Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第6回講義「刑法Ⅱ(各論)」(2013.11.05.)

2013-11-03 | 日記
 刑法Ⅱ(各論)第6回(11月05日) 個人的法益に対する罪――財産に対する罪(1)
(1)財産犯の体系 (2)窃盗罪・不動産侵奪罪 (3)強盗罪

(1)財産犯の体系
 行為客体による分類(財物か、不動産か、財産上の利益か)
 行為態様による分類(毀棄罪・領得罪(移転罪か、非移転罪か。窃取罪か、交付罪か)
 保護の対象――個別財産に対する罪か、全体財産に対する罪(背任罪)か。

(2)窃盗罪・不動産侵奪罪
1窃盗罪(235)
財物罪・移転罪・盗取罪・個別財産に対する罪

財物―――――有体物(有体性説)か、管理可能性のある(管理可能性説)か
 不動産――――窃盗罪・強盗罪の行為客体から除外(ただし、詐欺・恐喝・横領罪には含まれる)。
 財産的価値―― 所有権の目的物になりうるもの。経済的価値の有無は問わない。

占有――財物に対する事実上の支配 「事実上」の意味――窃盗罪・横領罪・遺失物横領罪
     占有の帰属(対等平等関係・上下関係にある複数人で一つの財物を管理している場合)
     死者の占有(生前の占有の死後における継続可能性))

窃盗罪(財物罪)の保護法益
 本権説(所有権その他の本権) 対. 占有説(占有状態それ自体)
 禁制品と盗品の占有は保護の対象たりうるか?

占有の取得
 他人が占有する財物を、その意思に反して、自己または第三者の占有に移転させる
 AがXの財物を勝手に売却し、情を知らない買手Bにそれを搬出させた(故意なき者を利用した間接正犯)

不法領得の意思(窃盗罪の主観的要件)
 故意(窃取の認識)+不法領得の意思(最判昭26・7・13刑集5巻8号1437頁)
 権利者を排除して、他人の財物を自己の所有物のように経済的用法に従って利用・処分する意思
 「使用後、返還する意思に基づく財物の占有移転」と「毀棄目的にもとづく占有移転」

2不動産侵奪罪(235の2)
不動産の侵奪(昭和35年[1960年]新設)
行為客体 不動産(土地とそれに定着した建物)
侵奪 不動産に対する事実的な支配の侵害(賃貸借契約終了後の居座りは「侵奪」にあたるか?)

3親族間の犯罪に関する特例
親族相盗例
 配偶者・直系親族・同居の親族の場合→刑の免除(有罪)、上記の親族以外の親族の場合→親告罪
 親族と親族ではない者が共同して窃盗を実行した場合、親族ではない者には親族相盗例は不適用。

特例の趣旨(法は家庭に入らず。その根拠は? なぜ刑が免除され、親告罪として扱われるのか?)
 政策説(窃盗は成立。しかし政策的に刑の免除など)(最判昭25・12・12刑集4巻12号2543頁)
 違法減少説(親族間の財産は共有部分があり、そのため窃盗の違法性が減少する)
 責任減少説(親族関係という誘惑的な要因のため、その責任=非難可能性が減少する)★

適用要件――親族関係は窃盗犯と誰との間にあることが必要か?
 通説・判例 窃盗犯と所有者と占有者の間の親族関係(最決平6・7・19刑集48巻5号190頁)

錯誤 親族関係がないのに、それがあると錯誤して窃取した場合
 政策説(大阪高判昭28・11・18高刑集6巻11号1603頁)
 錯誤は犯罪の成否に影響しない。親族関係が客観的にあれば刑の免除・親告罪。なければ窃盗成立。
 違法減少&責任減少 刑38②→親族相盗例の準用(福岡高判昭25・10・17高刑集3巻3号487頁)

(3)強盗罪
1基本的性格
 強盗罪(236)、事後強盗罪(238)、昏睡強盗罪(239)、強盗致死傷罪(240)、強盗強姦・致死罪(241)、
 これらの未遂(243)、強盗予備罪(237)
 手段としての暴行・脅迫→目的としての「財物」の奪取・「利益」の取得(結合犯)手段目的関係
 財物奪取・利益取得の意思は、暴行・脅迫を行う時点で必要

2強盗罪(236)
客体
 他人の財物と財産上不法の利益(債権などの有体物以外の財産的権利や利益)
 不法な利益も保護の対象に入るか(白タクの乗車料金、覚せい剤の代金請求権など)

暴行・脅迫
 被害者の反抗(抵抗)を抑圧するに足りる程度(法定刑の重さ→単純暴行・単純脅迫より強度)
 「ひったくり」と強盗罪の関係(最決昭45・12・22刑集24巻13号1882頁)
 窃盗後の暴行・脅迫――財物強盗罪の成立を否定(最決昭61・11・18刑集40巻7号523頁)
 →財物の返還・代金の支払い(という利益)を暴行・脅迫により免れた→利益強盗罪の成立

強取
 財物奪取の目的にもとづく暴行・脅迫によって反抗が抑圧された被害者から財物を奪い取る
 被害者が逃走中に落とした財物を取得(強盗未遂:名古屋高判昭30・5・4裁特2巻11号501頁)
 強姦目的での暴行・脅迫後(強姦未遂成立)、財物奪取の意思が生じて、財物を奪った
 畏怖状態に乗じて、それを利用して財物を奪取→強盗罪の成立(しかし、準強姦のような規定なし)
 強盗成立には、財物奪取のための新たな暴行・脅迫が必要(大阪高判平1・3・3判タ712号248頁)

不法な利益の取得
 財物の移転は可視的。しかし、利益の移転は非可視的。では、移転したことを確認する方法は?
 旧判例:被害者の処分行為必要(大判明43・6・17刑録16輯1210頁)
 新判例:不要説(最判昭32・9・13刑集11巻9号2263頁)→財物強盗との均衡関係の重視

