Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)非CG DNAメチル化の減少によるダイズの収量増加

2024-10-21 11:45:23 | 読んだ論文備忘録

Non-CG DNA hypomethylation promotes photosynthesis and nitrogen fixation in soybean
Xun et al.  PNAS (2024) 121 (36) e2402946121.

doi:10.1073/pnas.2402946121

植物におけるDNAのメチル化は、3種類のシトシンのコンテキスト(CG、CHG、CHH、「H」はグアニン以外のヌクレオチド)で起こり、それぞれ特異的なメチル化酵素によって調節されている。CHROMOMETHYLASE(CMT)メチルトランスフェラーゼファミリーは、植物特異的で、CHGとCHHのメチル化に中心的な役割を果たしている。中国 華中農業大学のWangらは、ダイズの非CGメチル化が農業形質に与える影響を調査するために、CMT 遺伝子をCRISPR-Cas9でゲノム編集した変異体を作出して解析を行なった。ダイズゲノム中には4つのGmCTM 遺伝子[GmCMT1a (Glyma.01G160300)、GmCMT1b (Glyma.11G083600) 、GmCMT2 (Glyma.16G103500)、GmCMT3 (Glyma.01G007800)]があり、4遺伝子とも花や根で高い発現を示していた。4遺伝子を機能喪失もしくは発現抑制したGmcmt 四重変異体を中国の主要なダイズ生産地である吉林省の圃場で栽培したところ、野生型植物と比較して、草丈が高く、さや当たりの種子生産量が多く、種子重量も増加した。また、種子のタンパク質含量は野生型植物種子より2.8 %多く、種子油含量は2.7 %少なかった。一方で、Gmcmt 変異体は塩ストレス感受性が高くなっていた。全ゲノムバイサルファイトシークエンシング(WGBS)によりGmcmt 変異体と野生型植物の葉のゲノムワイドなDNAメチル化パターンをプロファイリングしたところ、Gmcmt 変異体ではCHGメチル化(mCHG)が30.6 %、CHHメチル化(mCHH)が73.4 %減少しており、対照的に、CGメチル化(mCG)レベルは2つの遺伝子型間でほぼ同等であることが判った。同じ葉組織を用いてRNA-seq解析を行ったところ、Gmcmt 変異体では野生型植物と比較して1953遺伝子が発現上昇し、995遺伝子が発現低下しており、1252の転移因子(TE)が発現上昇し、513のTEが発現低下していることが判った。野生型植物と比較して発現量に差のあるTE(DET)の周囲のメチル化レベルを解析したところ、非CGコンテキストでは低メチル化という一貫したパターンが見られたが、CGコンテキストでは有意な変化は見られなかった。DETは、主にGypsy 群とCopia 群のLTR型レトロトランスポゾンだった。Gmcmt 変異体での非CGメチル化の変化がクロマチン構造や遺伝子発現に影響を与えているかを見るために、ATAC-seq(Assay for Transposase-Accessible Chromatin Sequencing)によるオープンクロマチン解析を行なった。その結果、Gmcmt 変異体においてクロマチンへのアクセス性が増加した高アクセス性領域(HAR)を9279ヶ所見出した。また、958の低アクセス性領域(LAR)も見出された。HARは主にユークロマチン領域に存在し、LARは主にヘテロクロマチン領域に存在した。これらの結果は、非CGメチル化がユークロマチン領域へのアクセス性に影響を与えることを示している。HARとLAR周辺の相対的なメチル化レベルをプロットすると、3つの配列コンテクストでDNAのメチル化レベルが低く、隣接領域でより高いメチル化レベルが見られた。Gmcmt 変異体でのHARのメチル化は野生型植物と同等であったが、隣接領域で著しく低くなっていた。このことから、アクセス可能なクロマチン領域はメチル化レベルが低いが、そのアクセス可能性の程度はその周辺領域の非CGメチル化によって調節されている可能性が示唆される。LARのメチル化レベルは、領域内と周辺領域ではほぼ一定であり、Gmcmt 変異体では非CGメチル化レベルが低かった。よって、ヘテロクロマチン領域へのアクセス性は非CGメチル化以外の要因にも影響されている可能性がある。Gmcmt 変異体の生物学的経路の変化をKEGGパスウェイエンリッチメント解析により調査したところ、ワックス生合成経路は下方制御されていたが、炭素固定や多くの代謝経路は上昇制御されていた。実際、Gmcmt 変異体では光合成関連の転写産物量が野生型植物よりも多くなっており、光合成効率が向上していることが示唆される。電子顕微鏡観察の結果、Gmcmt 変異体の葉の表皮は、細胞が小さく、気孔密度が高くなっており、葉緑体のデンプン粒が大きくて多く、チラコイド層が増加していることが判った。また、Gmcmt 変異体は野生型植物よりも高い光合成速度を示し、日中の葉のデンプン蓄積が速かった。