第11回 共犯① 共同正犯
問題18、20、21
判例73、74、82、94、95、96
(1)正犯と共犯
1犯罪の定義?
犯罪とは?
構成要件に該当する違法で、かつ有責な行為
1正犯
構成要件とは?
法益を侵害または危殆化する行為の類型
生命を侵害・危殆化する行為を行った(作為・不作為)
殺人(既遂)罪または殺人未遂罪の構成要件該当行為を行った
殺人既遂または殺人未遂を正に(まさに)犯した
→殺人罪または殺人未遂罪の正犯
正犯とは?
構成要件該当行為を行った者
この行為を2人以上の者が共同して行うと、
共同正犯(刑60)になる。
2正犯以外の行為を行う場合
構成要件該当行為以外の行為によって
犯罪結果の発生に関与した場合
構成要件該当該当行為を行っていないので
正犯ではないが、
正犯と共(ともに)に罪を犯しているので、
共犯として処罰される。
しかし、構成要件該当行為以外の行為とはいっても、
その範囲が不特定では? 処罰範囲が不明確なのでは?
刑法は、
教唆(刑61)
幇助(刑62)
この2種類の行為に限り、
共犯として処罰することを明記している。
3共犯=修正された構成要件(例外的な処罰範囲の拡張)
犯罪とは
構成要件に該当する違法で、かつ有責な行為
この行為を行った場合に犯罪として処罰されるのが原則
つまり、正犯が犯罪の原則型
これに対して、
構成要件該当行為以外の行為で、
教唆・幇助に限り、例外的に処罰される。
共犯は犯罪の修正型
処罰範囲は、原則的に構成要件該当行為によって限定。
教唆・幇助に限り、例外的に処罰範囲を拡大・拡張。
ゆえに、共犯は「刑罰(処罰)拡張事由」と言われる。
(2)正犯の基準
1正犯概念の形式性・事実性から実質性・規範性へ
正犯とは?
それを認定する基準は?
客観的正犯論
構成要件該当行為を基準
それ以外の行為を行って、犯罪の実現に関与した場合が共犯
正犯は
構成要件該当行為を「直接」行った者なので、
正犯は「直接正犯」である。
2間接正犯論
構成要件の形式性・類型性・事実性を重視すると、
構成要件該当行為を行った者が正犯であって、
それを行わなかった者は正犯ではない
ということになる
しかし、
他人を利用したり、他人に命令して
構成要件該当行為を行わせた場合、
構成要件該当行為を行ったのが他人であっても、
それを利用した者・それを命じた者が
正犯と認定される場合がある(間接正犯)
医師Xが事情を知らない看護師Aを利用して、
Bに毒入り注射を打たせて殺害した。
殺人罪の構成要件該当行為の形式性・定型性を重視すると、
Bの生命侵害を引き起こしたのはAなので、
Aの行為が殺人罪の構成要件該当行為にあたる。
ただし、Aには殺人罪を犯す意思(故意)はないので、
故意の殺人罪の構成要件該当行為が行われたとはいえない。
あるいは、殺人罪の構成要件該当の違法行為が行われたが、
故意(さらには過失)はなかった。
したがって、Aには殺人罪(また業務上過失致死罪も)不成立。
しかも、Xは殺人罪の構成要件該当行為を行っていないので、
殺人罪を犯す意思はあっても、殺人罪にはあたらない。
さらには、XはAに殺人を唆(そそのか)し、
その実行を決意させてもないので、
殺人罪の教唆にもあたらない。
ようするに、
殺人罪の構成要件該当行為の形式性・事実性を重視すると、
Bが殺害されているにもかかわらず、
Aが無罪になるのは仕方ないとしても、
Xも無罪になってしまう。
このような処罰のすきまを埋めるためには、
殺人罪の構成要件該当行為を行ったのは
Xだと主張できる理論が必要。
構成要件該当行為の形式性・事実性を重視し、
その行為を行ったのは誰かと問うのではなく、
構成要件該当行為を行うとは、どういう意味なのかと、
構成要件該当行為の実質性・価値的意味を重視する。
そうすることで、
直接的には構成要件該当行為を行っていない者でも、
正犯として認定することができるようになる。
それが間接正犯論の狙い。
3正犯概念の拡張と教唆概念の縮小
Yが12才(または14才)の養女Cに窃盗を命じた。
CはD店で数千円の万引きを行った。
Yの命令が絶対的であり、
Cがそれに逆らえない、
または逆らうのが困難な場合、
Cは自分が行っているのが窃盗であるとの認識があっても、
自由な意思決定に基づいて行ったとはえいない。
