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論文)PLATZ型転写因子によるコムギ草丈の制御

2023-07-24 13:39:38 | 読んだ論文備忘録

Wheat plant height locus RHT25 encodes a PLATZ transcription factor that interacts with DELLA (RHT1)
Zhang et al.  PNAS (2023) 120:e2300203120.

doi:10.1073/pnas.2300203120

「緑の革命」において、ジベレリン(GA)非感受性REDUCED HEIGHTRHT)半矮性対立遺伝子Rht-B1b およびRht-D1b の導入によりコムギの穀物収量が大幅に増加したことから、倒伏を減らし収穫指数を向上させるためには草丈の最適化が重要であることが実証された。しかしながら、Rht1b 対立遺伝子を持つ半矮性品種は、成長を抑制するDELLAタンパク質を蓄積してGAによる成長促進効果を低下させているため、葉柄が短く、地上部のバイオマスが減少するといった多面的な影響が出る。米国 カリフォルニア大学デービス校Dubcovsky らは、以前に、半矮性普通コムギ(Triticum aestivum)UC1110系統とPI610750系統の交配から得られた集団を用いて、6A染色体短腕上の0.2 cMの領域内に草丈制御に関与するGA感受性の新たな遺伝子座RHT25QHt.ucw-6AS)を見出した。今回、草丈の異なる8つのコムギマッピング集団を利用して、この領域内に17のSNPと2つのインデルからなる6つのハプロタイプを見出した。そして、RHT25 半矮性対立遺伝子に関連する2つのハプロタイプ(H1とH6)においてTraesCS6A02G156600 が機能喪失多型を示すことが判った。ハプロタイプH1(UC1110)は、TraesCS6A02G156600 の第3エクソンに13bpの欠失があり、読み枠のシフトと未成熟終止コドンを生じ、予測アミノ酸の59 %が除去された。ハプロタイプH6(P515HP)では、TraesCS6A02G156600 第2イントロンのアクセプタースプライス部位に変異があるために第2イントロンが保持され、予測アミノ酸の66 %が除去される未成熟終止コドンが生じていた。これらの結果から、TraesCS6A02G156600RHT25 の最も可能性の高い候補遺伝子である判断し、解析を進めた。TraesCS6A02G156600 は、PLATZ(plant-specific AT-rich sequence- and zinc-binding protein)型転写因子をコードしている。コムギには62のPLATZ 遺伝子があり、6つのグループに分けられている。TraesCS6A02G156600 は、グループⅢに属しており、系統樹解析からホメオログを同定し、TraesCS6A02G156600 をPLATZ1ホメオロググループとした。4倍体デュラムコムギ(Triticum turgidum)品種KronosのEMS集団からPLATZ-A1PLATZ-B1 の機能喪失変異体を単離して作出した二重変異体は、野生型植物と比較して、草丈(12.7 %)、穂首長(18.7 %)およびその他の節間において有意な減少を示した。分析の結果、PLATZ-A1PLATZ-B1 は草丈と穂首長の調節において冗長な役割を持ち、platz-A1 変異はplatz-B1 変異よりも強い影響をおよぼすことが判った。さらに、ユビキチンプロモーター制御下でPLATZ-A1 を過剰発現させた形質転換Kronosコムギは、野生型植物よりも草丈、穂首、止葉が伸長した。これらの結果から、RHT25 の原因遺伝子はPLATZ-A1 であると考えられる。以前に発表された六倍体コムギのRNA-seqデータを見ると、PLATZ1 転写産物量は、伸長初期の茎で最も高く、次いで発育初期の穂で高くなっており、葉、根、穀粒でも転写産物が観察されていた。また、多くの組織において、Dゲノムホメオログの転写産物量が最も高く、Aゲノムホメオログが中間、Bゲノムホメオログが最も低くなっていた。PLATZ1タンパク質の解析から、PLATZ1タンパク質はプロテアソーム経路によって速やかに分解されること、PLATZ1タンパク質は主に核に局在することが判った。また、PLATZ1タンパク質はRHT1(DELLA)タンパク質のGRASドメインと相互作用をすることが判った。DELLAタンパク質は、GROWTH-REGULATING FACTOR 4(GRF4)転写因子と相互作用をしてGRF4による成長促進を阻害することが知られている。解析の結果、GRF4とDELLAの相互作用はPLATZ-A1とDELLAとの相互作用よりも20倍以上強いことが判った。このことから、GRF4はDELLA-PLATZ1相互作用の競合者になっていると考えられる。PLATZ-A1 矮性対立遺伝子がコムギの品種改良の過程で選択されたかどうかを調べるため、コムギ45系統のPLATZ-A1 自然突然変異を調査したところ、新たに第3エクソン内に欠損がある2種類の変異とプロモーター領域の挿入変異を見出した。これらのRHT25 変異は6倍体コムギの30%を占めており、コムギの品種改良において正の選択を受けていることが示唆される。以上の結果から、GA感受性RHT25 草丈制御遺伝子座の原因遺伝子はPLATZ-A1 であり、PLATZ1タンパク質はDELLAタンパク質と相互作用をすることが判った。このplatz1 変異は、GA感受性の半矮性コムギ品種の開発に利用しうると考えられる。PLATZ1-DELLA相互作用による草丈制御の作用機作は不明である。

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