ぽちごや

FC東京のディケイドSOCIOです。今シーズンは丹羽ちゃんとともに闘います。

レ・ミゼラブル(Les Misérables)

2013-02-11 02:16:14 | 映画

前売り券を持っていると観に行かないということがありますよね。自分もそうです。やっぱり観たいと思った直感に従うのが一番かと。

レ・ミゼラブルも然り。前売りを持ちつつなかなか行けませんでした。けど、ようやく観念して観ることにしましたw。

評判通りのすばらしい作品です。ショコラのように濃厚な善と愛の物語です。終わってみれば、キャストのほぼ全員が善い人なんです。結果論も含めて。

フランス革命後、ナポレオン政権の晩年1815年が物語のスタートです。ジャン・バルジャンは社会の底辺にいますから、ナポレオン時代はほとんど関わりがありませんね。新しい人生を軌道に乗せ、最愛のコゼットと出会う1832年前後は、ブルボン王政復古の時代です。その後、劇中では登場しませんけど1830年の7月革命を経ます。この革命でブルボン王朝は崩壊しますけど、ブルジョワジーと呼ばれる資本家階級による政治は、下層階級の困窮を変えるものではなく、市民の不満が再燃します。その不満を代弁する形で、1832年6月に学生が暴動を興します。そのなかでコゼットは、マリウスと出会います。

ミゼラブルは不幸という意味ですけど、この物語はトラジェディではありません。むしろ善行によって深い愛を得る、幸福の物語です。今更ストーリーをお話するのは野暮なので、心に残った名曲をご紹介します。

ミュージカルを観たことがないひともどこかで聴いたことがある名曲がこれでもかと出てきます。

エポニーヌがとってもいい人なんです。この作品でもっとも有名な楽曲でしょうか?。サマンサ・バークスの歌が一番涙腺が危なかった瞬間です。"On My Own" 

ファンティーヌの娘を想う心の叫びがびんびん伝わってくる、アン・ハサウェイの熱唱です。"I Dreamed A Dream" 

革命家と恋する娘と恋する学生と逃亡者と追跡者。それぞれが運命行方を待つ心境を重ねて綴るクインテッド(五重唱)。"One Day More"。重唱シーンは何度か出てきます。ミュージカルならではなんでしょうね。ミュージカル初体験の自分には衝撃でした。

ラストシーンでも出てきます。"Do You Hear the People Sing? (The People's Song)"

コゼットとマリウスの告白シーン。このシーンも、芽生えた愛を確かめる恋人と、自ら導いた失恋を目の前で確認するエポニーヌの感情を素晴らしい重唱で表現していました。"A Heart Full Of Love”

えっと。号泣するために観に行ったのですけど、結局泣けませんでした。うるっと程度でした。ロングランミュージカルで不朽の名作ですから、自分程度の素人が批判するに値しないことは承知の上で暴挙に出ますw。自分都合で感想することをどうかご容赦ください。

泣けなかった理由を考えまするに、二つございます。一つは、感情移入が弱いんですね。自分が泣くシナリオは、感情移入できる対象が特定できることが条件です。この作品は、「ジャン・バルジャンの逃亡とジャベールの追跡」、「コゼットの成長」、「7月革命後のブルジョワ政権に不満を持つ1832年6月の学生暴動」、「コゼットとマリウスの恋とエポニーヌの片想い」と主要な4つのテーマに加え、ファンティーヌの悲劇、ガブローシュの活躍、安宿主人夫妻の活躍?というサブテーマも絡むので、自分の感情が分散されちゃいました。これではなかなか心を移すことができません。ミュージカル版を忠実に再現した作品だそうなのですけど、舞台を観たらまた違う感想になるのかなと思います。ライブの迫力から伝わる魅力は、サッカーでよくわかっていますから。