このような事案に対して間接正犯論を適用すると、
YはCに窃盗を命じて、それを教唆したように見えても、
窃盗罪の構成要件該当行為を間接的に行ったと判断される。
4正犯概念の拡張と幇助概念の拡張
では、Cはどうなるかというと、CはYを手助けしただけ。
つまり、形式的に構成要件該当行為を行っているように見えても、
実質的には正犯を幇助したにすぎない。
Cは客観的にはYの窃盗を幇助したと判断される余地もある。
つまり、間接正犯として処罰される領域が拡張すると、
形式的に正犯とされる行為が幇助として扱われ、
その分だけ幇助の領域る
12才のCは刑事未成年ゆえに責任が阻却され、不処罰(刑法41)。
14才のCは刑事未成年ではないが、適法行為の期待可能性がなく、
超法規的に責任が阻却される。
【74】間接正犯
直接の行為者を構成要件実現のための「道具」として利用した
【73】被害者の行為を利用した殺人
自殺を教唆したように見えても、実は殺人の正犯と判断される場合がある。
→相手の自由意思を完全または著しく抑圧して、「自殺」へと追い込んだ
したがって、正犯を認定する基準としては、
構成要件該当行為という形式的理解では不十分。
行われた事実的な行為を実質的観点から判断して、
構成要件を実現したといえるかどうかを評価する。
(2)共同正犯
1共同正犯
刑法60条
2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
例えば、強盗罪の単独正犯の場合
Xはコンビニ強盗を計画し、
店員Aを刃物で脅し、その隙にレジから現金を奪った。
Xには強盗罪(刑236)が成立する(強盗罪の単独正犯)。
この結論に異論はない。
では、次はどうか。
YとZはコンビニ強盗を計画し、
Yが店員Bを刃物で脅し、
Zがその隙にレジから現金を奪った。
YとZには強盗罪(刑236)が成立するか。
この結論を出すには、
YとZが共同して強盗罪を実行したことを論証しなければならない。
では、
2人以上共同して犯罪を実行する、
とは、どういう意味か。
2「一部実行の全部責任」の原則
YとZは偶然にコンビニにいたのであれば、
YとZは共同して実行したとはいえない。
YはZとは無関係にBを脅した→脅迫罪の(単独)正犯
ZはYと無関係にレジの現金を奪った→窃盗罪の(単独)正犯
しかし、YとZは強盗を計画(共謀)していた。
Yが店員Bを脅したのは、Zがレジの現金を盗むため。
Zがレジの現金を盗んだのは、YがBを脅迫したから。
このようにYとZが強盗罪を実行するために、
強盗を計画し、意思の連絡を取り(共同実行の意思)、
互いに相手の行為を利用しながら、
また、互いに相手の行為を補いながら、
計画を実現した(共同実行の事実)。
このような場合
YとZは共同して強盗罪を実行したといえる。
個別の行為を見ると、Yの行為も、Zの行為も、
単独では強盗罪には当たらないが、
YとZの間に強盗罪を共同して実行する意思があったので、
それぞれの行為は単独で評価するのではなく、
共同して実行されたものとして評価される。
YとZは、強盗罪の構成要件的行為の一部しか分担実行していないが、
その全部に対して責任を負う(一部実行前部責任の原則)。
3共同正犯の成立要件
・共同実行の事実
構成要件該当行為の全部の共同実行または一部の分担実行
・共同実行の意思
共同実行の事前または現場における明示的または黙示的な意思連絡
意思連絡は犯罪結果の認識・予見(故意)だけでなく(故意犯の共同正犯)、
その可能性(過失)も含む(過失犯の共同正犯)。
・共同正犯を故意犯の共同正犯に限る学説(犯罪共同説)もあるが、
→共同正犯は故意犯の共同正犯に限る。
過失犯の共同正犯を認める学説(行為共同説)もある。
→故意犯の共同正犯だけでなく、過失犯の共同正犯も認める。
判例の動向は、
犯罪共同説の立場に立ちながら、
部分的犯罪共同説の見解を採用している。
(3)共同実行の事実の要件の緩和傾向
この要件を厳格に理解する→共同正犯の成立する範囲は限定される
この要件を緩和する→共同正犯の成立する範囲は拡張する
1共謀共同正犯
複数人が、犯罪の実行を共謀した後、
そのうちの一部の者が犯罪の構成要件該当行為の分担実行した場合、
共謀にのみ関与したが、分担実行していない者に対しても、
