2018年度 現代の人権
第11回(1207)アメリカの現状
横藤田 誠「犯罪行為を行った精神障害者に対する司法福祉」
(1)刑事司法と司法福祉
犯罪を行った精神障害者に対するアメリカの「司法福祉」の対応
日本の心神喪失者等医療観察法(司法福祉の一例として側面)への示唆
法におけるソーシャルワークの関与
全米司法福祉機構(1997年)National Organization of Forensic Social Work
2011年 Journal of Forensich Social Work
司法福祉 法・法制度に関する問題へのソーシャルワークの関与
刑事手続上の権利保障・防禦権行使のためのSWerの関与の重要性
犯罪行為を行った精神障害者の「精神障害」は多様である
訴訟能力・責任能力へ影響する障害や「合理的配慮」を要する障害
したがって、SWerの関与の仕方・理論も多様になる
(2)刑事司法のなかの精神障害者
犯罪の実行→逮捕→起訴→判決→刑の執行おける「精神障害」への配慮
刑事責任能力の有無により起訴に影響、また量刑・刑の執行、仮釈放に影響
執行猶予・保護観察における配慮
1刑事司法における能力
被告人が刑事裁判を受けるに値する能力または刑事裁判を維持できる能力
犯罪の成立要件としての能力
刑の執行を可能にする能力
訴訟能力(competency to stand trail)
起訴後、訴訟能力の有無の提起(弁護人)→公判の停止→精神鑑定→
責任能力があるといえない→長期の入院措置及び精神障害者の烙印
訴訟能力の有無を判定する機会を設けることは裁判所の義務(判例)
判定にあたって訴訟能力の有無を証明する義務(挙証責任)は誰に?
弁護人(被告人) ただし「証拠の優越」(証明力の優越性)で足りる
訴訟無能力→州立精神病院の重保安施設への収容(長期・終身)
連邦最高裁の違憲判決(「合理的な期間」に限る。しかし基準は不明確)
SWerの関与 裁判における判定への関与、病院収容後、職員として関与
責任無能力 実行行為時の責任能力
無能力の定義(日本) 精神の障害ゆえに行為の是非善悪を識別できないか、その識別に従って行動を制御できない
責任なければ犯罪(で)はなく、(それへの)刑罰もなし(責任主義の制度)
しかし、「罪」を犯した者が「罰」を免れることへの市民の感情的反発
ヒンクリー事件(1982年) コロンビアでのレーガン大統領暗殺未遂
・1982年 特別区陪審 心神喪失(insanity)責任無能力=無罪→全米に衝撃
・制度を廃止した州、責任能力の範囲を限定した州、挙証責任を被告人へ転嫁
・責任能力の精神医学的概念から法律的概念への移行
・責任能力なし→措置入院、責任能力あり→刑務所
「有罪、ただし精神疾患」(中間形態)→入院・治療後、刑務所へ
責任能力なし→措置入院
無期限の強制入院措置
強制入院の要否を判断する1~3か月の入院措置
無罪判決後、措置入院の要件の有無を無罪者に負わせたうえでの入院措置
2精神障害者の「危険性」、「治療」への着目
精神疾患→保護観察、執行猶予、解釈法(無疾患の再犯30%、疾患者62%)
精神障害を持つ人を刑事司法システムから他のシステムへと移す取り組み
(3)精神障害と犯罪
1精神障害は犯罪の要因?
精神障害=犯罪的危険性と犯罪的結果の関係(原因と結果の関係)?
社会的差別の意識と排除傾向の増大 雇用・住居の制限
一定の実証的研究
The MacArthur Violence Risk Assesment Study
暴力行為と精神障害との関連性の有無と強弱
統合失調症、双極性障害、大うつ病等 妄想・幻覚→暴力的行為へ
それに加え、社会解体地域、経済的困窮、家庭崩壊などの社会的要因が影響
not「原因→結果」、but「精神障害を含む諸要因の複合の仕方→結果」
2矯正施設における精神障害者の過剰
連邦・州刑務所の受刑者の推移 1925年20万人以下、2014年150万人以上 2014年連邦・州・郡・市の刑務所の被収容者224万人 精神疾患10-25%
州立精神病院1950年代 56万人 1990年9.9万人
精神障害治療の転換 施設収容から脱施設化へ、地域医療へ
しかし、退院後、地域医療を受けることができない財政状況
退院者が犯罪へ、拘置所・刑務所へ
刑務所に地域医療施設としての機能はあるか?
