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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(07)講義資料

2020-11-09 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 個人的法益に対する罪――財産犯

 第07週 詐欺および恐喝の罪(2)
(3)利益詐欺罪
第246条
 2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

1客体
・財産上不法の利益
 財物以外の財産上の利益(強盗罪と同じ2項に規定)

・財産上不法の利益の類型
 積極的な利益と消極的な利益

 積極的な利益
 他人に対して債権を取得すること
 他人に労務を提供させること
 例:タクシーや電車によって運搬させること

 消極的な利益
 他人に対する債務を免除させること
 他人に対する労務を免除させること
 例:自動車などで運搬すべき義務を免れること

 永続的な利益と一時的な利益
 永続的な利益
 債権を完全に取得すること
 債務を完全に免除させること

 一時的な利益
 債務の履行を一時的に猶予させること


2行為
 欺く行為
 虚偽の事実を真実であるかのように告知して(作為)
 真実を告知すべき義務に違反して(不作為)
 被害者を錯誤に陥れること

 被害者は一般人を想定しているので、
 一般人であれば、錯誤に陥れられる程度の欺く行為が行われていれば、
 被害者が実際に錯誤に陥れられることを要しない。
 このような欺く行為が開始されれば、
 詐欺罪の実行の着手が認められる。


3利益を得たり、第三者に得させるための処分行為
・財物の場合 財物の交付行為
 欺かれた人が欺いた人または第三者に財物を交付し、移転させる

 被害者による財物の交付行為
 自らが交付しているので、
 交付行為は意識的・自覚的に行われる
 例えば、金銭の支払い

 財物の交付行為と財物の占有の移転(財物の取得)の関係
 可視的に認定可能

・利益の場合は処分
 欺かれた人が欺いた人または第三者に利益を移転させるための処分行為を行う

 被害者による利益の処分行為
 自ら処分している場合、
 処分行為が意識的・自覚的・明示的に行われることが多い。
 例えば、債権の放棄や債務の免除
 被害者(債権者)の処分行為によって行為者(債務者)に利益が移転
 この処分行為は可視的であり、それゆえ利益の移転も認定可能

 しかし、被害者が錯誤に陥り、
 債務を免除するなどの明示的な処分行為を行うのではなく、
 債務の履行を一時的に請求しない(不作為)だけの場合もある。
 この場合、
 被害者による利益の処分行為は明示的になされているとは言い難い
 このような不作為もまた処分行為といえるのか?
 明示的ではない(暗黙の)不作為であっても、処分行為といえるのか?
 そのような不作によっても利益の移転がなされ得るのか?
 過去の判例には、
 欺かれた者が債権を放棄するなどの明示的な処分行為を行っていなければ
 利益が移転したことを認定することはできないと述べたものもあるが、
 黙示的な不作為による処分行為もありうると、
 裁判例でも認められ、学説においても承認されている。


4無銭飲食・無銭宿泊
 代金の支払意思なしに食事を注文し、
 その提供を受け、完食した
 代金の支払の意思がないことを秘して、
 支払の意思があるかのように装って(挙動=作為)
 注文する行為を行ったことによって、
 欺く行為が開始され(着手)、
 食事の提供を受けた時点において完成(既遂)

 注文し、食事の提供を受け、完食し、支払の意思を喪失した後、
 代金の支払の意思がなくなったので、
 店員のすきを見て、店外に出て、逃走した
 店員に対して欺く行為は行われていないので、
 詐欺罪の実行の着手は認められない。
 代金の支払を免れているが(債務の履行を一時的に免れているが)、
 店員が支払を一時的に猶予する明示的で作為による処分行為を行っていないし、
 また黙示的な不作為による処分行為も行っていないので、
 利益の移転も認められない。
 この事案は、一般的な代金の未払い
 いわゆる利益窃盗であり、民事上の債務不履行として扱われる。

 これに対して、
 注文し、食事の提供を受け、完食し、支払の意思を喪失した後、
 代金の支払の意思がなくなったので、
 店員に対して、「今はお金がないので、後日払いに来ます」と欺いて
 店員から了承を得て店外に出て、債務の履行を免れた場合、
 支払の意思があるかのように述べて欺いているので、
 欺く行為が行われたと認定できる。
 店員は支払を一時的に延期することを了承しているので、
 意識的な作為による処分行為が行われたと認定できる。
 それによって行為者は支払を一時的に免れているので、
 利益の移転を認定することができる。
 利益詐欺罪(既遂)が成立する

