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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(08)応用編(過失論)

2020-06-25 | 日記
 第08回 過失論(3)過失
 練習問題番号07
 百選50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60

(1)責任主義
1責任主義の原則
 刑法38条1項 故意犯処罰の原則性(刑法犯は基本的に故意犯)
         過失犯処罰の例外性(過失犯は法文で明記される)

2故意とは?
 罪を犯す意思(刑38条1項)
 犯罪事実の認識・予見
 自分が行っている行為が犯罪にあたることの認識
 自分が行っている行為から犯罪が発生することの予見
 この事実の認識は
 違法性を基礎づける事実の認識・予見
 この事実の認識・予見があれば
 故意の成立を認めることができる。

 誤想防衛・誤想避難の場合、
 違法性を基礎づける事実の認識・予見がないため
 犯罪事実の認識があっても、
 故意が阻却される

3故意と違法性の意識の関係  
 犯罪事実を認識・予見していれば、
 違法性を意識している場合がほとんど。
 何らかの事情から(誤想防衛以外の事情)、
 犯罪事実を認識していても、
 違法性の意識がない場合がある。
 このような場合、故意の成否は?
 故意と違法性の意識の関係は?

 判例 違法性の意識不要説 刑法38条3項の解釈として、
 法律を知らなくても、罪を犯す意思がなかったとすることはできない
 つまり、犯罪事実の認識がある以上、
 違法性の意識がなくても、故意がなかったとすることはできない
 それは事実の錯誤ではなく、違法性の錯誤でしかない。
 違法性の錯誤は故意を阻却しない。
 ただし、違法性の意識を欠如したことに相当の理由があれば、
 故意犯は成立するが、責任が減少し、
 情状により、故意犯に科される刑が減軽される。

 学説――制限故意説(通説)
 法律を知らなくても、罪を犯す意思がなかったとすることはできない
 つまり、違法性の意識がなくても、故意がなかったとすることはできない
 違法性の意識は、故意の成立には不要であるが(判例と同じ立場)。
 ただし、違法性の意識を持ち得たこと(違法性の意識の可能性)は必要。
 違法性の意識を欠如したことに相当の理由があれば、
 それは事実の錯誤であり、故意は阻却される。
 違法性の意識を欠如したことに相当の理由がなければ、
 故意犯は成立する。
 なお、 情状により、故意犯に科される刑が減軽される。

(2)過失の意義
1過失とは? 結果の予見可能性を基礎にすえる
 自分が行おうとしている行為から犯罪的な結果が発生することを
 認識・予見していなかった→罪を犯す意思なし→故意なし
 しかし、発生した「事実」は、予見可能な事実であった。

 例えば、山に鹿狩りに出掛け、草むらで動いたので、
 そこに鹿がいると思い、銃を発射した。
 しかし、そこにいたのは人であり、人を死なせてしまった。
 そこにいるのは鹿であると認識していたので、
 人の死亡を認識・予見していなかった。ゆえに殺人罪の故意なし。
 しかし、そこにいるのが鹿ではなく、
 人であることを認識できた。
 そうであるなら、引き金を引くべきではなかった。
 行為者は過失により引き金を引き、人を死亡させた。
 業務上過失致死罪(刑法211条)が成立する。
 このような結果は、行為者が注意すれば予見可能であり、
 行為者にはそれを予見すべき義務があった。
 それにもかかわらず、それを予見しなかったのは不注意。
 結果の予見可能性があり、それを予見すべき義務があったのに、
 不注意から結果を予見せずに、行為を行ったことに過失が認められる。
 過失の有無は、結果の予見可能性を基礎にすえて認定することができる。

2結果の予見可能性から結果の回避可能性へ
 しかし、業務上の行為のなかには、
 結果が発生するかもしれない場合でも(結果の予見可能あり)、
 行わなければならない行為もある。

 例えば、配線が故障したので、溶接工事をしていたところ、
 周辺にたまっていた油に火花が引火して、
 火災が発生し、家屋を全焼させた。
 溶接浩司から家屋の焼損という結果が発生することの予見なし。
 したがって、現住建造物等放火罪の故意なし。
しかし、溶接の際の火花が周辺の油に引火し、
 家屋が焼損することは予見することができた。
 そうであるなら、溶接工事を行うべきではなかった、といえるか?
 このような場合でも、
 行為者は過失により溶接の火花を家屋に延焼させ、焼損させたので、
 業務上失火罪(刑法117条の2)が成立することになる。