共同正犯が成立する。
共謀にのみ関与した者については、実行共同正犯ではないが、
共謀共同正犯とよばれる。
犯罪の一部実行の意義を
構成要件該当行為の一部実行より前の共謀の段階にまで緩和する
ただし、刑法60条は実行共同正犯を規定し、
共謀した者を共同正犯として処罰する規定はない。
【75】共謀共同正犯(練馬事件)
【76】共謀共同正犯(スワット事件)
2承継的共同正犯
Xが強盗するためにAを脅迫した。
その後、Yがやって来て、Xから事情を告げられ、
Yは分け前にあずかろうと考え、
Aから財物を奪った。
Xから見れば、
強盗罪の手段行為である脅迫は単独で行い、
その後の財物の強取はYと共同して実行した。
Yから見れば、
財物の奪取だけを共同実行しただけで、
脅迫には関与していない。
しかし、Yはたんに財物の奪取に関与しただけでなく、
Xによる脅迫が行われたことを知りながら、
また財物奪取後には分け前にあずかろうとして、
Xによる脅迫によってAが怯えている状態を利用して、
Aから財物を奪っている。
このような場合、
Yは先行行為者Xによって行われた脅迫を承継し、
Xが単独で行為を開始した時点に遡って、
強盗罪の共同正犯が成立する。
承継的共同正犯は
後行行為者が先行行為者の犯罪に途中から関与した場合、
先行行為者が単独で行為を行ったことを知りながら、
自分の犯罪を行うために、それを利用した場合には、
関与以前の先行行為者の行為を承継し、共同正犯の成立を認める。
関与者の共同正犯の成立範囲を過去に遡らせる
【82】承継的共同正犯
3共犯からの離脱
犯罪を共謀し、その実行に着手する前または着手した後に、
共犯関係から離脱した場合、
離脱の直前までの行為について共同正犯が成立するだけである。
離脱が認められないならば、
離脱を希望した後、共同して実行した事実がなくても、
他の共犯者が行った行為をも含めて共同正犯が成立する。
【94】共犯関係の解消1
【95】共犯関係の解消2
【96】共犯関係の解消3
犯罪の共謀後、
犯罪の実行に着手する前に離脱するためには、
他の共同正犯者に離脱の意思を表示し、その了解を得ればよい。
離脱者は、犯罪の実行に着手する以前に離脱しているので、
予備罪が成立する場合を除いて、何の罪も問われない。
犯罪の実行に着手した後に離脱するためには、
他の共同正犯者に離脱の意思を表示し、その了解を得たうえ、
他の共同正犯者の犯行の継続を阻止することが必要。
その後、他の共犯者が継続を継続した場合、
離脱はできないので、既遂犯の共同正犯が成立する。
共犯関係の解消(共犯からの離脱)は、
複数人によって犯罪を共謀したことによって、
犯罪遂行の意思(心理的因果性)が強化されたので、
犯罪の実行の着手前に、
共犯から離脱するためには、そこから抜け出すだけでは足りず、
強化された犯罪の意思をリセットする必要がある(着手前)。
犯罪の実行の着手後は、
結果発生の危険性(物理的因果性)を除去する必要がある(着手後)。
このように共犯からの離脱は、
犯罪の実行の着手の前後で2類型に分けて論じられるが、
共犯関係の解消が認められるために重要なのは、
共謀により生じた心理的・物理的因果性を除去すること。
実行の着手前であっても、他の共犯者の犯行の継続を阻止し、
結果発生の危険性を除去する必要がある場合もある。
(4)共同実行の意思の要件の緩和傾向
共同正犯とは、2人以上の者が、共同して犯罪を実行することである。
1犯罪共同説と行為共同説
「犯罪を共同して実行する」ということは、
客観的に共同実行の事実があるというだけでなく、
主観的にも共同実行の意思があるということである。
この意思は、「犯罪の故意」を指すならば、
共同正犯とは、常に「故意犯の共同正犯」である。
そうすると、
共同正犯として成立する犯罪の名称は同一である。
従って、過失犯の共同正犯のようなもの、
異なる犯罪(強盗罪と窃盗罪)の共同正犯などありえない。
このような共同正犯の理解を「犯罪共同説」という。
XとYは、ビルの解体作業を共同して行っていた。
XもYもそれぞれ安全確認を怠って、がれきを落とした。
その結果通行人にけがを負わせた。
しかし、誰が落としたがれきによって負傷したかは不明であった。
業務上過失致傷罪の共同正犯?
