Light‐stabilized GIL1 suppresses PIN3 activity to inhibit hypocotyl gravitropism
Wang et al. J. Integr. Plant Biol. (2024) 66:1886-1897.
doi:10.1111/jipb.13736
芽生え胚軸の伸長方向は、光と重力によって制御されている。光と重力のシグナルは互いにクロストークしているが、その根底にある機構は明らかとなっていない。シロイヌナズナgil1(gravitropic in the light)変異体は、赤色または遠赤色光照射下においても負の重力屈性(重力とは反対方向への伸長)を示す。したがって、GIL1は赤色/遠赤色光照射に応答して胚軸の重力応答性を阻害しているものと思われる。このことから、中国 清華大学のChenらは、GIL1の分子機能を明らかにすることは光シグナルと重力シグナルの間のクロストークについての理解を深めることになると考え、解析を行なった。シロイヌナズナ芽生えにおけるGIL1 の発現をみると、暗黒下においても赤色光下においても、子葉、胚軸、根において恒常的に発現しており、遠赤色光や青色光下においても暗黒下と同程度に発現していることが判った。GIL1タンパク質は胚軸細胞の細胞膜に局在しており、この局在はBrefeldin A(BFA)感受性分泌経路を介して形成されていることが判った。gil1 変異体において、各種プロモーター制御下でGIL1 を組織特異的に発現させたところ、胚軸上部で発現するPKS4 プロモーター、内皮で発現するSCR プロモーター制御下でGIL1 を発現させた形質転換はgil1 変異体の重力応答表現型が補完されたが、子葉で発現するCAB3 プロモーター、胚軸下部で発現するCASP1 プロモーター制御下で発現させた形質転換では補完されなかった。したがって、胚軸の重力応答性の抑制は、胚軸上部の内皮細胞に局在するGIL1に依存していることが示唆される。重力感知にアミロプラストが関与していることから、野生型植物とgil1 変異体の内皮細胞のアミロプラストの形態を比較したが、差異は見られなかった。よって、GIL1はアミロプラストの発達を調節することで胚軸の重力応答性を制御しているのではないと思われる。次に、GIL1がオーキシンの分配を媒介する因子を標的として重力応答性を抑制しているかを調査した。オーキシン排出輸送体のPIN3は、胚軸の重力屈性を制御するオーキシンの非対称分布をもたらしている。PIN3は細胞膜上に局在し、BFA感受性の膜タンパク質リサイクルを受けており、シロイヌナズナの胚軸ではGIL1とPIN3が共に細胞膜上に局在していた。このような類似した細胞特性に基づき、GIL1とPIN3の直接的な相互作用を検証した結果、GIL1とPIF3は生体内において相互作用を示し、GIL1はPIF3のオーキシン排出活性を低下させることが判った。変異体を用いた解析から、赤色光下での重力刺激において、gil1 変異体およびpin3 変異体はそれぞれ野生型植物に比べて胚軸の重力応答性が増加および減少していた。gil1 pin3 二重変異体は、赤色光下での重力応答がgil1 変異体よりも遅いことから、pin3 変異はgil1 変異体の重力応答を抑制しており、GIL1 はPIN3 の上流で胚軸の重力応答を調節している可能性が示唆される。胚軸伸長の重力応答性は赤色光照射によって強く阻害されるが、光条件によってGIL1 転写産物量に有意な変化は見られなかった。そこで、GIL1タンパク質量を見たところ、赤色光または遠赤色光で育成した芽生えのGIL1タンパク質量は暗黒下と比較すると劇的に増加しており、青色光下ではわずかに増加していることが判った。また、暗黒下で育成した芽生えを赤色光下に移すと、GIL1タンパク質量が徐々に増加していった。さらにGIL1タンパク質は暗黒下で安定性が低下し、光条件下では安定していることが判った。以上の結果から、GIL1は芽生え胚軸の重力応答における光シグナルと重力シグナルのクロストークにおいて重要な役割を果たしており、光照射、特に赤色光下では、GIL1タンパク質は安定化してオーキシン排出輸送体PIN3と相互作用し、PIN3のオーキシン排出活性を阻害することで最終的に胚軸の重力応答性を阻害していると考えられる。暗所でのGIL1タンパク質の不安定化機構については不明である。
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