 このような場合、
 家屋の焼損という結果が予見可能であったことを基礎にすえて
 過失を認定するのではなく、
 予見可能な結果が発生しないように、結果果発生の回避措置をとりながら、
 溶接をすればよい。そのような回避措置を講じずに、
 溶接工事を行い、家屋を全焼させた場合、
 その結果は回避可能な結果であることを理由に過失を認めることができる。

 過失の実体は
 結果の予見可能性を基礎にしながら、結果の予見義務違反を重視する立場から
 結果の回避可能性を基礎にしながら、結果の回避義務違反を重視する立場へと

 結果の発生が予見可能であり、予見義務が認めれても、
 その結果の回避可能性がない場合には、結果回避義務は課されない
 そのような場合に発生した結果は
 たとえ行為者の行為と因果関係があっても、それは不可抗力である。
 あるいは、その結果は行為者の行為から発生したものではない。


3責任主義の例外?
 刑法38条1項
 故意犯処罰の原則性
 過失犯処罰の例外性
 いずれも発生した結果は行為者の心理状況との間に関連性がある
 そのような関連性がなければ、行為者の故意責任・過失責任を問えない
 責任主義の原則

 責任主義の例外?
 結果的加重犯
 故意に基本犯を行い、そこから加重結果が発生した(例:傷害致死罪)

 判例
 故意に基本犯(傷害)を行い、そこから加重結果(死亡)が発生していればよい。
 その加重結果が予見可能でなくても、
 基本犯と加重結果との間に因果関係があればよい。

 学説
 責任主義を徹底する立場から、基本犯と因果関係が必要なのは、
 予見可能な加重結果に限定する。


(3)過失犯論争
1過失犯論争
 犯罪体系における故意・過失の位置
 犯罪=構成要件に該当する違法で、かつ有責な行為
 故意・過失は有責性の要素
 殺人罪と過失致死罪
 行為者が被害者の生命を侵害した。
 ただし、それを認識・予見していなかった。
 殺人罪も過失致死罪も
 構成要件該当性と違法性の判断の段階では同じ。
 異なるのは有責性の段階。

 このようなに説明されるのはなぜ?
 刑法を制定したり、それを解釈・適用する前提には
 人間の行為に関する一定の概念がある。
 人間の行為は、喜怒哀楽に起因する複雑な構造をなしているが、
 それを分析すると、
 外部的・客観的な側面と内心的・主観的な側面の2面に分けられる。
 そのような行為に刑法の条文を適用して、
 ○○罪にあたると判断するには、
 まずは行為の外部的・客観的な側面に着目し、
 それに条文が適用できるか否かを判断しなければならない。
 その条文は、犯罪が成立するためには、
 どのような外部的・客観的な要素が必要なのか、
 つぎに行為の内心的・主観的な側面に着目し、
 その条文は、犯罪が成立するためには
 どのような内心的・主観的な要素が必要なのか、
 という順序で犯罪の成立を認定していく。
 殺人罪の条文も、過失致死罪の条文も、
 それらの犯罪が成立するために必要な外部的・客観的要素は
 行為によって人の死亡結果が発生したという要素であり、
 それは殺人罪と過失致死罪に共通している。
 ただし、異なるのは内心的・主観的な要素であって、
 その結果の発生を内心において認識していた場合は故意
 それを認識していなかった場合が過失という判断になる。

 このように考えるならば、故意・過失は
 犯罪の構成要件該当性、違法性が判断され、
 それが肯定された後、
 有責性の判断の段階において、
 行為者の内心的・主観的な心理状況を基礎にすえて判断される。
 犯罪の構成要件(違法行為類型)に該当
 →正当防衛なその違法性阻却事由に該当しない
 犯罪の責任類型(故意類型または過失類型)に該当
 →責任能力なし、期待可能性なしなどの責任阻却事由に該当しない
 →犯罪として成立する。
 このように理解するのが「旧過失論」の立場
 故意・過失は主観的な概念であり、それは責任要素
 違法性は客観的な概念である(結果無価値論論)

 しかし、
 人間の行為は、喜怒哀楽に起因する複雑な構造をなし、
 それは外部的・客観的な側面と内心的・主観的な側面の2面に分析できない。
 2つの側面は不可分で一体的である。
 刑法の制定や解釈・適用の前提には、
 そのような客観・主観の統一体としての行為があるので、
 刑法が犯罪として処罰する行為は、
 故意の行為と過失の行為とは区別されている。
 したがって、故意犯と過失犯とでは、
 有責性だけでなく、構成要件該当性・違法性も異なる。
 そうすると、故意・過失は構成要件を判断する際の要素なので、
 教科書の構成要件論のところに故意・過失が位置づけられることになる。
 人の死亡を予見しながら行為を行った場合
 それが殺人罪の構成要件に該当し、違法であり、責任があるかどうかが判断される。
 人の死亡を予見せずに行為を行った場合
 それが過失致死罪罪の構成要件に該当し、違法であり、責任があるかどうかが判断される。
 このように理解するのが「新過失論」の立場
 故意・過失は主観的な概念であるが、それは構成要件要素
 違法性は客観的な概念であるが、同時に主観的でもある(行為無価値論論)

