懐かしのバレエ

バレエ、パフォーミングアーツ等の感想、及び、日々雑感。バレエは、少し以前の回顧も。他、政治、社会、競馬、少女マンガ。

ドミトリチェンコ・ニクーリナ「スパルタクス」2/1

2012-02-02 02:05:05 | バレエ
主観的感想ではありますが。
東京文化会館、ボリショイバレエ「スパルタクス」2夜目。

ホントに個人的で申し訳ないんだけど。感動した。
若者たちのドラマ。

・奴隷の長:英雄スパルタクス:ドミトリチェンコ。自分は感動できた。
ドラマティックなドミトリチェンコ。

(不足を挙げればきりないが、それはワッシーだって同じ)

1幕の、「剣奴との殺し合いの見せもの」という残酷なシーンの後は、(ムハメドフが誰も真似できない名演を残してるが)、ネガティブな感情よりも、楽しく心地よい事を求めたい、ポジティブな若者たちの思考回路がほの見えて、定番のムハメドフの苦渋の「スパルタクスのモノローグ」シーンよりも、その後の、絶望の状況から立ち上がって、希望を見るシーン、奴隷たちが皆で蜂起を決意し、コールドとドミトリチェンコが一斉にジャンプをするシーンで、このシーンの本質的な意味であるに違いない、「解放!」を感じる事ができた!音楽との一体感!

今日の一番の客観的な成果は、一つには、それかもしれない。

1幕では、明るい現代青年、それが、2幕で、かわいい妻への優しい顔、3幕で、頂点から転げ落ちる絶望の中の喪失感、そしてそこからもう一度決然と毅然と自分を奮い立たせて、最後のフリな戦いに挑んでゆく・・・。
演技派というより体当たりの等身大のスパルタクスで、過去のスパとは別の感動が。ニクーリナが可愛く、演技もあるので、3幕でスパルタクスが死んだ時は、泣いてしまった。(あほな自分)

2幕以降、ちょっと勢いに乗る性格のスパルタクスでもあり、ムハメドフ、クレフツォフ、ウラジーミル・ワシーリエフらの、度量と冷静さも兼ね備えた理想的英雄、端正な正統派と違って、ちょっと、日本の歴史ドラマに出てくる源義経みたいな、激するキャラのスパルタクス、とか思っても見た。その意味で絶大な支持を得る大物の英雄というより、一度は登った若者が、挫折を経験し、放心状態になる話にも見え、これもありか、と思って面白く見た。

ニクーリナ、じゃなかった、こんなに早くに夫に先立たれた妻フリーギア、一度は希望を持ち、解放を目指した若者が、頂点からたたき落とされ、無残な死体で仲間に抱かれる姿・・・。

・その最愛の妻:ニクーリナ。かわいい。繊細な踊り、繊細な演技。合同ガラの時より良かった。理想の妻。こ~んなかわいい奥さんなんだから、スパルタクスが頑張って当然に見える。
演技力もあるけど、演技だけではない、うら若きスタイル良くピュアな乙女の魅力が、そこここに。

まだ、色んな種類のお客全員を、自分のソロに惹きつけるスキル(アレクサンドロワはそれが高い)を獲得するには至っていないが、それはキャストされ舞台に立てば、今後自然と身に着く筈。それよりも、この時期に、芸術性の高さと、本人の素に、まだ初々しさの残るヴァリューが光る。(これ以上にスターになったら、今の良さの一部は、失われてしまうかも、ニクーリナ。)

・敵役:ローマの将軍:クラッスス:バラノフ。
まずは、重量級プリマのアレクサンドロワを、リフト連発して破綻なく踊った労苦を、ねぎらいたい。
1幕でブラボーあったが、むしろ声援の無かった2幕以降の方が、良かった。

JAブログで確か「イケメンダンサーズ」の一人(?)扱いされてたような気がするが、そう言われてみると確かに、端正な男前系(甘い美男系でなく)かもね。(私のタイプではないんだけど、歴代のこの役の中では、ハンサムな方に入るのかもね。)

そんな、男前の若者が、なんで、こんな色気のない、おばさんのエギナ(アレクサンドロワのファンの人ごめんなさい。)と、情婦の関係に?!と見えてしまった。もう、途中から、
イケメン(?個人的には、イケメンとか、どうでもいいんだけど。)バラノフが、気の毒で気の毒で。

