< リアル ラグビー ルポ >2017「サンウルブス」の開幕戦。スーパーラグビー優勝チーム「ハリケーンズ」相手に、17-83と大敗。だが、決して惨敗では無い。問題は、選手たちのひどい「辛すぎる厳状」だ
≪ 2016・2・25 掲載記事 ≫
≪2019・11・6 再掲載 ≫
「サンウルブス」。何それ? 3人のブスを揃えた新しいアイドルグループ?などと、首を傾げる人も、ラグビーに興味の無い方には多いはずだ。
日本のラグビーには、従来からの「日本代表チーム」に加えて、新たに一昨年「サンウルブス」という、実力同等の別チームを編成。
2019年、日本で開催される「ラグビー ワールドカップ」に向けて、日本のトップ選手や準候補選手に、数多くの海外試合での体験や経験を積み重ねさせて、個々の能力を高めさせていこう、という狙いがあった。
いきなり、世界のラグビー強豪クラブチームが競い合っていた、その名も「スーパーラグビー」に、参入。
合宿期間も満足に取れず、組まず。誰が見ても準備不足が囁かれるなか、とにもかくにも付け焼刃で、さながら試合をしていくなかで、チームの連係プレーの精度を高めていこうという、もろに見切り発車。
長期計画や戦略が、昔からまったく無い「日本ラグビーフットボール協会」。
さらに、チームが惨敗や連敗しても、協会幹部自らは責任取って、いまだ辞任は、1人もしたことは無い。
監督やヘッドコーチ陣の首を取り換え、選手を組み替えるだけ。
それで、乗り切ってきた歴史がある。
で、「サンウルブス」の、昨年の新規参入結果。15試合経験して・・・
1勝13敗1引き分け。18チーム中、最下位。
な~んだ!ひどいじゃん!
数字だけ見れば、そう想うほか無い。
ところが!スタートこそ大差を付けられだったが、次第に追いつ追われつ、接戦。引き分けの1試合も含め、あそこが改善されれば勝てた! 勝ててたかも知れない!という試合内容が目に付き始めた。
本当に最初こそ、世界のぶ厚い壁を思い知らされる展開だった。思わず、視線を下に落として、ため息を深くついてしまうほど。
ところが、試合を重ねていくたびに、強い当たり、ぶちかましに耐えて、互角に競り合い、試合の一部では優っていたし、充分に戦えるようになっていった。
その代わり・・・・・ケガも重ねていった。ぶ厚いテーピングやサポーターや、痛みどめスプレーでは到底まかないきれぬ大ケガ。
おまけに、自分の大学、社会人(トップリーグ)チームの練習は出来ないわ、その間に台頭してきた伸び盛りの選手に、自分の定位置と思い込んでいたポジションを奪われかねないわ、栄えある日本代表に戻れる保証は無いわ。時期は重なるわ・・・・・。
絶えず、その危機を感じながらプレイを重ねていた。
選手のカラダは、満身創痍、ガタガタ。
なにしろ、これまで、「他の選手と違い、大学からラグビーを始めたおかげかな? 今まで、大きなケガはしたこと無いんですよ、幸いに」と言っていた均(きん)ちゃん、こと、大野均ですら、欠場せざるを得ない重症。
もろに、選手のカラダと体調を考慮しない、と断じるほか無い、酷使ハードスケジュール。
さらに・・・・日本人選手はほぼ企業社員で、給与のみの生活。会社を離れる海外遠征と、合宿は、特別に有給休暇をもらってというカタチで出かけている。賞与は多くない。
体のケアには、皆、気を遣い、おカネも使っている。スポンサーは、いない。
スポンサーが増えたのは、協会だけ。従来に比べ、資金はかなり潤沢になった。
なのに、「サンウルブス」での1試合出場するたびの手当て、たったの6000円!
いくら、ケツ叩かれても、コレでは・・・・・・。心も体も、痛いだけ。
なのに、今季だけは参加している外国人選手は、年俸3000~4000万円。出場給も段違い。
なんなんだあ、この差はよお!
プロ、では無いといえ、選手たちの気持ちは、次第になえていった。監督やヘッド・コーチは、今季はいるが、来年はいるかどうか、分からないという、出たりバッタリの無計画、場当たり編成。
そんな「厳実」のさなか、日本代表に入れそうな新しい候補選手たちが、ケガ人に代わって、どんどん送り込まれていった。
だから、良くも悪くも、選手層は厚くはなった。選手たちにくすぶる不満は、それ以上に熱い。
なんとか、選手同士と自らを、意図的に励ましてのモチベーションと、観客の声援の熱さで、グラウンドに飛び出しているというのが、実情だ。
そして・・・・今年もまた、短期間で合宿し、編成された即席チームで、まず先週の2月18日(土)、北九州に建てた新設のスタジアムで、トップリーグ選抜「オールスターズ」と、仲間うち対戦。
逆転で、24-12で勝ちはしたものの、観客数、1万1512人でしかなかった。
そして、2月25日(土)、東京の秩父宮ラグビー場に、タイトルでも書いた、「スーパーラグビー」2016年シーズン優勝チーム、「ハリケーンズ」と対戦した。
コレは、ガチの開幕戦。全15試合の皮切り。
優勝チームの強さを見せつけた。
ラインナウトから、難なく、素早くトライ されるわ、パスしたボール奪われ、一気にゴールラインまで持ってかれるわ、ぶち当たって倒されるわ、片腕1本でいとも簡単に倒されるわと、個人の力量の差を見せつけられた。
そんなワンサイドの展開ながら福岡堅樹がトライで返し、後半、チームのチカラが最後まで落ちることが無くなった。