これらの結果から、GmCMTの機能喪失は、光合成効率とデンプン蓄積を促進するエピジェネティックな修飾をもたらし、これがGmcmt 変異体種子の重量増加をもたらしていると考えられる。光合成関連遺伝子のDNAメチル化とクロマチンアクセス性は、野生型植物とGmcmt 変異体の間で僅かな差しか見られなかったことから、上流に位置する転写因子遺伝子に着目して解析を行なったところ、Gmcmt 変異体では、59遺伝子が発現上昇し、28遺伝子が発現低下しており、このうち67遺伝子は非CG DNAの低メチル化またはHARによって制御されている可能性があった。転写因子遺伝子のうち、4つのGOLDEN-LIKEGLK)遺伝子[GmGLK66 (Glyma.10G204200)、GmGLK129 (Glyma.20G186500)、GmGLK4 (Glyma.01G086700)、GmGLK10 (Glyma.02G098800)]はGmcmt 変異体で発現が高くなっていた。シロイヌナズナではGLKが葉緑体の発達と光合成効率を制御していることから、これらのGmGLK のエピジェネティックな制御が、Gmcmt 変異体で見られた光合成効率の向上に関与しているのではないかと考えられた。実際、GLK1/2標的遺伝子と、Gmcmt 変異体で発現量が変化している光化学系関連遺伝子との間に顕著な関連が観察された。GmGLK10 は、CHHメチル化の低下によって発現が上昇し、Gmcmt 変異体において2つのHARがGmGLK10 遺伝子プロモーター内に位置していた。さらに、GmGLK10 遺伝子プロモーター内の2つのHARのうち1つは、明所育成芽生えには存在するが、黄化芽生えには存在せず、公開されているATAC-seqおよびRNA-seqデータセットに基づくと、明所でのGmGLK10 発現上昇と関連していた。解析の結果、Gmcmt 変異体と野生型植物の間で発現量に差のある遺伝子の39.9%(2950個中1176個)がGmGLK10の影響を受けており、これらの遺伝子のうち734個は発現上昇の直接の標的遺伝子となっていた。また、これらの遺伝子のうち43.8%(1176個中515個)は、非CGメチル化および/またはクロマチンアクセス性の影響を受けている可能性があり、GmGLK10の結合部位に影響を与えることで光合成に寄与している可能性がある。これらのGmGLK10の直接の標的遺伝子は、Gene Ontology解析で葉緑体の発生と光合成に関与すると注釈されていた。GmGLK10 過剰発現形質転換体(GmGLK10-OX)は、野生型植物よりも光合成効率が高く、GmGLK10-OX 系統で発現が増加した遺伝子には光合成関連のものが多く含まれていた。さらに、Gmcmt 変異体で高発現していた他の3つのGmGLK 遺伝子(GmGLK4GmGLK66GmGLK129)は、GmGLK10-OX 系統で高発現しており、これらの3つのGmGLK 遺伝子がGmGLK10の直接の標的であるという知見とよく一致した。これらの結果から、GmGLK10は光合成を制御する重要な因子であることが示唆される。Gmcmt 変異体の窒素固定効率につてい調査したところ、ダイズ根粒菌(Bradyrhizobium diazoefficiens)感染4、6週後のGmcmt 変異体の根粒の数と重量は野生型植物のもの同等であったが、8週後の根粒は野生型植物よりも重くなり、単位根粒重量あたりの窒素固定効率および植物体あたりの窒素固定効率が高くなっていた。また、Gmcmt 変異体の成熟した根粒では、根粒菌にとって重要なエネルギー源であるポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)顆粒が多くなっていた。これらのことから、Gmcmt 変異体のエピジェネティックな変化は、窒素固定効率を高め、根粒の老化を遅らせ、Gmcmt 変異体のタンパク質含量と種子重量の増加に寄与していることが示唆される。予想通り、GmGLK10-OX 系統の光合成効率と窒素固定効率はともに野生型植物よりも有意に高くなっていた。これまでの研究で、GmNAC 転写因子遺伝子のGmNAC006GmNAC018GmNAC030GmNAC039 をノックアウトすると、ニトロゲナーゼ機能が亢進し、根粒の老化が遅れることが示されている。Gmcmt 変異体ではGmNAC006GmNAC030 の発現量が野生型植物よりも低く、Gmcmt 変異体における窒素固定の強化は、少なくとも部分的にはGmNAC006とGmNAC030を介した経路によってなされていることが示唆される。以上の結果から、非CGメチル化を触媒する4つの CMT 遺伝子を変異させたダイズGmcmt 変異体では、野生型植物に比べで非CG DNAメチル化が大幅に減少し、クロマチンアクセス性が亢進し、いくつかの光合成関連遺伝子の発現を調節するGmGLK10 遺伝子の発現が促進され、光合成や窒素固定に関与する遺伝子の発現が上昇し、その結果、光合成効率の上昇と窒素固定効率の上昇および根粒の老化遅延をもたらし、種子タンパク質含量と種子重量の増加を引き起こすことが判った。これらのエピジェネティックな変化は、ダイズ収量の増加に寄与する可能性がある。