それとも各々が単独正犯?(因果関係の証明が必要)
しかし、裁判例では、過失犯の共同正犯を認めるものがある。
共同実行の意思を犯罪結果の認識・予見(故意)に限定せず、
その可能性(過失)にまで緩和している。
2人以上の者が、一定の行為を共同して行っている認識があれば、
そこから犯罪的結果が生ずることを認識・予見している必要はない。
つまり、共同正犯は、「犯罪の共同」ではなく、「行為の共同」。
ただし、一定の共同行為から犯罪的結果が発生することを
予見すべき共同の義務、結果を回避すべき共同の義務は必要。
このような場合、過失犯の共同正犯は認められる。
これを「行為共同説」という。
2部分的犯罪共同説
共同実行の意思の意義について、
犯罪共同説と行為共同説の間で対立がある。
下級審では行為共同説の立場に立った事案もある。
では、共犯者間において認識の食い違いがある場合、
どのように扱われているか。
例えば、
Xは殺人罪の故意に基づき、
Yには保護責任者遺棄の故意に基づく、
両者で共同して被害者を放置し、死亡させた場合、
行為共同説の立場からは、
Xには殺人罪、Yには保護責任者遺棄致死罪が成立し、
両者は共同正犯になる。
犯罪共同説からは、
共同正犯は成立しない。
それぞれの行為と死亡の間に因果関係がみとめられれば、
Xには殺人罪の単独正犯、
Yには保護責任者遺棄罪の単独正犯が成立する。
ただし、判例は、部分的犯罪共同説の立場から問題を扱っている。
殺人罪と保護責任者遺棄致死罪(いずれも不作為による)は、
保護責任者遺棄致死罪の構成要件の範囲において重なり合っているので、
XとYには保護責任者遺棄致死罪の共同正犯が成立する。
さらに、Xには殺人罪の単独の正犯が成立し、
Xの保護責任者遺棄致死罪と殺人罪は観念的競合になる。
このように部分的犯罪共同説の立場から扱っている。
3結果的加重犯の共同正犯
結果的加重犯とは、
故意に基本犯を行い、
そこから加重結果が発生した場合の犯罪
判例は、基本犯と加重結果の因果関係を要するが、
加重結果については予見可能性は不要とする。
典型例 傷害致死罪
2人以上の者は、共同して暴行または傷害を行い、
そこから死亡結果を発生させた。
傷害罪と死亡との因果関係があり、
基本犯である傷害罪の故意があれば(致死結果の予見可能性は不要)
傷害致死罪の共同正犯が成立する(判例の見解)。
判例は、結果的加重犯を「故意犯」と解しているので、
過失犯の共同正犯を認めない犯罪共同説からは、
傷害致死罪の共同正犯の成立は問題なく認められる。
ただし、
学説は、加重結果の部分について予見可能性を必要と解するので、
結果的加重犯を「故意犯+過失犯」と考える。
そうすると、
学説からは、傷害致死罪の共同正犯の成立には、
2人以上の者が、致死結果につき共同の予見可能性が必要となる。
判例が、それを不要としているのは、
共同実行の意思の要件を緩和することになる。
【79】結果的加重犯の共同正犯
4過失犯の共同正犯
共同正犯は、
2人以上の者が共同して犯罪を実行することである。
この「共同して実行する」という意味は、
相互に犯罪を実行する意思(故意犯の共同実行の意思)だけでなく、
一定の行為を共同して実行する意思(事実的な行為の共同実行の意思)も
含まれる。
この行為を共同実行する際に、
2人以上の者に犯罪結果の予見可能性があり、
それを回避する義務が課されていたにもかかわらず、
それを怠って結果を発生させた場合には、
過失犯の共同正犯が成立する。
これは行為共同説からの説明である。
【80】過失犯の共同正犯
4片面的共同正犯
片面的共同正犯
2人以上の者が客観的には共同して行為を行っているが、
共同実行の意思が一方の者にしかなく、
他の者にはその意思がない場合を片面的共同正犯という。
判例は、
共同実行の意思とは、
2人以上の者の間の「意思の連絡」(意思の共有)を意味するので、
その意思が一方の者にしかない場合には、
共同正犯はありえないので、
片面的共同正犯を否定している。
ただし、片面的な共犯(幇助犯)については認めている。
例えば、Y
がAを狙って銃の引き金を引こうとしていた。
それを察知したXは、別の場所からXに銃を向け、
Yが引き金を引いた瞬間、Xも引き金を引いた。
Xは銃弾を受け、死亡した。しかし、
その弾丸はXが発射したものか、Yが発射したものか、
明らかではなかった。
判例は、片面的共同正犯を認めないので、
死亡結果と因果関係が成立する行為者にだけ
殺人既遂罪の単独正犯の成立を認め、
因果関係が成立しない行為には、
殺人未遂罪の単独正犯が成立しか認めない。
Yの弾丸が命中してAが死亡した場合、
Yには殺人既遂罪の単独正犯が成立し、
Xには殺人未遂罪の単独正犯しか成立しない。
これに対して、片面的共同正犯を認め立場からは、
Yの銃弾が命中してAが死亡したことが判明し場合、
たとえ、Yの銃弾が命中して死亡したことが明らかで、
Xの弾丸がはずれたことが明らかであっても、
Yに殺人既遂罪の単独正犯の成立を認めながら、
Xには殺人既遂罪の共同正犯の成立を認めることができる。
【85】片面的幇助
(3)判例で問題になった事案(前掲判例番号参照)
問題18、20、21
判例73、74、82、94、95、96
(1)正犯と共犯
1犯罪の定義?