明らかに、群舞の方が、若くてかわいい女の子がいる。私がクラッスス将軍なら、迷わずあのコールドの女性から、よりどりみどりで愛妾を選ぶよ~んだ、と思って、可哀想で可哀想で。

好意的な観客も声援もあって、1幕の「劇」が、2幕以降「激」になってた、ドミトリチェンコのスパルタクスに対し、後半なかなか一筋縄ではいかないクラッススを好演していたが、観客のブラボーは、当然主役陣より少なく、バラノフが、がっかりしなきゃいいけど、と思った。

バラノフなりのクラッススになってて、シニカルな笑いを見せたり、ちょっとひねった役作りで良かったです。

それと、アレクサンドロワのエギナとの関係が薄いのが特徴。

・クラッスス将軍の愛妾・エギナ:アレクサンドロワ
これは、前回以前のボリショイ「スパルタクス」を見てる観客と、今回が初見の人とで、感想別れるのでは、と。

自分は、失望した。02年公演の、グラチョーワのエロダンスが、(褒めるわけではないが)、強烈で、今回のは、「物語の説明」にはなってるけど、エギナに色気が無く、(男性で、あのエギナを抱きたいと思う人いるか?と振れば、グラチョーワより、ステパネンコより、はるかに下だと思う。むしろ、こんな人を彼女にしてるクラッススが可哀想で。)色気を作って演技はしてるけど、にじみ出る色気が無いから。

キャリアからいっても、若手たちよりアピールのスキルだけは高いけど、マリア・オン・ステージ以上のものは、「物語の説明」以上の芸術性が見えない。
3幕の、エギナ大活躍のシーン、前回、あんなに興奮したシーンが、こんなにやせて見えるなんてと、目から鱗。
エギナの奸計で、スパルタクス義勇軍が、娼婦の退嬰的色香で、堕落し、ぐだぐだになるシーン。

これが、アレクサンドロワのエギナが、マスタベーションして悦に入ってるように演じていて、これは、違うでしょうって!
ここは、エギナは冷静で、自分が酔うのではなく、義勇軍の兵士を、エギナの退廃的色香出酔わせて骨抜きにするのであって、ここは、解釈が違いすぎる。

エギナが籠絡する、羊飼いの青年が、エギナに興奮してるようには、全然見えず、前回目のやり場に困ったのと、対照的だった。自分でいって、ど~すんですか、エギナさんってば!男性たちをいかせる役なのに。それと、あたかもボールダンスのような振付があって、前回ドッキリしたけど、そういうドッキリもないし。
彼女だけ身体がしならず、コールドよりも、ハチャトリアンの音楽が踊りから聞こえてこなくて、意外。

アレクサンドロワは、まだわかいのに、おばさんにみえたのは、元々、この役が、素よりぶさいくにみえがちな鬘をつけるせいとか、当時の時代考証で厚化粧気味とか、あるのでは?と思うけど、アップで見ると、若い二枚目バラノフと合わない。

アレクサンドロワを以前良いなと思ったのは、06年「バヤデルカ」全幕での、ガムザッティを、権力者の娘の傲慢さを前面に出さず、むしろ、優しくて幸せになりたい普通の女の子として演じた時。(相手のニキヤはザハロワの日。グラチョーワのニキヤの日のアレクサンドロワは、ごく普通の傲慢キャラのガムを演じた。)

あれから時は過ぎ、スター扱いされるようになって、彼女は変わったのだろうと、役作り見ると思うけど、彼女自身は元々は、普通の女の子系の人だったと思うから、そういう役作りの方が共感しやすい。

エギナ役の解釈は、悪女でもなく、生きていくために、必要性で何でもする女性。「それもあり」とは思うけど、他のダンサーの解釈に比べ、クラッススへの愛(?)が薄く、そこも、今までの人たちの方が結果としては面白かった。とても現代的なアレクサンドロワの解釈だけど、舞台見ると、それだけでは夢が無いのよね。

グラチョーワは、ダメな男のクラッススを「私の愛した貴方は、そんな男性ではありません!」と誇りと尊敬心を持って、叱責し、勝った時、心からクラッススに膝まづいた。
ステパネンコは、男のピンチに役に立つ、賢い女性のエギナで、その意味では共感できた。

辛口ですいません。

・オケ;本日の戦犯。
前日、ブログで褒めすぎました。足を引っ張る演奏あり。ま、公演が成功したからいっか。
コールド:女性の前の方の人たちに、うまいのがいる。

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グリゴローヴィチ振付+ボリショイ管弦楽団「スパルタクス」

2012-02-01 11:13:37 | バレエ
ロシア人風に言うと、まず、音楽:ハチャトリアンの「スパルタクス」なんでしょうけど。

でも、今回来日のバレエ公演「スパルタクス」の真の主役は、なんといっても、振付のグリゴローヴィチ、andボリショイ管弦楽団!

