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懐かしのバレエ

バレエ、パフォーミングアーツ等の感想、及び、日々雑感。バレエは、少し以前の回顧も。他、政治、社会、競馬、少女マンガ。

巨匠逝く

2025-05-20 05:33:41 | バレエ

バレエ界の最後の巨匠振付家、の一人、かな、

月曜日に、ボリショイ・バレエ団等で活躍したユーリー・グリゴローヴィチ氏が、お亡くなりあそばしたそうです・・・・!

98歳。

一瞬、言葉を失いそうになった。

(客観的には、大往生で、舞踊芸術界でこの上ない成果を上げて、充分生きたと思うのだけど、主観的には、何か大きなものを失ったような、寂しいような気も・・・。

キャリアの途中までは、西側のベジャールなどとともに、バレエの革新で世界を席巻した振付家として勇名をはせたけど、人生が長かった分、キャリア後半は、国や時代の変化に応じて、娯楽色もある高め安定のグランドバレエを提供していた面もあるかと。

(創造者として、やりたいことをやった最後の作品は、2001年に改訂したグリゴローヴィチ版『白鳥の湖』悲劇版だと思う。

古典バレエの形式を持った、前衛芸術のような内容!幕切れの裏切り方なんか、ブレヒトの演劇にも通じるものがあって。

理想は失われる、そして青年は、理想の失われたこの現実世界の中で、生きていく!

この、青年の、苦い成熟!

日本人の批評家で、まともな解説をかけた人はいませんでしたが。)

代名詞化した男性バレエ以外の成功作に、

チャイコフスキー三大バレエの一つ「くるみ割り人形」がありますが。

私ら的には、1993年来日公演の『ロミオとジュリエット』にも高い評価があって、

バレエ友が、「音楽に造詣の深い知り合いが、『この振付を創った人は、スコアを大変よく勉強している』と言っていた」と教えてくれて、その言葉がこの作品の何たるかを端的に語りつくしてる気がしました。

(芸術監督が代わってこれがレパートリーから外される、というバレエ団の状況による不運もあり、世間的には『くるみ』ほどの確定評価を得てないかもですが。そして、2000年代で一時復活上演した時のは、キャストのこともあって、’93年に見た物ほどのインパクトは感じなかったです。)

振付家としてだけでなく、バレエの指導者として特別な存在だったことが、関わったダンサーや総裁ら関係者の言葉から窺い知れる人物でもあり。

私的には、たぶん人間的には好きではないんだけど、一方、舞台芸術愛好家としては、絶大な信頼を置ける、例外的な演出家の一人であって、この方の個人の話には興味がなくて、芸術性の面では、舞台芸術のエッセンスを大変よく理解していて共感できる、天才だった、という矛盾した感想を持ってたりします。

個人的には男性バレエのファンではないので、氏の振付の一部は、男性に踊らせてるけど、このパートは女性が踊る方が私は好み、と思う箇所もあったりしますが。

バレエ団を強くする、という揺ぎ無い信念のもと、超難しい振付をダンサーたちに踊らせ続けて、…大変そうでしたが、結果的に、30年経ってバレエ団は強くはなりましたね。

民族舞踊部分をトゥシューズで踊らせる、とか、ダンス・クラシックの技法の信奉者で、「良くも悪くもグリゴロ節」と思ってみてましたが、ダンサーたちがグリゴロヴィチを支持して、その振付をよく咀嚼して踊るので、最初は違和感で見た物も、途中から面白がって観れるようになりました。

三浦雅士が看破したのが、マイヤ・プリセツカヤらのスター主義に対し、グリゴローヴィチは、集団創造の人(私的には演出家主義)、という行き方の違いで、

これも、グリゴローヴィチ振付と演出を論評するなら抑えるべきポイントと思います。

取り急ぎ感想、

さて、追悼の足しになったかな?

(グリゴローヴィチ逝去で、ますますグリゴロ色がボリショイから抜けていくなら、それは心配で、無理すじかもしれんが、それは残してほしい。変にマリインカに似ちゃったりとか、他所のバレエ団の亜流みたいになってほしくない。

バランシンが亡くなる前に、次の人に引き継ぎをする中で、自分がいなくなったら、全ては変わってしまうだろうと予見していて、それはまあ、結果見ても当たってたので、それにグリゴローヴィチの場合、今の芸術監督がグリゴロ色を排したいのかな???という感じもするので、そこは懸念ありますが。

ボリショイはロシアだけのものじゃない、世界のボリショイなので、世界のファンの意向をスルーしないでほしいけど、来日公演もなくなっちゃったし、私らの声は届かないにしても・・・。

人の死は厳粛で避けられないものでも、巨匠振付演出家の死に、何か、一抹の不安を感じるのは、彼の死が、舞踊芸術界にマイナスを与えるようにならないように、というような、案じ方のせいなのだと思って、‥謹んでご冥福を、とか言う気になれない。)

巨匠逝く、私たちは、何かを失うんだろうか?

とりもなおさず、グリゴローヴィチ率いるボリショイバレエから、私たちは多くのものを得ていた。

「理想は失われる、そして私たちは、この理想の失われた世界で生きていく!」

あの、「白鳥の湖」のテーマは、ここにも当てはまる。

巨匠は大往生を遂げても、その作品は世界のバレエ界の遺産として、今後も良い形で保存されて残ってほしい。

と、理想に未練たらたらな私は、あのジークフリート王子の様には、悟れない。

 


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