Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第11回講義「刑法Ⅱ(各論)」(2013.12.10.)

2013-12-07 | 日記
 刑法Ⅱ(各論)第11回(12月10日) 社会的法益に対する罪--取引の安全に対する罪
(1)取引の安全に対する罪 (2)通貨偽造罪 (3)文書偽造 (4)有価証券偽造罪
(5)支払用カード電磁的記録に関する罪 (6)印章偽造罪 (7)不正司令電磁的記録に関する罪
(1)取引の安全に対する罪
 通貨・文書の信用性――経済的取引の安定・安全を確保し、活発な経済活動にとって不可欠

(2)通貨偽造罪
1基本的性格 通貨偽造罪・同行使罪、外国通貨偽造罪・同行使罪、偽造通貨等収得罪、
       これらの罪の未遂罪(151)、収得後知情行使罪、通貨偽造等準備罪
 保護法益――通貨の真正性に対する公衆の信用(公共的信用)

2通貨偽造罪・同行使罪(148)
客体 通用する貨幣、紙幣、銀行券(通用性は事実上の通用性ではなく、強制通用性である)
行為 偽造=「権限のない者」が「真正な通貨」に似た外観の物を作成すること
    変造=「権限のない者」が「真正な通貨」を加工して、通貨に似た外観の物を作成すること
    行使の目的による偽造・変造、
    偽造通貨の行使、行使目的による偽造通貨の他人への交付、その輸入(陸揚げ)
罪数 通貨の偽造・変造→偽造通貨の行使(牽連犯)→商品購入(軽い詐欺罪は重い行使罪に吸収)

3外国通貨偽造罪・同行使罪(149)
客体 日本の主権が及ぶ領域内(米軍施設も含む)で流通している外国の貨幣・紙幣・銀行券
行為 行使目的による外国通貨の偽造・変造、偽貨の行使、行使目的による他人への交付、輸入

4偽造通貨等収得罪(150)
 行使の目的で、偽造・変造された通貨を収得すること(収得後の偽造通貨行使罪とは牽連犯の関係)

5収得後知情行使罪(152)
 偽造・変造の通貨の「収得」後、事情を知って行使し、または行使目的で他人に交付する行為
 お釣りとして「収得」した金銭の場合と「窃取」した金銭の場合

6通貨偽造等準備罪(153)
 通貨の偽造・変造の用に供する目的で器械・原料を準備する行為(行使の目的が必要)
 「用に供する」――自己予備だけでなく、他人予備も含む(大判昭7・11・24刑集11巻1720頁)
 準備者への器械・原料以外の物の提供=準備罪への幇助(予備罪の共犯:大判昭4・2・19刑集8巻84頁)

(3)文書偽造
1基本的性格 保護法益――文書に対する関係者の信用
 文書 文字・可視的符号により一定のあいだ物体の上に記載された人の意思
    作成名義人の存在・認識可能性、その意思・観念の可視性・可読性
 「写し」の文書性と「写真コピー」の文書性(積極:最決昭54・5・30刑集33巻4号324頁)
 偽造――有形偽造(無権限者による文書作成)名義人と作成者との人格的同一性の齟齬(形式主義)
      →同姓同名者による文書作作成も人格的同一性を偽るものであり、有形偽造にあたる
     無形偽造(権限者による虚偽文書の作成)(実質主義)
変造――有形変造(非名義人による真正な文書の変更)と無形変造(名義人による真正文書の変更)

2詔書偽造罪(154)
 御璽、国璽もしくは御名を使用して証書などを文書を偽造し、または偽造した御璽、国璽もしくは
御名を使用して証書などを偽造する行為

3公文書偽造等罪(155)
 公務所または公務員の作成すべき文書(公文書)または図画(公図画)の偽造・変造
 作成権限者(市長)・代決者(市民課長)と補助公務員(市民課係長)(最判昭51・5・6刑集30巻4号591頁)

4虚偽公文書作成等罪(156)
 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書もしくは図画を作成し(無形偽造)、
または文書もしくは図画を変造する行為(無形変造)

5公正証書原本不実記載等罪(157)
 公務員に対して、虚偽の申立てをして、権利または義務に関する公正証書の原本または
権利または義務に関する公正証書の原本として用いられえる電磁的記録に不実の記載をさせる行為
 私人が公務員を欺いて(道具として利用して)公正証書を偽造する行為(間接無形偽造)

6虚偽公文書行使等罪(158) 154条以下の罪によって作成された虚偽公文書の行使など

7私文書偽造等罪(159)
 権利・義務または事実証明に関する文書・図画の偽造・変造
 代理・代表名義の冒用
 作成名義人が承諾している場合
 偽名・仮名の使用、肩書・資格の冒用