犯罪とは?
構成要件に該当する違法で、かつ有責な行為
1正犯
構成要件とは?
法益を侵害または危殆化する行為の類型
生命を侵害・危殆化する行為を行った(作為・不作為)
殺人(既遂)罪または殺人未遂罪の構成要件該当行為を行った
殺人既遂または殺人未遂を正に(まさに)犯した
→殺人罪または殺人未遂罪の正犯
正犯とは?
構成要件該当行為を行った者
この行為を2人以上の者が共同して行うと、
共同正犯(刑60)になる。
2正犯以外の行為を行う場合
構成要件該当行為以外の行為によって
犯罪結果の発生に関与した場合
構成要件該当該当行為を行っていないので
正犯ではないが、
正犯と共(ともに)に罪を犯しているので、
共犯として処罰される。
しかし、構成要件該当行為以外の行為とはいっても、
その範囲が不特定では? 処罰範囲が不明確なのでは?
刑法は、
教唆(刑61)
幇助(刑62)
この2種類の行為に限り、
共犯として処罰することを明記している。
3共犯=修正された構成要件(例外的な処罰範囲の拡張)
犯罪とは
構成要件に該当する違法で、かつ有責な行為
この行為を行った場合に犯罪として処罰されるのが原則
つまり、正犯が犯罪の原則型
これに対して、
構成要件該当行為以外の行為で、
教唆・幇助に限り、例外的に処罰される。
共犯は犯罪の修正型
処罰範囲は、原則的に構成要件該当行為によって限定。
教唆・幇助に限り、例外的に処罰範囲を拡大・拡張。
ゆえに、共犯は「刑罰(処罰)拡張事由」と言われる。
(2)正犯の基準
1正犯概念の形式性・事実性から実質性・規範性へ
正犯とは?
それを認定する基準は?
客観的正犯論
構成要件該当行為を基準
それ以外の行為を行って、犯罪の実現に関与した場合が共犯
正犯は
構成要件該当行為を「直接」行った者なので、
正犯は「直接正犯」である。
2間接正犯論
構成要件の形式性・類型性・事実性を重視すると、
構成要件該当行為を行った者が正犯であって、
それを行わなかった者は正犯ではない
ということになる
しかし、
他人を利用したり、他人に命令して
構成要件該当行為を行わせた場合、
構成要件該当行為を行ったのが他人であっても、
それを利用した者・それを命じた者が
正犯と認定される場合がある(間接正犯)
医師Xが事情を知らない看護師Aを利用して、
Bに毒入り注射を打たせて殺害した。
殺人罪の構成要件該当行為の形式性・定型性を重視すると、
Bの生命侵害を引き起こしたのはAなので、
Aの行為が殺人罪の構成要件該当行為にあたる。
ただし、Aには殺人罪を犯す意思(故意)はないので、
故意の殺人罪の構成要件該当行為が行われたとはいえない。
あるいは、殺人罪の構成要件該当の違法行為が行われたが、
故意(さらには過失)はなかった。
したがって、Aには殺人罪(また業務上過失致死罪も)不成立。
しかも、Xは殺人罪の構成要件該当行為を行っていないので、
殺人罪を犯す意思はあっても、殺人罪にはあたらない。
さらには、XはAに殺人を唆(そそのか)し、
その実行を決意させてもないので、
殺人罪の教唆にもあたらない。
ようするに、
殺人罪の構成要件該当行為の形式性・事実性を重視すると、
Bが殺害されているにもかかわらず、
Aが無罪になるのは仕方ないとしても、
Xも無罪になってしまう。
このような処罰のすきまを埋めるためには、
殺人罪の構成要件該当行為を行ったのは
Xだと主張できる理論が必要。
構成要件該当行為の形式性・事実性を重視し、
その行為を行ったのは誰かと問うのではなく、
構成要件該当行為を行うとは、どういう意味なのかと、
構成要件該当行為の実質性・価値的意味を重視する。
そうすることで、
直接的には構成要件該当行為を行っていない者でも、
正犯として認定することができるようになる。
それが間接正犯論の狙い。
3正犯概念の拡張と教唆概念の縮小
Yが12才(または14才)の養女Cに窃盗を命じた。
CはD店で数千円の万引きを行った。
Yの命令が絶対的であり、
Cがそれに逆らえない、
または逆らうのが困難な場合、
Cは自分が行っているのが窃盗であるとの認識があっても、
自由な意思決定に基づいて行ったとはえいない。
このような事案に対して間接正犯論を適用すると、
YはCに窃盗を命じて、それを教唆したように見えても、
