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映画・演劇のレビュー

『12日の殺人』

2024-04-13 08:33:00 | 映画

ドミニク・モル監督によるサスペンス・スリラー。というよりも刑事の日常を描く生活のスケッチ。派手な見せ場は皆無。地味すぎてしんどいくらい。だけど、映画は面白い。

前任者の定年退職の夜から始まる。お別れパーティーが密かに行われる。その日から新しく班長になった男が主人公。就任初日に残酷な殺人が起きた。夜中に21歳の女性が灯油をかけられて焼死した。彼らのチームが捜査に当たる。それが12日のこと。

映画は冒頭で犯人は見つからない、と事件の(映画の)ラストをさりげなく示す。そんな映画がかつてあっただろうか。それってあり得ないこと、でもそれを敢えてする。これは犯人探しの映画ではないというアナウンスだ。刑事たちは必死になって犯人を探し出す過程が描かれるのだが見つからない。

描かれるのはこの事件だけである。必死の捜査にも関わらず犯人は見つからず、迷宮入りした。だが、3年後再び捜査を再開することになる。そして新しい容疑者を確保する。だけど、彼は犯人ではなく、もちろん犯人は見つからないまま終わる。

事件を描きながら、事件の真相を暴くのではない。事件に関わった刑事たちの姿を見せていく。彼らの仕事に取り組む日々を描く。ラスト、班長がほんの少し変わる。

映画の冒頭、自転車でトラックを走っていた彼がラストでは外に出て走っている姿が描かれる。映画は途中にも彼がオフの時間自転車に乗るシーンが何度か挿入される。彼の日常から去っていった同僚からのメッセージとともに描かれるあのラストはこの殺伐とした映画にとっては一服の清涼剤となる。一瞬のことだろうが、清々しくて心地よい。


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