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論文)サイトカイニンによる半寄生植物コシオガマの吸器形成の制御

2025-04-23 15:40:01 | 読んだ論文備忘録

A long-distance inhibitory system regulates haustoria numbers in parasitic plants
Kokla et al.  PNAS (2025) 122:e2424557122.

doi:10.1073/pnas.2424557122

寄生植物は、吸器と呼ばれる栄養獲得器官を介して宿主の根から栄養を吸収している。吸器形成には、2,6-dimethoxy-1,4-benzoquinone(DMBQ)などの宿主から放出される吸器誘導因子(HIF)や、オーキシンやエチレンといった植物ホルモンが関与していることが知られているが、寄生植物がどのようにして吸器の数を調節しているのかは理解が不足している。スウェーデン農業科学大学Melnykらは、シロイヌナズナを条件的半寄生植物(光合成能力を持ち独立して生活できるが、近傍に宿主植物がいる場合には寄生する植物)のコシオガマ(Phtheirospermum japonicum)に寄生させ、その10日後に同じコシオガマの根に新しいシロイヌナズナを宿主として追加寄生させて吸器形成を調査した。その結果、2回目の寄生では、1回目の寄生に比べて吸器数が有意に少なく、道管連結の発達が抑制されていることが判った。このような現象が距離が離れていても起こるかどうかを調べるため、コシオガマの根を左右に分けたsplit-root実験系を開発した。宿主を両側から同時に寄生させた場合、根系の両側での吸器形成は同じであった。次に、片側に宿主を寄生させた3、5、7、10日後にもう片方に宿主を寄生させたところ、最初に寄生させた側は対照と同数の吸器を形成したが、もう片方の吸器形成数は段階的に減少していくことが判った。片側のDMBQによる前処理は吸器形成に変化をもたらさなかった。さらに、宿主寄生5日後に宿主を除去し、10日後にもう片方に宿主を寄生させたところ、吸器形成が抑制された。これらの結果から、成熟した吸器が全身での吸器形成抑制に必要であり、宿主を除去しても抑制シグナルは数日間持続することが示唆される。コシオガマでは、窒素添加によってアブシジン酸(ABA)シグナルを介して吸器形成が阻害されることが知られている。そこで、片側に硝酸アンモニウムを処理したところ、局所的にも全身的にも吸器形成が阻害された。このことから、窒素が負の調節シグナルの一部として機能している可能性が示唆される。しかし、ABA処理による吸器形成阻害は局所的なものであり、ABAは移動性の全身的なシグナル伝達因子ではないことが示唆される。宿主寄生した根としていない根のRNA-seq解析を行なったところ、数百の発現変動遺伝子が見出され、それらには、DNA複製、シグナル伝達、細胞壁修飾、生物刺激に対する応答に関連する遺伝子が含まれていた。植物ホルモンが吸器形成に重要であることを考慮し、宿主寄生後の根とシュートのトランスクリプトームデータを解析したところ、CYTOKININ OXIDASE3PjCKX3)、ISOPENTENYLTRANSFERASE1PjIPT1a)、RESPONSE REGULATOR5bPjRR5b)、PjRR9 などのサイトカイニン関連遺伝子やPURINE PERMEASE1PjPUP1)、PjPUP3 といったサイトカイニントランスポーター遺伝子が宿主寄生した根で発現上昇していることが判った。サイトカイニンレポーターpTCSn を導入したシロイヌナズナとコシオガマにおいて、寄生4日後の時点でコシオガマの吸器と寄生されたシロイヌナズナの根の吸器より上の部分でサイトカイニンシグナルが観察された。寄生10日後のコシオガマの根は、非寄生根に比べてサイトカイニン含量(tZ、tZR、cZ、cZR)が有意に高く、寄生されたシロイヌナズナの根は非寄生根に比べてtZ、tZR、iPの含量が有意に高かった。tZ含量は、片側または両側に寄生したコシオガマのシュートで増加したが、tZR含量は片側だけ寄生したシュートでわずかに増加しただけであった。サイトカイニン関連遺伝子PjRR5PjHK3 の発現も、片側に寄生した際に根とシュートの両方で増加した。サイトカイニン生合成遺伝子PjIPT1 は、寄生根で発現が上昇したが、シュートでは有意な増加は認められなかった。寄生の際のサイトカイニン増加の役割を解明するために、寄生時にサイトカイニン処理を行なったところ、吸器の誘導を有意に減少させることが判った。一方、サイトカイニンアンタゴニストPI-55を処理してサイトカイニンシグナル伝達を阻害すると、吸器数が増加した。サイトカイニン処理はDMBQ処理による吸器形成誘導も減少させた。シロイヌナズナのサイトカイニン関連変異体cre1ahk3ckx3ckx5p35S:CKX1arr1,12arrx8ahp6-3ipt161 を宿主として用いても、野生型植物(Col-0)と比較して吸器形成数に有意差は見られなかった。RNA-seq解析の結果、吸器に対するサイトカイニン処理の有無で1000以上の発現変動遺伝子が見られ、寄生時に発現が上昇した遺伝子の多くは、サイトカイニン処理によって発現が低下しており、サイトカイニンが吸器誘形成導プログラムを抑制していると考えられる。また、シロイヌナズナのサイトカイニン分解酵素CKX3 を過剰発現させたコシオガマ毛状根は、非形質転換毛状根と比較して、Col-0宿主上で有意に多くの吸器を形成した。このことは、コシオガマ由来のサイトカイニンが吸器形成を阻害するために重要であることを示している。コシオガマの片側の根をサイトカイニン処理したところ、処理した側としていない側の両方の根で吸器数が有意に減少した。片側の根をPI-55で処理し、10日後にもう片方に宿主を寄生させたところ、吸器数の減少は見られたが、無処理対照の吸器数よりも多く、PI-55処理側の0日目寄生の吸器数との有意差はなかった。また、CKX3 を過剰発現させたコシオガマでは0日目と10日後の感染で吸器数に有意差は見られなかった。これらの結果から、吸器形成を制御する全身的なシグナル伝達を開始するためには、寄生した根における局所的なサイトカイニンの産生または応答が必要であることが示唆される。以上の結果から、コシオガマが宿主に寄生した際の吸器でのサイトカイニンの局所的な増加は、その後の新規吸器形成を負に制御していると考えられる。絶対半寄生植物のストライガ(Striga hermonthica)や絶対全寄生植物のオロバンキ(Phelipanche ramosa)では、サイトカイニンが吸器誘導因子として働いており、これらの植物とコシオガマでは、おそらくその生活様式や生理的性質に起因してサイトカイニンが異なる役割を担っているものと思われる。

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