窃盗罪の構成要件該当行為を間接的に行ったと判断される。
4正犯概念の拡張と幇助概念の拡張
では、Cはどうなるかというと、CはYを手助けしただけ。
つまり、形式的に構成要件該当行為を行っているように見えても、
実質的には正犯を幇助したにすぎない。
Cは客観的にはYの窃盗を幇助したと判断される余地もある。
つまり、間接正犯として処罰される領域が拡張すると、
形式的に正犯とされる行為が幇助として扱われ、
その分だけ幇助の領域る
12才のCは刑事未成年ゆえに責任が阻却され、不処罰(刑法41)。
14才のCは刑事未成年ではないが、適法行為の期待可能性がなく、
超法規的に責任が阻却される。
【74】間接正犯
直接の行為者を構成要件実現のための「道具」として利用した
【73】被害者の行為を利用した殺人
自殺を教唆したように見えても、実は殺人の正犯と判断される場合がある。
→相手の自由意思を完全または著しく抑圧して、「自殺」へと追い込んだ
したがって、正犯を認定する基準としては、
構成要件該当行為という形式的理解では不十分。
行われた事実的な行為を実質的観点から判断して、
構成要件を実現したといえるかどうかを評価する。
(2)共同正犯
1共同正犯
刑法60条
2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
例えば、強盗罪の単独正犯の場合
Xはコンビニ強盗を計画し、
店員Aを刃物で脅し、その隙にレジから現金を奪った。
Xには強盗罪(刑236)が成立する(強盗罪の単独正犯)。
この結論に異論はない。
では、次はどうか。
YとZはコンビニ強盗を計画し、
Yが店員Bを刃物で脅し、
Zがその隙にレジから現金を奪った。
YとZには強盗罪(刑236)が成立するか。
この結論を出すには、
YとZが共同して強盗罪を実行したことを論証しなければならない。
では、
2人以上共同して犯罪を実行する、
とは、どういう意味か。
2「一部実行の全部責任」の原則
YとZは偶然にコンビニにいたのであれば、
YとZは共同して実行したとはいえない。
YはZとは無関係にBを脅した→脅迫罪の(単独)正犯
ZはYと無関係にレジの現金を奪った→窃盗罪の(単独)正犯
しかし、YとZは強盗を計画(共謀)していた。
Yが店員Bを脅したのは、Zがレジの現金を盗むため。
Zがレジの現金を盗んだのは、YがBを脅迫したから。
このようにYとZが強盗罪を実行するために、
強盗を計画し、意思の連絡を取り(共同実行の意思)、
互いに相手の行為を利用しながら、
また、互いに相手の行為を補いながら、
計画を実現した(共同実行の事実)。
このような場合
YとZは共同して強盗罪を実行したといえる。
個別の行為を見ると、Yの行為も、Zの行為も、
単独では強盗罪には当たらないが、
YとZの間に強盗罪を共同して実行する意思があったので、
それぞれの行為は単独で評価するのではなく、
共同して実行されたものとして評価される。
YとZは、強盗罪の構成要件的行為の一部しか分担実行していないが、
その全部に対して責任を負う(一部実行前部責任の原則)。
3共同正犯の成立要件
・共同実行の事実
構成要件該当行為の全部の共同実行または一部の分担実行
・共同実行の意思
共同実行の事前または現場における明示的または黙示的な意思連絡
意思連絡は犯罪結果の認識・予見(故意)だけでなく(故意犯の共同正犯)、
その可能性(過失)も含む(過失犯の共同正犯)。
・共同正犯を故意犯の共同正犯に限る学説(犯罪共同説)もあるが、
→共同正犯は故意犯の共同正犯に限る。
過失犯の共同正犯を認める学説(行為共同説)もある。
→故意犯の共同正犯だけでなく、過失犯の共同正犯も認める。
判例の動向は、
犯罪共同説の立場に立ちながら、
部分的犯罪共同説の見解を採用している。
(3)共同実行の事実の要件の緩和傾向
この要件を厳格に理解する→共同正犯の成立する範囲は限定される
この要件を緩和する→共同正犯の成立する範囲は拡張する
1共謀共同正犯
複数人が、犯罪の実行を共謀した後、
そのうちの一部の者が犯罪の構成要件該当行為の分担実行した場合、
共謀にのみ関与したが、分担実行していない者に対しても、
共同正犯が成立する。