 では、次の場合は?
 注文し、食事の提供を受け、完食し、支払の意思を喪失した後、
 代金の支払の意思がなくなったので、
 店員に対して「車に財布を置き忘れたので、取りに行く」と欺いて、
 店員から了承を得て店外に出て、そのまま逃走して、
 支払を免れた場合
 支払の意思があるかのように述べて欺いているので、
 欺く行為が行われたと認定できる。
 それによって店員は欺かれ、錯誤に陥れられているが、
 支払を一時的に猶予する明示的な処分行為をしていない。
 このような場合もまた
 利益詐欺罪(既遂)にあたるのか? それとも未遂か?
 これは黙示的な不作為による処分行為の問題である。
 
 利益の移転を認定するにあたって、
 明示的な作為による処分行為が必要であると解すると、
 店員がそのような行為を行っていない以上、
 利益の移転は認められないので、
 せいぜい利益詐欺罪は未遂にとどまる。
 しかし、
 店員が客に対して代金を請求しないという不作為を
 暗黙のうちにとった場合でも
 処分行為として認められると解するならば、
 それによって支払を事実上免れているので、
 利益詐欺罪(既遂)が成立する。


4キセル乗車
・A駅→→→→→→→→→→B駅→C駅→D駅
 A・B駅間の乗車券の提示 C・D駅間の定期券の提示

 B・C駅間の乗車料金の支払を免れる意図で
 A駅の改札係員にA・B駅間の乗車券の提示
 D駅の改札係員にC・D駅間の定期券の提示
 結果的に、B・C駅間の乗車料金の支払いを免れた。

・このようなキセル乗車は利益詐欺罪にあたるか?
 欺く行為は、いつ、どこで、誰に対して行われたか?
 利益の取得は、いつ、どこでなされたか?
 その利益の処分行為をしたのは、誰か?
 それは意識的な作為による処分行為か?
 それとも黙示的な不作為による処分行為か?

・欺く行為が行われたのは、どの時点か?
 A駅における被告人の行為を基準にすると、
 A駅においてA駅からD駅までの輸送という役務を提供させるために、
 A駅の改札係員にA・B駅間の乗車券を提示した行為が欺く行為
 この時点において詐欺罪の実行の着手が認められる(判例)

 ただし、そのような意図があろうとも、
 A駅の改札係員にA・B駅間の乗車券を提示して、
 電車に乗る行為それ自体には問題はないはず。
 むしろ、B・C駅間の差額運賃の支払いを免れるために、
 D駅において、あたかもC駅から乗車したかのように装って、
 D駅の改札係員にC・D駅間の定期券を提示した行為が欺く行為。
 それによってD駅の改札係員が
 B・C駅間の差額運賃を請求しない不作為を黙示的にとったと
 考えることも可能。


5訴訟詐欺
 原告Xが虚偽の証拠を裁判所に提出し、
 欺かれた裁判官(裁判所)Yが
 原告勝訴の判断をし、
 被告Aに対して財物交付(金銭の支払い)を命じ、
 Aはその命令を受け、Xに財物を交付し、
 Xはそれを取得した。

 従来の詐欺罪は、
 XがAを欺いて、Aに財物を交付させ、それをXが取得するといった
 X・Aの対向的な詐欺罪が論じられてきた。この場合、
 欺いたのはX
 欺かれたのはA
 財物の交付を行ったのもA
 その結果、財産的な損害をこうむったのもAであった。
 (ただし、詐欺罪は個別的財産に対する罪なので、
 欺かれた被害者が財物を交付し、それを喪失していれば、
 財産的な損害が発生していなくても成立する。)
 詐欺罪はシンプルに解説されてきた。

 しかし、訴訟詐欺はやや複雑である。
 訴訟詐欺とは、
 原告Xと被告Aの間に裁判所Yが介在し、
 欺いた人と欺かれた人と財産的な損害を受けた人の
 3者から成り立っているので、
 2者の対向的な詐欺とは異なり、三角詐欺ともいわれる。
 そのため、通常の詐欺罪とは異なる論点が生じている。

 訴訟詐欺において
 欺いたのは原告Xである。
 欺かれたのは裁判官(裁判所)Yである。
 財産的損害は詐欺罪の成立要件ではないが、
 損害を受けたのは誰かというと、
 財物を喪失した被告Aである。

 このような三角詐欺において、
 財物の交付を行ったのは誰か? 被告Aか?
 Aは敗訴判決を受けたために財物をXに渡しているだけで、
 それはAが自ら行ったのではない。
 かりにAが財物を交付したとしても、
 Xによって欺かれたから、交付したのではない。
 いずれにせよ、AはXに欺かれていないので、
 財物を渡しても、それは交付とはいえない。

