どうも私が聞いてるフリして他の事を考えていたうちに、死神の話はなんかとんでもない方向に行ってしまった。
「ラブ・ハンターって、えーとスケコマシとか女たらしみたいな意味?」
死神は大きく頭を降って答えた。
「俺がそんな死神に見えるか?」
「いや、ぜんぜん。むしろ女性には縁が無いような・・・」
死神は大きく頷いて答えた。
「『ラブ・ハンター』と言っても、女の『愛』を求める人間の事ではない。
俺の言う『ラブ・ハンター』とは、『愛』を狩るもの!
欺瞞に満ちた『愛』の正体を見破り、『愛』の息の根を絶つ事を望む孤高の狩人なのだ。
俺はガキの頃から『愛』という言葉を聞く度にいかがわしさを感じていた。大人の言う事は信じられなくてウソ臭い言葉ばかりなんだけど、その中でもとくに『愛』という言葉には大きな違和感を感じた。
いつからか、いかがわしい『愛』の正体を暴き出し、『愛』をこの手で絶命させる事は俺の『ライフ・ワーク』だと思うようになった」
「死神の『ライフ・ワーク』か、なんかいろいろ凄まじいね。
でも、そんな事を言ってるから女性に縁がないんだよ。
女なんてさぁ、『私のこと愛してる?』って聞かれたら『うん、愛してるよ』ってお気軽に受け答えしとけば納得する生き物なのに」
「女のあんたがそんなこと言うなよ。
でも、もしもだ、俺が理想とする女性に出会ったとして、手垢のついたウソ臭い『愛』などという言葉をお気軽に彼女に送ることなど出来ようか?
いや、俺にはそんな失礼な事は出来ない。
俺は嘘偽りのない言葉のみを彼女に捧げたいと望む!」
「ウザッ。だから、もてないんんだよ」
「ウザとか言うな。死神はたんなる仕事だが、『愛』を破壊する事は俺の『ライフ・ワーク』なのだ。もはや義務と言っても良い。たぶん、これは俺にしか出来ない仕事だろう」
「出来る出来ない関係なく、そんなこと死神しか思いつかないよ」
死神はいつになく真剣な無表情だ。
光の角度でそう見えるとかいうんじゃなくて、心の底から真剣というオーラが漂ってきている。
「こんなことを中学生のあんたに話すつもりはなかった。
だが、俺の想像した以上にあんたは飲み込みが良いようなので、話す事に決めた。
実は『愛』を破壊する理論は8割くらい完成しているのだ。
それをコレから話す」
「そんな話は聞きたくないなぁ。だいたいそれって復讐と関係あるの?」
「復讐とはあまり関係ない。迷惑だろうがぜひ聞いてはくれないだろうか?『愛』を完膚無きまでに打ちのめすには、完全な理論が必要だ」
「理論って、死神のは『へ理屈』じゃん」
「『愛』さえ倒せるのなら『へ理屈』だってなんだっていい。
これから『愛』のいかがわしさについて話すから、それを聞いて評論して欲しい。多くの批判に触れる事により、俺の『へ理屈』はさらなる完成度を増すはずだ。批判を怖れず、多くの批判的な意見を取り入れる事によって『へ理屈』に磨きがかかる。むしろ批判が『愛』を打つべき言葉をみがき鋭くとがらせてくれるはずだ。そうやってみがき抜かれた武器は『愛』の心臓を用意に貫き抜く!
お願いする。話を聞いて、ぜひ批評して下さい!」
ウッワー!
ある意味、謙虚だなと思う。
でも、誇大妄想のくせして謙虚ってのも迷惑だよ。