共謀にのみ関与した者については、実行共同正犯ではないが、
共謀共同正犯とよばれる。
犯罪の一部実行の意義を
構成要件該当行為の一部実行より前の共謀の段階にまで緩和する
ただし、刑法60条は実行共同正犯を規定し、
共謀した者を共同正犯として処罰する規定はない。
【75】共謀共同正犯(練馬事件)
【76】共謀共同正犯(スワット事件)
2承継的共同正犯
Xが強盗するためにAを脅迫した。
その後、Yがやって来て、Xから事情を告げられ、
Yは分け前にあずかろうと考え、
Aから財物を奪った。
Xから見れば、
強盗罪の手段行為である脅迫は単独で行い、
その後の財物の強取はYと共同して実行した。
Yから見れば、
財物の奪取だけを共同実行しただけで、
脅迫には関与していない。
しかし、Yはたんに財物の奪取に関与しただけでなく、
Xによる脅迫が行われたことを知りながら、
また財物奪取後には分け前にあずかろうとして、
Xによる脅迫によってAが怯えている状態を利用して、
Aから財物を奪っている。
このような場合、
Yは先行行為者Xによって行われた脅迫を承継し、
Xが単独で行為を開始した時点に遡って、
強盗罪の共同正犯が成立する。
承継的共同正犯は
後行行為者が先行行為者の犯罪に途中から関与した場合、
先行行為者が単独で行為を行ったことを知りながら、
自分の犯罪を行うために、それを利用した場合には、
関与以前の先行行為者の行為を承継し、共同正犯の成立を認める。
関与者の共同正犯の成立範囲を過去に遡らせる
【82】承継的共同正犯
3共犯からの離脱
犯罪を共謀し、その実行に着手する前または着手した後に、
共犯関係から離脱した場合、
離脱の直前までの行為について共同正犯が成立するだけである。
離脱が認められないならば、
離脱を希望した後、共同して実行した事実がなくても、
他の共犯者が行った行為をも含めて共同正犯が成立する。
【94】共犯関係の解消1
【95】共犯関係の解消2
【96】共犯関係の解消3
犯罪の共謀後、
犯罪の実行に着手する前に離脱するためには、
他の共同正犯者に離脱の意思を表示し、その了解を得ればよい。
離脱者は、犯罪の実行に着手する以前に離脱しているので、
予備罪が成立する場合を除いて、何の罪も問われない。
犯罪の実行に着手した後に離脱するためには、
他の共同正犯者に離脱の意思を表示し、その了解を得たうえ、
他の共同正犯者の犯行の継続を阻止することが必要。
その後、他の共犯者が継続を継続した場合、
離脱はできないので、既遂犯の共同正犯が成立する。
共犯関係の解消(共犯からの離脱)は、
複数人によって犯罪を共謀したことによって、
犯罪遂行の意思(心理的因果性)が強化されたので、
犯罪の実行の着手前に、
共犯から離脱するためには、そこから抜け出すだけでは足りず、
強化された犯罪の意思をリセットする必要がある(着手前)。
犯罪の実行の着手後は、
結果発生の危険性(物理的因果性)を除去する必要がある(着手後)。
このように共犯からの離脱は、
犯罪の実行の着手の前後で2類型に分けて論じられるが、
共犯関係の解消が認められるために重要なのは、
共謀により生じた心理的・物理的因果性を除去すること。
実行の着手前であっても、他の共犯者の犯行の継続を阻止し、
結果発生の危険性を除去する必要がある場合もある。
(4)共同実行の意思の要件の緩和傾向
共同正犯とは、2人以上の者が、共同して犯罪を実行することである。
1犯罪共同説と行為共同説
「犯罪を共同して実行する」ということは、
客観的に共同実行の事実があるというだけでなく、
主観的にも共同実行の意思があるということである。
この意思は、「犯罪の故意」を指すならば、
共同正犯とは、常に「故意犯の共同正犯」である。
そうすると、
共同正犯として成立する犯罪の名称は同一である。
従って、過失犯の共同正犯のようなもの、
異なる犯罪(強盗罪と窃盗罪)の共同正犯などありえない。
このような共同正犯の理解を「犯罪共同説」という。
XとYは、ビルの解体作業を共同して行っていた。
XもYもそれぞれ安全確認を怠って、がれきを落とした。
その結果通行人にけがを負わせた。
しかし、誰が落としたがれきによって負傷したかは不明であった。
業務上過失致傷罪の共同正犯?
