Non-CG DNA hypomethylation promotes photosynthesis and nitrogen fixation in soybean
Xun et al. PNAS (2024) 121 (36) e2402946121.
doi:10.1073/pnas.2402946121
植物におけるDNAのメチル化は、3種類のシトシンのコンテキスト(CG、CHG、CHH、「H」はグアニン以外のヌクレオチド)で起こり、それぞれ特異的なメチル化酵素によって調節されている。CHROMOMETHYLASE(CMT)メチルトランスフェラーゼファミリーは、植物特異的で、CHGとCHHのメチル化に中心的な役割を果たしている。中国 華中農業大学のWangらは、ダイズの非CGメチル化が農業形質に与える影響を調査するために、CMT 遺伝子をCRISPR-Cas9でゲノム編集した変異体を作出して解析を行なった。ダイズゲノム中には4つのGmCTM 遺伝子[GmCMT1a (Glyma.01G160300)、GmCMT1b (Glyma.11G083600) 、GmCMT2 (Glyma.16G103500)、GmCMT3 (Glyma.01G007800)]があり、4遺伝子とも花や根で高い発現を示していた。4遺伝子を機能喪失もしくは発現抑制したGmcmt 四重変異体を中国の主要なダイズ生産地である吉林省の圃場で栽培したところ、野生型植物と比較して、草丈が高く、さや当たりの種子生産量が多く、種子重量も増加した。また、種子のタンパク質含量は野生型植物種子より2.8 %多く、種子油含量は2.7 %少なかった。一方で、Gmcmt 変異体は塩ストレス感受性が高くなっていた。全ゲノムバイサルファイトシークエンシング(WGBS)によりGmcmt 変異体と野生型植物の葉のゲノムワイドなDNAメチル化パターンをプロファイリングしたところ、Gmcmt 変異体ではCHGメチル化(mCHG)が30.6 %、CHHメチル化(mCHH)が73.4 %減少しており、対照的に、CGメチル化(mCG)レベルは2つの遺伝子型間でほぼ同等であることが判った。同じ葉組織を用いてRNA-seq解析を行ったところ、Gmcmt 変異体では野生型植物と比較して1953遺伝子が発現上昇し、995遺伝子が発現低下しており、1252の転移因子(TE)が発現上昇し、513のTEが発現低下していることが判った。野生型植物と比較して発現量に差のあるTE(DET)の周囲のメチル化レベルを解析したところ、非CGコンテキストでは低メチル化という一貫したパターンが見られたが、CGコンテキストでは有意な変化は見られなかった。DETは、主にGypsy 群とCopia 群のLTR型レトロトランスポゾンだった。Gmcmt 変異体での非CGメチル化の変化がクロマチン構造や遺伝子発現に影響を与えているかを見るために、ATAC-seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin Sequencing)によるオープンクロマチン解析を行なった。その結果、Gmcmt 変異体においてクロマチンへのアクセス性が増加した高アクセス性領域(HAR)を9279ヶ所見出した。また、958の低アクセス性領域(LAR)も見出された。HARは主にユークロマチン領域に存在し、LARは主にヘテロクロマチン領域に存在した。これらの結果は、非CGメチル化がユークロマチン領域へのアクセス性に影響を与えることを示している。HARとLAR周辺の相対的なメチル化レベルをプロットすると、3つの配列コンテクストでDNAのメチル化レベルが低く、隣接領域でより高いメチル化レベルが見られた。Gmcmt 変異体でのHARのメチル化は野生型植物と同等であったが、隣接領域で著しく低くなっていた。このことから、アクセス可能なクロマチン領域はメチル化レベルが低いが、そのアクセス可能性の程度はその周辺領域の非CGメチル化によって調節されている可能性が示唆される。LARのメチル化レベルは、領域内と周辺領域ではほぼ一定であり、Gmcmt 変異体では非CGメチル化レベルが低かった。よって、ヘテロクロマチン領域へのアクセス性は非CGメチル化以外の要因にも影響されている可能性がある。Gmcmt 変異体の生物学的経路の変化をKEGGパスウェイエンリッチメント解析により調査したところ、ワックス生合成経路は下方制御されていたが、炭素固定や多くの代謝経路は上昇制御されていた。実際、Gmcmt 変異体では光合成関連の転写産物量が野生型植物よりも多くなっており、光合成効率が向上していることが示唆される。電子顕微鏡観察の結果、Gmcmt 変異体の葉の表皮は、細胞が小さく、気孔密度が高くなっており、葉緑体のデンプン粒が大きくて多く、チラコイド層が増加していることが判った。また、Gmcmt 変異体は野生型植物よりも高い光合成速度を示し、日中の葉のデンプン蓄積が速かった。これらの結果から、GmCMTの機能喪失は、光合成効率とデンプン蓄積を促進するエピジェネティックな修飾をもたらし、これがGmcmt 変異体種子の重量増加をもたらしていると考えられる。