2過失を構成要件要素として位置づけると、
 熊だと思って発砲したら、それは人であった。
 生命侵害の危険性のある過失行為と死亡結果の因果関係あり
 過失致死罪の構成要件該当性あり

 溶接の火花が家屋に延焼し、焼損した。
 溶接の際の過失行為と家屋の焼損の因果関係あり
 業務上失火罪の構成要件該当性あり

 人の死亡や家屋の焼損は
 予見可能であり、それゆえに結果回避できた結果であったから
 過失が認められる
 しかし、結果回避措置をとっていても、回避できなかったならば、
 過失は認められない。それゆえ、
 行為は危険な行為であったとしても、過失により行われたとはいえないので、
 過失行為はなく、結果との間に条件関係は成り立っても、
 因果関係は成立しない。
 それは不可抗力であった。あるいは、
 別の原因で発生した結果であった。


3「許された危険」の法理
 社会生活では、人は様々な行為を行う
 その中には、人の自由・権利の侵害を引き起こす危険な行為もある
 自動車運転、調理、整髪
 このような行為を行う際に
 過失運転行為や業務上過失行為が行われ
 人身事故や食中毒などが発生した場合、
 過失運転致死傷罪や業務上過失致死傷罪が成立する

 したがって、このような危険な行為を行う際には結果が発生しないよう
 結果発生の回避措置を同時に講ずることが求められる。
 そのような結果回避措置を講じても、
 結果が発生した場合、
 その結果は不可抗力であり、
 また他の原因によるものであると考えられる。
 結果回避義務を尽くしても、行為の危険性が現実化した場合、
 過失はなく、その行為の危険性は「許された危険」と呼ばれる。

4「信頼の原則」
 自動車運転などの際に道交法の遵守事項を守って運転しても、
 事故を引き起こしてしまう場合がある。
 その多くは被害車両や被害者の不注意に起因する場合がある。
 道路交通に関与する場合、自分に課された遵守事項を守っているなら、
 他の交通関与者が遵守違反の行為をすることまで想定する必要はない。
 他の交通関与者が遵守事項を守っていると信頼してもよい。
 その結果、事故を引き起こした場合でも、過失は成立しない。

5構成要件要素としての過失
 過失を構成要件要素として位置づけ、
 結果回避措置を講じていたために、過失が否定された場合、
 たとえ行為と結果の間に条件関係が認められても、
 その行為が過失行為でない以上、過失行為は存在しない。
 それゆえ結果と因果関係が成立する過失行為も存在しない。


(4)過失=注意義務とその基準
1予見可能性の対象
 旧過失論の立場からは、
 結果の発生を認識・予見していなくても(故意がなくても)
 認識・予見することができた結果であれば、
 発生させたことにつき過失が成立する。
 新過失論の立場からは、
 その認識・予見しえた結果の発生を回避する措置をとっていれば
 回避しえた結果であれば、
 発生させたことにつき過失が成立する。

 したがって、発生した結果が
 予見可能であたっといえない結果(予見不可能な結果)であれば、
 また回避可能であったとはいえない結果(回避不可能な結果)であれば、
 その結果は発生させたことにつき過失は成立しない。

 自動車運転から人の死傷は予見可能である。
 したがって、その人の死傷を回避する義務が課される。
 その場合、死傷する人(客体)には、助手席・後部座席の人
 また、対向車を運転する人、歩行者などの人が含まれることは明らか。
 では、荷台に無断で乗り込んでいた人は?
 運転のミスから荷台の人を死傷させた場合、
 その運転行為に過失は認められるか?

 また、行為から結果の発生にいたる因果の流れが
 特異な経過をたどったような場合
 そのような因果経過の詳細な部分についてまで
 予見可能でなければならないのか?

