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論文)TCPファミリー転写因子による腋芽発達の拮抗的な制御

2024-10-04 10:13:20 | 読んだ論文備忘録

Class I TCP transcription factors TCP14 and TCP15 promote axillary branching in Arabidopsis by counteracting the action of Class II TCP BRANCHED1
Gastaldi et al.  New Phytologist (2024) 243:1810-1822.

doi: 10.1111/nph.19950

TCPファミリー転写因子は、植物特異的な転写因子で、クラスⅠとクラスⅡの2つのクレイドに分かれている。クラスⅠとクラスⅡのTCPは、しばしば共通の発生過程に関与し、類似した、あるいは相反する効果を引き起こす。クラスⅡ TCP転写因子のBRANCHED 1(BRC1)は、シロイヌナズナ腋芽の発生抑制において極めて重要な役割を果たしている。一方で、クラスⅠ TCP転写因子のTCP14とTCP15はシュート分枝を促進することが知られている。アルゼンチン ナシオナル・デル・リトラル大学のLuceroらは、TCP14とTCP15が腋芽の発生に果たす役割を調べるため、シロイヌナズナtcp14 変異体、tcp15 変異体、tcp14 tcp15 二重変異体において、ロゼット葉腋から出てくる一次枝の数を定量した。その結果、tcp14 変異体、tcp15 変異体の一次枝数は野生型植物と同等だが、tcp14 tcp15 二重変異体では著しく減少することが判った。このことから、TCP14とTCP15は冗長的に作用して、腋芽の活性化および/または分枝の伸長を促進していることが示唆される。TCP14TCP15 はロゼット葉の腋芽で発現していることが確認されたことから、これらの遺伝子は腋芽の発達を促進する上で重要な役割を果たしていると考えられる。腋芽発達制御におけるTCP14TCP15BRC1 との関係を見るために、tcp 変異体でのBRC1 発現を見たところ、BRC1 転写産物量は、tcp14 変異体、tcp15 変異体では野生型植物と同等であったが、tcp14 tcp15 二重変異体では有意に増加していた。対照的に、BRC1 と密接に関連するBRC2 の転写産物量は、いずれの変異体でも変化が見られなかった。BRC1 遺伝子のプロモーター領域にはTCP転写因子が結合するようなドメインは見られず、TCP14とTCP15は転写活性化因子と考えられていることから、TCP14とTCP15は間接的にBRC1 の発現を抑制しているものと思われる。EARモチーフを付したドミナントリプレッサー型TCP15をTCP15 プロモーター制御下で発現させた形質転換体のマイクロアレイデータを見ると、発現が上昇した遺伝子にBRC1依存性の休眠関連遺伝子群が含まれていた。また、この形質転換体で発現が上昇した遺伝子の中にBRC1 が含まれていた。さらに、BRC1の直接のターゲットであり腋芽休眠に関与しているHOMEOBOX PROTEIN 21HB21)、HB40HB53 の発現は、tcp14 tcp15 二重変異体で上昇していた。これらの結果から、TCP14とTCP15はBRC1に関連した制御中枢を通じて腋芽休眠に影響を与えていることが示唆される。シュート分枝は、頂芽切除によって促進され、遠赤色光照射(避陰反応)によって抑制されることが知られている。tcp14 tcp15 二重変異体の頂芽を切除すると、野生型植物と同様に分枝数を増加させ、これらの観察と一致して、頂芽切除したtcp14 tcp15 二重変異体のBRC1 転写産物量は、野生型植物と同等にまで減少した。したがって、TCP14とTCP15は頂芽切除に対する応答に必須ではなく、頂芽切除後のBRC1 の発現抑制に関与する因子はTCP14とTCP15とは独立して作用していることが示唆される。遠赤色光照射は、野生型植物、tcp15 変異体、tcp14 tcp15 二重変異体の一次枝数を減少させ、野生型植物とtcp14 tcp15 二重変異体の一次枝数の差を減少させた。このことから、TCP14とTCP15は他の因子と冗長な形で分枝形成の避陰反応に関与している可能性が示唆される。さらに、遠赤色光照射はTCP14TCP15 の転写産物量の減少とBRC1 転写産物量の増加をもたらした。tcp14 tcp15 二重変異体においても遠赤色光照射によってBRC1 およびBRC1標的遺伝子(HB21HB40HB53)の転写産物量が増加した。これらの結果から、TCP14とTCP15は避陰反応による分枝形成抑制に関与している可能性があるが、この応答に必須ではないと考えられる。BRC1TCP14/TCP15 の関係を見るためにbrc1 tcp14 tcp15 三重変異体の一次枝数を見たところ、brc1 変異体と同程度であった。また、tcp14 tcp15 二重変異体で発現が上昇していたBRC1標的遺伝子の発現量は、tcp14 tcp15 brc1 三重変異体ではbrc1 変異体と類似していた(すなわち、野生型植物よりも有意に低かった)。対照的に、tcp14 tcp15 brc1 三重変異体の草丈は、tcp14 tcp15 二重変異体と同程度であった。これらの結果から、TCP14とTCP15による分枝発達の制御にはBRC1が必要であり、草丈に関してはBRC1とは独立して制御していることが示唆される。TCPファミリー転写因子は異なるメンバーが相互作用を示すことが知られているので、BRC1とTCP15との相互作用についてY2HアッセイやFRETアッセイで調査したところ、両者は生体内で相互作用を示すことが確認された。このBRC1とTCP15との相互作用がBRC1の標的遺伝子への結合に影響をおよぼすのかを一過的共発現解析により調査した。その結果、TCP15BRC1 の共発現は、BRC1の標的遺伝子(HB53ANACO32GBF3)への結合を低下させ、標的遺伝子の転写活性化に対して負の作用を示すことが判った。また、TCP15はBRC1標的遺伝子と相互作用はせず、発現に影響をおよぼさなかった。したがって、BRC1標的遺伝子の発現活性化は、TCP15の存在によってBRC1依存的に変化しうることが示唆される。以上の結果から、クラスⅠ TCP転写因子のTCP14とTCP15は、未知の間接的な機構によってクラスⅡ TCP転写因子のBRC1 の発現を抑制し、さらに、BRC1と相互作用をしてBRC1標的遺伝子の発現を低下させており、BRC1の機能を阻害することで腋芽発達の促進に寄与していると考えられる。

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