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論文)MYB関連転写因子による葉緑体形成の制御

2024-10-16 11:24:31 | 読んだ論文備忘録

MYB-related transcription factors control chloroplast biogenesis
Frangedakis et al.  Cell (2024) 187:4859-4876.

doi:10.1016/j.cell.2024.06.039

葉緑体は、光合成、窒素と硫黄の同化、アミノ酸、脂肪酸、カロテノイドの生合成を行う重要なオルガネラである。陸上植物では、GOLDEN2-LIKE(GLK)ファミリー転写因子が葉緑体形成のマスターレギュレーターであり、GATAファミリー転写因子のGATA NITRATE-INDUCIBLE CARBON-METABOLISM-INVOLVED(GNC)とCYTOKININ-RESPONSIVE GATA1(CGA1)は補助的なプレーヤーと考えられている。しかしながら、GLKGATA が欠損したシロイヌナズナはアルビノにはならない。したがって、葉緑体形成に関与する他の因子が存在していると考えられる。イギリス ケンブリッジ大学Hibberdらは、ゼニゴケとシロイヌナズナが非光合成期から光合成期への移行する際の公的遺伝子発現データを調査し、両データセットにおいて未知またはクロロフィル関連のアノテーションを持ち、シロイヌナズナにおいてマルチジーンファミリーに属し、発現が上昇しているオルソログを選抜した。その結果、ゼニゴケから14の遺伝子が同定された。これらの遺伝子をCRISPR-Cas9でゲノム編集したゼニゴケの表現型を観察したところ、RR-MYB転写因子に属するMpRR-MYB5 をノックアウトした変異体のクロロフィル含量が減少することを見出した。MpRR-MYB5 にはパラログMpRR-MYB2 が存在しているが、Mprr-myb5 変異体のみがクロロフィル含量低下を起こした。一方、MpRR-MYB5 とMpRR-MYB2 を同時に変異させると、クロロフィル含量が対照と比較して95%減少し、極端に白化した植物が得られた。MpRR-MYB5、MpRR-MYB2、MpGLK 転写産物は、光照射してから24時間後までに誘導されたが、MpRR-MYB5 とMpRR-MYB2 の発現はより長く維持された。これらの結果から、MpRR-MYB5とMpRR-MYB2は冗長的に作用し、葉緑体形成に必要であると判断した。Mprr-myb5,2 二重変異体は、Mpglk 変異体と同等もしくはそれ以上に白色化した。Mpglk,rr-myb5 二重変異体は、それぞれの単独変異体と比較して、葉緑体が小さく、チラコイド膜の数が少なく、グラナ構造が減少していた。よって、MpRR-MYB5とMpGLKの両方が欠損した場合、光合成装置の構築は非常に制限される。Mpglk,rr-myb5,2 三重変異体の作出を試みたが、得ることはできなかった。したがって、3つのタンパク質(MpGLK、MpRR-MYB5、MpRR-MYB2)すべてが欠損していると、おそらく葉緑体形成が行われないために致死となり、MpRR-MYB5とMpRR-MYB2はMpGLKと共に葉緑体形成を制御している考えられる。MpRR-MYB5、MpRR-MYB2 の過剰発現系統や変異体のRNA-seq解析から、MpRR-MYB の欠損は光合成遺伝子の発現に広範な影響を及ぼし、それはMpglk 変異体で見られたものと重複することが示された。これらの効果がMpRR-MYB転写因子と遺伝子との直接的な相互作用によるものかを明らかにするために、DNA親和性精製シーケンス(DAP-seq)等の各種解析を行なった。その結果、MpRR-MYBは光合成遺伝子のプロモーターと結合することができ、これらの遺伝子の発現を増強することが示された。MpGLKは、MpRR-MYB5 とMpRR-MYB2 の発現を活性化するが、MpRR-MYB2とMpRR-MYB5は自身の発現を活性化しなかった。MpRR-MYB5とMpRR-MYB2はMpglk 変異体の表現型を相補せず、MpGLKもMprr-myb5,2 二重変異体の表現型を相補できなかった。MpRR-MYB5、MpRR-MYB2 は、シロイヌナズナのAtMYBS1、AtMYBS2 と類似性が高いことから、CRISPR-Cas9でAtmybs1 変異体、Atmybs2 変異体を作出して表現型を解析した。その結果、単独変異体ではロゼット葉に検出可能な変化は見られなかったが、Atmybs1,mybs2 二重変異体では葉色が薄くなり、これは抽苔後に最も顕著になった。Atmybs1,mybs2 二重変異体の葉緑体は小さく、未発達なチラコイドを含んでおり、クロロフィル含量は野生型植物よりも40%低かった。RNA-seq解析の結果、野生型植物と比較して、Atmybs1,mybs2 二重変異体では、クロロフィル生合成経路の酵素、光捕集複合体の構成要素、光呼吸およびカルビン-ベンソン-バッシャム回路をコードする遺伝子の発現が低下していることが判った。また、AtMYBS1&2とAtGLK1&2は、互いに結合してお互いの発現を制御していた。以上の結果から、RR-MYBは葉緑体形成において重要な役割を果たしていると考えられる。GLKがクロロフィル生合成と光化学系ⅠおよびⅡの機能を司る遺伝子の発現を制御しているのに対し、RR-MYBは、CO2固定、光呼吸、光化学系の構築と修復を司る遺伝子までのより広い標的を制御している。よって、RR-MYBとGLKは葉緑体形成と光合成遺伝子発現のマスターレギュレーターとして機能していると考えられる。

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論文)イネの分げつ角度を制御するタンパク質

2024-10-13 17:41:54 | 読んだ論文備忘録

BTA2 regulates tiller angle and the shoot gravity response through controlling auxin content and distribution in rice
Li et al.  J. Integr. Plant Biol. (2024) 66:1966-1982.

