フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

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J'OBSERVE DONC JE SUIS

共同体主義の大御所 LE PAPE DU COMMUNAUTARISME

2007-07-08 13:28:37 | 哲学

最新の LE POINT の 「哲学思想」 の欄から。今日の主人公は、次のように紹介されている。トニー・ブレアやビル・クリントンに影響を与えたアメリカ側で (outre-Atlantique) 生存する最も偉大な哲学者の一人。御年75歳のチャールズ・テイラーは、まだフランスではよく知られていない。しかし、彼の共同体主義に関する考えは、北アメリカの思想を一新した。

  Charles Taylor (5 novembre 1931, Montréal - )

モントリオールにあるマギル大学の政治学、哲学の名誉教授。現在はイリノイ州のノース・ウェスタン大学で哲学を教えている。メルロ・ポンティ、ハイデッガーの現象学にも興味を示している。この度のテンプルトン財団からの受賞 (賞金120万ユーロは個人に与えられる賞の最高額とある) の機会に彼の考えを聞こうということらしい。

Le Point : Le communautarisme vise à promouvoir la représentation et les droits de groupes culturels ou ethniques. Cette reconnaissance ne conduit-elle pas inéluctablement à l'éclatement de la communauté nationale et à la violence ?

LP : 共同体主義が文化的、人種的グループの存在や権利を促進しようとするものだとしたら、それは必然的に国家主義的共同体や暴力につながることはないでしょうか。

Charles Taylor : Vous avez en France une vision caricaturale du communautarisme. Si je me définis comme communautariste, ce n'est pas parce que je veux développer une floraison de communautés différentes à l'intérieur d'un Etat, si c'est cela auquel vous faites allusion. Je suis communautariste dans le sens où je pense que la solidarité entre les individus est importante et que la société n'est pas un ensemble indifférent d'individus : elle est un ensemble de communautés, visibles ou non. Le mouvement communautariste est né dans les pays anglo-saxons en réaction aux thèses néolibérales qui voulaient réduire l'intervention de l'Etat et remettre en question les mécanismes collectifs de solidarité. C'est une réplique à ceux qui, comme Mme Thatcher, pensent que « la société n'existe pas, il n'y a que des individus ». Or cela ne correspond ni à la réalité ni aux problèmes auxquels sont confrontés les individus d'une minorité, par exemple les Maghrébins victimes de discrimination à l'embauche.

CT : フランスでは共同体主義を戯画化する見方がありますね。私が共同体主義者という場合、それは国家の内部に異なる共同体を盛り上げたいためではありません。私が共同体主義者であるということは、個人の間の連帯が重要であり、社会は個人の無関係な集合ではなく共同体であると考えるからです。この運動は、国家の関与を減らし、連帯の全体的なメカニズムを再検討しようとしたネオリベラルな考えに対抗するためにアングロサクソンの国で生れたものです。サッチャーのように、「社会は存在しない。個人がいるだけだ」 と考える人たちと同じ考えです。そうしなければ、現実に対応しませんし、マイノリティーが直面している問題、例えばマグレバンの就職差別問題などにも答えることにならないでしょう。

Le communautarisme est donc par définition antilibéral ?

LP : そうすると、共同体主義は定義上アンチリベラルなのですね。

Non, dire cela, c'est encore une fois caricaturer ce mouvement de pensée. Je ne suis effectivement pas d'accord avec les libéraux américains qui dans la foulée de John Rawls, l'auteur de « La théorie de la justice » qui a lancé le débat dans les années 70, assurent qu'une société peut fonctionner en reposant uniquement sur la liberté de l'individu et une redistribution des richesses considérée comme juste. Je pense, au contraire, comme Alexis de Tocqueville, l'un des grands penseurs du libéralisme politique, que tout pays a besoin d'une certaine cohésion et même d'un certain patriotisme : une société ne peut vivre harmonieusement sans l'engagement des individus dans des corps intermédiaires actifs qui les rassemblent autour d'un même idéal. Le lien social est essentiel pour éviter que la société ne succombe, victime d'un repli de ses communautés sur elles-mêmes : c'est quand elles se sentent délaissées et exclues du débat politique qu'elles peuvent devenir violentes.

