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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(04)講義資料

2020-10-19 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 個人的法益に対する罪――財産犯
 第04週 窃盗の罪

(1)窃盗の罪
他人の「財物」の窃取 犯罪の典型例

 他人の「不動産」の「侵脱」の罪を追加(昭和35年)
 不動産は「財物」ではない。侵奪じゃ窃盗罪の「窃取」に相当。
 ゆえに財物は「動産」を指す(物理的に移転可能な有体物)。

(2)窃盗罪
 第36章 窃盗及び強盗の罪
(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

1客体
・他人の財物
 他人が現実的に支配している財物(占有している財物)
 支配・占有できる財物とは、有体物をいう(有体性説)

 ただし、窃盗・強盗の場合、
 電気は財物と見なされる(刑法245条)。
 窃盗罪・強盗罪の客体は
 原則的に占有・移転される財物(有体性説)と、
 例外として、物理的に管理できる電気(管理可能性説)

 では、電気以外のエネルギーや情報などは?
 物理的に管理可能なものであっても、
 刑法に明文化されていない以上、
 それを窃取しても窃盗罪にはあたらない
 ただし、民事法上の不法行為や債務不履行などにあたる。
 また、不正競争防止法の企業秘密として保護される場合がある。

・他人の財物 「他人の」とは、どのような意味か?
 窃盗罪の保護法益は何か?
 財物の所有権・その他の本権(本権説からの説明)
 所有権が及ばない物でも、占有それ自体が保護される(占有説の説明)
 判例 占有説(とくに、平穏な占有、合理的理由のある占有)

・自己の財物
 自己の財物を「窃取」した場合でも、窃盗罪が成立するか?
 窃盗罪 他人の財物の窃取
 しかし、自己の所有物であっても窃盗の客体になりうる(刑242)
 なぜか?
 窃盗罪は財物の所有権を侵害する行為であるが(本権説からの説明)、
 例外的に自己の財物でも窃盗罪が成立する場合がある
 刑法242条は「例外規定」として理解される。

 占有説からは、
 窃盗罪は、他人による財物の占有を侵害する行為であり、
 自己の財物であっても、それを他人が占有している場合には
 窃盗罪が成立する。
 刑法242条はこのように注意喚起する規定(注意規定として理解)。


2占有
 他人の財物と「他人が所有する財物」と解する本権説からも、
 本権の侵害は占有侵害を通じて行われることを認めるので、
 財物の占有の意義について正確に理解しておくことが求められる。

・占有とは、財物に対する事実上の支配である。
 事実上の支配が及んでいない財物は
 遺失物・占有離脱物横領罪(刑254)の行為客体
 遺失物横領罪は財物の占有を侵害しない行為であるが、
 なぜ処罰されるかというと、所有権が侵害されるから。
 占有から離脱している財物であっても、
 所有権は及んでいる。

・占有の存否
 財物に対する事実上の意味は?
 被害者の自宅内など閉鎖的な領域において失われた財物の占有は?
 被害者の自宅前・公道に置かれた財物(自転車など)の占有は?
 不特定・多数の人が出入りする公共の場所に置かれた財物の占有は?

・占有された財物が他人の占有へ移転した時期の判断基準
 旅館内で紛失した財物→旅館主の占有へ
 ゴルフ場のロストボール→ゴルフ場管理者の占有へ
 自由に出入り委可能な電車の網棚に忘れられた物→遺失物

・占有の帰属
 2人以上の者による財物の共同占有
 Aがその財物を持ち逃げした→Bの占有を侵害=窃盗罪の成立

 上下関係・主従関係(店長と店員)
 店長が財物の占有の主体であり、店員はその補助者。
 店員が財物を持ち逃げした場合、窃盗罪が成立

 封緘物(ふうかんぶつ)の内容物(宅配物の中身)
 配達係員が宅配物を丸ごと持ち逃げした→
 配達係員が宅配物の中身だけを持ち逃げした→

・死者の占有
 窃盗罪の客体
 自然人により占有された財物

 死者は自然人ではない。ゆえに財物を所有・占有しえない。
 死者が身につけているの財物を奪う行為は、
 死者による財物の占有は認められないので、窃盗罪にあたらない。