doi:10.1111/jipb.13726

イネの分げつ角度は、株の密度を決定することで収量に寄与する重要な農業形質であり、分げつ角度を制御するいくつかの遺伝子が同定されている。中国水稲研究所のFengらは、ジャポニカ品種「Xiushui11」の放射線誘発突然変異集団の中から、分げつ角度が野生型植物よりも大きいbig tiller angle2bta2)変異体を単離した。bta2 変異体の分げつ角度は、生長過程を通して野生型植物よりも大きく、分げつ基部の内側の細胞が野生型植物に比べて長くなっていることが分げつ角度を大きくしている理由であることが判った。BTA2 遺伝子を同定するために、マップベースクローニングを行ない、186-kbまで領域を絞り込んだ。その後、野生型植物とbta2 変異体の全ゲノムシーケンスデータから、bta2 変異体には候補領域に93.4-kbの大きな欠失があることが判明した。この領域には、野生型植物参照ゲノムで17のORFが含まれており、その中から機能アノテーション情報に基づいて3つの遺伝子をBTA2 の候補として選んだ。それぞれの遺伝子をCRISPR-Cas9遺伝子編集でノックアウトした「日本晴」の表現型を解析したところ、LOC_Os03g04100 をノックアウトした変異体は野生型植物に比べて有意に広い分げつ角度を示していた。この遺伝子のゲノム断片を挿入したbta2 変異体は分げつ角度の表現型が相補された。また、LOC_Os03g04100 を過剰発現させた形質転換イネは、分げつ角度が更に小さくなった。これらの結果から、LOC_Os03g04100 はイネ分げつ角度に影響を与えるBTA2 遺伝子であることが示唆される。BTA2 は以前にLAZY3LA3)として報告されており、LA3はシュートの重力感知組織におけるデンプン生合成を制御することでイネの分げつ角度を制御している。BTA2 は様々な組織で発現しており、葉沈、分げつ基部、節での発現が高くなっていた。また、BTA2タンパク質は主に葉緑体に局在し、一部は核にも局在していることが確認された。BTA2ホモログタンパク質は、ソルガム、トウモロコシ、アワといった穀物にも見られ、ヒメツリガネゴケにも類似性の高いタンパク質が存在していた。よって、BTA2は古くから進化的に保存されているタンパク質であると考えられる。bta2 変異体幼苗は重力に応答したシュートの屈曲が低下していることから、BTA2 はシュートの重力屈性を介して分げつ角度を制御していることが示唆される。イネのシュート重力屈性や分げつ角度の制御には、オーキシン含量とオーキシンの非対称分布が大きく寄与している。bta2 変異体では、分げつ基部でのオーキシン応答マーカー遺伝子OsIAA20 やオーキシン生合成関連遺伝子OsYUC4OsYUC7 の発現量が野生型植物よりも低くなっていた。また、CRISPR-Cas9でBTA2 をノックアウトしたCR-bta2 変異体の分げつ基部でのオーキシンレポーターDR5:GUS の発現は野生型植物よりも弱くなっており、CR-bta2 変異体の分げつ基部はオーキシン含量が低くなっていると考えられる。OsIAA20 は、野生型植物およびbta2 変異体のシュート基部において、重力刺激後に非対称な発現パターンを示し、外側の細胞において特異的かつ顕著な誘導を示した。しかし、bta2 変異体ではシュート基部外側でのOsIAA20 の誘導が野生型植物よりも弱く、基部の内側と外側ので発現量の差が小さくなっていた。したがって、BTA2 は、オーキシン含量を増加させ、シュート基部におけるオーキシン分布を変化させることにより、シュートの重力応答と分げつ角度を制御していると思われる。AUXIN RESPONSE FACTOR(ARF)のうち、ARF7は光照射下でのイネシュートの重力刺激に対する応答に関与していることが示されている。そこで、ARF7とBTA2との関係を解析したところ、両者は共に葉緑体と核に局在し、相互作用を示すことが判った。CRISPR-Cas9でARF7 をノックアウトしたCR-arf7 変異体は、わずかに分げつ角度が広くなり、シュートの重力屈性が低下していた。よって、ARF7 は分げつ角度を負に制御していることが示唆される。重力刺激を与えたCR-arf7 変異体のシュート基部外側でのOsIAA20 発現量は、野生型植物と比較して有意に減少しており、オーキシンの非対称分配が損なわれていることが明らかになった。これらの結果から、BTA2ARF7 は、イネのシュート重力応答を媒介することにより分げつ角度を制御していると思われる。様々な分げつ角度を示すイネ438品種についてBTA2 遺伝子の多型を調査したところ、コード領域には影響を及ぼすような変異はなかったが、プロモーター領域において、5 bpの挿入と15 bpの欠失を含む20の変異が同定された。塩基多型の相補性に基づいて4つのハプロタイプが検出され、このうち、Hap1とHap2はインディカ品種に特異的に見られ、Hap4は温帯ジャポニカ品種にのみ見られた。BTA2Hap1&Hap2BTA2Hap3&Hap4 は、それぞれインディカ種とジャポニカ種で最も頻度の高いハプロタイプであった。5 bp挿入(Hap1)と15 bp欠失(Hap2)はジャポニカ種ではほとんど検出されなかった。杭州と海南での栽培結果から、Hap1または Hap2を持つ品種の分げつ角度は、Hap3またはHap4を持つ品種よりも有意に大きいことが判った。この結果から、BTA2Hap1&Hap2 およびBTA2Hap3&Hap4 をそれぞれBTA2L およびBTA2C とした。各ハプロタイプのプロモーター活性を比較したところ、BAT2C プロモーターはBAT2L プロモーターよりも遺伝子発現活性が高いことが判った。また、BTA2C ハプロタイプは、BTA2L ハプロタイプよりもBTA2 発現量が高くなっていた。よって、BTA2 プロモーター領域における5 bp挿入と15 bp欠失は、BTA2 の発現を低下させることで分げつ角度を広げている可能性がある。イネの分げつ角度は、単位面積当たりの栽植密度を左右し、収量に大きく寄与することから、密植栽培試験を行なったところ、BTA2 過剰発現系統は対照よりも収量が7.3 %増加した。以上の結果から、BTA2 は、シュートの重力応答とオーキシン含量・分布を仲してイネの分げつ角度を制御していることが示された。BTA2はARF7と相互作用して重力シグナル伝達経路に関与することで、分げつ角度を制御している可能性が示唆される。

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論文)胚軸伸長における光シグナルと重力シグナルのクロストーク

2024-10-10 18:23:57 | 読んだ論文備忘録

Light‐stabilized GIL1 suppresses PIN3 activity to inhibit hypocotyl gravitropism
Wang et al.  J. Integr. Plant Biol. (2024) 66:1886-1897.

