Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ブラシノステロイドシグナル伝達に関与する新規タンパク質キナーゼ

2010-05-10 21:26:05 | 読んだ論文備忘録

ASKθ, a group-III Arabidopsis GSK3, functions in the brassinosteroid signalling pathway
Rozhon et al.  The Plant Journal (2010) 62:215-223.

DOI: 10.1111/j.1365-313X.2010.04145.x

シロイヌナズナのブラシノステロイド(BR)シグナル伝達経路において、GSK3/shaggy-likeタンパク質キナーゼのBRASSINOSTEROID INSENSITIVE 2(BIN2)は、負の制御因子として機能している。シロイヌナズナにはBIN2 のようなGSK3/shaggy-likeタンパク質キナーゼ(ASK)をコードする遺伝子が10個存在しており、4つのグループ(Ⅰ~Ⅳ)に分類されている。BIN2はグループⅡに属しており、同じグループに属しているASKιとASKζもBRシグナル伝達に関与していることが明らかとなっている。オーストリア グレゴール・メンデル植物分子生物学研究(GMI)のJonak らは、ASKキナーゼの新たな機能を探索することを目的に、グループⅠ、Ⅲ、ⅣのASKを過剰発現させたシロイヌナズナを作出して表現型を解析し、グループⅢのASKθを過剰発現させた個体は、極度のわい化、色が濃く巻いた葉、稔実率の低下、花成の遅れといった形態異常を示すことを見出した。この表現型はBR受容体の変異体bri1 と類似しており、ASKθキナーゼ活性はbri1 変異体やBR生合成の変異体cpd で高くなっていた。よって、ASKθキナーゼ活性はBRによって負に制御されている。ASKθ過剰発現個体は、bri1 変異体と同様に、BRに対する感受性が低く、アブシジン酸(ABA)に対する感受性が高くなっていた。また、BR生合成酵素をコードするDWF4Br6OX2 の発現量、内生のBRとその前駆体量が増加し、BR応答遺伝子のBEE3 の発現量が低下していた。また、ASKθタンパク質はBES1/BZR1ファミリーに属するBRシグナル伝達転写因子BEH2と相互作用を示し、主に核に局在することが確認された。さらに、ASKθキナーゼはBEH2、BZR1、BES1を直接リン酸化し、自己リン酸化されることがわかった。以上の結果から、ASKθはBES1/BZR1ファミリー転写因子を基質としているタンパク質キナーゼであり、BIN2と同様にBRシグナル伝達の負の制御因子として機能していると考えられる。

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論文)B-sister MADS-boxタンパク質の機能

2010-05-08 23:41:17 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis B-sister MADS-box protein, GORDITA, represses fruit growth and contributes to integument development
Prasad et al. The Plant Journal (2010) 62:203-214.

DOI: 10.1111/j.1365-313X.2010.04139.x

B-sister MADS-boxタンパク質は、花器官形成のクラスBホメオティックタンパク質に属するMADS-boxタンパク質と類似性が見られるが、胚珠や種子の形成に関与しているという特徴がある。ニュージーランド マッセー大学のAmbrose らは、シロイヌナズナのB-sister MADS-boxタンパク質AGL63についてT-DNA挿入による機能喪失変異体を用いて解析を行なった。変異体は野生型よりも長角果が大きくなるという特徴があり、このことから、この遺伝子をGORDITAGOA 、スペイン語で「ふとっちょ」の意味)と新たに命名した。GOA を過剰発現させたシロイヌナズナは7個体得られたが、種子形成の低下、わい化、葉肉細胞が小さいために葉が小さい、頂芽優勢の欠如、老化の遅延といった特徴が見られた。長角果が形成されても、細く、短く、ねじれがあり、裂開しなかった。逆に、goa 変異体の葉肉細胞は野生型よりも大きかった。GOA 過剰発現個体の花序では、細胞拡張に関与しているANGUSTIFOLIALONGIFOLIA 1 および2ROTUNDIFOLIA 3 の発現量が野生型よりも低く、GOA は細胞拡張に抑制的に作用しているものと考えられる。GOA はがく片、胚珠、外珠皮、花糸、花柱、隔膜で発現しており、雌性器官の発達に関与していることが示唆される。GOA は、内珠皮の発達と種皮の着色に関与しているB-sister MADS-box遺伝子のTRANSPARENT TESTA 16TT16 )とパラログであり、goa 変異体種子はtt16 変異体と同様に種皮の色が薄くなっていた。goa tt16 二重変異体は単独変異体よりもテトラゾリウム塩の透過性が増加していることから、両遺伝子は種皮形成に相加的に作用してると考えられる。

