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論文)アブシジン酸による根の成長阻害機構

2014-07-25 20:45:17 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid inhibits root growth in Arabidopsis through ethylene biosynthesis
Luo et al.  The Plant Journal (2014) 79:44-55.

DOI: 10.1111/tpj.12534

高濃度のアブシジン酸(ABA)はシロイヌナズナの根の成長を阻害することが知られている。中国農業大学Gong らは、根の成長においてABA抵抗性を示す変異体を単離したところ、得られた5つの変異体はいずれもエチレンシグナル伝達に関与する因子をコードしているETHYLENE INSENSITIVE2EIN2 )の変異体であった。過去の研究では、エチレン生合成阻害剤のAVGはABAによる根の伸長阻害を抑制しないが、エチレン受容阻害剤の銀イオンは根の成長に対するABA感受性を低下させることが報告されていた。また、ABA処理はエチレン生産やエチレン応答遺伝子の発現を増加させないとされてきた。そのため、ABAによる根の成長阻害にはエチレンシグナル伝達が関与しており、エチレン生合成は関与していないと考えられてきた。そこで、改めてABAによる根の成長阻害に対するAVGや銀イオンの効果を検証したところ、銀イオンの効果は過去知見が再現されたが、AVG処理もABAによる根の成長阻害を抑制することがわかった。今回の試験では過去の試験よりも10倍低い濃度でAVG処理をしており、過去の試験はAVGが高濃度であったために根の成長に対して毒性を示したものと思われる。通常の条件下において培地にAVGや銀イオンを添加すると根の成長が促進されることから、基底レベルのエチレンも根の成長を阻害していると考えられる。以上の結果から、ABAはエチレン生合成を促進することで根の成長を阻害していると考えられる。次に、ABAやエチレンのシグナル伝達経路の変異体のABA存在下での根の成長に対する銀イオンやAVGの効果を調査した。通常条件で育成した芽生えの根の成長に対する銀イオンとAVGの効果を見たところ、ein2-5 変異体を銀イオン処理した場合には根の伸長に変化は見られなかったが、野生型および他の変異体では銀イオンやAVG処理によって根の成長が促進された。したがって、エチレン生産およびエチレンシグナルは通常条件下での根の成長を抑制していることが示唆される。ABAシグナルの負の制御因子であるタンパク質フォスファターゼ2CのABA-INSENSITIVE 1(ABI1)、ABI2、HYPERSENSITIVE TO ABA 1(HAB1)が機能喪失したabi1 abi2 hab1 三重変異体は野生型よりもABA感受性が高くABA処理によって根の成長が強く阻害されるが、AVGもしくは銀イオンを同時処理することによってABAによる成長阻害が打ち消された。ein2-5 変異体およびetr1-1 変異体のABAによる根の成長阻害はAVG処理によって軽減されたが、銀イオンは効果がなかった。エチレン生産量が高いeto1 変異体は、通常条件において根の長さが野生型の半分程度であり、ABA処理によって根の成長が強く阻害されたが、AVGもしくは銀イオンの添加によってこの阻害から回復した。以上の結果から、根の成長においてエチレンシグナルはABAシグナルの下流で作用していると考えられる。野生型芽生えをABA処理するとエチレン生産量が増加した。ABA高感受性abi1 abi2 hab1 三重変異体はABA処理に関係なく野生型よりもエチレン生産量が増加していた。abi1-1 機能獲得変異体はABA処理をしてもエチレン生産量は増加しなかった。したがって、ABAシグナルはエチレン生産を促進しているといえる。エチレン生合成ではACC合成酵素(ACS)が律速酵素となっていることから、エチレン生合成がABAによる根の成長阻害の主要因であるならば、ACS の機能喪失変異体の根の成長はABAに対して野生型よりも抵抗性となると考えられる。シロイヌナズナは9つのACS 遺伝子をコードしており、機能重複していることから、ACS 遺伝子の単独変異体の表現型は野生型と同等であったが、ACS の六重変異体や七重変異体は根の成長においてABAに対する感受性が大きく低下していた。このことからも、ABAはエチレン生合成を促進することで根の成長を阻害していることが示唆される。ABA処理によるACS 遺伝子の転写産物量の変化について、8つのACS 遺伝子を調査したところ、3遺伝子(ACS2ACS7ACS8 )は発現量が増加し、4遺伝子(ACS4ACS5ACS9ACS11 )は発現量が減少、ASC6 は発現量変化が見られなかった。よって、ABAによるエチレン生合成の促進は転写レベルでなされていることが示唆される。ACSの安定性はタンパク質のリン酸化によって制御されており、タイプ1 ACSはMAPKとCDPKによるリン酸化、タイプ2 ACSはCDPKによるリン酸化を受けるとされている。シロイヌナズナは4つのサブグループに分かれた34のCDPKが存在し、このうちサブグループ1に属するCPK4とCPK11はABAによって活性化される。cpk4-1 変異体、cpk11-2 変異体およびcpk4-1 cpk11-2 二重変異体はABAによる根の成長阻害に対して抵抗性を示し、通常条件でのエチレン生産は野生型と同等だが、ABA処理後のエチレン生産量は野生型よりも低かった。したがって、CPK4とCPK11はエチレン生産に関与していると考えられる。CPK4とCPK11はACS6をリン酸化し、このリン酸化はABA処理によって促進された。CDPKによるACS6のリン酸化部位を特定するために、C末端側のSer残基をAla残基に置換したACS6を用いてCPK4およびCPK11によるリン酸化の程度を見たところ、S437、S462、S467、S469がリン酸化されうることがわかった。また、CDPKによるリン酸化はACS6の酵素活性には影響しないことがわかった。ACS6のリン酸化されうる4つのSer残基をAsp残基に置換してリン酸化状態を模倣したACS6を導入した形質転換体は野生型植物、正常なACS6もしくはSer残基をAla残基に置換したACS6を発現させた形質転換体よりもエチレン生産量が増加し、根の成長が抑制されていた。以上の結果から、ABAはエチレン生産を促進することで根の成長を阻害していると考えられる。

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