「痛みにも色々あるよな。
頭痛に歯の痛みに腹痛。
怪我すりゃ痛い。
机の角に小指をぶつけても痛い。
食べ過ぎてお腹を壊しても痛い」
「まーね」
「痛いに嘘ってあるかね?」
「そりゃあるよ。痛くないのに痛いって言えば嘘だ」
「でも、痛いと感じる事に嘘も本当もない。
本人が感じる痛みには嘘も本当もない。
他人に自分の痛みを嘘呼ばわりされる言われはない」
「えーと、だから?」
「痛いってのはすごい個人的な事で、本人以外は、その痛みが本当なのか嘘なのか分からない。
医者でさえ、患者が痛いと言うなら、痛いところなんてないはずなんだけれども、痛いって言うならまぁどっか痛いんだろうなと思う。
他人が訴える痛さは否定できない。
自分の痛さは他人に分からない。
他人の痛さは自分に分からない。
もちろん、まったく痛くなくても『痛い』と嘘を言う事は出来る。
でも、その嘘は本人以外は嘘だと証明できない。
痛いはずないじゃんと思っても、本人が痛いと言うなら痛いと認めるしかない。嘘の痛さを嘘だと他人には証明できない。
他人の訴える痛さを偽物だと証明できないなら、偽物は存在しないのと一緒だ。
偽物は偽だと証明できて偽になる。偽を証明できないなら、偽物は存在しないのと一緒で、そうなると『痛さ』に本当も嘘もない事になる」