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論文)ジベレリンによる側根形成制御

2010-05-06 23:51:01 | 読んだ論文備忘録

Gibberellins Regulate Lateral Root Formation in Populus through Interactions with Auxin and Other Hormones
Gou et al.  Plant Cell (2010) 22:623-639.
doi:10.1105/tpc.109.073239

側根の誘導・形成においてオーキシンは重要な役割を演じており、エチレン、サイトカイニン、ブラシノステロイド、アブシジン酸(ABA)もこの過程の制御に関わっていることが知られている。しかしながら、ジベレリン(GA)については側根形成との関連が殆どわかっていない。米国 ミシガン工科大学のBusov らは、GAを不活性化型にするGA2ox1 もしくはDELLAドメインを欠いたGAシグナルの負の制御因子rgl1 を35Sプロモーター制御下で過剰発現させてGA欠失もしくはGA非感受性となった形質転換ポプラを材料に用いて、GAと側根形成との関係を調査した。その結果、どちらの形質転換体もわい化の程度が強いほど側根の長さや密度が増加しており、シュート/根の比が野生型よりも低くなっていた。このような形態変化をもたらす分子機構を解明するために、形質転換体と野生型の根で発現している遺伝子をマイクロアレイにより網羅的に解析した。得られたアレイデータを遺伝子オントロジー解析したところ、上位10位までのカテゴリーのうち9つは両形質転換体で共通しており、どちらもホルモン刺激応答カテゴリーに分類される遺伝子の変化が最も高く、アミノ酸、フェニルプロパノイド、ステロイドの代謝に関連する遺伝子、グルカン、リグニンの生合成に関連する遺伝子が上位10位の中に含まれていた。根の表現型と密接に関連して発現量が変化する1178の遺伝子のうち、685遺伝子は機能が明らかなものであり、これらについて詳細な解析を行なった。これらのうち、発現量が増加する遺伝子群として、細胞壁修飾や細胞分裂を制御する遺伝子が含まれていた。転写因子に分類される遺伝子のうち、57遺伝子は発現量が低下し、9遺伝子は発現量が増加していた。植物ホルモンの代謝、応答に関連する遺伝子の中にも大きな変化が見られるものがあり、GA生合成関連遺伝子は発現量が増加、GA応答遺伝子は発現量が低下、ABA生合成・応答に関連する遺伝子は発現量が低下、エチレンおよびオーキシンの生合成・応答に関連する遺伝子については発現量が上昇するもの低下するものの両者が混在していた。そこで、両形質転換体の内生ホルモン量を調べたところ、ABA量は根では低下しているが葉では増加しており、IAA量は根で僅かに増加し、葉では変化は見られなかった。また、オーキシン排出キャリアをコードするPt PIN9 遺伝子は両形質転換体において発現量が増加していた。Pt PIN9 を35Sプロモーターで過剰発現させた形質転換ポプラでは側根形成、側根原基の誘導量が増加し、野生型植物をGA処理するとPt PIN9 発現量が低下し、側根原基数も減少した。よって、GAは側根形成を抑制し、これにはGAによるオーキシン極性輸送の制御が関与しているものと思われる。

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植物観察)春の北海道 札幌

2010-05-04 17:52:13 | 植物観察記録

今日は朝から野幌森林公園に行きました。野幌のバイケイソウも順調に生育しています。ここでも季節は遅れ気味のようで、ザゼンソウがまだ多く見られ、湿地ではバイケイソウの芽吹きとミズバショウ、ザゼンソウが混在していました。他にはヒメイチゲの花がちらほら見られました。エンレイソウはまだ蕾のものばかりで、花は咲いていませんでした。

午後からは北大植物園へ行きました。今日は「みどりの日」ということで、無料で植物園を開放していました。園内のいたるところでキバナノアマナが群落を形成して黄色い花を咲かせていました。また、この時期の見所の花である、コジマエンレイソウを見ることができました。園内では、早くもシラネアオイが花を咲かせていました。


野幌森林公園のバイケイソウ 順調に生育


ヒメイチゲの花が咲き始めました(野幌)


今日は「みどりの日」なので、植物園は無料開放


植物園内のいたるところでキバナノアマナが咲いていました


コジマエンレイソウ

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植物観察)春の北海道 旭川

2010-05-03 17:42:02 | 植物観察記録

今日は旭川で春植物の観察をしました。よく陽の当たる斜面では、カタクリやエゾエンゴサクが丁度良い具合に咲いていました。場所によって雪解けにムラがあった為でしょうか、群落によってはまだ蕾の個体だらけのようなところもありました。フクジュソウ、エゾエンゴサク、カタクリの三者が同時に見られる場所もありました。他には、キクザキイチゲ、ナニワズの花が見られました。エンレイソウはまだ生えてきていないようです。昆虫たちも活動を始めたようで、ヒメギフチョウ、ヒオドシチョウを目撃しました。