それとも各々が単独正犯?(因果関係の証明が必要)
しかし、裁判例では、過失犯の共同正犯を認めるものがある。
共同実行の意思を犯罪結果の認識・予見(故意)に限定せず、
その可能性(過失)にまで緩和している。
2人以上の者が、一定の行為を共同して行っている認識があれば、
そこから犯罪的結果が生ずることを認識・予見している必要はない。
つまり、共同正犯は、「犯罪の共同」ではなく、「行為の共同」。
ただし、一定の共同行為から犯罪的結果が発生することを
予見すべき共同の義務、結果を回避すべき共同の義務は必要。
このような場合、過失犯の共同正犯は認められる。
これを「行為共同説」という。
2部分的犯罪共同説
共同実行の意思の意義について、
犯罪共同説と行為共同説の間で対立がある。
下級審では行為共同説の立場に立った事案もある。
では、共犯者間において認識の食い違いがある場合、
どのように扱われているか。
例えば、
Xは殺人罪の故意に基づき、
Yには保護責任者遺棄の故意に基づく、
両者で共同して被害者を放置し、死亡させた場合、
行為共同説の立場からは、
Xには殺人罪、Yには保護責任者遺棄致死罪が成立し、
両者は共同正犯になる。
犯罪共同説からは、
共同正犯は成立しない。
それぞれの行為と死亡の間に因果関係がみとめられれば、
Xには殺人罪の単独正犯、
Yには保護責任者遺棄罪の単独正犯が成立する。
ただし、判例は、部分的犯罪共同説の立場から問題を扱っている。
殺人罪と保護責任者遺棄致死罪(いずれも不作為による)は、
保護責任者遺棄致死罪の構成要件の範囲において重なり合っているので、
XとYには保護責任者遺棄致死罪の共同正犯が成立する。
さらに、Xには殺人罪の単独の正犯が成立し、
Xの保護責任者遺棄致死罪と殺人罪は観念的競合になる。
このように部分的犯罪共同説の立場から扱っている。
3結果的加重犯の共同正犯
結果的加重犯とは、
故意に基本犯を行い、
そこから加重結果が発生した場合の犯罪
判例は、基本犯と加重結果の因果関係を要するが、
加重結果については予見可能性は不要とする。
典型例 傷害致死罪
2人以上の者は、共同して暴行または傷害を行い、
そこから死亡結果を発生させた。
傷害罪と死亡との因果関係があり、
基本犯である傷害罪の故意があれば(致死結果の予見可能性は不要)
傷害致死罪の共同正犯が成立する(判例の見解)。
判例は、結果的加重犯を「故意犯」と解しているので、
過失犯の共同正犯を認めない犯罪共同説からは、
傷害致死罪の共同正犯の成立は問題なく認められる。
ただし、
学説は、加重結果の部分について予見可能性を必要と解するので、
結果的加重犯を「故意犯+過失犯」と考える。
そうすると、
学説からは、傷害致死罪の共同正犯の成立には、
2人以上の者が、致死結果につき共同の予見可能性が必要となる。
判例が、それを不要としているのは、
共同実行の意思の要件を緩和することになる。
【79】結果的加重犯の共同正犯
4過失犯の共同正犯
共同正犯は、
2人以上の者が共同して犯罪を実行することである。
この「共同して実行する」という意味は、
相互に犯罪を実行する意思(故意犯の共同実行の意思)だけでなく、
一定の行為を共同して実行する意思(事実的な行為の共同実行の意思)も
含まれる。
この行為を共同実行する際に、
2人以上の者に犯罪結果の予見可能性があり、
それを回避する義務が課されていたにもかかわらず、
それを怠って結果を発生させた場合には、
過失犯の共同正犯が成立する。
これは行為共同説からの説明である。
【80】過失犯の共同正犯
4片面的共同正犯
片面的共同正犯
2人以上の者が客観的には共同して行為を行っているが、
共同実行の意思が一方の者にしかなく、
他の者にはその意思がない場合を片面的共同正犯という。
判例は、
共同実行の意思とは、
2人以上の者の間の「意思の連絡」(意思の共有)を意味するので、
その意思が一方の者にしかない場合には、
共同正犯はありえないので、
片面的共同正犯を否定している。
ただし、片面的な共犯(幇助犯)については認めている。
例えば、Y
がAを狙って銃の引き金を引こうとしていた。
それを察知したXは、別の場所からXに銃を向け、
Yが引き金を引いた瞬間、Xも引き金を引いた。
Xは銃弾を受け、死亡した。しかし、
その弾丸はXが発射したものか、Yが発射したものか、
明らかではなかった。
判例は、片面的共同正犯を認めないので、
死亡結果と因果関係が成立する行為者にだけ
殺人既遂罪の単独正犯の成立を認め、
因果関係が成立しない行為には、
殺人未遂罪の単独正犯が成立しか認めない。
Yの弾丸が命中してAが死亡した場合、
Yには殺人既遂罪の単独正犯が成立し、
Xには殺人未遂罪の単独正犯しか成立しない。
これに対して、片面的共同正犯を認め立場からは、
Yの銃弾が命中してAが死亡したことが判明し場合、
たとえ、Yの銃弾が命中して死亡したことが明らかで、
Xの弾丸がはずれたことが明らかであっても、
Yに殺人既遂罪の単独正犯の成立を認めながら、
Xには殺人既遂罪の共同正犯の成立を認めることができる。
【85】片面的幇助
(3)判例で問題になった事案(前掲判例番号参照)