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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)ジャスモン酸により誘導される二次代謝に関与するP450タンパク質

2010-05-12 20:45:26 | 読んだ論文備忘録

The Arabidopsis P450 protein CYP82C2 modulates jasmonate-induced root growth inhibition, defense gene expression and indole glucosinolate biosynthesis
Liu et al.  Cell Research (2010) 20:539-552.
doi:10.1038/cr.2010.36

中国科学院 遺伝・発育生物学研究所のLi らは、シロイヌナズナT-DNA挿入変異体集団の中から、ジャスモン酸(JA)による芽生え一次根の成長阻害が野生型よりも感受性が強いjasmonic acid -hypersensitive1-1jah1-1 )変異体を得た。しかし、この変異体では、傷害応答遺伝子であるVEGETATIVE STORAGE PROTEIN1VSP1 )とLIPOXYGENASE2LOX2 )のJAによる発現誘導は野生型と同等だったが、病害応答遺伝子である植物ディフェンシンPDF1.2 と抗菌ペプチドチオニンThi2.1 の発現誘導量が減少していた。変異体ゲノム中のT-DNA挿入領域を探索したところ、チトクロムP450モノオキシゲナーゼをコードするCYP82C2 (At4g31970)遺伝子の翻訳開始点から900 bp上流に挿入が見られ、変異体ではCYP82C2 の発現量が減少していることが確認された。野生型でのCYP82C2 の発現は調査したすべての組織(根、葉、花)で確認され、CYP82C2 プロモーター:: GUS により発現組織を詳細に調査したところ、芽生えでは根と胚軸、葉ではトライコーム、花では葯、果実では長角果と小花柄の接続部で強い発現が見られた。芽生えをメチルジャスモン酸(MeJA)処理すると1日後にCYP82C2 の発現誘導が確認され、2日後に転写産物量が最大となり、その後減少していった。同様の誘導パターンは植物体に灰色カビ病菌(Botrytis cinerea ) を感染させた際にも見られた。MeJAによるCYP82C2 の発現誘導は、coi1 変異体においても見られ、atmyc2-2 変異体では発現量が増加し、AtMYC2 過剰発現個体では発現量が減少していた。よって、CYP82C2 の発現誘導はCOI1を介したJAシグナル伝達経路を介していないが、AtMYC2により負に制御されていると考えられる。jah1-1 /coi1 二重変異体およびCYP82C2 過剰発現個体の芽生えでは、JAによる一次根成長阻害が消失してJA非感受性となっていた。しかし、CYP82C2 過剰発現個体ではMeJAによるPDF1.2Thi2.1 の発現誘導量が増加し、灰色カビ病菌に対する耐性が増加していた。jah1-1 変異体では、トリプトファン(Trp)生合成路のアントラニル酸シンターゼのαサブユニットコードするASA1 、Trpからインドール-3-アセトアルドキシム(IAOx)を合成するCYP79B2CYP79B3 、IOAxから抗菌性二次代謝産物のインドールグルコシノレート(IGs)を合成する経路上の酵素をコードするATR1SUPERROOT2SUR2 )、SUPERROOT1SUR1 )のMeJAによる発現誘導量が低下し、Trp含量、IGs含量の上昇量も野生型よりも低かった。CYP82C2 過剰発現個体はMeJAにより誘導されるTrpの増加量がjah1-1 変異体よりさらに低くなっていたが、IGsの増加が野生型よりも高くなっていた。CYP82C2 過剰発現個体において、IOAxから合成される他の代謝産物であるインドール-3-酢酸(IAA)やファイトアレキシンのカマレキシンの量は野生型と同等であった。以上の結果から、CYP82C2はJAによって誘導されるTrp、IGs合成過程に関与していると考えられる。

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