じつはミュージカルを観たことがないのです。四季を観たいと思いつつ、今はどうかわかんないですけど人気作はずいぶん先じゃないとチケット取れないと聞き、面倒くさくてw。なので、ミュージカルという演出の方法論を初めて経験しました。で、良さがなんとなくわかりました。音楽は聴く側の感情に訴え、かつ記憶に残す最高のメソッドだと思っています。クラシックの作曲手法にありますように、コードの進め方で、聴く側の高揚、不安、焦燥、安堵などの感情に働きかけることができます。ミュージカルは、オペラほどではないにしろクラシックの手法をベースにしていますから、音楽の力で感動を伝えることができるのだと気づきました。ただ、もう一つの泣けなかった理由はそこにあると思います。インストルメンタルなら静表現ができますけど、声楽は基本的に常に何かの感情が入ります。つまり、常にハイテンション。この作品もまた然り。冒頭でショコラのように濃厚と言いましたけど、自分の意図の片方はそういうことです。旋律に乗っていない普通の会話は極めて限られますから、158分間常に何かの感情が動いています。自分が感動するプロセスを考えると、一旦落ち着き(静)があってそこから一気に感情を動かされると涙腺が決壊するというパターンが多いです。涙は、作中の楽曲にはやく乗れるひとの特権だと思いました。なにしろ楽曲もハーモニーも最高に素敵ですから、自分も何度か涙腺の閾値を超えようとしたんですけど。

とは言え素晴らしい作品であることは間違いないです。複雑なストーリーを絶妙にバランスさせている構成ですから、割と長いお話なんですけどまったく飽きません。アクション劇ではないですけど、ノンストップのジェットコースタームービーです。

トム・フーバー監督とは、「英国王のスピーチ」で出会いました。心理を描くのが巧みな監督さんですね。

この作品を素晴らしいものにしているのは、何と言ってもキャストでしょう。

ヒュー・ジャックマンは実は初めてまともに観ました。「ニューヨークの恋人」をテレビでちらっと見た程度。ですけど「Xメン」で有名ですから。男前なんだけどちょっとヒラメ気味の独特の表情は、悲しく重い過去を背負うジャン・バルジャンにピッタリでした。仮釈放から教会で生き方を変えるまでのシーンで、歯を汚していたのが印象的です。

同じく歯で印象的なのが、アン・ハサウェイです。コゼットのために歯を売るシーンがありますけど、その後"I Dreamed A Dream"を歌うシーンでは、左下の歯がなくなっているのです。CGなのかホントに抜歯したのかはわかりませんけど、ビックリしました。先日ダークナイト・ライジングでセクシーな容姿を見たばかりですね。

"On My Own"を歌うエボニーヌ役のサマンサ・バークスは、この作品が映画デビューだそうですね。ミュージカル俳優さんで、舞台でも"On My Own"を歌ったんでしょうか。切なさがいっぱいで、ホントに素敵な歌声でした。

マリウスを演じたエディ・レッドメインは、どこかで見たような気がするのですけど、初めてでした。繊細で一本気な人柄がよく出ていましたね。

アンジョルラス役のアーロン・トヴェイトがとても印象に残りました。美しいのです。革命に殉じた学生の高潔な精神をとても表現できていました。

ラッセル・クロウはよく見てますから、あえて言うことはないですねw。いつになく抑えた演技でした。彼だけフランス的な香りがしなかったのは気のせいでしょうか。

もちろんハッピーエンドということもあるんですけど、鑑賞後幸福感に包まれるんです。これは登場人物がみんな良い人だからだと思います。極端なところですと、安宿の主人夫妻バベとクラスクーも、結果的にはコゼットとマリウス、それからジャンと娘夫婦を引き合わせることになりますから。観終わって幸せな気持ちになれる映画は、素敵な作品だと思います。

個人的に、泣く気満々で臨んだ作品ですので、泣けなかったことで辛口なことを書いてしまいましたけど、素直に素晴らしい作品です。よほどミュージカルが合わない人でない限り、誰でも楽しめると思います。実はウチの両親がミュージカルが苦手でw。素直に音楽に身を委ねるのが、この作品の楽しみかたでしょう。オススメです。