職員スタッフに知識・技能はあるか?
3再犯率
拘置所・刑務所における精神障害者の「過剰」
出所者の再犯率 3年以内の再犯60%、5年以内の再犯75%
非刑罰的な処遇プログラムの必要性
SWerの役割への期待
(4)犯罪行為を行った精神障害者に対する司法福祉の拡大
1保護観察への関与
1960年代 司法福祉の役割 保護観察・執行猶予へのSWerの関与の増大
1980年代 社会の厳罰化要求(米ソ冷戦から社会の敵・犯罪者との闘争)
新自由主義政策と刑務所の民営化、ビジネス化
SWer 元受刑者・出所者の支援から犯罪被害者の支援へ
2矯正段階での治療の提供
2004年 精神障害犯罪者の治療および犯罪減少のための法律
3精神保健裁判所(mental health court)
精神障害を負った被告人を通常の裁判所から特別の裁判所へ移行
問題解決型裁判所
1989年 薬物処遇裁判所
2002年 ブルックリン精神保健裁判所(ニューヨーク)
被告人・弁護人、裁判官、検察官 MHCの提案
SWerと精神科医による判断→被告人・検察官の司法取引→治療へ
4刑事司法システムの補助的役割
訴訟能力の有無の判定への関与
責任無能力、ゆえに無罪者の処遇への関与
(5)残された課題――「自由」と「福祉」の相剋
1公共の安全と犯罪加害者の福祉・自立
刑事司法における公共の安全、精神保健における加害者の福祉と自立
2「自由」と「福祉」の相剋
精神障害者に対する適切な治療の提供を受ける権利と自己決定権の行使
→レジュメ・講義録ブログ「かのようにの法哲学」
第11回(1207)アメリカの現状
横藤田 誠「犯罪行為を行った精神障害者に対する司法福祉」
(1)刑事司法と司法福祉
犯罪を行った精神障害者に対するアメリカの「司法福祉」の対応
日本の心神喪失者等医療観察法(司法福祉の一例として側面)への示唆
法におけるソーシャルワークの関与
全米司法福祉機構(1997年)National Organization of Forensic Social Work
2011年 Journal of Forensich Social Work
司法福祉 法・法制度に関する問題へのソーシャルワークの関与
刑事手続上の権利保障・防禦権行使のためのSWerの関与の重要性
犯罪行為を行った精神障害者の「精神障害」は多様である
訴訟能力・責任能力へ影響する障害や「合理的配慮」を要する障害
したがって、SWerの関与の仕方・理論も多様になる
(2)刑事司法のなかの精神障害者
犯罪の実行→逮捕→起訴→判決→刑の執行おける「精神障害」への配慮
刑事責任能力の有無により起訴に影響、また量刑・刑の執行、仮釈放に影響
執行猶予・保護観察における配慮
1刑事司法における能力
被告人が刑事裁判を受けるに値する能力または刑事裁判を維持できる能力
犯罪の成立要件としての能力
刑の執行を可能にする能力
訴訟能力(competency to stand trail)
起訴後、訴訟能力の有無の提起(弁護人)→公判の停止→精神鑑定→
責任能力があるといえない→長期の入院措置及び精神障害者の烙印
訴訟能力の有無を判定する機会を設けることは裁判所の義務(判例)
判定にあたって訴訟能力の有無を証明する義務(挙証責任)は誰に?