doi:10.1111/jipb.13736

芽生え胚軸の伸長方向は、光と重力によって制御されている。光と重力のシグナルは互いにクロストークしているが、その根底にある機構は明らかとなっていない。シロイヌナズナgil1gravitropic in the light)変異体は、赤色または遠赤色光照射下においても負の重力屈性(重力とは反対方向への伸長)を示す。したがって、GIL1は赤色/遠赤色光照射に応答して胚軸の重力応答性を阻害しているものと思われる。このことから、中国 清華大学Chenらは、GIL1の分子機能を明らかにすることは光シグナルと重力シグナルの間のクロストークについての理解を深めることになると考え、解析を行なった。シロイヌナズナ芽生えにおけるGIL1 の発現をみると、暗黒下においても赤色光下においても、子葉、胚軸、根において恒常的に発現しており、遠赤色光や青色光下においても暗黒下と同程度に発現していることが判った。GIL1タンパク質は胚軸細胞の細胞膜に局在しており、この局在はBrefeldin A(BFA)感受性分泌経路を介して形成されていることが判った。gil1 変異体において、各種プロモーター制御下でGIL1 を組織特異的に発現させたところ、胚軸上部で発現するPKS4 プロモーター、内皮で発現するSCR プロモーター制御下でGIL1 を発現させた形質転換はgil1 変異体の重力応答表現型が補完されたが、子葉で発現するCAB3 プロモーター、胚軸下部で発現するCASP1 プロモーター制御下で発現させた形質転換では補完されなかった。したがって、胚軸の重力応答性の抑制は、胚軸上部の内皮細胞に局在するGIL1に依存していることが示唆される。重力感知にアミロプラストが関与していることから、野生型植物とgil1 変異体の内皮細胞のアミロプラストの形態を比較したが、差異は見られなかった。よって、GIL1はアミロプラストの発達を調節することで胚軸の重力応答性を制御しているのではないと思われる。次に、GIL1がオーキシンの分配を媒介する因子を標的として重力応答性を抑制しているかを調査した。オーキシン排出輸送体のPIN3は、胚軸の重力屈性を制御するオーキシンの非対称分布をもたらしている。PIN3は細胞膜上に局在し、BFA感受性の膜タンパク質リサイクルを受けており、シロイヌナズナの胚軸ではGIL1とPIN3が共に細胞膜上に局在していた。このような類似した細胞特性に基づき、GIL1とPIN3の直接的な相互作用を検証した結果、GIL1とPIF3は生体内において相互作用を示し、GIL1はPIF3のオーキシン排出活性を低下させることが判った。変異体を用いた解析から、赤色光下での重力刺激において、gil1 変異体およびpin3 変異体はそれぞれ野生型植物に比べて胚軸の重力応答性が増加および減少していた。gil1 pin3 二重変異体は、赤色光下での重力応答がgil1 変異体よりも遅いことから、pin3 変異はgil1 変異体の重力応答を抑制しており、GIL1PIN3 の上流で胚軸の重力応答を調節している可能性が示唆される。胚軸伸長の重力応答性は赤色光照射によって強く阻害されるが、光条件によってGIL1 転写産物量に有意な変化は見られなかった。そこで、GIL1タンパク質量を見たところ、赤色光または遠赤色光で育成した芽生えのGIL1タンパク質量は暗黒下と比較すると劇的に増加しており、青色光下ではわずかに増加していることが判った。また、暗黒下で育成した芽生えを赤色光下に移すと、GIL1タンパク質量が徐々に増加していった。さらにGIL1タンパク質は暗黒下で安定性が低下し、光条件下では安定していることが判った。以上の結果から、GIL1は芽生え胚軸の重力応答における光シグナルと重力シグナルのクロストークにおいて重要な役割を果たしており、光照射、特に赤色光下では、GIL1タンパク質は安定化してオーキシン排出輸送体PIN3と相互作用し、PIN3のオーキシン排出活性を阻害することで最終的に胚軸の重力応答性を阻害していると考えられる。暗所でのGIL1タンパク質の不安定化機構については不明である。

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論文)E3ユビキチンリガーゼによる側根出現の促進

2024-10-08 11:18:34 | 読んだ論文備忘録

MAC3A and MAC3B mediate degradation of the transcription factor ERF13 and thus promote lateral root emergence
Yu et al.  Plant Cell (2024) 36:3162–3176.

doi:10.1093/plcell/koae047

In Brief
UnERFing auxin-mediated degradation in the emerging lateral root
Rory Osborne  Plant Cell (2024) 36:2978–2979.

