「廃用身」 久坂部羊著 幻冬舎文庫 (09/01/13読了)
帯に「度肝を抜かれる面白さ」とありますが、確かに、読み始めたら、止められません。「面白い」という言葉が正しいのかどうかよくわかりませんが、凡人には思いもよらない発想なのです。脳梗塞などで麻痺し、回復の見込みの無い手や足を切断してしまうという新たな治療法。おぞましいことのような気もしますが、ストーリーを読み進むうちに、なんとなく、「それも、悪くない選択肢かも」と説得されてしまうのです。そのロジックとは…麻痺して動くことのない腕は、日常生活の動作の役に立たないばかりか、むしろ、身体には錘(おもり)として負荷がかかり、介護する人にとっては、服を脱ぎ着させる時に邪魔になってしまう。メンタルな面でも、右腕が麻痺すると、本人は「この右手さえ動けばもっと楽しい生活なのに」と動かない手に拘泥しがち。いっそのこと切断してしまえば、「残された左手で字が書けるようになろう、ご飯が食べられるようになろう」と機能する方に意識が傾きQOLがアップする-というもの。
確かに、腕がない・足が無いという外見を受け入れることは大変だけれど、動くか・動かないかという機能に注目した時に、動かないものは捨てるという発想が出てきてもおかしくないかもしれない。老々介護という迫り来る現実に向き合う時、介護される側の体重は少しでも軽くしておきたいというのは、切実なことなのでしょう。ストーリーの中でも指摘されていることですが、人の血を身体に注入したり(輸血)、死んだ人の心臓を埋め込んで生き永らえる(臓器移植)ことも、当初は、おぞましい治療法と眉を顰められていたのに、今や、当然のこととして受け入れられている。とすれば、いつか、麻痺した四肢を切断するという治療法も当たり前のように受け入れられる日が来るかもしれない-。単に、衝撃的なテーマであるというよりも、物語を通して、これからやってくる超高齢化社会に私たちはどう向き合うのか、色々と考えさせられる作品です。楽しく読める作品ではありません(しかも、どうしようもなく救いの無い結末だし…)が、なんか、途中で逃げちゃいけないような鬼気迫る感じがありました。同じ「医者で作家」という肩書きではありますが、ストーリーテラーとしての力も、社会への問題提起の力も、海堂尊よりも、遥かに上であると思います。
冒頭の部分は「もしかして、これって、ノンフィクション?」と思いながら読んでいました。というのも、わざわざ、医師が自分の経験を書籍として出版するため原稿にまとめた-という形式をとっていて、「実名で登場することを了解して下さった関係者に感謝します」などという謝意まで記されているのです。(ちなみに、出版社は「山月館」、印刷・製本「李陵」というのが、ちょっと、気が利いていてカッコイイなと思いました)。医師でもある久坂部羊の名前でストレートに書くのはためらいがあり、架空の医師を一人噛ませたということなのかどうか-はよくわかりませんが、でも、この著者には、引き続き、問題提起型の作品を期待したいと思います。
帯に「度肝を抜かれる面白さ」とありますが、確かに、読み始めたら、止められません。「面白い」という言葉が正しいのかどうかよくわかりませんが、凡人には思いもよらない発想なのです。脳梗塞などで麻痺し、回復の見込みの無い手や足を切断してしまうという新たな治療法。おぞましいことのような気もしますが、ストーリーを読み進むうちに、なんとなく、「それも、悪くない選択肢かも」と説得されてしまうのです。そのロジックとは…麻痺して動くことのない腕は、日常生活の動作の役に立たないばかりか、むしろ、身体には錘(おもり)として負荷がかかり、介護する人にとっては、服を脱ぎ着させる時に邪魔になってしまう。メンタルな面でも、右腕が麻痺すると、本人は「この右手さえ動けばもっと楽しい生活なのに」と動かない手に拘泥しがち。いっそのこと切断してしまえば、「残された左手で字が書けるようになろう、ご飯が食べられるようになろう」と機能する方に意識が傾きQOLがアップする-というもの。
確かに、腕がない・足が無いという外見を受け入れることは大変だけれど、動くか・動かないかという機能に注目した時に、動かないものは捨てるという発想が出てきてもおかしくないかもしれない。老々介護という迫り来る現実に向き合う時、介護される側の体重は少しでも軽くしておきたいというのは、切実なことなのでしょう。ストーリーの中でも指摘されていることですが、人の血を身体に注入したり(輸血)、死んだ人の心臓を埋め込んで生き永らえる(臓器移植)ことも、当初は、おぞましい治療法と眉を顰められていたのに、今や、当然のこととして受け入れられている。とすれば、いつか、麻痺した四肢を切断するという治療法も当たり前のように受け入れられる日が来るかもしれない-。単に、衝撃的なテーマであるというよりも、物語を通して、これからやってくる超高齢化社会に私たちはどう向き合うのか、色々と考えさせられる作品です。楽しく読める作品ではありません(しかも、どうしようもなく救いの無い結末だし…)が、なんか、途中で逃げちゃいけないような鬼気迫る感じがありました。同じ「医者で作家」という肩書きではありますが、ストーリーテラーとしての力も、社会への問題提起の力も、海堂尊よりも、遥かに上であると思います。
冒頭の部分は「もしかして、これって、ノンフィクション?」と思いながら読んでいました。というのも、わざわざ、医師が自分の経験を書籍として出版するため原稿にまとめた-という形式をとっていて、「実名で登場することを了解して下さった関係者に感謝します」などという謝意まで記されているのです。(ちなみに、出版社は「山月館」、印刷・製本「李陵」というのが、ちょっと、気が利いていてカッコイイなと思いました)。医師でもある久坂部羊の名前でストレートに書くのはためらいがあり、架空の医師を一人噛ませたということなのかどうか-はよくわかりませんが、でも、この著者には、引き続き、問題提起型の作品を期待したいと思います。