光合成関連遺伝子のDNAメチル化とクロマチンアクセス性は、野生型植物とGmcmt 変異体の間で僅かな差しか見られなかったことから、上流に位置する転写因子遺伝子に着目して解析を行なったところ、Gmcmt 変異体では、59遺伝子が発現上昇し、28遺伝子が発現低下しており、このうち67遺伝子は非CG DNAの低メチル化またはHARによって制御されている可能性があった。転写因子遺伝子のうち、4つのGOLDEN-LIKE(GLK)遺伝子[GmGLK66 (Glyma.10G204200)、GmGLK129 (Glyma.20G186500)、GmGLK4 (Glyma.01G086700)、GmGLK10 (Glyma.02G098800)]はGmcmt 変異体で発現が高くなっていた。シロイヌナズナではGLKが葉緑体の発達と光合成効率を制御していることから、これらのGmGLK のエピジェネティックな制御が、Gmcmt 変異体で見られた光合成効率の向上に関与しているのではないかと考えられた。実際、GLK1/2標的遺伝子と、Gmcmt 変異体で発現量が変化している光化学系関連遺伝子との間に顕著な関連が観察された。GmGLK10 は、CHHメチル化の低下によって発現が上昇し、Gmcmt 変異体において2つのHARがGmGLK10 遺伝子プロモーター内に位置していた。さらに、GmGLK10 遺伝子プロモーター内の2つのHARのうち1つは、明所育成芽生えには存在するが、黄化芽生えには存在せず、公開されているATAC-seqおよびRNA-seqデータセットに基づくと、明所でのGmGLK10 発現上昇と関連していた。解析の結果、Gmcmt 変異体と野生型植物の間で発現量に差のある遺伝子の39.9%(2950個中1176個)がGmGLK10の影響を受けており、これらの遺伝子のうち734個は発現上昇の直接の標的遺伝子となっていた。また、これらの遺伝子のうち43.8%(1176個中515個)は、非CGメチル化および/またはクロマチンアクセス性の影響を受けている可能性があり、GmGLK10の結合部位に影響を与えることで光合成に寄与している可能性がある。これらのGmGLK10の直接の標的遺伝子は、Gene Ontology解析で葉緑体の発生と光合成に関与すると注釈されていた。GmGLK10 過剰発現形質転換体(GmGLK10-OX)は、野生型植物よりも光合成効率が高く、GmGLK10-OX 系統で発現が増加した遺伝子には光合成関連のものが多く含まれていた。さらに、Gmcmt 変異体で高発現していた他の3つのGmGLK 遺伝子(GmGLK4、GmGLK66、GmGLK129)は、GmGLK10-OX 系統で高発現しており、これらの3つのGmGLK 遺伝子がGmGLK10の直接の標的であるという知見とよく一致した。これらの結果から、GmGLK10は光合成を制御する重要な因子であることが示唆される。Gmcmt 変異体の窒素固定効率につてい調査したところ、ダイズ根粒菌(Bradyrhizobium diazoefficiens)感染4、6週後のGmcmt 変異体の根粒の数と重量は野生型植物のもの同等であったが、8週後の根粒は野生型植物よりも重くなり、単位根粒重量あたりの窒素固定効率および植物体あたりの窒素固定効率が高くなっていた。また、Gmcmt 変異体の成熟した根粒では、根粒菌にとって重要なエネルギー源であるポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)顆粒が多くなっていた。これらのことから、Gmcmt 変異体のエピジェネティックな変化は、窒素固定効率を高め、根粒の老化を遅らせ、Gmcmt 変異体のタンパク質含量と種子重量の増加に寄与していることが示唆される。予想通り、GmGLK10-OX 系統の光合成効率と窒素固定効率はともに野生型植物よりも有意に高くなっていた。これまでの研究で、GmNAC 転写因子遺伝子のGmNAC006、GmNAC018、GmNAC030、GmNAC039 をノックアウトすると、ニトロゲナーゼ機能が亢進し、根粒の老化が遅れることが示されている。Gmcmt 変異体ではGmNAC006 とGmNAC030 の発現量が野生型植物よりも低く、Gmcmt 変異体における窒素固定の強化は、少なくとも部分的にはGmNAC006とGmNAC030を介した経路によってなされていることが示唆される。以上の結果から、非CGメチル化を触媒する4つの CMT 遺伝子を変異させたダイズGmcmt 変異体では、野生型植物に比べで非CG DNAメチル化が大幅に減少し、クロマチンアクセス性が亢進し、いくつかの光合成関連遺伝子の発現を調節するGmGLK10 遺伝子の発現が促進され、光合成や窒素固定に関与する遺伝子の発現が上昇し、その結果、光合成効率の上昇と窒素固定効率の上昇および根粒の老化遅延をもたらし、種子タンパク質含量と種子重量の増加を引き起こすことが判った。これらのエピジェネティックな変化は、ダイズ収量の増加に寄与する可能性がある。