 では、殺害の直後に、その現場で、被害者から財物を窃取した場合は?
 殺人と窃取の時間的・場所的近接性に着目すると、
 殺害前の被害者(自然人)の占有の要保護性が
 死後も継続していると見なされる→窃盗罪が成立。
 時間的・場所的な近接性が失われると、占有離脱物の横領。


3窃取
 窃取 窃盗罪の実行行為
 それは、
 占有者の意思に反して、占有する財物を自己の支配領域に移転すること

 強盗の強取  暴行・脅迫を手段とした財物の窃取
 詐欺罪の詐取 錯誤に陥った被害者による財物の交付、それによる財物の取得
 恐喝罪の喝取 脅迫された被害者による財物の交付、それによる財物の取得


4未遂と既遂
 窃盗罪の着手時期
 住居侵入後の窃盗事例における窃盗の着手時期=物色行為

 窃盗罪の既遂時期
 占有の取得(財物を自己の支配領域内へ移転させた時点)
 財物の形状(大小、軽重などを考慮に入れる)
 コンビニやスーパーなどでの万引きの事案
 代金を払わずに、レジの脇を通って袋詰め台に行った時点

5窃盗罪の故意
 他人の財物を窃取する認識→故意

 さらに、不法領得の意思が必要
 不法領得の意思とは、
 判例によれば、
 権利者を排除して(権利者排除意思)、
 その財物の経済的用法に基づいて利用・処分する意思(経済的利用・処分意思)

 例えば、
 財物の占有移を転後した後、それを破壊した行為は、
 不法領得の意思に基づいていないので、
 窃盗罪は成立しない。
 窃盗罪の客観的要件を満たし、
 その認識(故意)もあるが、
 不法領得の意思を満たしていないので、
 窃盗罪は不成立。

 なぜ、不法領得の意思という主観的要件が必要なのか?
・他人が占有する財物を破壊した→器物損壊罪
 他人が占有する財物を自己の支配領域内へ移転した後、
 それを破壊した→窃盗罪? それとも器物損壊罪?
 なぜか?
 窃盗罪の主観的成立要件は、
 財物の窃取の認識(故意)だけでなく、
 財物を不法に領得する意思が必要。

 具体的に問題になるのは、
 使用窃盗の事例
 占有を一時的に侵害した後、それを元の場所に戻した。
 権利者を排除する意思があたっとは言えないのではないか?

 毀棄・隠匿目的に基づく財物の占有移転
 財物の経済的用法に従って使用・収益・処分の意思があったとは言えないのでは?


(3)不動産侵奪罪
(不動産侵奪)
第235条の2 他人の不動産を侵奪した者は、10年以下の懲役に処する。

1立法の経緯
 昭和35年 土地の不法占拠事件(梅田村事件)

2客体
・不動産窃盗の処罰の必要性
 他人の占有する他人の土地(不動産)
 窃盗罪の行為客体 財物=有体物=動産

 1950年代末まで不動産の窃盗は不可罰な状態にあった
 不動産侵脱奪罪の創設の必要性

・不動産強盗の処罰は?
 暴行・脅迫を用いた「財物の窃取(強取)」=(財物)強盗罪
 では、暴行・脅迫を用いた不動産の侵奪は? 不動産強盗?
 強盗罪の行為客体に不動産は入れる明示的な規定はない。
 従って、暴行・脅迫罪と不動案侵奪罪の2罪(併合罪または包括一罪)

3侵奪
 不動産に対する他人の占有を排除して、
 それを自己の支配下に置くこと

 賃借権が消滅した後でも、
 なおも不動産の占有状態(住み続ける)を維持・継続した場合、
不動産は自己が支配してきたので、
 他人の占有を排除したとはいえないため、
 奪取にあたらない。
 しかし、
 自己が占有状態を維持してきた場合でも、
 土地に新たに建物を建てたり、
 建物を増築するなどし、
 占有状態を質的に変化させたならば、
 元通りの状態に戻し、原状を回復することは容易ではないので、
 新たな占有の侵害があった、侵奪が行われたといえる。