8虚偽診断書等作成罪(160)
 医師が公務所に提出すべき診断書、検案諸または死亡証書に虚偽の記載をする行為

9偽造私文書等行使罪(161)
 159条・160条の偽造・変造された文書・図画、虚偽記載された診断書などを行使する行為

10電磁的記録不正作出罪・同供用罪(161の2)
 私電磁的記録不正作出罪(1項)と公電磁的記録不正作出罪(2項)

(4)有価証券偽造罪
1基本的性格 財産権を示した有価証券の公共的信用の保護

2有価証券偽造罪・同虚偽記入罪(162①)
 行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造・変造する行為
 行使の目的で、有価証券に虚偽の記入をする行為

3偽造有価証券行使等罪(162②)
 偽造・変造した有価証券などを行使する行為

(5)支払用カード電磁的記録に関する罪(163)
1基本的性格
 支払用カードの電磁的記録の不正取得してカードを偽造するなどの行為

2支払用カード電磁的記録不正作出等罪(163の2)

3不正電磁的記録カード所持罪(163の3)

4支払用カード電磁的記録不正作出準備罪(163の4)

(6)印章偽造罪(164以下)
1基本的性格
 御璽偽造、、公印偽造、公記録偽造、私印偽造、それらの不正使用、さらにそれらの未遂

2印章・署名・記号

3偽造・使用

4犯罪類型
 御璽偽造・同不正使用(164)、公印偽造・同不正行使(165)、公記号偽造・同不正西洋(166)、
 私印偽造・同行使(167)

(7)不正司令電磁的記録に関する罪(168の2・3)
 不正司令電磁的記録作成等罪(168の2)
 不正司令電磁的記録取得等罪(168の3)
 第11回講義 練習問題
(1)通貨偽造罪について

・通貨の「偽造」と「変造」の違いを述べなさい。


・偽造通貨の「収得」後に、それが偽造通貨であることを知って行使する行為について、
法定刑が軽くされているのは何故か。

 また、知情後、偽造通貨を行使する行為が詐欺罪にあたらないと解されているのは何故か。

 さらに、窃盗犯が他人の財物を窃取した後、そのなかに偽造通貨が混在していることを知って
行使した場合にも偽造通貨知情行使罪が成立するか。


・通貨偽造準備罪
 通貨偽造準備罪は、通貨偽造の予備行為のうち器械と原料の準備行為に限って処罰する規定であり、
他の予備罪(殺人予備、強盗予備、放火予備など)と異なり、「自己予備」だけでなく、「他人予備」
も含まれると解されている。その根拠を述べなさい。

 また、通貨偽造を準備しようとしている人に対して、器械・原料以外の物(例えば、購入資金)を
提供した場合、通貨偽造準備罪の幇助が成立するか否か述べなさい(予備罪に対する共犯)。


(2)文書偽造罪について

・文書の「有形偽造」と「無形偽造」の意味について説明しなさい。


・「写真コピー」もまた文書に含まれると判断した判例の根拠とそれに対する批判をまとめなさい。


・「補助公務員」が作成権限者に含まれるのは、どのような場合か。
 判例(最判昭51・5・6刑集30巻4号591頁)を参考にしながら論じなさい。


・市役所の戸籍担当の公務員に虚偽の申立てを行って、戸籍簿の原本に不実の記載をさせた場合、
どのような罪が成立するか。

 この罪が「間接無形偽造」と言われる理由を述べなさい。

 市役所の住民票担当の公務員に虚偽の申立てを行って、住民票の原本に不実の記載をさせた場合、
虚偽公文書作成罪の「間接正犯」が成立するか。


・私文書偽造罪について、交通事故原票の供述書と私立大学の入学試験の答案の名義人が他人に対し
て名義人の氏名を記入することを承諾した場合でも私文書偽造罪が成立すると判断されているのは何
故か。その理由を述べなさい。
 また、名義人がその氏名の記入を承諾したことが、私文書偽造罪の教唆・幇助にあたるか。


・密入国者である被告人が、他人A名義の外国人登録証明書を入手し、Aの氏名を公私にわたる
広範囲の生活場面において一貫して使用したため、Aという氏名が被告人を表すことが定着していた
状況において、A名義の再入国許可を取得して出国するために、A名義の再入国許可申請書を作成・
提出した行為につき、私文書偽造罪の成立を認めた判例(最判昭59・2・17刑集38巻3号336頁)
の根拠を述べなさい。