることになる。そうすると、「婦人用自転車」と「本件自転車」との間には「盗品としての同一性」はもはや認められないので、被告人が「本件自転車」をBに有償処分のあっせんをしても、盗品有償処分のあっせん罪は成立しない。被告人はこのように主張した。

 控訴審は、被告人とAは、A所有の男子用自転車と盗品である婦人用自転車の車輪などを組み合わせて、本件自転車を作り上げたが、その車輪などはたやすく離すことができるので、本件自転車は「加工物」にはあたらないので、その所有権を得ることもできない。本件自転車と盗品である婦人用自転車との間には盗品としての同一性が認められるので、それを有償処分のあっせんをした行為は、盗品有償処分のあっせん罪にあたる。

 これに対して被告人が上告した。


【争点】
 盗品有償処分のあっせん罪は、「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」の有償処分をあっせんする行為である。実行行為は「あっせん」であり、その客体は「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」である。この「物」は「領得された物」それ自体であるとは限らない。解体されたり、変形されたり、換金・両替されたり、別のものと交換されたりする。解体・変形されて作り上げられた物、換金・両替された金銭、交換された物と「領得された物」は、外形的にも別の物である。それでも「盗品としての同一性」は認められるのか。その判断基準は何か。


【裁判所の判断】
 原審は、被告人が、Aなる当時16年の少年が窃取して来た中古婦人用26吋(インチ)自転車1台の車輪2個(タイヤチューブ附)及びサドルを取外し、これらを同人の持参した男子用自転車の車体に組替え取付けて、男子用に変更せしめて、本件自転車をBに代金4000円にて売却する斡旋をして、賍物(ぞうぶつ:盗品)の牙保(有償処分のあっせん)をしたものと認定判示した。要するに、被告人は、他人所有の婦人用自転車の車輪2個及びサドルが賍物(盗品)であることを知りながら、そえを牙保(有償処分のあっせん)をしたものと判断した。そして、右原判決の事実認定は、その挙示の証拠により肯認することができる。且つその認定によれば判示のごとく組替え取付けて男子用に変更したからといって、両者(車輪とサドル)は原形のまま容易に分離し得ること明らかであるから、これを以って両者が婦人用自転車から分離したということはできない。また、もとより所論のように、婦人用自転車の車輪及びサドルを用いて、Aの男子用自転車の車体に工作を加えたものということはできない。従って、本件自転車は加工物と言うことはできず、その所有権をAが取得することもできない。されば、中古婦人用自転車の所有者たる窃盗の被害者は、依然としてその車輪及びサドルに対する所有権を失うべき理由はなく、従ってその賍物性(盗品としての同一性)を有するものであること明白であるから、原判決には所論の違法は認められない。論旨はすべて採ることはできない。


【解説】
 Aと被告人は、A所有の自転車に盗品である婦人用自転車の車輪などを取り付けて、本件自転車を作り上げたが、その自転車は民法246条2項にいう加工物にはあたらないので、Aはその所有権を取得できない。従って、本件自転車に取り付けられた婦人用自転車の車輪などは、依然として盗品としての同一性を失わない。最高裁がこのように判断した根拠は、婦人用自転車の車輪などをA所有男子用自転車に取り付けたとはいっても、原形のまま容易に分離し得るという点にある。本件自転車は加工物ではないからである。




077建造物の他人性(最決昭和61・7・18刑集40巻5号438頁)

【事実の概要】
 被告人は、昭和50年3月に長崎県漁業協同組合連合会(県魚連)が主催した「アワビの入札会」において、4月から6月の生産予定量2万キログラム(約7千万円)を落札し、県魚連との間で売買契約を締結した。その後、アワビの価格が暴落し、販売すればするほど損失が増大するようになったため、被告人は県漁連に対して取引の中止を連絡したところ、受入れられなかった。

 そこで、県漁連に対するアワビの購入代金の債務を担保するため、被告人は自己所有の本件建物を県漁連を抵当権者として根抵当権を設定することを承諾し、その登記を行った。その後、県漁連が裁判所に対して本件建物の任意競売することを申し立て、昭和55年1月4日、県漁連自らが最高額で購入し、その代金を県漁連に支払い、所有権の移転登記を終えた。

