Q 授業の最後に扱った事例の論点の中に緊急避難の法的性質というものがあり、これが何を指すのか疑問に思ったため質問させていただきます。
教科書で調べたところ、緊急避難の法的性質については、違法性阻却事由説、責任阻却事由説、違法性阻却・責任阻却二分説の3つがあり、通説は違法性阻却事由説だとありました。
ある人が現在の危難を避けるため、第3者に緊急避難をした場合、第3者はそれに対して正当防衛できるかという問題がありますが、それぞれの説では見解が異なります。
緊急避難の法的性質が責任阻却にあるとすると、その行為は違法であるので、第3者は正当防衛することができることになります。しかし、それは事実上、緊急避難を空洞化させることになり妥当ではありません。違法性阻却事由説からは、違法性が阻却されるので、第3者は正当防衛できませんが、緊急避難ができる余地はあります。このような理解で間違いないでしょうか。
また別の話になりますが、避難行為が過剰であった場合、過剰避難ゆえに、違法性阻却事由説からも違法な行為になるので、それに対する正当防衛というのは可能でしょうか。
A 緊急避難の法的性質をめぐって、上記の3説があります。現在は、違法性阻却説(一元説)が通説です。
カルネアディスの板の事例で考えてみましょう。船が難破し、XとYが洋上を漂流していたところ、一枚の板を発見した。その板は、2人が手にすると沈んでしまうほど小さく薄かった。Yはその板を取ろうとした。すると、XはYの手を払いのけた。Xの行為は、Yの溺死を生じさせる危険な行為であった。Xは生き延び、Yは溺死した。
Xの行為は殺人罪の構成要件に該当する行為です。難破し漂流していたため、Xの生命に対して現在の危難を認めることができます。それを避けるために、板を自分のところに引き寄せたことは、避難の意思に基づく行為であり、補充性が認められます。では、法益の均衡はどうでしょうか。生じた害(侵害法益)が避けようとした害(保全法益)の程度を超えておらず、保全法益は優越していませんが、避難目的の正当性、避難行為の補充性、法益の同価値性を総合的に考慮して、違法性阻却一元説からは、違法性を阻却することができると考えられています。あるいは、違法性は完全に阻却されないが、法益を保全した分については違法性が減少するので、減少した結果、残った違法性が可罰的な程度を下回るために、処罰されないと考えることもできます(可罰的違法性阻却事由説)。
これに対して、二分説からは、法益同価値の場合、生じた害(侵害法益)が避けようとした害(保全法益)の程度を超えていなかったとは言えないため、適法とはいえません。従って、違法と言わざるを得ません。ただし、それ以外の適法行為を選択することは、もはや法の見地から期待することは不可能であったので、(超法規的に)責任を阻却することができます。
教科書で調べたところ、緊急避難の法的性質については、違法性阻却事由説、責任阻却事由説、違法性阻却・責任阻却二分説の3つがあり、通説は違法性阻却事由説だとありました。
ある人が現在の危難を避けるため、第3者に緊急避難をした場合、第3者はそれに対して正当防衛できるかという問題がありますが、それぞれの説では見解が異なります。
緊急避難の法的性質が責任阻却にあるとすると、その行為は違法であるので、第3者は正当防衛することができることになります。しかし、それは事実上、緊急避難を空洞化させることになり妥当ではありません。違法性阻却事由説からは、違法性が阻却されるので、第3者は正当防衛できませんが、緊急避難ができる余地はあります。このような理解で間違いないでしょうか。
また別の話になりますが、避難行為が過剰であった場合、過剰避難ゆえに、違法性阻却事由説からも違法な行為になるので、それに対する正当防衛というのは可能でしょうか。
A 緊急避難の法的性質をめぐって、上記の3説があります。現在は、違法性阻却説(一元説)が通説です。
カルネアディスの板の事例で考えてみましょう。船が難破し、XとYが洋上を漂流していたところ、一枚の板を発見した。その板は、2人が手にすると沈んでしまうほど小さく薄かった。Yはその板を取ろうとした。すると、XはYの手を払いのけた。Xの行為は、Yの溺死を生じさせる危険な行為であった。Xは生き延び、Yは溺死した。
Xの行為は殺人罪の構成要件に該当する行為です。難破し漂流していたため、Xの生命に対して現在の危難を認めることができます。それを避けるために、板を自分のところに引き寄せたことは、避難の意思に基づく行為であり、補充性が認められます。では、法益の均衡はどうでしょうか。生じた害(侵害法益)が避けようとした害(保全法益)の程度を超えておらず、保全法益は優越していませんが、避難目的の正当性、避難行為の補充性、法益の同価値性を総合的に考慮して、違法性阻却一元説からは、違法性を阻却することができると考えられています。あるいは、違法性は完全に阻却されないが、法益を保全した分については違法性が減少するので、減少した結果、残った違法性が可罰的な程度を下回るために、処罰されないと考えることもできます(可罰的違法性阻却事由説)。
これに対して、二分説からは、法益同価値の場合、生じた害(侵害法益)が避けようとした害(保全法益)の程度を超えていなかったとは言えないため、適法とはいえません。従って、違法と言わざるを得ません。ただし、それ以外の適法行為を選択することは、もはや法の見地から期待することは不可能であったので、(超法規的に)責任を阻却することができます。