ボール支配率は上回り、「サンウルブス」は、常に攻めの姿勢。前半のパスミスは無くなり、今季もその姿勢を貫けば、接戦が昨年より増え、例え、結果負けても、点差は昨季より拡がることは少なくなるのではないか!?と想わせた。
スコアは、17-83で大敗はしたものの、試合開始時想わせた、100点は取られずに済んだし、次戦以降に期待を抱かせる内容であった。
重いケガの後遺症と、そのケアと、たったの6000円に、モチベーションが上がらぬまま、観客席に座って試合を見続けた主軸選手たち。
試合後、堀江は、こう言った。
「う~ん、やっぱり甘くはなかったですね。トップの実力のチームは」
「でも、プロップのメンバーも、やってみて、スクラムはトップとでもいけると感じました」
トライした福岡も「スタートとしては、良い出来でいけました」
「ハリケーンズ」の勢いは、まさにハリケーン並み。試合後の、観客への親切な対応すらも。
サインはもちろんのこと、観客の求めに応じて、スマホでの自撮りにも機嫌よく応じる。
厳しく、簡単に盛り上がれる気分にはなりにくい現実は分かるけど、この辺りは日本も見習わなければいけないだろう。
観客数は、1万7553人。2万4800人最大収容出来る秩父宮でだ。
メインスタンドや、バックスタンドこそ、ほぼ満員だったが、両ゴールポスト裏の客は、埋まらず。
しかし、日本で開かれた、日本チームが出たラグビーの国際試合としては、最高ランクと言って良い。
だが、同じ日に、行なわれた、プロサッカー、Jリーグの開幕試合の観客数。
「仙台」対「札幌」、1万7230人。
「清水」対「神戸」、1万7801人。
「広島」対「新潟」、1万7545人。
「鳥栖」対「柏」、1万4355人。
「大宮」対「川崎F」、1万1962人。
このラグビーの試合並みや、それ以下の観客しか来なかった試合も、このように有る一方で、
NHKが地上波でナマ中継した、「鹿島」対「FC東京」、2万8240人。
「C大阪」対「磐田」、3万3208人。
「横浜FM」対「浦和」に至っては、3万9284人もの観客数。
ラグビーの「厳状」は、今後も続く。
例え2015年のワールドカップで、南アフリカに劇的逆転勝利を挙げる奇跡を奪い獲り、3勝を挙げる快挙を成し遂げ、昨年のトップリーグは多少上向きの観客動員数を得たが、今年は再び数年前の元に戻ると危惧される。
あの五郎丸歩(あゆむ)は、すっかりコマーシャルでは、いまだ活躍中に見え、金満家になったが、現実は厳しい。
昨年、「レッズ」に入団はしたものの、厳しい練習と試合の積み重ねで左肩をケガ。
さらに、他の部所も相次いで損傷。
出番どころか、ベンチ入りすら少なく、活躍の場を求めて、フランス1部リーグの「RCトゥーロン」に入ったものの、ベンチ入りすら困難な状況。
最近では、新たに作られた「10人制ラグビー大会」のイベントに、チームの1員として出場したのみ。
実は今年、日本に帰ってきて、ヤマハ発動機でプレイ再開することが、水面下で決定済みだ。
お金持ちとなった五郎丸。
いくら日本や日の丸を背負っての「名誉」というニンジンを目の前にぶら下げられても、ず~っと6000円に納得出来るか、どうか・・・・・。
にしても、おかしい。
当初こそ、人材派遣業の「ヒト・コミュニケーションズ」というメイン・スポンサーだけが、チームの冠に就いていた「サンウルブス」。
だが、今や、「三菱モーターズ」、「セコム」、「凸版印刷」、「SMBC日興証券」、「シチズン」、「カンタベリー」、「サントリー」、「ダンディ・ハウス」など、ざっと見ただけでも数多くのスポンサーが増えた。
まだまだスポンサーが付かない頃、「日本代表チーム」が合宿していたホテルの宿泊費を調べたことがある。
驚いたことに、団体割引額よりさらに安い「特別配慮料金」で、いずれも宿泊していた。
だが、今は、「日本代表」も、「サンウルブス」も、活動資金は潤沢になったはず。
「サンウルブス」は、次戦はすぐに3月4日、シンガポールにある、収容観客数5万5000人もの大きなスタジアムで試合を行なう。
ガラガラの客席が、目に浮かぶ。
とはいうものの、「スーパーラグビー」そのもののが、1試合平均、1万4500人しか観客来ない、惨状ぶり。
そのうえ、痛みこらえて、治療してもらって、コンビニのバイトより安い日給6000円。
サンウルブスの全メンバー、53人。
そのなかで、とっかえひっかえ、比較的元気な選手を順繰り、使い回ししてゆく算段。
この6月からは、「日本代表」も召集合宿。
53人の多くが、ソレにダブル。
加えて、自分の所属チームの練習、北海道網走・北見での夏合宿、練習試合も重なる。
選手を使い捨て、とは思いたくはないが、こんな選手に薄く、協会に厚い歪んだ構造は、今年中には破滅するだろう。
選手あっての活動資金のはずなのに、巨額のスポンサー料金は、どこに入って、仕舞い込んでしまったのだろう・・・・・・。
単に、言葉だけの「ハードスケジュール」「苛酷 」「過酷」では収まり切らない、この「日本一か国」の「日本一苛酷」状態。
屈強な選手といえども、生身のカラダ。
そりぁあ、ラガーマンたるもの、グラウンドに立てば、勝ちたい気持ちが湧き上がってくる。それに、おんぶにだっこの協会。
綿密な長期計画皆無のまま、突き進んだ挙句、今すでに、破たんが生じ始めている。
そんな「厳状」に、選手達、どこに協会の都合よく散らばされても、不満ぐっとこらえて頑張れ! ニッポン、チャチャチャは・・・とても言えない。