おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

文楽 秋の地方巡業・夜の部 @ 仙台

2009年10月09日 | 文楽のこと。
文楽 秋の地方巡業・夜の部@仙台

【文楽解説=一輔さん】
 
 私の中では、「文楽解説と言えば一輔さん!」です。2008年の夏休み公演の時の文楽解説で、お子ちゃまさばきがあまりにもお上手で、感動しました。親しみやすいお顔だちに、優しい大阪言葉。なんか、聞いていると、これから楽しいことが始まるんだ~って期待が高まってきます。昼の部の幸助さんはちょっとお堅いNHKチックだったのに対して、一輔さんはローカル放送の人気アナウンサー。「肩の力を抜いて、普段着でどうぞ!」という雰囲気が出ていて、とってもよかったです。

【絵本太功記・太十】

 文楽デビューから一年半、ようやく、「太十」を拝見する機会に恵まれました。見ないうちから、個人的に思い入れのある演目だったのです。昨年、銀座で勘十郎さまのスタンプ原画の個展があり、ほぼ生まれて初めての「衝動買い」をしてしまったのです。その絵の題材が「太功記」。ついに、ついに、動いている「太十」です!

 昔、NHKの大河ドラマで「おんな太閤記」(主役が佐久間良子っていうのが時代を感じさせるなぁ)というのがありました。戦国物を女の視点から描くという試みで、細かいストーリーはまるで覚えていませんが、結構、視聴率をとっていたような記憶があります。

 「太十」も、まさに、「おんな太功記」です。
春長(=信長)を討った武智光秀(=明智光秀)を軸に、暴君とは言え主君を殺してしまった息子を許せない母・さつきと、光秀の妻・操、そして、光秀の息子・十次郎の許嫁である初菊。血はつながっていないけれど、縁あって母娘となった3人が、男の世界で起こる戦によって運命を翻弄され、悲しみを背負う。

 勘寿さん、勘十郎さま、勘弥さん、それぞれに立場の違い、年齢の違う悲しみ方が表現されていて、ジーンときてしまいました。勘寿さんの老女って、いつもいいなぁと思います。なんとなく、見ていて、「諦念」という言葉が浮かびます。
 そして、勘十郎さまの操は、抑制された中でも、溢れてきてしまう悲しみ。勘弥さんの初菊は、もっともっとストレートに悲しみを体全体で表現する切なさ、幼さが伝わってきて、悲しい場面なのに、カワイイ~って思ってしまいました。
 
文楽を見たことの無い人は、「だって、人形劇でしょ!」と私のハマリっぷりをバカにしますが、でも、心も、表情もない人形が、命を吹き込まれ、ただ悲しいだけではなく、母なのか、妻なのか、嫁なのか-によって、異なる悲しみ方ができるのです。もう、奇跡としか思えません! そして、こういう演目に、津駒さんの語りはぴったり。贅沢ですが、広いホールじゃなくて、できることならば、国立劇場小ホールで聴きたかったなぁ。

最後、玉女さんの光秀が木に登る場面、本当は、枝の間から、厳めしいお顔がのぞくハズが…。どうも、大道具の不具合で、ちょうど顔のまん前に枝がかかってしまっていました。なんとか修正を試みたものの、その場で解決には至らず……。

 こんな時、大道具さん、叱られたりするのかなぁなどといらぬ心配をしてしまいました。地方巡業、毎日、セットを解体し、次の公演先に運び、また、組み直し…。もちろん、技芸員さんも異動の日々で大変だと思いますが、大道具さん、一番、御苦労が多いだろうなと思います。観客は、そういうことも含めて、ライブの舞台を楽しんでます!どうか、叱られていませんように。

【日高川】

5月本公演の日高川が、相当に興醒めだったので、この公演で、嫌な記憶をリセットしたいなぁと思っていました。
簑二郎さんの清姫は、楚々として、カワイイ! そして、クライマックスの大蛇に化身する場面も、激しく、勢いがあって、狂気が伝わってきました。残念ながら、席が床とは反対側の端の方だったので、清姫の表情を見ることはできなかったのですが… でも、5月の「ヤル気なし清姫」よりは100倍良かったです。

 「化身」するということは、超・非日常な出来事なわけで、それほどまでに追い詰められた心情が伝わってこなければ、「化身」が嘘っぽく見えてしまうような気がするんです。今回は、嘘っぽくない清姫でした♪

そして、吉穂さんの船頭役は、めちゃめちゃ、よかったです。朗朗としたお声で、滑稽味があってピッタリ! 会場のあちらこちらからクスリと笑いがもれていました。早く、渋~いお爺ちゃまになって、切り場でも酔わせて頂きたいものです。

昼・夜通して、三味線崩壊の危機の他、大夫さん、人形さんにも「アレ? 今のはちょっと…」という感じの部分が若干ありましたが、でも、地方巡業ならではの配役も、また、楽しみの一つです。こういう機会を通じて、未来のスーパースターが育っていくのかと思うと、ワクワクしてきます。





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