 学説は、
 予見可能性の対象は具体的な結果でなければならないというが、
 判例では、その具体性は幅のある概念として理解されている。


2予見可能性の程度
 具体的な結果が予見可能である場合、回避措置も具体化できる。
 しかし、予見可能な結果が抽象的であれば、どのような回避措置をとればよいか、
 明確にならない。

 森永ドライミルク事件では、ドライミルクを製造する際に
 工業用の化学薬品のソーダが使用されてきた。
 そのソーダにヒ素が混入していたため、
 ドライミルクを飲んだ子どもがヒ素中毒にかかった。
 子どもが飲むドライミルクの製造過程において、
 工業用の化学薬品を使用するにあたって、
 何も感じなかったのか。
 このような薬品を使用すると、体調不良など起こるのでは、
 と感じたのではないか。その体調不良がどのような内容のものか、
 具体的に特定できなくても、
 心配になった、不安を感じた、危惧感を抱いたというのであれば、
 そのような不安を除去するために、起こりうるあらゆる結果を回避する措置を
 取らなければならないのではないか。
 結果回避義務の「結果」は具体的なものから抽象的なものに変化する。


3予見可能性の基準
 一定の行為からある結果が発生することが予見可能であるかどうかは、
 その行為者の知識水準によって左右され、
 また注意力や慎重さなどによっても決まる。

 結果発生の予見義務や結果回避義務に違反したかどうかを判断するために
 社会的な平均人であれば予見しえたが、
 行為者個人の能力を標準にすると、予見しえないという場合が出てくる。

 社会的な平均人を基準にすると、個人に不可能を強いることになる。
 逆に個人を基準にすると、過失が成立しないという結果が出てくる。

 知識能力、生理的な能力(視力)などは個人を標準にしながら、
 慎重さ・軽率さなど規範的な能力は社会的な平均人を標準にする。


 過失犯における因果関係の予見可能性
 判例参照

 故意犯における因果関係の錯誤の問題
 XがAを殺す意思で銃を発砲し、急所に命中した(第1行為)。
 Xはその直後にAを埋めた(第2行為)。
 XはAがすでに死んでいると思ったが、まだ生きていた。
 死因は銃弾を受けたことではなく、埋められたことによる窒息死であった。
 第1行為と第2行為は時間的・場所的に行われた一連一体の行為と評価される。
 その一体的行為から被害者が死亡した。因果関係がある(殺人罪の構成要件に該当)。
 Xは死に至る因果経過が銃弾による死亡と認識していたが、客観的には窒息死であった。
 ここに因果関係の錯誤(行為から結果に至る因果経過の錯誤)が生じているが、
 認識した因果経過と実際の因果経過は、事実の点において符合していないが、
 殺人罪の構成要件に該当するという評価の点において符合しているので、
 このような錯誤があることを理由にして、殺人罪の故意を阻却することはできない。


(5)管理過失・監督過失
・管理過失
 ホテル、デパート、映画館など不特定または多数人が利用する施設においては、
 その管理責任者が防火設備を設置し、万が一の場合に備えて、
 避難誘導などの体制をとることが義務づけられている。
 火災などが発生しても、防火設備が作動すれば、被害は建物の焼損だけで済み、
 人身被害を食い止めることができる。
 防火設備の設置を怠り、火災の拡大を防がず、人身被害を発生させた場合には、
 管理責任者には、不作為による業務上過失致死罪が成立する。

・監督過失
 工事や作業の現場などでは、複数人がチームをつくって、作業に従事することがある。
 その場合、1人の監督と複数の従業員が作業にあたることがある。
 監督は、従業員が適切な作業をしているかどうかを確認しながら、作業全体を統括する。
 従業員が不慣れな場合、監督が具体的な指示を出して、ミスが起きないように注意する。
 従業員のミスから、火災や人身事故が発生した場合、その従業員に業務上失火罪や業務上過失致死傷罪が成立するが、
 従業員のミスが予見可能であり、監督が適切な指示を出して回避すべき義務があった場合、
 その義務をなさなかった場合には監督にも同罪が成立する。

 JR福知山線の脱線事故 車掌による無謀なスピード違反走行から脱線し、死傷者が出た(自身も死亡)。
 JR西日本の幹部に監督責任が問われた。
 しかし、本件当時は自動急ブレーキ(ATS)を設置することは義務付けられていなかったこと、
 福知山線において事故が発生する危険があることを予見できなかったこと
 などを理由に、監督過失の成立を否定した。


(6)判例で問題になった過失
【50】結果的加重犯と過失の要否(最三判昭和32・2・26刑集11巻2号906頁)
  結果的加重犯の基本構造 故意の基本 犯+加重結果
 加重結果について故意なし。では、過失は?
 判例 加重結果につき過失不要。
 学説 責任主義の徹底 予見不可能な加重結果にまで責任を負わせるのは問題である


【51】予見可能性の意義(1)(札幌高判昭和51・3・18高刑集29巻1号78頁)
 不注意な行為→結果の発生
 その間に複雑な理化学的作用と因果経過をたどる場合
 そのような作用と経過は専門家でも簡単には知りえない=予見できない
 では、過失は?


