Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

19刑法Ⅱ(第02回)練習問題(第24問B)答案試案

2019-10-04 | 日記
 論点
(1)詐欺罪と窃盗罪の区別 (2)監禁罪の保護法益 (3)監禁罪と致死の因果関係の成否
(4)ガソリン代の未払い  (5)自動車の投棄

(1)甲が試乗を偽って自動車を乗り逃げした行為について
1 甲が試乗を偽って自動車に乗った行為は、窃盗にあたるか、詐欺罪にあたるか。
2 窃盗とは、財物の占有者の意思に反して、その占有を自己または第三者に移転させることである。
 詐欺とは、財物の占有者を欺いて、錯誤に陥れて、その財物を交付させて、その占有を自己または第三者に移転させることである。
3 甲は乗り逃げする意思を秘して、従業員に「試乗」すると偽って、自動車のキーを交付させたので、これにより詐欺罪が成立すると思われる。
4 では、その後、自動車を乗り、指示ルートから離れて走行した行為は、どのように評価されるか。甲は自動車のキーを欺いて交付させた後、自らがそのキーを用いて自動車を指示ルートから外れて運転したので、自動車販売店所有の自動車を自己の支配下に移転させたといえる。それは、窃盗にあたると思われる。ただし、従業員は甲に欺かれてキーを交付することによって、キーの占有だけでなく、自動車の占有をも甲に移転させたと評価することができるので、キーと自動車を含めて1個の詐欺罪が成立するにとどまる。
5 従って、詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。

(2)性交目的で乙女を自動車に乗せた行為について
1 甲が性交目的を秘して乙を自動車に乗せた行為は監禁にあたるか。
2 監禁とは、被害者を一定の場所から脱出することを困難にして、その行動の自由を制約する行為である。
3 甲は乙を自動車の助手席などの一定の場所に入れ、自動車を走行し、そこから容易に脱出できない状況にした。従って、監禁罪が成立するように思われる。しかし、乙には移動の自由が制約されている認識はなかった。このような場合でも、監禁罪が成立するのか
4 監禁罪の保護法益である行動の自由は、その主体が自由に行動したいと思うときに、自由に行動できる自由を意味する。そうすると、その制約を受けている認識がある現実に自由の侵害の侵害を認識している場合けでなく、その認識がない場合にも監禁罪が成立すると考えられる。乙は、甲が強姦の目的を持っていることを知っていれば、自動車に乗車しなかったであろうから、行動の自由の侵害があったといえる。
5 従って、乙が自動車に同乗した時点からすでに監禁罪(刑法220条)が成立していたと認定できる。

(3)乙女がタンクローリーに轢かれて死亡した点について
1 乙は監禁の被害を認識し、自動車から外に出て、タンクローリーに轢かれて死亡した。乙の死亡と因果関係があるのはタンクローリーの運転者の運転行為か、それとも甲の監禁行為か。
2 タンクローリーの運転者の行為と因果関係があるならば、その者に過失運転致死罪が成立する可能性がある。しかし、乙が死亡したのは、ハイヒールでつまずいた本人の過失行為に起因すると考えられるならば、過失運転致死罪は成立しない。いずれの場合も、乙の死亡は甲の監禁行為から生じたものではない。
3 しかし、乙がハイヒールをはいてつまずいたのは、乙が監禁された自動車から逃げ出すためであった。甲の監禁行為がなかったならば、乙が逃げ出し、タンクローリーに轢かれて死亡することもなかった。その限りでいえば、甲の監禁行為と乙の死亡との間には条件関係がある。
4 では、乙の死と因果関係があるのは甲の監禁行為であるか。乙の死は監禁行為それ自体から生じたものではなく、タンクローリーに轢かれたからである。しかし、乙が死亡したのは甲の監禁と時間的・場所的に近接しており、また監禁状態から逃げ出した乙の行動は、甲の監禁行為に随伴する行動である。そうすると、乙の死は甲の監禁から生じたと判断できる。
5 従って、甲には監禁致死罪(刑法221条)が成立する。

(4)甲がガソリン代の支払わなかった行為について
1 甲はガソリンスタンドに対してガソリン代を払わなかった。この行為は利益詐欺罪や窃盗罪にあたるか。
2 利益詐欺罪とは、相手を欺いて債務の免除の意思を表示させ、それに相当する利益を得る行為である。
3 甲はガソリンスタンドの従業員を欺いたか。甲はそのような行為を行ってはいない。従って、利益詐欺罪の手段行為である欺く行為があったと認めることはできない。
4 では、窃盗にあたるか。他人が占有する財物を窃取した事実もないので、窃盗罪にもあたらない。
5 ガソリン代の未払い(債務不履行)にとどまり、犯罪にはあたらない。

(5)甲が自動車を投棄した行為について
1 甲が他人の自動車を投棄した行為は器物損壊罪にあたるか。
2 自動車販売店の従業員を欺いて、自動車を詐取した後、それを処分する行為が損壊にあたることがある。その場合、その行為は器物損壊罪に一応あたる。
3 しかし、財物詐欺罪の後に行われた器物損壊を詐欺罪とは別に処罰する必要があるのか。
4 刑法理論では、そのような行為を不可罰的事後行為ないし共罰的事後行為として、詐欺罪とは別に処罰することを控えている。自動車の投棄は、詐欺罪の成立後に行われた不可罰な行為ないし詐欺罪と共に処罰される行為として扱われる。
5 従って、あらためて犯罪として処罰する必要はない。

(6)結論
 以上から、甲には財物詐欺罪と監禁致死罪が成立し、それらは併合罪の関係に立つ。