Cell signalling by microRNA165/6 directs gene dose-dependent root cell fate
Carlsbecker et al. Nature (2010) 465:316?321.
doi:10.1038/nature08977
動植物において、転写因子タンパク質やmRNAは周囲の細胞へ移動して位置情報を伝達していることが知られている。siRNAやtasiRNAといった低分子RNAも移動することが確認されているが、miRNAの移動については確かな証拠が得られていない。フィンランド ヘルシンキ大学のHelariutta らのグループは、シロイヌナズナの根のパターン形成における細胞間クロストークに関与している因子について解析した。転写因子SHORT ROOT(SHR)は根の中心柱で産生され、内皮に移動して転写因子SCARECROW (SCR )を活性化する。SHR やSCR の変異体では、内皮と皮層を形成する不等分裂が起こらず静止中心が維持されないために、基本組織層が1層のみとなった短い根になる。SHR とSCR により発現が制御されている遺伝子の約半分は中心柱で強く発現しており、shr 変異体やscr 変異体では原生木部が後生木部置き換わるといった形態変化が生じる。よって、この2つの転写因子は木部のパターン形成に重要な役割を果たしていると考えられる。今回、shr やscr と類似の形態変化を起こし、根が短くなる変異体を単離し、その原因遺伝子を調査したところ、III型ホメオドメイン-ロイシンジッパー(HD-ZIPⅢ)転写因子PHABULOSA (PHB )をコードする遺伝子のmiR165/6ターゲット部位に変異が生じたものであることがわかった。PHB 転写産物は主に後生木部前駆体とその周囲の前形成層細胞で発現しているが、今回得られた変異体phb-7d ではPHB の発現領域が広がって中心柱の外側にまで見られた。よって、miR165/6はPHB mRNAを転写後に中心柱周縁部や基本組織から排除する作用があると考えられる。shr 変異体やscr 変異体ではmiR165/6量が低下しており、MIR165/6 遺伝子ファミリーのうち、MIR165a とMIR166b のプロモーター領域にSHRが結合して内皮における発現を活性化していることが確認された。また、miR165/6は内皮の内外に放射状に移動することが確認された。以上の結果から、中心柱で生成されたSHRは内皮に移動して、そこでSCRと協同してMIR165a とMIR166b を活性化し、生成されたmiR165/6が中心柱周辺部へ移動してPHB mRNAを分解し、その結果生じたPHB 転写産物の分布量の差が木部のパターン形成を制御していると考えられる。