doi:10.1093/plcell/koae079

側根形成は植物ホルモンのオーキシンによって厳密に制御されている。シロイヌナズナでは、転写因子ETHYLENE-RESPONSIVE ELEMENT BINDING FACTOR13(ERF13)が側根の出現を抑制しているが、オーキシンがMITOGEN-ACTIVATED PROTEIN KINASE14(MPK14)を活性化してERF13の分解を引き起こし、側根の出現を促進している。しかしながら、側根形成過程でERF13の分解に関与している因子は明らかとなっていない。中国 山東大学Dingらは、オーキシンがERF13の分解を引き起こす機構を解明するために、ERF13と相互作用するタンパク質を、特にユビキチンリガーゼに重点を置いて探索した。その結果、U-box型E3ユビキチンリガーゼのMOS4-ASSOCIATED COMPLEX 3A(MAC3A)とそのホモログのMAC3BがERF13と相互作用を示すことが判った。MAC3AMAC3B は、若葉、主根の先端、中心柱といった様々な組織で発現しており、側根原基では発生過程全体にわたって発現していた。MAC3A、MAC3Bの側根発達における役割を解析するために変異体の表現型を観察したところ、単独変異体では変化は見られなかったが、mac3a mac3b 二重変異体では、野生型植物と比較して主根が短くなり、全側根と出現した側根の密度が有意に減少していた。これらの結果から、MAC3A、MAC3Bは側根と主根の発達を冗長的に正に制御していることが示唆される。mac3a mac3b 二重変異体ではオーキシン処理による側根形成促進が弱くなっており、MAC3A、MAC3Bはオーキシンが制御する側根形成に関与していると考えられる。mac3a mac3b 二重変異体では、側根原基の発達がステージⅣの内皮での発達過程までで阻害され、その結果、ステージⅣの側根原基の頻度が増加し、ステージⅤからⅧの表皮から側根原基が出現する過程の頻度が減少した。これはERF13 を過剰発現させた形質転換体の表現型と類似していることから、MAC3A、MAC3Bは、側根原基のステージⅣからⅤへの移行を促進する上で、ERF13とは逆の役割を果たしていることが示唆される。重力刺激による側根形成誘導試験を行なったところ、mac3a mac3b 二重変異体の側根原基の70 %以上がステージⅣの段階で止まっており、ERF13 過剰発現系統の表現型と類似していた。興味深いことに、mac3a mac3b 二重変異体では、野生型植物やERF13 過剰発現系統と比較して、ステージⅠの側根原基の頻度が増加し、ステージⅡおよびステージⅢの側根原基頻度が減少していることが観察された。よって、MAC3A、MAC3Bは側根誘導過程にも関与している可能性が示唆される。ERF13は、3-KETOACYL-COA SYNTHASEKCS)の発現を抑制することにより側根出現を阻害している。側根出現におけるERF13とMAC3A、MAC3Bの拮抗的な役割と一致して、mac3a mac3b 二重変異体ではKCS8KCS16KCS18 の発現量が有意に低下していた。MAC3AMAC3B を過剰発現させた系統では側根出現の促進は見られなかったが、ERF13 過剰発現系統でMAC3AMAC3B を過剰発現させると出現側根の密度とKCS 発現量が回復した。これらの結果は、MAC3AとMAC3BがERF13の側根出現抑制効果を打ち消していることを示している。さらに、mac3a mac3b 二重変異体にerf13 変異を導入すると、出現側根と全側根の密度が野生型植物と同程度に回復した。このことから、ERF13は側根出現においてMAC3A、MAC3Bの下流で作用していることが示唆される。ERF13MAC3AMAC3B は側根原基の発達過程を通じで発現しているが、MAC3Aタンパク質量は徐々に増加し、ERF13タンパク質量は徐々に減少していった。解析の結果、MAC3A、MAC3BはERF13のユビキチン化と分解を促進していることが確認された。オーキシン処理はERF13の分解を促進しており、この分解はMAC3B の過剰発現によって促進され、mac3a mac3b 二重変異体では抑制された。したがって、ERF13の分解はMAC3A、MAC3Bに依存していることが示唆される。オーキシン処理はERF13とMAC3Aとの相互作用を促進することから、オーキシンはMAC3A、MAC3Bを介したERF13の分解を両者の相互作用を高めることで促進していると考えられる。オーキシンが誘導するERF13の分解は、MPK14を介したERF13のThr66、Ser67、Thr124のリン酸化に依存していることが知られている。このERF13のリン酸化がMAC3A、MAC3Bとの相互作用に影響しているかを見るために、ERF13のリン酸化されるアミノ酸残基をAspに置換したERF13DDD(リン酸化模倣)とAlaに置換したERF13AAA(非リン酸化)を用いてMAC3A、MAC3Bとの相互作用を検証した。その結果、MAC3A、MAC3BはERF13AAAとの相互作用が弱く、ERF13DDDとは強い相互作用を示すことが判った。この結果かから、MPK14を介したERF13のリン酸化は、MAC3A、MAC3Bとの相互作用を促進することが示唆される。ERF13DDDは、野生型植物の抽出液中で急速に分解されたが、ERF13AAAは安定なままであった。さらに、オーキシンによるERF13の分解は、mac3a mac3b 二重変異体で大幅に抑制された。ERF13DDD、ERF13AAAの分解はオーキシン処理をしても変化は見られず、オーキシン処理にかかわらずmac3a mac3b 二重変異体では安定していた。これらの結果から、オーキシンはMPK14を介したERF13のリン酸化を介してMAC3A、MAC3Bとの相互作用を促進し、ERF13を分解に導いていると考えられる。さらに、オーキシン処理はMAC3AMAC3B の発現を促進しており、この促進はAUXIN RESPONSE FACTOR(ARF)転写因子が機能喪失したarf7-1 変異体、arf19-1 変異体で低下し、arf7-1 arf19-1 二重変異体では完全に消失した。このことから、MAC3AMAC3B のオーキシンによる転写誘導は、ARF7およびARF19に依存していることが示唆される。、MAC3A 遺伝子、MAC3B 遺伝子のプロモーター領域にはARFが結合するAuxREがなく、酵母one-hybridアッセイにおいてもMAC3AMAC3B 遺伝子プロモーター領域へのARF7、ARF19の結合は確認できなかった。よって、ARF7、ARF19は間接的にMAC3AMAC3B の転写を促進していることが示唆される。また、オーキシン処理はMAC3A、MAC3Bタンパク質の安定性に対しても促進的に作用した。したがって、オーキシンは、MAC3AMAC3B の転写とタンパク質の安定性を相乗的に制御することにより、側根原基におけるMAC3A、MAC3Bの蓄積を誘導していることが示唆される。以上の結果から、MAC3AとMAC3BはERF13のユビキチン化と分解を仲介するE3リガーゼとして働き、オーキシンによる側根発達を制御していることが判った。オーキシンは、1) MPK14を介したERF13のリン酸化を活性化することでERF13とMAC3A、MAC3Bとの結合親和性を高める、2) 側根原基でのMAC3A、MAC3Bの蓄積を促進することで、MAC3A、MAC3BとERF13との相互作用を強化、ERF13の分解を促進しており、この機構により側根発達における抑制効果が解除され、側根の出現が促進されると考えられる。

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植物観察)ホンアマリリス

2024-10-06 10:21:26 | 植物観察記録

ホンアマリリス(本アマリリス)
Amaryllis belladonna
キジカクシ目ヒガンバナ科ホンアマリリス属
別名:ベラドンナリリー、アマリリスベラドンナ、ネイキッドレディー

鱗茎をもつ多年草。ヒガンバナと同様に開花時に地上部に葉が付かず、花後に葉が出る。花茎は直立し、葉はなく、赤色を帯びる。散形花序に花が2~10個つく。花は漏斗形、芳香を放ち、淡~濃ピンク色でのど部がより淡色、まれに全体が白色に近くなる。花被片は6枚で基部が融合する。花色が白いものや八重咲の園芸品種もある。植物体のすべての部位に毒性があり、リコリン、パンクラシン、アマリリジンなど数種類のアルカロイドが含まれている。南アフリカ原産。日本には明治時代末期に渡来。

現在、ホンアマリリス属は南アフリカのケープ州に自生する2種のみ
Amaryllis belladonna L.
Amaryllis paradisicola Snijman

1753年、カール・リンネは『植物種(Species Plantarum)』の中で、Amaryllis 属のタイプ種としてAmaryllis belladonna という名前を他の8種の植物とともに発表した。当時、南アフリカと南アメリカの植物は同じ属に分類されていたが、その後、19世紀初頭に2つの異なる属、南アフリカ原産のAmaryllis 属と中南米・西インド諸島原産のHippeastrum 属に分離された。その際、リンネが発表したタイプ種が南アフリカの植物であったのか、それとも南アメリカの植物であったのかということが問題となった。長年の議論の末、1987年の第14回国際植物会議で、Amaryllis L.は保存名(優先順位に関係なく正しい名前)であるべきであり、最終的にはロンドンの自然史博物館のクリフォード植物園にある南アフリカ産のAmaryllis belladonna の標本に基づくべきという決定がなされた。近年のゲノム解析の結果、Amaryllis 属は同じく南アフリカに分布の中心があるハマオモト属(Crinum)、ネリネ属(Nerine)、ブルンスビギア属(Brunsvigia)などと近縁で、Hippeastrum 属は分布域が重なる中南米原産のタマスダレ属(Zephyranthes)、ハブランサス属(Habranthus)に近縁であり、両属は同じヒガンバナ科ではあるが遠縁であることが示された。和名では、Amaryllis 属を本来のアマリリスという意味で「ホンアマリリス属」としている。春に咲く園芸品種のアマリリスは、Amaryllis 属ではなくHippeastrum 属。