 昭和55年3月12日、裁判所が本件建物について引渡命令の執行のために臨んだところ、憤激した被告人が手斧で本件建物を損壊する行為に出た。被告人を建造物損壊罪で起訴された。

 被告人は、本件建物に対する根抵当権の設定の意思表示は、県漁連の職員が根抵当権の設定は形式だけであり、その実行がありえないかのような言辞を用いたために、錯誤してなしたものであり、本件損壊行為以前にその取り消しの意思表示をしたので、本件建物の所有権は損壊行為の時点において被告人にあったと主張した。

 第1審は、被告人が主張するような詐欺罪が成立する可能性を否定することができず、行為当時本件建物が刑法260条にいう「他人の」建造物であったことについて、合理的な疑いを容れない程度に証明があったとはいえないとして、建造物損壊罪につき被告人に無罪を言い渡した。

 これに対して原審は、被告人の主張するような詐欺の事実はなく、本件行為時において本件建物は県漁連の所有物であったとして、第1審判決を破棄し、建造物損壊罪の成立を認めた。これに対して被告人が上告した。


【争点】
 被告人は、県漁連に欺かれて、本件建物に対して県漁連を抵当権者とする根抵当権を設定する登記を行った。従って、それは錯誤に基づく行為なので、取り消すことができ、しかも損壊行為を行う以前に取り消しの意思表示をした。それゆえ、被告人が民事裁判を行えば、県漁連の本件建物に対する所有権は否定される可能性があった。そうすると、本件行為時において、本件建物は被告人の所有権が肯定される可能性があったので、被告人が自己所有の建造物を損壊しても、建造物損壊罪にはあたらない。

 しかし、民事裁判において、建物が誰の所有物なのかが確定するのは、後のことである。ここで問題になっているのは、損壊行為時に本件建物が「他人の建物」だったのかどうかである。後の民事裁判の結論を待たなければ、損壊行為時における本件建物の「他人性」は判断できないというのは奇妙な話である。従って、刑法上の建物の「他人性」は、民事裁判の判断から独立して認定されるべきである。


【裁判所の判断】
 刑法260条の「他人ノ」建造物というためには、他人の所有権が将来民事訴訟等において否定される可能性がないということまでは要しないものと解するのが相当であり、前記のような本権の事実関係にかんがみると、たとえ第1審判決が指摘するように詐欺が成立する可能性を否定し去ることができないとしても、本件建物は刑法260条の「他人ノ」建造物に当たるというべきである。


【解説】
 本件建物の所有権が被告人にあるのか、それとも県漁連にあるのかは、民事訴訟等において決められることになる。しかし、建造物損壊罪の成否は、とくに当該建物が「他人の建造物」、県漁連の建造物なのかどうかは、民事訴訟の判断を待たずに決めなければならない。

県漁連の所有権が民事訴訟において否定される可能性がない(=肯定さてる)ならば、建物の所有者は県漁連であり、それは被告人から見れば「他人の建造物」になる。それを損壊すれば、建造物損壊罪にあたる。

 しかし、県漁連の所有権が民事訴訟において否定される可能性がない(=肯定される)ということが行為時において明らかにされていなければならないなら、県漁連にとっては非常に不利であり、その分だけ建造物損壊罪の成立は困難になる。

 判例は、県漁連の所有権が民事訴訟において否定される可能性がない(=肯定される)ことが行為時において明らかにされていなくても、建物の所有者は県漁連であると判断できると考えている。




078建造物の意義(最決平成19・3・20刑集61巻2号66頁)

【事実の概要】
 被告人は、元妻に面会を強要するなどしたが、元妻が被告人の言動に屈しなかったことからいらだち、元妻方の玄関ドアを金属バットで損壊させるなどした。これによって、被告人は建造物損壊罪で起訴された。

 第1審・控訴審も建造物損壊罪の成立を認めた。ある客体が、建造物損壊罪の対象となる建造物の一部であるかどうかを判断するためには、その客体が、構造上および機能上、建造物と一体化し、「器物」としての独立性を失っていることを認めるのが相当であるという観点から決せられるべきである。

 本件玄関ドアは、建物自体に固着された外枠の内側に蝶番(ちょうつがい)によって接合固定されており、外枠と本件ドア本体とは、構造上および機能上一体化するとともに、両者は建物に強固に固着していて、適合する器具などなしに、本件ドア本体を取り外すには、……強力な力で蝶番などを破壊しなければならないと認められるから、本件ドアは建物と一体化していると判断した。