4未遂と既遂
 不動産への他人の占有の排除を開始し、そこに新たな占有を設定する


(4)親族間の犯罪に関する特例(親族相盗例)
(親族間の犯罪に関する特例)
第244条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 前2項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

1規定の趣旨
・「法は家庭に入らず」
 「夫婦げんかは犬も喰わない」

 近代刑法は、自由で平等な市民が
 公共的な場所において、
 社会的・経済的・政治的に相互交流する機会を刑罰によって担保するのが目的。
 私的な場所、家族の内部の問題に立ち入ることまで目的としていない。

・法律効果
 1項 刑の免除(配偶者などの告訴がなくても起訴される。裁判→有罪→刑の免除)
 2項 親告罪(1項の親族以外の親族の告訴なしには起訴されない)
 3項 親族でない者が親族と共犯である場合、親族でない者には適用されない。

 刑の免除または親告罪化の理由
 一身的刑罰阻却事由説
 窃盗罪は成立するが、
 親族関係において行われたことを理由に
 処罰を控える(刑罰を阻却する)

 違法性減少説
 親族関係において行われたことを理由に
 窃盗罪として処罰に値する違法性が阻却される
 家族は「財産共同体」であるという考えがある

 責任減少説
 親族関係において行われたことを理由に、
 窃盗罪として処罰に値する責任性が阻される。
 家族関係において行われた窃盗行為に対して、
 厳しく非難するのを控える発想がある


2親族の意義
 民法の規定を適用


3親族関係
 誰と誰との親族関係か?
 窃盗犯と誰との親族関係か?
 窃盗犯と財物の所有者の親族関係? それとも、
 窃盗犯と財物の占有者の親族関係? それとも、
 窃盗犯と財物の所有者と財物の占有者の親族関係?

 窃盗の罪質が「所有権侵害」にあると捉えると、
 財物の所有者が親族であることが要件として必要。
 あるいは、
 窃盗の罪質が「占有侵害」にあると捉えると、
 財物の占有者が親族であることが要件として必要。
 判例では、
 窃盗罪の保護法益が、所有権と占有の両面にあると捉えるため、
 窃盗犯と所有者・占有者が親族であることが必要(判例)


4親族関係の錯誤
 財物の所有者・占有者が親族であると誤信し、それを窃取した場合

 一身的刑罰阻却事由説
 親族関係においても窃盗罪は成立し、
 刑罰が阻却されるのは、親族関係があったことが理由。
 親族関係がなければ、刑罰の阻却は否定される

 違法性減少説
 窃盗犯は財物窃取の認識はあっても、
 処罰に値する違法な事実の認識はないので、
 事実の錯誤として扱い、
 刑法38条1項の「罪を犯す意思」がないとして、
 結論的には244条の場合と同様に扱う。

 責任減少説
 窃盗犯は財物窃取の認識はあっても、
 処罰に値する責任が阻却されると認識しているので、
 刑法38条1項の「罪を犯す意思」がないとして、
 結論的には244条の場合と同様に扱う。


5親族相盗例の効果
 1項 刑の免除
 2項 親告罪化

 1項 「刑の免除」
 その親族の告訴がなくても、検察官は起訴できる。
 裁判が行われ、有罪が言い渡されたうえで、その刑が免除される。

 これに対して、
 2項 「親族罪」
 1項の親族以外の親族の告訴がなければ、
 検察官は起訴できない。

 配偶者などの親族(1項)の方が、
 「法は家庭に入らず」の要請は大きいのでは?

 ゆえに、改正の必要性あり

 改正されるまでは、
 解釈による調整
 1項の親族については、
 法文で刑の免除があらかじめ規定されているので、
 検察官は捜査・起訴しても無意味。