 

2024年9月29日 神奈川県横須賀市走水

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論文)TCPファミリー転写因子による腋芽発達の拮抗的な制御

2024-10-04 10:13:20 | 読んだ論文備忘録

Class I TCP transcription factors TCP14 and TCP15 promote axillary branching in Arabidopsis by counteracting the action of Class II TCP BRANCHED1
Gastaldi et al.  New Phytologist (2024) 243:1810-1822.

doi: 10.1111/nph.19950

TCPファミリー転写因子は、植物特異的な転写因子で、クラスⅠとクラスⅡの2つのクレイドに分かれている。クラスⅠとクラスⅡのTCPは、しばしば共通の発生過程に関与し、類似した、あるいは相反する効果を引き起こす。クラスⅡ TCP転写因子のBRANCHED 1(BRC1)は、シロイヌナズナ腋芽の発生抑制において極めて重要な役割を果たしている。一方で、クラスⅠ TCP転写因子のTCP14とTCP15はシュート分枝を促進することが知られている。アルゼンチン ナシオナル・デル・リトラル大学のLuceroらは、TCP14とTCP15が腋芽の発生に果たす役割を調べるため、シロイヌナズナtcp14 変異体、tcp15 変異体、tcp14 tcp15 二重変異体において、ロゼット葉腋から出てくる一次枝の数を定量した。その結果、tcp14 変異体、tcp15 変異体の一次枝数は野生型植物と同等だが、tcp14 tcp15 二重変異体では著しく減少することが判った。このことから、TCP14とTCP15は冗長的に作用して、腋芽の活性化および/または分枝の伸長を促進していることが示唆される。TCP14TCP15 はロゼット葉の腋芽で発現していることが確認されたことから、これらの遺伝子は腋芽の発達を促進する上で重要な役割を果たしていると考えられる。腋芽発達制御におけるTCP14TCP15BRC1 との関係を見るために、tcp 変異体でのBRC1 発現を見たところ、BRC1 転写産物量は、tcp14 変異体、tcp15 変異体では野生型植物と同等であったが、tcp14 tcp15 二重変異体では有意に増加していた。対照的に、BRC1 と密接に関連するBRC2 の転写産物量は、いずれの変異体でも変化が見られなかった。BRC1 遺伝子のプロモーター領域にはTCP転写因子が結合するようなドメインは見られず、TCP14とTCP15は転写活性化因子と考えられていることから、TCP14とTCP15は間接的にBRC1 の発現を抑制しているものと思われる。EARモチーフを付したドミナントリプレッサー型TCP15をTCP15 プロモーター制御下で発現させた形質転換体のマイクロアレイデータを見ると、発現が上昇した遺伝子にBRC1依存性の休眠関連遺伝子群が含まれていた。また、この形質転換体で発現が上昇した遺伝子の中にBRC1 が含まれていた。さらに、BRC1の直接のターゲットであり腋芽休眠に関与しているHOMEOBOX PROTEIN 21HB21)、HB40HB53 の発現は、tcp14 tcp15 二重変異体で上昇していた。これらの結果から、TCP14とTCP15はBRC1に関連した制御中枢を通じて腋芽休眠に影響を与えていることが示唆される。シュート分枝は、頂芽切除によって促進され、遠赤色光照射(避陰反応)によって抑制されることが知られている。tcp14 tcp15 二重変異体の頂芽を切除すると、野生型植物と同様に分枝数を増加させ、これらの観察と一致して、頂芽切除したtcp14 tcp15 二重変異体のBRC1 転写産物量は、野生型植物と同等にまで減少した。したがって、TCP14とTCP15は頂芽切除に対する応答に必須ではなく、頂芽切除後のBRC1 の発現抑制に関与する因子はTCP14とTCP15とは独立して作用していることが示唆される。遠赤色光照射は、野生型植物、tcp15 変異体、tcp14 tcp15 二重変異体の一次枝数を減少させ、野生型植物とtcp14 tcp15 二重変異体の一次枝数の差を減少させた。このことから、TCP14とTCP15は他の因子と冗長な形で分枝形成の避陰反応に関与している可能性が示唆される。さらに、遠赤色光照射はTCP14TCP15 の転写産物量の減少とBRC1 転写産物量の増加をもたらした。tcp14 tcp15 二重変異体においても遠赤色光照射によってBRC1 およびBRC1標的遺伝子(HB21HB40HB53)の転写産物量が増加した。これらの結果から、TCP14とTCP15は避陰反応による分枝形成抑制に関与している可能性があるが、この応答に必須ではないと考えられる。BRC1TCP14/TCP15 の関係を見るためにbrc1 tcp14 tcp15 三重変異体の一次枝数を見たところ、brc1 変異体と同程度であった。また、tcp14 tcp15 二重変異体で発現が上昇していたBRC1標的遺伝子の発現量は、tcp14 tcp15 brc1 三重変異体ではbrc1 変異体と類似していた(すなわち、野生型植物よりも有意に低かった)。対照的に、tcp14 tcp15 brc1 三重変異体の草丈は、tcp14 tcp15 二重変異体と同程度であった。これらの結果から、TCP14とTCP15による分枝発達の制御にはBRC1が必要であり、草丈に関してはBRC1とは独立して制御していることが示唆される。TCPファミリー転写因子は異なるメンバーが相互作用を示すことが知られているので、BRC1とTCP15との相互作用についてY2HアッセイやFRETアッセイで調査したところ、両者は生体内で相互作用を示すことが確認された。このBRC1とTCP15との相互作用がBRC1の標的遺伝子への結合に影響をおよぼすのかを一過的共発現解析により調査した。その結果、TCP15BRC1 の共発現は、BRC1の標的遺伝子(HB53ANACO32GBF3)への結合を低下させ、標的遺伝子の転写活性化に対して負の作用を示すことが判った。また、TCP15はBRC1標的遺伝子と相互作用はせず、発現に影響をおよぼさなかった。したがって、BRC1標的遺伝子の発現活性化は、TCP15の存在によってBRC1依存的に変化しうることが示唆される。以上の結果から、クラスⅠ TCP転写因子のTCP14とTCP15は、未知の間接的な機構によってクラスⅡ TCP転写因子のBRC1 の発現を抑制し、さらに、BRC1と相互作用をしてBRC1標的遺伝子の発現を低下させており、BRC1の機能を阻害することで腋芽発達の促進に寄与していると考えられる。