【争点】
 窓ガラスを破れば、器物損壊罪であるが、窓ガラスの窓枠ごと外せば、建造物損壊罪にあたる。その区別基準は、窓ガラスは、建造物を損壊しなくても、それ単独で損壊することができる。しかし、窓枠は、建造物を損壊しなければ、取り外すことはできない。なぜならば、窓枠は、建造物と構造上・機能上一体化し、強固に固着しているからである。従って、窓枠を外す行為は、建造物を損壊する行為と判断される。

 では、玄関ドアはどうか。その判断基準は、玄関ドアが建造物と構造上・機能上一体化し、強固に固着しているかどうかである。


【裁判所の判断】
 建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは、当該物と建造物との接合の程度のほか、当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきものであるところ、……事実関係によれば、本件ドアは、住居の玄関ドアとして外壁と接合し、外界とのしゃ断、防犯、防風、防音等の重要な役割を果たしているから、建造物損壊罪の客体に当たるものと認められ、適切な工具を使用すれば損壊せずに同ドアの取り外しが可能であるとしても、この結論は左右されない。そうすると、建造物損壊罪の成立を認めた原判断は、結論において正当である。


【解説】
 建造物損壊罪は、建造物の全部または一部を損壊して、建造物としての効用を喪失させる罪である。従って、建造物それ自体を損壊した場合だけでなく、その一部を損壊した場合でも、建造物としての効用を喪失させていれば、建造物損壊罪が成立する。

 ただし、建造物の一部を損壊した場合、それによって建造物の効用を喪失していない場合には、その一部は「器物」として扱われ、器物損壊罪が成立するだけにとどまる。

 では、建造物の一部か、それとも器物かを区別基準は何か。本件は、その判断基準を示した事案である。建造物の一部が、構造上・機能上、建造物とどのような関係にあるのか。一体化しているのかどうか。強固に組み込まれ、接合されているのかどうか。それを取り外すなどするためには、強力な力で接合部分を破壊するなどしなければならないかどうか。このような観点から、建造物の一部にあたるかどうかが判断される。





079落書きと建造物損壊罪(最決平成18・1・17刑集60巻1号29頁)

【事実の概要】
 被告人は、公園内の公衆便所である本件建物の白色外壁に、赤色と黒色のスプレーでペンキを吹き付け、ほんとどを埋め尽くすような形で、「反戦」、「戦争反対」、「スペクタクル社会」などを書いた。

 第1審・控訴審ともに、被告人に建造物損壊罪の成立を認めた。これに対して、被告人が上告した。


【争点】
 建造物損壊罪における損壊の意味は、建造物の全部または一部を物理的に損壊して、その効用を喪失させることをいうが、さらに物理的に損壊していない場合でも、建造物の外観・美観を著しく汚損することによって、その効用を喪失させる場合も含む。

 しかし、外観・美観の汚損による効用の喪失の程度は、利用者の印象などに左右されるので、一律的に判断するのが困難な場合が出てくる。そうすると、器物損壊の程度の行為が場合によっては建造物損壊に含まれる場合もでてくろそれがある。



【裁判所の判断】
 以上の事実関係の下では、本件落書き行為は、本件建物の外観ないし美観を著しく汚損し、現状回復に相当の困難を生じさせたものであって、その効用を減損させたものというべきであるから、刑法260条前段にいう「損壊」に当たると解するのが相当であり、これと同旨の原判断は正当である。


【解説】
 建造物の全部または一部を損壊し、建造物として物理的に使用することができなくなれば、それが建造物損壊にあたることは明らかである。

 問題は、建造物を物理的に損壊することなく、その外観・美観を著しく汚損し、利用者が主観的・心理的に利用しにくくしたような場合に、それが建造物損壊にあたるのかである。

 建造物には様々なものが、あり様々な用途がある。建造物は、その用途に相応しい外観・美観をそなえている。建造物が物理的に損壊されれば、その用途に相応しい利用はできなくなり、また物理的に損壊されていなくても、外観・美観が著しく損なわれれば、主観的・心理的にその用途に応じた利用ができにくくなる。そのような場合もまた建造物損壊罪にあたると判断されている。
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