 財物詐取(詐欺罪の成立)後、財物の返還・代金の支払いを免れるために暴行・脅迫
 被害者には財物の返還請求権・代金の支払い請求権がある。詐欺犯にはそれに応ずる義務がある。
 暴行・脅迫を行い、その義務を免れた(利益を得た)→利益強盗罪の成立
 財物詐欺罪と利益強盗罪の包括一罪(最決昭61・11・18刑集40巻7号523頁)

3事後強盗罪(238)
 窃盗既遂・窃盗未遂後、所定の目的に基づいて被害者などに暴行・脅迫→いわゆる事後強盗罪
  →財物の奪還を防ぐ目的、逮捕を免れる目的、罪跡を隠滅する目的
 暴行・脅迫は、窃盗(既遂・未遂)の現場か、またはその機会継続中に行われることが必要。
 事後強盗罪の未遂――窃盗既遂→暴行・脅迫の未遂? 窃盗未遂→暴行・脅迫の実行?
 共犯問題 Aの窃盗後、Bが所定の目的でAと一緒に暴行・脅迫。Bは何罪(承継的共同正犯)?

4昏睡強盗罪(239)
 他人を昏睡させて、財物を盗取する行為
 昏睡 薬物などを用いて、人の意識作用に一時的・継続的な障害を発生させること

5強盗致死傷罪(240)
 強盗既遂・強盗未遂→死傷 死傷の原因について、「手段説」と「機会説」の対立
 死傷につき故意がある場合(犯罪は強盗既遂罪・強盗未遂罪の結果的加重犯か?)
 強盗罪と殺人罪または傷害罪の観念的競合とした場合の処断刑と240条の法定刑との比較が必要

 刑240条の未遂→強盗の行為者が故意に被害者を殺そうとして未遂に終わった→強盗殺人罪の未遂

6強盗強姦罪・同致死罪(241)
 強盗強姦罪・同致死罪 強盗(既遂・未遂)犯人による被害女性への強姦
 姦淫行為 強盗の現場または強盗の機会継続中に行われることが必要。
 殺意がある場合 通説・判例=強盗殺人罪と強盗強姦罪の観念的競合。学説=「強盗強姦殺人罪」
 強盗が強姦を行い、被害女性を負傷させた→強盗強姦致傷? 規定なし。強盗強姦罪として処理。

第6回 練習問題
(1)財産犯一般について
・財産犯を行為客体を基準に分類しなさい。

・財産犯を行為態様を基準に分類しなさい。

 まず、財物の「直接的な領得」を要する罪と「間接的な領得」で足りる罪の例をあげなさい。

 次に、財物の移転を伴う罪とそれを伴わない罪をあげなさい。

 そして、財物の移転が、被害者の意思に反して行われる罪と
 被害者の瑕疵のある意思に基づく交付によって行われる罪をあげなさい。

・財物とは何か。電気も財物とみなされる(刑245)のは何故か。
 財産上の利益とは何か。財産情報は財産上の利益に含まれるか。

・財物罪の保護法益をめぐる本権説と占有説の対立を説明しなさい。

・Aは窃盗犯Xから奪われた物を奪い返した。Bは麻薬の売人Yから麻薬を取り上げた。
 A・Bの行為を窃盗罪にあたるか。

(2)窃盗罪について
・窃盗罪などの領得罪が成立するためには、故意のほかに、不法領得の意思が必要とされている。
 不法領得の意思の意義を説明しなさい。

・終電に乗れなかったAは、X宅の前に置かれていたXの子どもの自転車に乗って帰った。
 Aは翌日の早朝にX宅に自転車を戻した。Aの罪責を論じなさい。

・Aは、会社の女性従業員Xに交際を申し込んだが、あっさりと断られた。それに復讐するために、
 Xの下駄箱の靴を男性従業員Yの靴箱に隠した。Xは業務用のサンダルを履いて家に帰った。

・Aは友人Bと共に父親Xの部屋にあったカメラを盗んで、ネットオークションにかけて販売した。
 そのカメラがXの所有物であった場合とYの所有物であったで場合のA・Bの罪責を論じなさい。

・AはXを殺して逃げようとしたとき、Xが高級腕時計をはめていることに気づいた。
 Aはそれを外して自分の腕に付けて、逃走した。Aの罪責を論じなさい。

(3)強盗罪について 
・AはXの顔面をなぐり、1万円を奪い逃走した。
 Bはタクシー運転手Yの顔面を殴り、乗車料金1万円を支払わずに逃走した。
 Cは「白タク」のドライバーYの顔面を殴り、請求金額1万円を払わずに立ち去った。
 A・B・Cの罪責を論じなさい。

・AはXの自転車を奪った。するとXが自転車を取り返すために追いかけ、Aの服の後ろをつかんだ。
 そのため、Aは自転車から引きずり下ろされた。AはXから逃れるため、Xの顔面を蹴って、
 自転車で逃走した。AもXも加療4週間の傷を負った。AとXの罪責を論じなさい。

・AはXから金銭を奪うために、殴ってケガを負わせたが、金銭を奪うには至らなかった。
 Aに①暴行の故意、②傷害の故意、③殺人の故意があった場合に分けて論じなさい。

・Aは女性Xの部屋に侵入し、キャッシュカードなどの入ったカバンを奪って逃げようとした。
 すると、Xが「ドロボー!」と叫んだので、Xの顔面を殴り気絶させ、その後、Xを姦淫した。

・Aは女性Xの部屋に侵入し、Xの顔面を殴って気絶させ、姦淫した。
 その後、Xが無抵抗の状態にあることに乗じて、現金などの入ったカバンを奪って逃げた。