「ちょっと話がそれるけど、いじめ問題の本質がどこにあるか知っているか?」
「知らない」
「お前の心の中にある!」
「たしかに、私はいじめを見て見ぬフリしたことある。
でも、誰かをいじめた事はないよ」
「いやいや、お前が気に病む問題じゃない。
いいか、いじめの本質は、全ての人間が基本的にいじめっ子体質だからというそれだけの話だ。
いじめっ子が特に残虐なワケじゃない。
基本的に人間は弱者をいじめるのが好きなんだよ。
だからいじめがなくなるはずもない」
「私はいじめたことない」
「いいんだよ。
あんた個人を責めてるワケじゃない。
だが、そうは言うが、いじめっ子のいじめる子を見て、こいつならいじめられても当然だよなと思った事はないか?
その感性は、むしろ、いじめっ子に近くはないだろうか?
いじめたかいじめなかったかの差だけじゃないのか?」
「あぅー」
「クラスに、あるいは学年に1人はいるよな。
こんな奴がクラスメイトや学友なのが気に食わない明らかに自分より劣っている奴。
こんな奴とだけは友達だと思われたくない、こんなのと同類だと思われるだけでうちらの恥。クラスにいるだけで、クラス全体の評価が落ちてしまうと思えてしまえるような奴」
「まぁ、いないとも言い切れない」
「いるなら、自分がそんな奴と同類の人間だと他人から思われる事は、あまり喜ばしい事ではない。出来ればさけたい。
もともと居てくれなかった方がありがたいと思えるような奴は確実にいる。なれなれしく近寄るなと悲鳴を上げたくなる。絶対に自分と同じ人間だと認めたくない」
「うー」
「そんな奴は自分より格下であって当然だと思わないか?」
「うー」
「せめて、うちらの中でも特例の奇妙な人間で、本来のうちらとは別種なんですよと示したくはならないか?」
「うー」
「例えば、そんな奴が馴れ馴れしく友達面して会話の中に入ってきたらどうする?」
「えー」
「シカトしたくはならないか?
だからシカトした、だが効果はなく、まだ奴はうちらと同類だと思っている。こんな身の程を知らない馬鹿には制裁を加えたくはならないか?」
「あー」
「ただの実力行使がいじめだ」
「むー」
「猿山のサルや、群れに属するオオカミと同じで、集団で生活するほ乳類である人間には本能的に『序列』という意識がある。
序列の意識は、クラスメイトはみんな平等という民主主義とは反する。
こいつより自分の方が上等の人間であると言う意識がいじめを生む。
自分より劣っている他人は必ずいるのだという考え方は、集団を成り立たせる為には自然な考え方だ。上下関係は命令の徹底に有利な手段だ。その根は猿山のサルの序列と同じだが。
過去に発達した多くの文明には『身分制度』が存在した。
意外と身分制度のほうが民主主義より、人間の素直な感性にフィットするのかもしれん」