 では、財物を交付したのは裁判官(裁判所)Yか?
 YはXに欺かれて原告勝訴・被告敗訴の判決を言い渡した。
 この判決は法的に強制的な執行力を持っている。
 Aの意思とは無関係に財物を交付させる力を持っているので、
 訴訟詐欺において財物を交付したのは、
 判決を言い渡したYと解することができる。
 このように欺かれた人Yと財物を交付した人Yが同一の人物なので、
 損害を受けたのが別人Aであっても、
 詐欺罪が成立すると解されている。
 つまり、訴訟詐欺の場合、
 欺かれた人(裁判所)と
 財物の交付・利益の処分を行う者(裁判所)が同一であれば、
 詐欺罪が成立する。


6自己名義のクレジットカードの不正使用
 では、自己名義のクレジットカードの不正利用は?
 口座に入金する意思のないカード会員Xが
 加盟店Yにおいて、その意思があるかのように装い、
 加盟店Yで商品の購入契約を交わした。
 Yが売上げ伝票を作成して、カード会社Aに連絡をして、
 YはAから商品の代金相当額を受け取る債権を取得し(Yの債権の発生)、
 AはYに商品代金の相当額を支払う債務を負った(Aの債務の発生)。
 さらに、AはXから商品代金の相当額を受け取る債権を取得した(Aの債権の発生)。
 それと同時に、YがXに商品を引き渡し、
 Xがそれを取得した(Yによる財物の交付)。
(*Y・Aの債権の発生とYによる商品の引き渡しは同時に行われている。)
 後日、カード会社AからYに代金の支払がなされた。
 翌月、カード会社AはXから代金相当額を受け取れなかった。

 このような自己名義のクレジットカードの不正使用の事案は
 どのように扱えばよいか?
 欺いた人はX
 欺かれた人は加盟店Yとすると、
 財物(商品)を交付した人も、
 また商品の喪失という財産的損害を受けたのもYであるので、
 このように考えるならば、
 この事案は、
 通常の2者の対向的な詐欺罪であり、
 財物詐欺罪が成立するだけ(裁判例あり)。
 行為者Xが代金支払の意思を秘して加盟店Yを欺く行為を行い、
 商品(財物)を交付させ、それを取得した時点で既遂に達する。
 カード会社Aが介在しているが、
 欺いた人はX,欺かれた人はY、
 財物を交付したのもY、
 そして財物の喪失という損害を受けたのもY。
 Aはこの財物詐欺罪の事案には無関係な存在である。

 しかし、加盟店Yはカード会社Aから
 商品代金の支払を受けている。
 Yのところでは実害を発生していない。
 実際に損害を受けたのはカード会社Aと考えるのが自然。
 詐欺罪の成立要件には「財産的損害」は不要であるとしても、
 自己名義のクレジットカードを不正利用した場合に
 加盟店Yが損害(財物の喪失)を受けたというのは、しっくりこない。
 カードシステムに着目すると、
 損害(商品の代金の相当額を受け取れなかった)をこうむったのは
 カード会社Aである。
 そこに着目して、理論構成する必要があるのではないか。
 詐欺罪の成立要件として財産的損害の発生は不要であるが、
 カード会員Xが欺いた人、
 加盟店Yが欺かれた人
 カード会社Aが財産的な損害を受けた人
 という三角詐欺と捉え、
 訴訟詐欺の場合のように、
 欺かれた人と財物の交付または利益の処分をした人が同一の人物であれば、
 損害を受けた人が別であっても、
 財産的詐欺罪の成立を論証することができる。
 そのように主張する学説も少なくない。
 では、三角詐欺として扱うとしても、
 財物の交付や利益の処分をしたのが誰なのかは、まだ明らかではない。
 それをどのように論証すればよいのか。
 その場合、成立するのは財物詐欺罪か、それとも利益詐欺罪か?

