出前かぁ、お母さんはたまにお昼に出前とかとってたみたいだけど、私はあんまり出前の料理って食べたことがないんだよね。
「そこらに出前のメニューとか置いてないか?」
死神が聞くので、電話機のあたりを探してみると、電話の上の壁に画鋲でお寿司屋さんのメニューが貼ってある。
「寿司の『喜楽鮨』だって」
「いかん。夏場に寿司は危険だ。夏場のナマ物には大腸菌と寄生虫の卵がウヨウヨしている。寿司はいかんぞぉ!」
「ガストとピザのチラシを発見!」
「ガストとピザか。あんまり食欲をそそらない。最後の手段にとっておこう。他にないのか?」
この暑いのに、お寿司は食べたいけど、私もピザはイヤだな。
ファミレスには縁が無いのでガストはちょっと気になる。死神のおごりならガストもいいかも。でも、死神がお気に召さないようなので、もう少し探してみよう。
電話台の横には、紙切れが積み重なっている。エステに病院、学習塾に電話番号を書いたメモ用紙。お母さんがいつか電話しようと積み上げておいた紙切れ達。お母さんは何を望んでいたのだろうか。
「あっ。蕎麦処『おゝもり庵』のメニューを発見しました」
「見せろ」
死神にメニューを手渡す。
「『かけそば』『もりそば』『天ぷらそば』『五目そば』『あんかけそば』『おかめそば』『月見そば』。『鴨南蛮』に『鍋焼きうどん』で『カレーうどん』。『きつね』に『たぬき』か。
んんー暑苦しいメニューだ。あえて選ぶなら『もりそば』かなぁ」
私は、その裏からメニューを見ながら言う。
「裏にもいろいろ書いてあるよ」
「えーと、裏はご飯物か、『カツ丼』『天丼』『スタミナ丼』『スタミナ定食』『鴨南蛮丼』『カレー丼』『野菜炒め定食』『焼き魚定食』『日替わり定食』『うな重』『うな丼』」
「死神はウナギにすれば?」
「おいっ『ライス』ってのまであるぞ。そんなもんまで出前してくれるのか。『炒めご飯』って、チャーハンの事か? 『そばめし』ってどんなんだろう?」
私はまた裏からメニューを見ながら死神に言う。
「死神、麺類には夏期限定メニューもあるよ!」
死神はメニューを引っくり返して、見直した。
「ホントだ。えーと、『冷やしタヌキ』『冷やしトロロ』『冷やしスタミナ』『冷やし納豆蕎麦』。あっ『冷やし中華』もある。商魂たくましいなぁ」
「私、冷やし中華食べたい!」
「え、そば屋の冷やし中華だぜ?」
「うん、ソレが食べたい!」
「物好きだなぁ。じゃぁ、俺もソレにしよう」