満開となったカタクリの群落


フクジュソウ、カタクリ、エゾエンゴサクの三花を同時に見ることができます


白花のエゾエンゴサク


ヒオドシチョウが活動を始めました

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植物観察)春の北海道 稚内

2010-05-02 17:32:16 | 植物観察記録

稚内の海岸近くの草原へバイケイソウ環状集団の観察に行きました。天気は良いのですが、風強く、気温も13℃程度しかありません。バイケイソウは20cm程度の大きさに順調に成長していました。ただ、全体的には季節は遅れ気味に推移しているようで、まだフクジュソウが見られました。今後、幾つかの集団での開花個体数とクローン個体の増加を追っていき、環状集団が拡大していく過程を追跡して行こうと考えています。

稚内の海岸近くの草原のバイケイソウ集団


草原の中でも最大級の環状集団。95個体のクローン個体で構成されている。


草原では、まだフクジュソウが咲いていました。

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論文)オーキシン生合成阻害剤

2010-05-01 06:35:36 | 読んだ論文備忘録

Auxin Biosynthesis Inhibitors, Identified by a Genomics-Based Approach, Provide Insights into Auxin Biosynthesis
Soeno et al.  Plant and Cell Physiology (2010) 51:524-536.

doi:10.1093/pcp/pcq032

オーキシンの生合成経路は複数の経路が提唱されているが、植物体内で実際に機能している経路がどれなのか、どのような役割分担があるのかは明らかとなっていない。オーキシン合成能が欠損した変異体は得られておらず、オーキシン生合成阻害剤も見出されていない。理化学研究所植物科学研究センターの嶋田らは、AtGenExpressプロジェクトによって得られたシロイヌナズナの植物ホルモン処理に対する遺伝子発現解析結果と植物成長制御剤に対するマイクロアレイ実験結果とを照合し、アミノエトキシビニルグリシン(AVG)処理による遺伝子発現変化とオーキシン処理による遺伝子発現変化の間に強い負の相関があることを見出した。AVGはエチレン生合成の阻害剤として知られており、エチレンの前駆体である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)処理による遺伝子発現変化とも負の相関を示す。そこで、オーキシンやエチレンの作用に関連することが知られている化合物として、オーキシン輸送阻害剤の2,3,5-トリヨード安息香酸(TIBA)やナフチルフタラミン酸(NPA)、プロテアソーム阻害剤のMG132、タンパク質合成阻害剤のシクロヘキシミド、抗オーキシンのp-クロロフェノキシイソ酪酸(PCIB)、オーキシンアナログの2,4,6-トリヒドロキシベンズアミド(246T)、エチレン受容体阻害剤の硝酸銀について同様の解析を行なったところ、AVGが最も抗オーキシン活性が強いことがわかった。AVGによるエチレン生合成の阻害は、ピリドキサールリン酸(PLP)を補酵素とするPLP酵素に分類されるACC合成酵素の活性を阻害することによるものであり、オーキシン生合成経路の中にもPLP酵素とされているものが幾つか存在している。AVGはその濃度に応じて内生インドール-3-酢酸(IAA)量を減少させることから、オーキシン生合成を阻害しているものと思われる。そこで、PLP酵素やアミノ基転移酵素を阻害するとされている化合物について、シロイヌナズナ芽生えの根の伸長とAux/IAA 遺伝子の発現を指標としてオーキシン生合成阻害物質の選抜を行ない、L-アミノフェニルプロピオン酸(AOPP)にも強い阻害活性があることを見出した。エチレンはシロイヌナズナ芽生えの内生オーキシン量を負に制御しており、エチレン非感受性変異体ein2 の芽生えにおいても野生型と同様にAVG、L-AOPPによってオーキシン生合成が阻害されることから、両化合物によるオーキシン生合成の阻害はエチレンの作用とは関連がないと考えられる。シロイヌナズナとコムギの抽出液を用いた実験から、両化合物がオーキシン生合成経路のトリプトファンからインドール-3-ピルビン酸(IPyA)を生成するトリプトファンアミノトランスフェラーゼを阻害していることがわかった。同様の結果はein2 変異体においても観察された。両化合物によるIAA生合成の阻害効果は、イネとトマトの芽生えのシュートと根で作用力に差異が見られることから、それぞれの化合物の効果もしくはIAA生合成経路に種特異性、器官特異性があるものと思われる。

理化学研究所のプレスリリース

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