ネウロイ襲撃よりしばらく経った。
あの後、バルクホルン隊が来る前にネウロイは宮藤、リネットのペアが撃墜した。
隊員に祝福される宮藤とリネット。2人の間には距離が存在していたが、これを機に徐々に縮まることになる。
「ねえ、知っている?宮ふ・・・芳佳ちゃん聞いた?」
カウハバ基地で迷子になった子供のために出動したんだって。」
リネットが朝食のポテトを潰しながら宮藤と話をふる。
話題は今朝の新聞で確認したニュースで、ウィッチに関するものだ。
「へぇーそんな活動もするんだ。すごいねー。」
それを聞き宮藤は、
自ら現在進行形で軍事組織という型にはめられているウィッチがそうした活動に従事していることに素直に驚く。
「うん、たった1人のためにね。」
リネットの言葉にどんな想いが籠っていたのだろう。
それは恐らくそれを実行した人物達に対する英雄視、たった1人のために動いたという事実は。
精神が未だ未熟で、軍人という型にはまり切っていないリネットに素直に共感を感じさせた。
これがもし、プロの軍人か精神が大人な者たちなら話題にすら挙げなかったかもしれない。
「でも、そうやって1人1人助けられないと、みんなを助けるなんて無理だもんね。」
理想論、酷い人は空想と切って捨ててしまいそうな、青い発言。
けど、しかたがない。何せ彼女はほんの一か月程まえはただの女学生だったから。
そして宮藤が述べたことは『正しい』が『正しすぎる』がゆえに甘く、温いと思われることが分らない。
「・・・・・・・・・ああ、‘クリス”水をたのむ。」
「あ、はい・・・って、クリスって誰ですか?」
「っ・・・気にするな、宮藤。雰囲気が知り合いに似ていたから間違えただけだ。」
バルクホルンは宮藤からお冷を受け取りすぐさま引き下がる。
全身からあからさまに拒絶の空気を醸し出していた。それは何かに怯え、逃げているようだ。
「なんなんだろう・・・?」
これまでにない反応に宮藤は首を傾げる。
彼女のバルクホルンに対する印象は『厳しい鬼教官』か『典型的カールスラント人』である。
まあ、たまに笑ったり、ノリがいい所もあったりするが。基本はフリーダムな隊員が多い中、真面目な軍人をしている。
「おはよう宮藤さん。」
「おはよ~。」
「はい、おはようございます。」
隊長のミーナに未だに人物像が掴めないエーリカがやって来た。
「今日の朝食はお米に味噌汁ね、美緒が喜ぶわ。」
「ふーん、わたしは美味しければ何でもいいけど。」
2人でわいわい、雑談を交わしつつトレイに朝食を載せてゆく。
同じカールスラント人だから仲がいいのかなと思った時。
ふと、宮藤はこの2人なら先ほどのバルクホルンの反応について何か分るかもしれないと思いつく。
「あの、ミーナさん、ハルトマンさん。聞きたいことがあるのですけど、いいですか?」
食卓に座っているバルクホルンに聞こえないように小声で尋ねる。
「あら、どうしたの?」
「うん?何々宮藤。このスーパーエースー様に何か用?」
2人は何故小声で尋ねたか注意せず、
ごく普通の悩みを相談されたのだと思っているみたいだ。
方や母親的態度で、もう片方は面白い話を聞いたと言わんばかりにわくわくしている。
「バルクホルンさんが、私のことを『クリス』って間違えたのですけど・・・。」
質問は最後までしっかり言い切り宮藤は気づく。
ミーナは俯き口に手を当てる仕草、エーリカは毎度の明るい表情が消えていることに。
明らかに動揺してる、バルクホルンに何か深刻な理由があるのは間違いない。
このまま聞いてもよいものか、一瞬宮藤は迷ったがやはり聞くことにする。
もしかした何かバルクホルンの役に立てるかもしれないという純朴な発想ゆえに。
「あの、ミーナさん。」
「宮藤さん、この話はなしね。」
完全なる拒絶、交渉の余地なし。
「でも!」
「宮藤さん」
威圧感。
包括力ある大人の女性でなく、中佐という階級の軍人としての。
至近距離でそれを受けた宮藤は無意識に足を一歩後ろにずらしてしまう。
喉から音声はでず、ただ意味不明の音しか小さく発するほかないほどに。
「宮藤さんは優しい子ね、
そうやって他人を思いやる気持ちは本当にすばらしいわ。」
「はい・・・ありがとうございます。」
声こそ優しいが威圧感はまだある。受け手は自然と頭は下がり、視線が下へ行く。
なんだか母親に叱られた時のと似ているなと諭される宮藤は感じた。
「でもね、
この問題は他人がいくら言おうとも解決できないの。
あの子は自分が許せない、自分のせいだと捉えているから。」
一拍。
「もちろん、私たちはだからと言って手をこまねいているわけにはいかない。
できることはする、だってあの子は501の11人の仲間だから。
でも、その役割は私たちに任せて。あの子は・・・私とエーリカの大切な戦友で最高の友達だから。」
「ミーナさん・・・。」
ミーナの言葉にどんな想いがこもっていたか宮藤には理解できた。
顔を上げて見えたミーナの瞳は決意に満ちて、これは自分の出番でないと悟った。
バルクホルンの問題は彼女たちに任せるのが当然の権利なのだ、赤の他人が入り込む余地はない。
「そそ、だから大丈夫。
トゥルーデはわたしたちが何とかするからさ。
宮藤、ありがとう。わざわざトゥルーデのこと心配してくれて。」
「ハルトマンさん・・・。」
そうだ、自分は人として、ウィッチとしてまだまだ未熟。
だから任せよう。
「・・・・・・はい、お願いします!」
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