 カード会員Xが代金支払の意思がないことを秘して加盟店Yを欺いて、
 商品を交付させたという事実認定にこだわっていると、
 財物詐欺罪が成立することになってしまうので、
 別の事実認定と理論構成が必要になる。
 次のように考えてはどうだろうか。
 Xが代金支払の意思がないことを秘してYを欺いて、
 欺かれたYがカード会社Aに売上げ伝票を送付して、
 Aに商品の代金を支払わせる手続をとり(これが処分行為!)、
 商品代金の相当額を受け取る権能や地位(債権)を取得した。
 この権能や地位(債権)は、財産上の利益にあたる。
 この債権を取得した時点で利益詐欺罪は既遂に達する。
 つまり、
 欺いた人はX、欺かれた人はY、
 Aに対する権能・地位を取得したのはYというように、
 利益詐欺罪として理論構成することができる。
 刑法246条2項は
 人を欺いて、財産上不法の利益を行為者が得た場合だけでなく、
 第三者に得させた場合にも成立する。
 自己名義のクレジットカードの不正使用の事案は、
 XがYを欺いて、欺かれて錯誤に陥れられたYが
 Aから上記の権能・地位を得るための処分行為を行い、
 XがYに権能・地位を得させた利益詐欺罪として構成できる。

・自己名義のクレジットカードの不正使用は、
 財物詐欺罪として構成する裁判例もあるが、
 カードシステムの持っている特質、
 実際の被害者がカード会社であること
 これらに着目すると、
 利益詐欺罪として構成することもできる。
 両者を比較すると、
 欺むく行為者は等しくX、
 欺かれた人も等しくY。
 財物詐欺罪説は、Yの商品の交付行為を介して、Xが財物を取得。
 利益詐欺罪説は、Yの代金請求手続の処分行為を介して、Yが利益を取得。
 実行の着手時期も、その既遂時期も等しく認定できる。


(4)準詐欺罪
第248条 未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。

1客体
 知慮浅薄な未成年者
 心神耗弱者

2行為
 知慮不足の状態を使用した誘惑行為

(5)電子計算機使用詐欺罪
第246条の2 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。

1本情の趣旨
 コンピュータ関連犯罪として追加(昭62)

2行為
 電磁的記録の不正操作(作出型)
 虚偽のカード等の使用(供用型)

 恐喝の罪
(1)恐喝の罪
1詐欺罪との関係
 詐欺罪との共通性
 行為客体 財物と財産上不法の利益

 被害者の「瑕疵ある意思」に基づく
 財物の交付・利益の処分

 ただし、「瑕疵ある意思」の内容は異なる
 詐欺罪 錯誤
 恐喝罪 畏怖

2他の犯罪との関係
 強盗罪 畏怖が被害者の反抗を抑圧する程度
     恐喝罪はその程度に達していない場合
 強要罪 畏怖の程度は恐喝罪と同じであるが、
     強要は権利を行使させない、義務のないことを履行させる
     恐喝は財物を交付させ、利益を処分させる

(2)恐喝罪(財物恐喝罪)
第249条 人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

1客体
 他人の占有する財物
 財物(動産・不動産)

2行為
 恐喝 脅迫と暴行
 その程度
 交付 畏怖による財物の交付
 処分 畏怖による利益の処分

3未遂と既遂
 恐喝の開始 財物の取得

(3)利益恐喝罪
第249条 2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

1客体
 財産上不法の利益
 役務の提供 脅されたので、仕方なく車で駅まで送った
 債務の免除 脅されたので、駅までの乗車料金の支払いを猶予した

2処分行為
 脅されたので、
 明示的に支払いを猶予した(作為による処分行為)
 黙示的に支払いを猶予した(不作為による処分行為)

 不作為による処分行為の場合でも、
 脅されているので、処分行為をしているという意思あり
 利益詐欺罪の場合のように、無意識の処分行為は問題にはならない

(4)権利行使と恐喝罪
1問題の所在
 権利行使の手段としての脅迫
 債権を実現するために、脅迫した

2判例
 債権を実現するためには、
 それに相応しい方法・手段がある
 脅迫という手段は不相当である。
 脅迫によって実現された債権の全部に対して
 恐喝罪が成立する
 →権利濫用の法理(判例)

 しかし、債権の範囲内であれば、
 財産的被害が発生しているとはいえないので、
 手段行為の部分だけに脅迫罪が成立するとも考えられる
 債権を範囲を超えていれば、
 その超えた部分について恐喝罪が成立し、
 その恐喝罪と債権の範囲内の部分の脅迫罪とは
 観念的競合の関係に立つ(脅迫罪説)

(5)罪数関係
 恐喝罪の手段として脅迫・暴行を行った
 被害者の反抗を抑圧しない程度であれば、恐喝罪のみ成立
 脅迫して「わいろ」を提供させた
 恐喝罪と収賄罪(観念的競合)

(6)未遂罪
 第250条 この章の罪の未遂は、罰する。
(7)準用
第251条 第242条、第244及び第245条の規定は、この章の罪について準用する。