弁護人(被告人) ただし「証拠の優越」(証明力の優越性)で足りる
訴訟無能力→州立精神病院の重保安施設への収容(長期・終身)
連邦最高裁の違憲判決(「合理的な期間」に限る。しかし基準は不明確)
SWerの関与 裁判における判定への関与、病院収容後、職員として関与
責任無能力 実行行為時の責任能力
無能力の定義(日本) 精神の障害ゆえに行為の是非善悪を識別できないか、その識別に従って行動を制御できない
責任なければ犯罪(で)はなく、(それへの)刑罰もなし(責任主義の制度)
しかし、「罪」を犯した者が「罰」を免れることへの市民の感情的反発
ヒンクリー事件(1982年) コロンビアでのレーガン大統領暗殺未遂
・1982年 特別区陪審 心神喪失(insanity)責任無能力=無罪→全米に衝撃
・制度を廃止した州、責任能力の範囲を限定した州、挙証責任を被告人へ転嫁
・責任能力の精神医学的概念から法律的概念への移行
・責任能力なし→措置入院、責任能力あり→刑務所
「有罪、ただし精神疾患」(中間形態)→入院・治療後、刑務所へ
責任能力なし→措置入院
無期限の強制入院措置
強制入院の要否を判断する1~3か月の入院措置
無罪判決後、措置入院の要件の有無を無罪者に負わせたうえでの入院措置
2精神障害者の「危険性」、「治療」への着目
精神疾患→保護観察、執行猶予、解釈法(無疾患の再犯30%、疾患者62%)
精神障害を持つ人を刑事司法システムから他のシステムへと移す取り組み
(3)精神障害と犯罪
1精神障害は犯罪の要因?
精神障害=犯罪的危険性と犯罪的結果の関係(原因と結果の関係)?
社会的差別の意識と排除傾向の増大 雇用・住居の制限
一定の実証的研究
The MacArthur Violence Risk Assesment Study
暴力行為と精神障害との関連性の有無と強弱
統合失調症、双極性障害、大うつ病等 妄想・幻覚→暴力的行為へ
それに加え、社会解体地域、経済的困窮、家庭崩壊などの社会的要因が影響
not「原因→結果」、but「精神障害を含む諸要因の複合の仕方→結果」
2矯正施設における精神障害者の過剰
連邦・州刑務所の受刑者の推移 1925年20万人以下、2014年150万人以上 2014年連邦・州・郡・市の刑務所の被収容者224万人 精神疾患10-25%
州立精神病院1950年代 56万人 1990年9.9万人
精神障害治療の転換 施設収容から脱施設化へ、地域医療へ
しかし、退院後、地域医療を受けることができない財政状況
退院者が犯罪へ、拘置所・刑務所へ
刑務所に地域医療施設としての機能はあるか?
職員スタッフに知識・技能はあるか?
3再犯率
拘置所・刑務所における精神障害者の「過剰」
出所者の再犯率 3年以内の再犯60%、5年以内の再犯75%
非刑罰的な処遇プログラムの必要性
SWerの役割への期待
(4)犯罪行為を行った精神障害者に対する司法福祉の拡大
1保護観察への関与
1960年代 司法福祉の役割 保護観察・執行猶予へのSWerの関与の増大
1980年代 社会の厳罰化要求(米ソ冷戦から社会の敵・犯罪者との闘争)
新自由主義政策と刑務所の民営化、ビジネス化
SWer 元受刑者・出所者の支援から犯罪被害者の支援へ
2矯正段階での治療の提供
2004年 精神障害犯罪者の治療および犯罪減少のための法律
3精神保健裁判所(mental health court)
精神障害を負った被告人を通常の裁判所から特別の裁判所へ移行
問題解決型裁判所
1989年 薬物処遇裁判所
2002年 ブルックリン精神保健裁判所(ニューヨーク)
被告人・弁護人、裁判官、検察官 MHCの提案
SWerと精神科医による判断→被告人・検察官の司法取引→治療へ
4刑事司法システムの補助的役割
訴訟能力の有無の判定への関与
責任無能力、ゆえに無罪者の処遇への関与
(5)残された課題――「自由」と「福祉」の相剋
1公共の安全と犯罪加害者の福祉・自立
刑事司法における公共の安全、精神保健における加害者の福祉と自立
2「自由」と「福祉」の相剋
精神障害者に対する適切な治療の提供を受ける権利と自己決定権の行使
→レジュメ・講義録ブログ「かのようにの法哲学」