CT : いいえ。そう言って、またこの考えを戯画化しようとするのですね。私はアメリカのリベラリズムには同意できません。そこでは、「正義の理論」 "La théorie de la justice" (A Theory of Justice) の著者ジョン・ロールズ John Rawls (February 21, 1921 – November 24, 2002) が、社会は個人の自由と正当な富の再配分によってのみ機能し得るものと説いている。私は逆に、リベラリズムの偉大な思想家の一人であるアレクシス・ド・トクヴィル Alexis de Tocqueville (29 juillet 1805 - 16 avril 1859) のように、すべての国はある種の統一感、もっと言うとある種の愛国心がなければならないと考えています。一つの社会が調和を持っていくためには、個人が理想のもとに集まることがなければならない。社会的な結びつきは、政治的議論から排除されたり無視されたと感じる時に暴力へと走るのを避けるうえで必須のことです。

Si elle est justement appliquée, la loi de la République ne suffit-elle pas à assurer l'égalité de tous ?

LP : その考えを公式に実行する段になれば、共和国の法律によってすべての人の平等が確保できるのではないでしょうか。

C'est ce que pensent les libéraux : l'égalité devant la loi est la solution à tous les problèmes. Un individu victime de discrimination à l'embauche parce qu'il porte un nom musulman vous répondra que son souci est de trouver du travail, et non d'engager des poursuites devant les tribunaux. Les communautés doivent disposer d'autres mécanismes de défense et de reconnaissance.

CT : リベラルの人は、法の下での平等がすべての問題の解決であると考えています。イスラム系の名前のために就職できない人は、こう言うでしょう。私の悩みは、仕事を見つけることで、裁判所の手続きに関わることではない、と。共同体は他のメカニズムを用意する必要があるのです。

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4 コメント

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ユニヴァーサリズム擁護 (Sekko)
2007-07-09 18:51:31
 ちょっと細かいかもしれませんが、この項と翌日の項についてコメントさせていただきます。このインタヴューの底にあるのは、アングロサクソンのコミュノタリスムとフランスがいまだ死守する近代ユニヴァーサリスムとの根深い対立です。
 たとえば、この項の最後の質問は、「それが公正に適用されれば、共和国の法律だけで、すべての人の平等を保障するのに充分ではないでしょうか?」ということで、フランスがコミュノタリズムを擁護する法律を禁じていることを擁護しているわけです。(ですからこの項の訳は反対です)
 テイラーは、その問いに反論して、近代自由思想の理念だけでは、現実の差別を解決できないきれい事だ、アラブ系の若者は、法律に訴えて守ってもらえることを望んでいるわけでなくすぐ仕事が欲しいのだからプラグマティックなロビー活動を許す社会が必要だといっているわけです。
 私はフランスのユニヴァーサリズムを擁護してコミュノタリスム批判の立場なので口を挟まずにはおれませんでした。すみません。続きは次の日の項に。
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新たな領域 (paul-ailleurs)
2007-07-10 18:49:28
どちらかと言うと浮世離れしている方が向いているのですが、たまには現実世界を見る上での哲学とはどういうものなのかという興味で、この記事を読んでみることにしました。私のメモのような日本語を専門家の目で読んでいただきありがとうございます。最後のところですが、万人の平等を保障するには法律は充分ではないのではないか、と聞いているのかと思いましたが、ご指摘のように答との関係では逆になるのかとも思います。ne suffit pas の意味が良くわかっていないようです。

近代ユニヴァーサリズムという新しい概念が出てきましたが、今ひとつぴんと来ませんのでもう少し調べてみなければと思っています。

今回のシリーズは、最初は日本語だけを載せましたが、自分のフランス語を見直す良い機会になるのでは、との思いで後から原文を加えました。これほどの反響があるとは予測しませんでしたが、当初の期待は充分に満たされました。ありがとうございます。

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Unknown (Sekko)
2007-07-12 01:29:27
 答えとの関係や、意味的にもそうなのですが、単純に文法を考えても、これは否定疑問で、N'est ce pas? のようなむしろ肯定を促しているわけです。Paulさんの訳は「ないのではないか」と二重否定にしているので、逆の意味なんです。とりあえず直訳してあとから考えるというのは、一つの方法ではありますが、その直訳でまちがえれば永遠に分からなくなります。今このコメントを見つけましたので、老婆心ながらひとこと。
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Unknown (paul-ailleurs)
2007-07-12 01:55:02
ご丁寧なご教示ありがとうございます。大いに参考になりました。今後ともよろしくお願いいたします。

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