Auxin Biosynthesis Inhibitors, Identified by a Genomics-Based Approach, Provide Insights into Auxin Biosynthesis
Soeno et al. Plant and Cell Physiology (2010) 51:524-536.
doi:10.1093/pcp/pcq032
オーキシンの生合成経路は複数の経路が提唱されているが、植物体内で実際に機能している経路がどれなのか、どのような役割分担があるのかは明らかとなっていない。オーキシン合成能が欠損した変異体は得られておらず、オーキシン生合成阻害剤も見出されていない。理化学研究所植物科学研究センターの嶋田らは、AtGenExpressプロジェクトによって得られたシロイヌナズナの植物ホルモン処理に対する遺伝子発現解析結果と植物成長制御剤に対するマイクロアレイ実験結果とを照合し、アミノエトキシビニルグリシン(AVG)処理による遺伝子発現変化とオーキシン処理による遺伝子発現変化の間に強い負の相関があることを見出した。AVGはエチレン生合成の阻害剤として知られており、エチレンの前駆体である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)処理による遺伝子発現変化とも負の相関を示す。そこで、オーキシンやエチレンの作用に関連することが知られている化合物として、オーキシン輸送阻害剤の2,3,5-トリヨード安息香酸(TIBA)やナフチルフタラミン酸(NPA)、プロテアソーム阻害剤のMG132、タンパク質合成阻害剤のシクロヘキシミド、抗オーキシンのp-クロロフェノキシイソ酪酸(PCIB)、オーキシンアナログの2,4,6-トリヒドロキシベンズアミド(246T)、エチレン受容体阻害剤の硝酸銀について同様の解析を行なったところ、AVGが最も抗オーキシン活性が強いことがわかった。AVGによるエチレン生合成の阻害は、ピリドキサールリン酸(PLP)を補酵素とするPLP酵素に分類されるACC合成酵素の活性を阻害することによるものであり、オーキシン生合成経路の中にもPLP酵素とされているものが幾つか存在している。AVGはその濃度に応じて内生インドール-3-酢酸(IAA)量を減少させることから、オーキシン生合成を阻害しているものと思われる。そこで、PLP酵素やアミノ基転移酵素を阻害するとされている化合物について、シロイヌナズナ芽生えの根の伸長とAux/IAA 遺伝子の発現を指標としてオーキシン生合成阻害物質の選抜を行ない、L-アミノフェニルプロピオン酸(AOPP)にも強い阻害活性があることを見出した。エチレンはシロイヌナズナ芽生えの内生オーキシン量を負に制御しており、エチレン非感受性変異体ein2 の芽生えにおいても野生型と同様にAVG、L-AOPPによってオーキシン生合成が阻害されることから、両化合物によるオーキシン生合成の阻害はエチレンの作用とは関連がないと考えられる。シロイヌナズナとコムギの抽出液を用いた実験から、両化合物がオーキシン生合成経路のトリプトファンからインドール-3-ピルビン酸(IPyA)を生成するトリプトファンアミノトランスフェラーゼを阻害していることがわかった。同様の結果はein2 変異体においても観察された。両化合物によるIAA生合成の阻害効果は、イネとトマトの芽生えのシュートと根で作用力に差異が見られることから、それぞれの化合物の効果もしくはIAA生合成経路に種特異性、器官特異性があるものと思われる。