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論文)HY5の安定化による光形態形成の促進

2024-10-01 09:13:06 | 読んだ論文備忘録

Ubiquitin-specific protease UBP14 stabilizes HY5 by deubiquitination to promote photomorphogenesis in Arabidopsis thaliana
Fang et al.  PNAS (2024) 121:e2404883121

doi:10.1073/pnas.2404883121

bZIP型転写因子のELONGATED HYPOCOTYL5(HY5)は、芽生えの光形態形成において中心的な役割を担っている。シロイヌナズナでは、暗所から明所への移行後にHY5が蓄積し、光形態形成を促進することがよく知られている。しかしながら、光照射下でHY5の蓄積を促進する因子が何であるかは不明である。中国 四川大学Linらは、HY5タンパク質の安定性を向上させる因子を探索することを目的に、HY5をベイトとして酵母two-hybridスクリーニングを行ない、HY5は脱ユビキチン化酵素(DUB)のUb-SPECIFIC PROTEASE 14(UBP14)と相互作用することを見出した。各種解析の結果、HY5はUBP14と生体内において物理的相互作用を示し、他のUBPとは相互作用をしないことが確認された。in vitro 実験系において、UBP14はポリユビキチン化されたHY5からユビキチンを除去しうることが判った。UBP14の機能が欠損したda3-1 変異体では野生型植物よりもHY5のユビキチン化の程度が高く、UBP14 を35Sプロモーター制御下で過剰発現させた系統(UBP14-OE)では低くなっていた。また、UBP14-OE 系統ではHY5の安定性が高く、da3-1 変異体ではHY5の分解が促進され、この分解促進はプロテアソーム阻害剤のMG132処理によって阻害された。これらの結果から、UBP14はプロテアソーム分解経路を通してHY5の安定性を制御していると考えられる。長日条件下で育成したda3-1 変異体およびHY5 を過剰発現させたda3-1 変異体(da3-1 HY5-OE)の芽生えの胚軸は野生型植物よりも長かったが、da3-1 HY5-OE 系統の胚軸はda3-1 変異体よりも短かった。また、HY5-OE 系統、UBP14-OE 系統芽生えの胚軸の長さは野生型植物と同程度であり、da3-1 hy5 二重変異体、hy5 変異体、hy5 UBP14-OE 系統の胚軸長に有意差はなかった。短日条件下では、da3-1 変異体の胚軸長は野生型植物の約2倍であったが、暗条件下では両者の胚軸長に有意な差は見られなかった。このことから、UBP14は暗形態形成にはほとんど関与していないと思われる。これらの結果から、HY5 はUBP14の下流で作用する遺伝子であり、UBP14が光条件下でHY5を制御することによって胚軸伸長の抑制を促進していると考えられる。興味深いことに、da3-1 hy5 二重変異体は白色、青色、赤色光照射下でhy5 変異体よりも胚軸が長くなり、hy5 UBP14-OE 系統の胚軸は赤色光照射下でhy5 変異体よりも短かくなった。よって、UBP14は光照射下でHY5以外の光形態形成因子も制御している可能性がある。da3-1 変異体では暗所から明所へ移行した際のHY5の急速な蓄積が見られず、ユビキチン化されたHY5の減少が緩やかだった。逆に、UBP14-OE 系統では暗所から明所へ移行した際のユビキチン化されたHY5の減少が促進された。したがって、光照射はUBP14によるHY5の脱ユビキチン化を促進していることが示唆される。非リン酸化型HY5は、リン酸化型HY5に比べ、ターゲット遺伝子の発現制御活性が高い。解析の結果、UBP14は非リン酸化型HY5に対する親和性がリン酸化型HY5よりも高いことが判った。非リン酸化HY5は光照射下で通常の速度で蓄積したが、リン酸化HY5の蓄積はゆっくりとしていた。さらに、da3-1 変異体では非リン酸化HY5もリン酸化HY5も光照射による蓄積がさらに緩やかになった。また、光照射後のHY5のユビキチン化の程度は、非リン酸化型HY5よりもリン酸化型HY5で高くなっていた。したがって、UBP14は光照射下で非リン酸化型HY5を安定化させ、光形態形成を促進していると考えられる。HY5とUBP14は光照射後に徐々に蓄積量が増加し、暗処理によって減少した。HY5UBP14 の発現量は光照射によって増加し、HY5 発現量は暗処理によって減少したが、UPB14 転写産物量は変化が見られなかった。野生型植物と比較して、UBP14 の転写産物量はHY5-OE 系統で高かったが、hy5 変異体では低かった。HY5-OE 系統では、光照射によってUBP14 の発現が野生型植物よりもより急激に上昇したが、hy5 変異体では光照射はUBP14 の発現にほとんど影響していなかった。UPB14 遺伝子プロモーター領域にはG-boxモチーフが2つあり、HY5が結合することが確認された。よって、HY5は、正のフィードバック制御によって光照射下でのUBP14 の発現と安定的な蓄積を促進していると考えられる。以上の結果から、暗所から明所への移行すると、UBP14タンパク質がポリユビキチン化したHY5からユビキチンを切断することでHY5の安定性を高め、光形態形成を促進していると考えられる。同時に、HY5はUBP14 の発現を活性化し、正のフィードバックによりUBP14タンパク質蓄積を促進している。

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