あとは、今時の若者たちのハチャメチャな奮闘を、好意的な目で、それなりに楽しむしかないかと。今のダンサーしか知らない人には、凄く見えると思うけど、やっぱムハメドフ位まで遡ると、頭切り替えないと・・・。

コールドは昔と違って、昔ほど揃わないけど、無軌道さに魅力?
そろって踊る気迫のシーンよりも、悪女エギナの活躍する、酒池肉林シーンとか、アナーキーな場面の方が、今の若者は得意に見える。

【座付きオケの魅力】迫力のサウンド、ボリショイ管弦楽団も帯同で、さらにパーヴェル・ソロキンの指揮が売りの、今回の来日公演「スパルタクス」なのだけど。

バレエ見始めた頃、私はクラファンではなかったバレエファンだったので、「座付きオケの魅力」については、劇場である時隣に座った人や、サイン待ってた時そこにいた人とお話していて、劇場でお話したクラシックファンの人々から、異口同音に解説していただいた。

劇場に付いてるオケ、座付きオケの場合、バレエとの一体感について、つぼを心得ているプロ集団なので、クラシックファンから見ても、答えられない魅力があるんだそう。
言われてみれば、なるほどと思って、その後、バレエと音楽の関係にも、意識が行くように自分も少し変ったみたい。

あの、イワン君でも、或いは私の見に行く1日のタトゥーの青年でも、それなりに見えるのは、一つには、オケが、主役を助ける演奏をしてる部分があるから。音楽・演奏の力は大きい。

もちろん、ハチャトリアンの曲も、グリゴロの振付、総指揮に統合されて、その一部として優れたオケ集団もあって、いっそう音楽の感動が観客に伝わりやすくなってると思う。

★ただ、後半の酒池肉林シーンが、ちょいエロいので、02年の来日公演の時、グラチョーワのエギナの時は、私は免疫が無くて、「バレエでこんなシーンが、東京文化会館であってい~のだろ~か???」と当惑幻惑しなくもなかった。(そういう風に、意識が振り回されるのは、自分には、半分楽しかった(?)けど。ちょっとびっくりした。)当時劇場で、2,3感想拾ったら、キモいという女性の意見と、エロいという意見と、面白いという意見(男性客)に分れた。

(でも、今は時代が違うから、今同じのを見ても皆、当時ほど驚かないかも。)

今回は、そこまでエロいエギナ役は出ないと思うので、同じようには思わないかもしれないけど。
このシーンのハチャトリアンの音楽も、とりわけ好印象。

★なお、素晴らしかった昔のダンサーによるスパルタクスについて、ネット画像検索したら、
MYスパルタクス、ムハメドフ様は、残念ながら、いいのがあんまりアップされてない。
以前ビデオで出てたのが、91年頃のが良かったのだけど。

●ユーチューブで見たら、84年べスメルトノワ、ガボービチとの共演が少し。

Spartacus_Mukhamedov_1984 Split
Spartacus 1984 The Bolshoi Irek Mukhamedov Gladiator's fight Swearing

●スターのセメニャカのフリギアとのつかの間の愛のアダージョ。
Spartacus Act III - Spartacus and Phrygia (Bolshoi)
等のタイトルで出ていた。いい踊りをしても、後世に画像が残らないと、今の時代は厳しいかも。

【巨匠グリゴローヴィチの若者指導力】

この人については、別で書こうかと思ったけど。一時期ボリショイを出て、他でいい仕事をして戻ってきて、岩田守弘さんや、ワシリエフ、ドミトリチェンコ、ボルチコフ、アレクサンドロワ、皆が彼について興味深い話をしてる。

一番愉快なのは、前に、総裁イクサノフ氏が語ってた、グリゴロ氏を使う理由。
グリゴロさんが来ると、「今時の若者たち」が、皆まじめに働く、とか。
バレエの話としては愉快だけど、視点変えて、今時の企業経営者から見たら、羨ましい話なんだろうね。