【52】予見可能性の意義(2)(最二決平成元・3・14刑集43巻3号262頁)
 道路交通で事故が発生することは経験的に知っている。
 交差点、信号のない横断歩道、曲 がり角など、
 事 故が発生する場所・人など経験的に知っている。
 ゆえに、どのような場所で、誰のところで事故が発生するか予見可能
 従って、そのような場所で結果回避に努める義務がある

 車の後部荷台に無断で乗っていた人にケガを負わせた。
 後部荷台に無断で人が乗り込むことが時おりある?


【53】予見可能性の意義(3)(最二決平成12・12・20刑集54巻9号1095頁)
 業務上失火罪の事案で、火災の発生に至るまでに、炭化導電路の形成という現象が生じたが、それは以前には報告されたことのないものであった。
 学会などで報告されていれば、そのような事象が生ずることを含めて結果回避措置を講ずることになるが、それが知られてい ない状況のもと で、果たして結果回避措置をとることができるか。


【54】注意義務の存否・内容(1) 信頼の原則(最二判昭和42・10・13刑集21巻8号1097頁)
 二車線の道路で、先行車両が右折するために、右ウインカーを点滅させながら、センターラインによって走行しているとき、後続の車両がそれを追い越すときには、どのようにしなければならないか。
 後続車両は、先行車両の左側を走行して追い抜く。その際、左側車線を走る自動車などに注意しながら追い抜く。それができない場合、先行車両の後ろで一時停車しなければならない。
 後続車両は先行車両の「右側」を通過して、追い抜こうとした。そのとき、先行車両の前右部と後続車両の左側面に衝突し、後続車両の運転者が死傷した。


【55】注意義務の存否・内容(2)(東京地判平成 13・3・28判時1 763号17頁、判タ1076号96頁)
 薬害エイズ帝京大学病院事件
 事件当時、血友病医が同じ状況に置かれたと仮定して、非加熱製剤ではなく、クリオ製剤を使用したとはいえるか。


【56】注意義務の存否・内容(3)(最二決平成20・3・3刑集62巻4号567頁)
 薬害エイズ厚生省事件


【57】注意義務の存否・内容(4)(最一決平成17・11・15刑集59巻9号1558頁)


【58】監督過失(最二決平成5・11・25刑集47巻9号242頁)
 防火体制を整備していないホテルでの火災事件
 客のタバコの不始末 → ボヤ → 火災 → ホテルの全焼 → 死傷者
 タバコの不始末と死傷者の条件関係あり
 ボヤが発生して以降、その延焼を防止する義務はホテル管理者にあり
 ボヤを消 し止 める義務は、客から、ホテル管理者に移行
 暴対改正の不整備→火災の延焼→ホテルの全焼→死傷者

 不作為による業務上失火罪と業務上過失致死罪
 防火体制をとるべき義務(保障者的地位)
 義務の可能性・容易性
 結果回避の「十中八九」の可能性


【59】危険の引き受け(千葉地判平成7・12・13判時1565号144頁)
 被害者が行為者の危険な行為に関与した。その危険が現実化した場合、行為者は被害者に対して責任を負うべきか。
 パラシュート、バンジージャンプなど、人が依頼して、スリリングなスポーツを行う
 そのスポーツから人身の被害が発生した場合
 ダートトライアル競技 指導員・被害者と行為者 の自動車に同乗
  行為者の不手際で事故が発生し、指導員が死傷。

 被害者による危険の引き受け
 業務上過失致死傷罪の構成要件該当→社会的に相当な行為ゆえ、違法性阻却

 業務上過失行為の危険性は被害者に引き受けられ、その引き受けられた危険が実現。
 業務上過失致死傷罪の構成要件該当なし


【60】業務上過失致死傷罪における業務の意義(最一決昭和60・10・21刑集39巻6号362頁)
 工事主任Aは、工場の資材運搬用簡易リフトの補修工事を行なっていた。Aが溶接作業を行ない、Xはこれに立ち会い、ウレタンに延焼しないよう立ち合い、監視していた。溶接の炎がウレタンに延焼した場合、それが誰の業務上の過失行為にあたるのか。溶接作業をしていたAの過失行為にあたるのは間違いない。では、Xはどうか。Xは溶接作業を業務としてはいなかった。