私はバレエ界の偉い人、というだけなら興味ないけど、グリ氏が稽古場に来ると、それまで普通だったダンサーたちが、ぴしっとなって、皆一生懸命やるって。
岩田さんのブログでの話が、状況が一番わかりやすい。

いわく、「遊びたい若手も、ふだんさぼってる中堅も、(え?さぼってる??でも、ボリショイのダンサーは一番まじめとも聞いたことあるのだけど・・。昔の話?)引退前のベテランも、」グリゴロ氏が部屋に入ってくると、誰がそれを告げたわけでもないのに、(まとうオーラみたいなものか?)皆が精いっぱい稽古してた、そして終わった後は満足げな感じだった、とか、不正確な再現だけど、そんなようなお話だった。

ロシア舞踊界の場合、権威のある人の前では、ふだん流してやりそうな人でも、真面目にコールドがそろうとかは、もともと聞いてたのだけど、グリゴロ氏の場合は、そういうのとは違うように思った。

グリ氏は、一度、「ボリショイの皇帝」の地位を持ってて、そうでなくなってから、却って、磨かれたのかもね、と私は思う。肩書きが昔程でなく、何もかも一から指導しなきゃいけない、格下バレエ団の色々なダンサーを相手に世界で仕事して、苦労もあったと思うけど、自分を曲げずに誠実に、或いは頑固に芸術職人をやってて、こうなったのかもね、と。(?)

皇帝の肩書を失っても、彼と仕事した人たちは、氏を尊敬し慕ってるみたいな様子は、その後のボリショイ以外の来日公演の客席で、私も見てきた。(自分のような観客にとっては、お金払って見るのだから、いい舞台を見せてくれるかどうかがキーで、人格とかは、半分どっちでもいいんだけど。)

それで今、若者たちを相手にして、芸術の深さを教えてゆけているのだけど、それ以前に、日本もロシアもさほど変わらないのかもしれない、「今時の若者たち」に、人生が輝くような、仕事へのよろこびに向かう気持ちに素直にさせてしまえる所は、どうやってるのかしらないけど、バレエ以外の話としても、上司たちも私の彼氏も、或いは中小企業の経営者さんとかが、おお~、と思いそうな話だと思った。

岩田さんの話は、ご本人の人柄を反映して、すがすがしく感動的だけど、語り手の個性で、色合いも変わり、ダンマガのアレクサンドロワのインタビューだと、もう少し厳しいトーンになっていた。「グリゴローヴィチは、とても厳格な方です。」「でも私は、その厳格さに感動すら覚える」(Me too)「人に対して、というより、時代の変化に対して、厳しい」だそうで、なるほどです。

ちなみに彼女、「私が観客や批評家の感想に、心を動かされる事は、ありません。」だって。
い~こと言うぜ、ね~ちゃん。

なお、そう言うアレクサンドロワの白鳥は、前回4人のプリマの中で、お客さんたちには、最低評価だったんだけど。
ちなみに前回順。1ザハロワ、2ダークホースのアントニーチェワ 3クリーサノワ、4アレクサンドロワ

’08年には、彼女は、ハンサムなシュピレフスキーと組んで、私の友人たちには、姫も王子もそこまで言うかと気の毒になるほど、酷評だった。今回スクボルツォフに相手を変えて、前回の雪辱なるか、の立場の人。(私は白鳥マニアなので、白鳥向きの人しか見ないので、パス。友人が誰か見るかどうか。)

前に、ダンチェンコで白鳥にはキャストされない、レドフスカヤの白鳥というのを、他バレエ団ゲストで見て、「白鳥」って、残酷な演目だと知った。ある程度、白鳥向きの資質というのも厳然とあって。レドフスカヤの場合、体型的にも難があったかなと。手脚がながく、すら~としていて、できれば首が細長いとか、頭小さいとか、なで肩、細肩、可憐、たおやか女らしく見えるとか、白鳥姿が似合うとか。色々と、いやらしい位、チェック項目があって。アプロンあっても、鋼鉄のようには見えないで軽みがあるとか。出来れば白のプリマで、という演目。

グリおじいさんの話から、それちゃったけど。今回、ご高齢の為か、さすがに来日は、されてないようで、残念。ベジャールもプティらも亡くなった今、氏には今少し、できればお元気で、若者たちを目を輝かせて生き生きと踊るダンサーに育てて行って欲しいと、願ってる。ご年齢的には、求めすぎかもしれないけど。まだまだ精力的だそうで、なによりです。85歳。

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